筒抜け

 

燃え上がる炎のように天井を貫いてゆらめく魂の郷里―――
星の聖地・グレートスピリッツ。
それを中心に広がり軒を連ねる石造りの家。
ここはメサ・ヴェルデデから長い迷路を経て辿り着く巨大な洞窟。
空が見えないこの洞窟で、おおよその時間を知らせていた選手の動向、
昼の賑やかさも、今となっては静けさとなって、夜を示している。
至る所にあるみやげ屋の明かりは消え、グレートスピリッツの輝きを残すのみだ。
その光が、暗闇からひとつの宿舎を浮かび上がらせる。
ちょうど今日の夕方に、ここパッチ村に到着した麻倉葉、
一足遅れて追い付いた許嫁、恐山アンナはそこに平べったい藁蒲団を並べていた。
離れ離れになって一ヶ月。
積もる話やらなにやらあるだろうと、みんなが気を利かせて二人きりにしてくれたのだった。
葉とアンナはグレートスピリッツを照明代わりにして、長いこと語り合っている。
洞窟の中のせいか、それとも四方を石に囲まれているからか、声が微妙に響く。
それにお喋りの疲れも相俟って、眠気を誘い、会話は一時中断された。
少しの間沈黙が続く。二人は見詰め合ったままだ。
そして思い出したように、アンナが口を開いた。
「…あんた、あたしがいないからって、浮気、してなかったでしょうね」
アンナの眉間には、少し皺が寄り、訝しげな表情をしている。
「バカ、するわけねえだろ」
葉は少し苦笑いしながら答える。
「本当?」
まだ多少の疑いを持ってアンナが聞く。
いくら信じているといっても、人の心理は解らないものだ。
葉は苦笑いを止め、真剣な顔で、オイラは、と言った
「オイラは、一ヶ月前から今日までずっと、離れてるときも、アンナのこと考えてた」
この一言で、アンナの持っていた猜疑など、どこかへと吹き飛んだ。
「……バカ」
アンナは真っ赤になったその顔を葉から外して、背を向けた。
「な…こっちまで恥ずかしくなっちまうじゃねえか……」
葉は頭を掻きながら、アンナに同じ質問をした。
「…アンナは? 他の男が言い寄ってきたりせんかったか?」
少しどもりながら、アンナも答えた。
「……あたしも…葉のこと、考えてた」
金髪から覗く耳は、これまた真っ赤に染まっていた。
先よりも長く、沈黙が二人を包んだ。

「きゃあっ…!」
それはアンナの高い声によって破られた。その声を出させたのは葉だった。
背後からアンナに体を寄せ、アンナが気付いて振り向いた瞬間、抱き付いたのだった。
「バカ…! 放しなさいよっ…!」
振り解こうとするが、葉は一向にアンナの体に抱き付いたままだ。
アンナは手を振りかぶった。
「愛してる」
アンナは手を中に浮かせたまま、止まった。
「…………ずるい」
手を腰に回す。二人は唇を重ね合わせた。
「ん…ちゅ…はぁ……」
久しぶりのキスだった。二人は時間を忘れて舌を絡め合った。
そして、それは突然切れた。
「いや……!」
葉が尻に手を這わせた瞬間、アンナは飛び退くように葉から離れた。
「…? なんなんよ?」
葉は不安げに聞く。予想外の行動だ。
「今日は…だめ」
「なんで? 今日は、アレ?」
「そうじゃないけど……」
「? じゃあなんなんよ?」
わけもなく断るアンナに、葉は不満になる気を抑えて、できるだけやんわりと聞く。
「とにかく、今日は、だめなの…」
依然としてアンナははっきりしない。
断る理由、それは、ただ単に、長らく会っていないための恥ずかしさから来るものだった。
葉もなんとなく気付いたようだった。そして何かを思いつき、薄笑う。
「…そっか、じゃ、しかたねえな」
そう言いながら立ち上がる。アンナは、え、という顔で振り向いた。
「ちょっとオイラ、その辺ぶらぶらしてくるわ。さっきので、目が冴えちまった」
言うなり葉は部屋を出て行った。

ひとり取り残されたアンナは、ただ座り込んでいた。
…変ね……いつもの葉なら、こんなあっさり諦めるはずがない…
しばらく会ってないうちに、変わったのかしらね…
そんな思案も、下半身の疼きによって掻き消された。
先の抱擁で、体が興奮してしまっているのだ。
それに加えて、あの、長いくちづけ。
アンナにその行動を起こさせるには、充分な材料だ。
…だめ…耐えられない……
アンナは廊下を見回し、誰もいないことを確認すると
浴衣の帯を緩め、胸元から足先までをはだけた。
白い肌を、グレートスピリッツの明かりが照らす。
下着を脱ぎ、しなやかな腕から伸びる細い指を、秘部へと沈めた。
「ん……」
アンナは秘部周りの花弁をゆっくりと撫で回したあと、
包皮を指先で剥き、陰核を摘んで刺激した。
「はぁ……んっ…!」
そして秘裂に指を潜り込ませて掻き混ぜる。
そこはすでに湿り気を帯び、外の光を受けて、淫猥に輝いている。
更に快感を求めるべく、片方の手で胸を愛撫する。
「あぁっ……!」
優しく撫でたり、時々乳首を強く摘んだりして、自ら刺激を与える。
一月前までは、葉がしてくれたように。
「あ…んっ…! 葉っ……」
その愛する人の名を呼びながら自慰を続ける。
彼に犯されていることを想像しながら。
愛液はとめどなく溢れてくる。
「葉…、葉っ……!」
荒げる切ない声で尚その人の名を呼び続ける。絶頂が近くなる。
「アンナ」
「…え? ……よ、葉!」
突然自分を呼ぶ声に驚き、はだけていた浴衣を閉じる。
しかし、もう遅かった。窓辺に座っている葉の口元は、緩んでいる。
「葉、どうして……!」
アンナの視点は定まらない。無理もない、行為の現場を見られたのだ。
しかも、その対象としていた者に。
「いや、そこ散歩してたら、オイラを呼ぶ声がしたから、なんかな、って思って。
で、来てみたらこういうことになってた。」
嘘だった。葉は最初から最後まで、一部始終見ていたのだ。
葉は窓辺から降りてアンナに近付く。アンナは動くことが出来ない。
先の甘美など、今は焦りに変わってしまっている。
「……やっぱしたいんじゃねえか」
顔をずい、と寄せてアンナに迫る。
アンナは泣き出してしまった。
「バカ……もう、やだ…」
葉に言っているのではない。自分に言っているのだ。
自慰という行為に走ってしまった自分に。
それが情けなくて、涙となって、頬を濡らした。
「ア、アンナ?」
予想外の出来事に葉はたじろぐ。アンナの肩を掴んで顔を覗き込む。
「わ、悪い、覗いたことは謝る。……ごめん」
「違う…わよ、バカ…」
悪いのは、あたしよ、と、アンナは葉の胸で咽びながら途切れ途切れの声で言った。
葉はアンナを抱き締めてやった。
葉はアンナの顔を上げ、濡れた頬を、指で拭った。
そしてそのまま両手で顔を包み、くちづけた。
「…はぁ…ん…んむっ……ぷはっ……」
アンナの瞼は少し赤くなっている。
「やべ…泣いてるアンナも、すげえ可愛い……」
そんなことを言う葉に、アンナは顔も赤くする。
「ほんと、バカ…」
葉はゆっくりとアンナを押し倒し、すでにはだかれていた浴衣を脱がせた。
グレートスピリッツの光を映して青白く照る肌。久しぶりに見た光景だった。
まじまじと眺め回した後、なだらかな起伏の胸へと手を置いた。
「ん……」
ゆっくりと撫で回す。葉の体温が伝わってくる。
ごつごつした、男らしい大きな手。それに似合わず、優しく動く。
「胸、大きくなった?」
葉の言葉にまた顔を赤くする。しかし、そう言われて悪い気はしない。
「…葉だって、こんなに大きくしてるじゃない」
アンナは葉のスボンの腰の辺りが盛り上がっているのを見て、言った。
「つらいでしょ? して…あげよっか?」
「…ああ、痛いくらい……」
恥ずかしそうな顔をして、愛撫の手を止めた。
「はむっ……」
アンナはすでにいきり立った葉のモノを咥え、唾液をたっぷりと乗せて舐めしゃぶり始めた。
強く吸い付いたり、先をちろちろと舐めたり、手で扱いたりして奉仕する。
「お…いいぞ……」
柔らかな口内の感触に、葉は思わず腰を震わせる。
アンナはその様を上目遣いで眺めながら、心の中で微笑む。
「ん…ちゅ…ぷ……んっ!」
葉は耐え切れず、アンナの頭を掴んで、自ら腰を動かす。
葉のモノはアンナの口の中で硬度を増し、熱を帯びる。
数分と経たないうちに、絶頂まで登りつめた。
「ア、アンナ…っ! 出るっ…!」
「え? きゃっ…!」

突然の射精に、驚いて口から葉のモノを離してしまう。
白く濁った精液が、アンナの顔を汚した。
「……あんた」
「わ、悪い、あんまり良かったから…」
葉は側にあったティッシュでアンナの顔から精液を拭き取りながら詫びた。
「…まあ、いいわ。後で電気イス3時間ね」
「……へい」
葉はしぶしぶ了承する。
でも、と、アンナは言った。
「でも…今度は葉がしてくれたら、1時間にしてあげるわ」
そう自分で言って頬を染める。
「お、おお」
いつものアンナらしくない態度に、葉は少し戸惑った。
久しぶりの行為で、気が乗っているのだ。
そんなアンナに、葉の興奮は高まった。
「じゃ……」
早速、葉はアンナを寝かせて、秘部に手を滑り込ませた。
「あ……」
アンナの体がぴくんと震える。
包皮を剥いて充血している陰核を捏ね、同時に秘裂を掻き混ぜて愛撫する。
アンナより少しばかり太くて硬い指が、深い快感を与える。
「ああっ…! いぃ……」
「きもちいい?」
「う…ん……あっ…!」
アンナは目を瞑って頷く。
「自分でするのと、どっちがきもちいい?」
「…葉の方がいい」
葉はにやにやしながら、更に意地の悪い質問をする。
「オイラがいない間、週にどんくらい自分でしてた?」
「…ま…毎日…んっ…!」
「アンナはいやらしい子だな」
「ばかぁ……!」
「そんなこと言って、本当は嬉しいんだろ?
だったら、オイラに抱かれてないと、毎日オナニーしちゃうやらしい女です、って言ってみろ」
「んっ…そんなこと、言えるわけ…ないでしょ……!」
「言わなきゃもうやめるぞ」
「…そんなっ……」
「言えっていってんだ」
葉はもはやアンナの先の涙など疾うに忘れていた。
今の葉を支配しているのは、サディズムだ。それはこういうときにだけ、顔を出す。
こうなった葉はもう止めようがない。
「…あたしは、葉に…抱かれてないと、毎日、オナニーしちゃう…やらしい、女です……」
今にも消えそうな掠れ声で、アンナは言った。
「アンナは、いい子だな」
しかし、アンナもまんざらではなかった。羞恥の中に、恍惚の表情をしている。
葉は絶え間なく愛撫を続けた。アンナの絶頂が近付く。
「葉、もうっ…」
アンナはそれを訴える。
葉は応える代わりに陰核を強く摘んだ。
「あああああぁぁ…!」
「すげ…こんなに溢れてくる…」
「はぁ、はぁ……」
藁の蒲団はもうすでに水浸しだった。
余韻に浸るアンナに構わず、自分のモノを宛がって入り口を撫で回す。
「もう、我慢できねえ…いれても、いい?」
アンナは息を荒げながら小さく頷いた。
「いくぞ…」
葉は先ず親指を入れ、それから一気に肉棒を挿入した。
「あああっ…!」
自分でするのとは違う、圧迫感。
アンナの体中に、忘れていた快感が、電流のように駆け巡る。
「きつ…」
それは葉も同じだった。たまらず腰を動かし始める。
「ああぁっ…!!」
アンナの中は充分すぎるほど潤い、葉のモノはこれ以上ないくらい硬く熱い。
二人とも先の絶頂で感度を増している。それに加えて、久方振りの交接。
全ての要素が二人を快感に導く。
二度目の絶頂に至るまで、そう時間は掛からなかった。
「はぁ、はぁ…っ! もう、無理だ、イクぞ……!」
「あ、ああっ…! よおっ…!」
葉は抽送の速度を有らん限りの力で高める。
部屋中に水音が木霊する。
「くっ…ああ……!」
「あっ、ああっ…! ああああああぁぁぁ……!!」
葉の肉棒は爆ぜ、残り全てと思わせるぐらいの量を、アンナの中に放った。
どのくらいの時間が経ったか分からないが、部屋の中の明るさは変わらない。
グレートスピリッツは洞窟全体を照らし続ける。
葉とアンナは濡れた蒲団を窓辺に掛け、残った一つに潜った。

「すごかったよ、やっぱ一ヶ月ぶりは半端じゃねえな」
「…バカ」
「なんだよ、まだ照れてんのか?」
「………」
アンナは葉の胸に顔をうずめたまま黙りこくる。
「可愛い…!」
そんなアンナに葉は抱き付く。
「ちょっと……! ………? なに? これ……」
アンナの下腹部の辺りに何か硬いものが当たる。
「…………!」
その正体に気付いたのか、アンナの顔は真っ赤だ。
「ウェッヘッヘッ、まだ、足りねえみたいだな、こいつ」
「このヘンタイ……!」
アンナは手を振りかぶった。葉はそれを止める呪文を唱えた。
「…愛してる」
「………バカ…あと、一回だけよ…」
「ヘッヘッへ」

石をくりぬいて開いた窓からグレートスピリッツの光を浴びて、壁に映る、重なり合う二つの影。
二人はまだ気付いていなかった。情事の音が隣に丸聞こえだということを……


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