長雨

 

「……当分止みそうにないわね」
アンナの声はテレビの砂嵐のような音に混じり、途切れ途切れに空気を震わす。
数十分前――――アンナは葉と「HEIYU」に夕飯の買出しに来ていた。
ビニール袋を三つ提げて建物を出ると湿っぽい空気が鼻を衝いた。
空一面には鈍色の厚い雲が広がっていた。
「だから傘買って来ようて言ったんよ」
少し早足でちょうど家まで後半分という距離まで達したときだった。
頬に一滴の雫が落ちたかと思うと、それを合図に一斉に降り出した。
位牌には阿弥陀丸が眠っているが、さすがに春雨までは持ってきていない。
アンナも1080を置いて来てしまっていた。腕に付けた数珠では普通の霊しか呼べない。
OSを傘代わりにすることは出来なかった。仕方なく二人は路地に駆け込んだのだった。
「うるさいわね。ウチにそんな余裕ないわよ」
「……あのな…………ん?」
「どうしたの?」
葉は辺りを見回して気付いた。ここには前に来たことがあったのだ。
「ここって…この前の…」
「ああ…。そういえばそうね」
アンナも気付いたようだった。
この路地は地縛霊が憑いていて、住民からは「幽霊通り」とかそんな名前で呼ばれていて、
人っ子一人通らない場所なのである。二人は一昨日その霊を除霊したばかりだった。
三日やそこら経ったぐらいでで町民がここを使うわけがなく、
ましてやこの豪雨、路地は閑散としている。葉が二、三歩進んで外の様子を見る。
ここだけは地面を叩く音が違う。一段高くなっているからだ。
滝のように落ちる雨が壁を作り、まるで一つの部屋のようだ。
雨の音は外界からの音を一切遮断している。
「まったく……。天気予報は当てになんないわね」
アンナが雨に濡れたワンピースの胸元をパタパタとさせて空気を送る。
その度雫が降りた艶やかな金髪が揺れ、頬を濡らす。
生地が素肌にぺっとりと張り付き、体のラインを浮かび上がらせている。
細長い肢に雨水がつうっと流れてコンクリートの狭い地面に染みを付ける。
葉はそんなアンナの姿に目を奪われた。
「きゃっ…!」
アンナが突然高い声を上げ、思わず袋を落としてしまった。
隙を突いて葉が後ろから抱き付いてきたのだ。袋の口からは野菜が飛び出している。
「ちょっと、葉!?」
振り解こうとする手を避けて、今度はスカートに中に潜り込む。
「何してんのよ、バカッ!!」
アンナが左手でスカートを抑え、もう片方の手で布越しに葉の頭をポカポカ叩く。
葉は構わず左手で腿の裏を摩り、もう片方の手でショーツ越しにアンナの秘所をなぞる。
アンナの反撃が力無いものとなっていく。
「バカッ…やめてったら……」
「そんなこと言ったって、ココ、濡れてんぞ?雨のせいじゃねえよな」
「もうっ……!」
アンナは抵抗をやめた。こうなった葉はもう止めようがない。
…いや、それ以上に自分も欲していたのかもしれない。と、アンナは思った。
葉がショーツを足首までずり下げる。一瞬、股との間に糸が引いた。
「誰か来るっ……!」
「来るわけねえだろ」
「でもっ……」
「そんな心配なら早く終わらせてやるよ」
葉がアンナの秘裂に指を入れ、掻き混ぜる。その音は雨音と混じってすぐに消える。
「ああ……! やあっ……!」
足の力が思うように入らず、アンナは壁に寄りかかった。
さらに葉は舌を使って陰核を突付き、転がし、甘噛みする。
「はあぁっ…! いぃ……」
愛液が内腿を伝い、雫と混じり滴る。アンナは甘い息を漏らし続ける。
絶頂が近くなる。葉は陰核を強めに噛んだ。

「あ、あああああぁぁぁ……!!」

秘裂からは今の雨のように愛液が溢れてくる。
葉は愛撫を止めて立ち上がり、アンナを抱き寄せた。
「バカ………」
「可愛い……」
二人は舌を絡ませた。さっきとは違う音が路地に響く。
「ん……ちゅ…ぷ……」
葉が服の脇から手を差し入れ、アンナの小さな胸を撫でる。
アンナは甘いくぐもった声を出す。
「ちゅ…あ…んっ…! はぁぁ…」
さらに強く舌を貪るように絡ませる。葉は既に硬くなっている乳首を強く摘んだ。
「あぁっ…!」
アンナは唇を離した。
「葉……」
「挿れても、いいか?」
「うん……」
目をとろんとさせて、アンナは小さく頷いた。
葉はスカートの裾を捲り上げた。再び露になったその場所は、ヒクヒクと疼いていた。
それが恥ずかしいのか、アンナは目を瞑っている。
肉棒を宛がい、ゆっくりと腰を押し進めていく。
「あっ…ああぁ……!」
秘裂の肉を押し分けてズブズブと淫猥な音を立てる度、アンナは声を上げた。
「すげ、きつ…」
「バ、バカぁ…!」
葉の言葉に、アンナは顔を赤らめる。その仕草がより一層、葉の性欲を掻き立てた。
「動くぞ…」
抽送を始める。速度が増していくとともに、アンナの嬌声が高く、大きくなっていく。
そして、雨も段々と強くなってくる。
「あああっ! あ、やぁ……葉、もう少し…ゆっくりしてっ…!」
「だめだ、止まんねぇ…」
「そんな……ああっ!!」
アンナの背中が汗で湿り、服に吸い込んでいた雨と混ざる。
足元でも、流れてきた雨水と愛液が混じり合う。
時を忘れ、二人は交じり合った。そして――――

「くっ…あ……」
「ああああああぁぁぁっ…!!」

アンナの中で混ざった愛液がショーツを汚した。
俄雨は段々と弱まり、少し沈んだ太陽が狭い路地をオレンジに染めた。
「おおい、アンナ、ちょっとまってくれよー」
「…………」
袋を三つ抱えて葉が呼びかけるが、アンナは早足でスタスタと歩く。
不意に、位牌から阿弥陀丸が抜け出た。その顔は心なしか赤い。
「葉殿…」
「おお、なんだ阿弥陀丸」
「その…拙者がいる前では、少し…自重してくださらんか……」
「なんだよ、見てたんかお前」
「ご、誤解でござる! だいたい葉殿は……」
葉は話を最後まで聞かずにその場を離れた。アンナがしゃがみこんでいたからだ。

「おい、大丈夫か?」
「おバカ。あんたのせいでしょ」
そう言ってアンナは走り寄ってきた葉の手を掴んで立ち上がり、そのまま腕を絡ませる。
「お、おい…」
「今日のところはこれで許してあげるわ」
「恥ずかしいって…」
「なによ、夫婦なんだからいいでしょ。それにあんなことさせといて…」

小競り合いながらも、腕を組み、仲睦まじく帰路を辿る葉とアンナ。
背後にはその中に入り込めない雰囲気で、距離を置いて憑いて来る阿弥陀丸がいた。


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