髪止め

 

「あ〜あ、なんだってこんな眠れねぇんだ」
SF某日、民宿でみんなが寝静まった頃、珍しくなぜか一人寝付けないホロホロは、近くの浜辺を散歩していた。
「ん…?」
波打ち際を歩いていると、堤防のところにひとつの人影が目に入った。
「なんだ…こんな時間に?」
自分も人のことを言えないか、と思いながらその人影にそろそろと近付くホロホロ。

どうやら少女と思しき影が、膝を抱えてうずくまっているようだった。
もう少し近寄って確かめようと歩を進めたが、

ジャリ…

少女は砂を踏みしめる足音に気付いたのか、垂れていた頭をピクッと揚げて振り返った。
(やべ…)
と思ったがもう遅く、その少女と目があった。
「あ…」
「お、おまえ…花組の…!」
人影の正体は、ハオの一派・花組の一員、マチルダ・マティスだった。
「ココロ!」
「ックル!」
護身のため一緒に連れて来た持霊コロロを起こし、イクスパイにO.S.させる。
が――――
「………」
一方マッチは何をするでもなく、ただホロホロのことを見ていた。
「……おまえ、他の仲間はどうしたんだよ?」
「………」
「………」
暫しの間、砂浜に沈黙が流れる。
先に沈黙を破ったのは、ホロホロだった。
「……なんだか知らねぇが、闘る気もねぇみてえだし、俺は帰るぞ」
すっかり毒気を抜かれたホロホロは、O.S.を解除し、浜辺を後にしようとした。
「あ……待って!」
「な、なんだぁ?やっぱり闘んのか!?」
いきなり背後からかかったマッチの声で、再び臨戦体勢になるホロホロ。
「あの、そうじゃなくて……」

「……泊めて…くれない?」
「…あぁ?なんだって…」
「だから、泊めて欲しいの…」
なんだか解らず聞き返すホロホロに間髪容れず言い返すマッチ。
「…はぁ?泊めてって、どういうこった?おめぇ、自分らのアジトがあんだろ?」
疑問詞ばかりのホロホロ。
「……それは…」
口籠ってしまうマッチ。
「大体、敵のおまえを何で泊めてやんなきゃいけねぇんだよ。馬鹿馬鹿しい、行くぜオレぁ」
と、言い放ち再びその場を去ろうとするが、
「……クル!」
コロロに呼びかけられ、また振り返る。
「なんだよコロロ?」
「クル!」
ホロホロの袖を引っ張り、マッチを指さすコロロ。
「なんだってんだ……。……!」
ホロホロが見る。するとマッチは泣きそうな顔をしていた。
「…………」
「な……」

女の泣き顔に弱いホロホロは、その場で固まってしまう。
「…クル〜」
なぜかコロロも泣きそうになる。
「だ〜〜〜!もう分かったよ!泊めてやりゃいいんだろ!!」
二人に泣きつかれそうになり、仕方なく承諾するホロホロ。泣きそうである。
「クルッ!」
「…え?ほんと!?」
二人の表情が一変して、ぱあっと明るくなる。
「…ほら、ついてくるなら好きにしろ!」
そう言って三度目の正直、その場を立ち去ろうとするホロホロ。
「あ、あの…!」
二度あることは三度ある、またマッチが呼び止めた。
「なんだよ、まだ何かあんのか?」
マッチは俯いて、
「……ありがとう」
と呟いた。
「さ、さっさとしねぇと置いてくぞ!」
照れ隠しに早歩きで立ち去るホロホロ。マッチも、それを小走りに追いかける。
「……よし、じゃあコロロ、外で見張っといてくれるか?」
「クル!」

何とか誰にも見つからずに空き部屋に移動できた二人。しかし―――
(……………しかし)
故意にではないにしろ深夜、一つの部屋に男女が二人。
(慣れねぇなぁ…こういうのは)
「…………」
二人とも部屋の隅で黙り込んでしまう。
「…そ、そうだハラ減ってねえか?」
何とかして話しかけるホロホロ。
「え……い、いいよ全然平気…」

グー…キュルルル……

「あ……」
「ほら、減ってんだろ。今持ってきてやっから」
ガラ…
そう言って部屋を出る。
(あー……間が持たねぇ)
10分後―――

「ほれ」
「あ、うん……」
渡された食事をおずおずと食べ始めるマッチ。
(…………)
食事を食べているマッチの姿をボーッと眺めるホロホロ。
(…結構……かわいいな……って、ナニ考えてんだ俺は!)
「……な、なに?」
視線に気付いた様だったが、慌ててそっぽを向いてごまかす。
「い、いや、何でも!そうだ、それ食ったら風呂入ってこいよ!」
無理矢理話を逸らすホロホロ。
「え…でも」
「ヘーキだって、今なら誰も起きやしねーって!サッパリしてこいよ!!」
「う、うん…」
「浴衣なら風呂場にあるからよ」
ガラ…
浴場の場所を教えて送り出す。
――――――――
ドサッ
「ふー……」
緊張が解け、畳に崩れるように倒れるホロホロ。
(………ハッ!)
暫くして、何かに気付く。
(ふ、風呂入ってこいって、変に思われたかもしれん!い、いや、外ほっつき歩いてたんだから入れて当然だよなぁ!?)
頭を抱えて腰をぐねぐねさせて悩むホロホロ。

ガラ…
「おわおぅっ!」
襖が開いた音に驚いて、瞬時にポーズを解く。
「お、おう!上がったか!」
「う、うん…」
(ふー……危ない危ない…あんなとこ見られたら絶対ヘンタイだと思われてた)
ガララ…

襖が完全に開き、浴衣姿のマッチがあらわれる。
風呂上がりのため、少し肌が赤く染まり、長い髪が濡れている。浴衣からは少し胸元が見え鎖骨が覗いている。
齢15、6には見えないほどなんとも艶やかである。

「…………」

そんなマッチの姿に図らずも見入ってしまうホロホロ
「………な、なに?」
ホロホロの視線に、持っていた服で胸元のあたりを隠すマッチ。
「い、いや、何でも!じゃあ寝るか」
そう言って押し入れから布団を出そうとするが…
「……ない…一つしか…」
「え…ええっ!?」
他の部屋で使っているため、この部屋には布団が一つしか無いのである。
「今他の部屋はいっぱいだし……仕方ねぇ、俺は廊下で寝るわ」
「え…?いいよ、あたしが外で寝るよ!」
「いいって、風邪ひいちまうだろ。俺ぁ寒いの慣れてるからな」
そう言って部屋を出ようとする。
「じ、じゃあ…!」
「ん?」
振り返るホロホロ。
「一緒に……寝よ…」
 
「……今、何つった?」
ホロホロは、予想だにしない言葉に聞き返す。
「一緒に…寝よ」
マッチは、少し俯いて、再度繰り返す。
「ハアアァアア!?―――と…」
大声をあげて驚くが、周りの部屋には葉たちがいるため自重して慌てて口を塞ぐ。
「嫌…なの?」
「い、嫌って何で同じ布団で…その、なんだ…ね、寝なきゃなんねーんだよ?だ、大体、俺は廊下で良いっつったろ!」
さすがに狼狽を隠せず、所々で台詞をとちる。
「でも、そんなとこで寝てたら怪しまれるじゃない」
一方マッチは落ち着き払って滔々とまくしたてる。
「……確かにそうだけどよ…お、オトコとオンナが一緒にってのは…」
「あ〜、ひょっとして怖いんだ〜かわいい♪」
狼狽えるホロホロをからかうマッチ。
「な、なにぃ?そんなことあるか!くそっ、ほら布団敷くからどいてろ!」
挑発に乗ったホロホロは部屋の真ん中に布団を敷き、座布団を枕代わりにして床に入る。
「ほら、入るなら勝手にしやがれ!どうなっても知らねーかんな」
「え?なにそれ〜?あたしをどうにかするの?」
明かりを消し、隣に入ってくるマッチ。
「バ、バカッ!」
そう言って向こうを向いてしまうホロホロ。
(…ったく、何だってんだこいつはこんなハイなんだ?女心ってのはわかんねぇ……)

30分後―――

(…寝れん!)
隣にマッチがいるため、意識してなかなか、というか全然寝付けないホロホロ。
(あ〜…これじゃ結局寝れねぇじゃねぇか…何でこんなことに…)
先の出来事を反芻し、あることを思い出す。
(そういや…こいつ…)
「…なぁ、起きてるか?」
「…うん」
「おまえ、何であんなとこに一人で居たんだ?」

「…………」

返事はない。
「……まあ、言いたくねぇならいいけどよ」
と、ホロホロはうなじの辺りをポリポリと掻きながら言う。

「………に…………………たの」

「え?」
「ハオ様に…嫌われちゃったの」
震えるような声で答えるマッチ。
「あたし……もう…ダメかも…」
「…!」
―――不意に、背中を引っ張られる。マッチが、ホロホロの浴衣を掴んでいるのだ。
「……うぅっ…ひっく……」
嗚咽がもれ、ホロホロの背中を涙が濡らす。
ホロホロは、そんなマッチがいとおしくて―――
「…………!」
振り返って、抱きついた。
「ホ、ホロホロ…?」
マッチは少し驚いて、涙ぐんだ瞳を見開いた。
「どうしたの、急に……」
「……わかんねぇ…でも……」
「でも…?」
「おまえに惚れた」
「え……?……んっ…!」
告白するや否や、不意を突き唇を奪うホロホロ。
マッチは突然のことに驚くが、拒もうとはせず、入ってきた舌を絡ませる。

「ん……ちゅぷ……ちゅ……ぷはぁ…」

二人が顔を放す。唇には二人の唾液が糸を引いて光っている。
「おまえが…欲しい……ぜんぶ…」
抱きついて告白を続けるホロホロ。
「…うん……いいよ……」
そう言って、マッチは小さく頷いた。

「じゃあ…いいな」
マッチの言葉を受け、ホロホロは浴衣の懐に手を差し入れて膨らみかけた胸を愛撫する。
「んっ…」
人差し指と親指で乳首を摘み、残りの指で胸を揉みし抱く。
「あっ…!やあぁぁ…!」
敏感なところを触られて、冷めていた躰が再び火照る。乳首もピンと上を向き硬くなる。
「もうこんなになってる……」
ホロホロがマッチの耳元で囁く。
「やぁ……ホロホロだってこんなに硬くなってるじゃない」
マッチは、ホロホロの股間をさすりながら言い返す。
「辛いでしょ…?して…あげよっか?」
「あ、ああ……」
今度は、マッチがホロホロの言葉を受け、浴衣から怒張したホロホロのモノを取り出す。
「ふふ…こんなにしちゃって……すぐ鎮めてあげるね…」

そう言ってホロホロのモノを咥え、口内で扱き始める。
「う……」
思わず声を漏らすホロホロ。
「はむっ……んっ…ちゃぷっ…ぴちゃ…」
マッチは上目遣いでホロホロの反応を伺いながら、亀頭の先や雁首の裏側を舐る。
その度に声を漏らすホロホロを見て小悪魔の様に微笑む。
「うっ……うあ…」
「気持ちいい?」
一端口を放してホロホロに訪ねる。
「あ、ああ……途中で止めないでくれ……」
「ふふふ……わかった…もっと気持ちよくしてあげるね…」
今度は、まだ未成熟の胸でホロホロのモノを挟んで扱き、さらに口でも奉仕を始める。
「んっ…どう……?」
舌の先で亀頭をチロチロ舐めながら、再度ホロホロに訪ねる。
「うっ…あぁ…!さ、最高だ……」
パイズリとフェラの二重奏で、射精の寸前まで来てしまったホロホロ。
「もう…限界だ……出すぞ…!」
「んっ…いいよ……あたしの口の中で…イって…!」
絶頂が近いことを知り、さらに速度をあげてホロホロのモノを扱くマッチ。

「ううっ…!あああぁっ!」

マッチの口内に精を放つ。

「んんっ…!んっ…んくっ…こくんっ……!」
「はぁ…はぁ……」
「どう…よかった?」
絶頂の余韻に浸っているホロホロに、マッチは笑みを浮かべて問う。
「ああ、最高だった………次は、こっちの番だ…」
ホロホロは息を荒げて答え、今度はマッチの陰部を弄り、愛撫する。
「あんっ……」
陰唇に手が触れ、ピクンと躰が跳ねる。そして陰核を指で捏ねくりまわす。
「ああっ…!いいぃ……!」
マッチはホロホロの肩を掴み、善がる。さらにホロホロは陰核を摘み上げて愛撫する。
「ひあぁっ!や、やあぁ…!」
先程よりも躰が跳ね上がり、快楽に身悶えし続けるマッチ。秘部からは、愛液が止めどなく溢れてくる。
「さっきのお返しだ」
今度はマッチの秘部を舌で舐め回す。
「あああぁっ…!い、いいよ…気持ちいいよぉ…もっとして…!」
マッチの言葉に応え、舌で舐りながら指でも愛撫するホロホロ。
「あ、あたし…もう……ああああぁぁ!」
我慢しきれず達するマッチ。息を荒げ、とろんとした目でホロホロを見つめる。
「はぁ…はぁ……今度は、ホロホロのが欲しい……」
「ああ……」
マッチの上に覆い被さるようにして四つん這いになるホロホロ。
「いくぞ……」 
マッチの秘所にさっきよりさらに怒張したモノを宛がう。
「うん…来て……」
その言葉に応える如く身を沈め、陰部をゆっくりと挿入していく。
「あ、あああぁっ!」
「お、おい、あんまり大きな声出すな…隣に聞こえちまう」
途中で挿入を止め、マッチに忠告する。
ここは民宿とはいえ、古いため余り防音がなっていない。ともすれば周りの部屋に喘ぎ声が筒抜けになってしまう。
「う、うん……」
「じゃ、いくぞ…」
忠告を解したのを確認し、再び挿入を始める。
「ん……んんっ!」
布団のシーツをぎゅっと握り締め、声を堪えるマッチ。
「動くぞ……あんまでかい声出すなよ」
「わ、わかってるけど……ああぁっ!……んっ!」
マッチの言い分が終わらない内に抽送を始めるホロホロ。
「こうしてれば平気だろ……!」
「ああっ…!!んむっ…!」
口を塞ぐ様にマッチに口付け、抽送の速度をあげる。
「はぁっ…はぁっ……!…くっ……!」
突然、背中に痛みを覚えるホロホロ。見るとマッチが背中に手を回し、爪を立てている。
「んんっ……!!ああっ…んっ…!」 マッチは目を閉じて必死で喘ぎ声を上げるのを我慢している。
「くっ…!もう少しだ…」
「あ、あたしも、もう…イっちゃう…!!」 
さらに速度を増してゆく。水音と、肉のぶつかり合う音が部屋中に響き渡る。
性感が高まってゆく二人。そして―――

「いくぞっ…!………うああぁ…!!」
「んんんっ…!あああああぁぁ…!!」

同時に達する二人。膣内で、愛液が混ざり合う。
「うあっ……はぁっ…!」
「ああ……お腹が、熱い…」
そのまま絶頂の余韻と疲れで寝込んでしまうマッチ。
「お、おい……ふぅ、仕方ねぇなぁ…」
苦笑してマッチの寝顔を見つめるホロホロ。
「さてと……」
体がだるいのを押さえて起きあがり、そそくさと後始末を始めた。

朝。まだ日の昇らない時間、二人とコロロは浜辺に立っていた。
「ホントにもう行っちまうのか?」
「うん…。もう一度ハオ様のところに戻る」
「でも、なんかあったんだろ?」
少し不安気な顔でホロホロが訪ねる。
「うん……でも、あたしが今こうして生きてられるのは、ハオ様がいたから…」
「…そっか……ならもう止めねぇよ」
「うん、ありがと…泊めてくれて」
「な、なに、いいってことよ!」
「…………」
「…………」
二人が浜辺で逢ったときとは、違う沈黙を辺りが包む。
それを先に破ったのは、マッチだった。
「じゃあ……ね」
じゃあまたね、とは言えない。二人は敵同士で、この別れでもうさっきの関係には戻れないのを解っているから。
「ああ……」
ホロホロも、そのことを痛いほど解っている。
それきり、何も言わずに背を向け、別れる。
「クル……」
「これでいんだよ、コロロ」

「ホロホロ!」

不意に呼ばれて振り返る。
「これ!」
マッチから何かが投げ渡される。受け取って見ると、それはマッチの髪と同じオレンジ色をした、髪止めだった。
「じゃあね!バイバイ!!」
そう言って、とけた長い髪を揺らしながら海岸の向こうへと姿を消していった。
「クル!」
ホロホロは、へっ、と笑いながら髪止めをポケットに突っ込んだ。
やがて日が昇り、ホロホロとコロロは民宿へと帰って行った。

その夜、風呂場で背中の爪痕を皆に詰問されることを知らずに…


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