■×ハオ
暑さで、目が覚めた。
開けた窓から肌を撫でるような風が吹く。
ふわりと、あたしの髪も小さくなびいた。
起きたばかりで、気だるい体を上半身だけ起こす。
炎事体、古い建物だからクーラーが無いのは仕方ないのだけれど、それにしても暑い。
葉も隣の部屋で暑さに苦しみながら寝ているのかしら、なんて思ったけれど。
水を一杯飲みたくなって、あたしは布団からゆっくり立ち上がった。
古い階段は、下りるたびにキシキシと音がする。
静かな夜に、あたしの足音だけが聞こえる。
一階のほうが風通しが良いせいか、涼しく感じた。
台所でコップに水をくみ、夜風を感じるために縁側まで来た。
星の光が明るく、月の光が弱く感じられた。
それほど、今夜の星の光が綺麗だった。
いつもは、一番目にあかるく映るはずの月の光が、何か薄暗くみえた。
涼しい夜風が、またあたしの髪を攫うようになびいた。
コップの水を一口、こくりと飲み込んだ。
癒しを求めていた感覚が、やわらいだ気がした。
縁側に座り、二階ではあまり感じられなかった心地よい夜風を楽しむかのように目を閉じた。
リーン、と縁側に吊られた風鈴が風に揺られて音を響かせた。
「・・・アン…ナ?」
後ろから、突然声がした。
知っている、この声の持ち主。あたしの、愛する人。
「葉…」
顔だけ後ろに振り返ってみると、同じ浴衣の寝巻き姿の葉が立っていた。
「どうしたんだよ、アンナ。こんな遅くに…」
ゆっくりと、歩を進めてあたしに近寄ってくる。
「…別に、喉が渇いて。」
「そっか」
短い会話なのに、葉との会話は心が落ち着く。
心が、落ち着く。
「…なぁ、アンナ。今日は星が綺麗だな。」
「そうね…」
葉もあたしと同じように顔をあげ、空を見た。
「月の光が、消えちまいそうだ。」
「ええ…」
何となく、葉の声が寂しそうに聞こえた気がした。
あたしの隣で立っている、葉の顔を見上げた。
葉はうっすらと、口元に微笑を浮かべる。
「星の光が強すぎて、月が見えなくなっている…それに、まだ気づかないのかいアンナ。」
背中に、ゾクリと悪寒が走った。
「な…っあん…た…っ!」
声が詰まって、上手く出てこない。
今、ここに居るのはあたしと、それと葉。
葉のはずなのに…この感覚を…この嫌な感覚をあたしは知っている。
「いつ、このカラダに僕が入ってるって気づくかなと思ったんだけど。」
「ハ…オ…!?」
葉、否ハオはゆっくりと己の手で自分の顔を撫でた。
「正解。」
にっこり、笑ってそう言った。
ぐっと息を飲んだ。
ここで、弱気な態度をとってはいけないのは分かってる。
冷や汗がたらりと頬を伝った。
「…葉は、どうしたの?どこ…にいるの」
葉…ハオは微笑を崩さないであたしの横にかがんだ。
ハオは、あたしの目の前に顔を近づけた。
「此処に居るだろう。」
「君の、目の前に。」
葉の、笑みじゃない。
あのハオの笑みを葉の顔でする。
「違うっアンタは葉じゃない…!近づかないで!」
とっさに後ずさった。
が、逃げた右手首を掴まれてしまう。
「今、葉も君を見てる…この目で君を見て、この耳で君の声を聞いてる。」
急に葉の顔が目の前にせまってきて、思わず目を閉じた。
その瞬間に、もう唇を重ねられていた。
「ん…っふ…ぅ」
掴まれていないほうの左手で、相手を引き剥がそうとしたけれど女の力ではかなわなかった。
無理矢理唇を舌でこじ開けられる。
生暖かい舌が口内を犯す。舌で歯列をなぞられるとゾクリと感じてしまった。
「ぁ…んん…っんぅ…っ」
息が苦しくなるほど口内を犯されて空気を求めるが、それも許されない。
葉が、薄目をあけて楽しむようにあたしの唇を味わう。
しばらくして、ようやく唇を離された。
苦しさから開放されて肩で息をする。
「はぁ…っはァ…」
口の端から自分のものか相手のものかわからない唾液を左手でふき取った。
右手はまだ離してもらえず、葉はペロリと自分の唇をなめた。
「ねぇ、アンナ。感じたんだろ?…葉よりも。」
「…っ!」
相手のキスに思わず声を出してしまった自分を感じで思わず顔が赤くなった。
「君がさっき言っただろう。僕は葉じゃないって。
そうだよ、僕は葉じゃない…でも、この体は葉だ。
葉に、犯されるのはどんな気分だい?」
グイッと右手を引き寄せられて、首筋に顔をうずめられた。
「いや…っ!放しなさいっ」
葉…ハオは、あたしの言葉を無視して首筋から頬にかけて舌で舐めあげた。
そして軽く耳をかまれた。
「ひ…っんっ…」
葉の右手はあたしの腰を抱きかかえるようにしてあたしを支えた。
耳を執拗に舐めて、攻められる。
その度に体から力がぬけていくのが分かった。
抵抗する力が無くなってきたのを見計らったのか、葉はあたしをその場に押し倒した。
「いた…っ」
いきなり押し倒されて、声をあげた。
葉は冷たい冷笑を崩さずに、また耳から首筋へと唇を伝わせた。
コイツは葉じゃない…分かってるのに。
自分の前に居る人物の行為に声をあげてしまう自分が居る。
葉は器用にスルリとあたしの帯をほどいた。
あたしの体が相手の前であらわになった。
葉の舌があたしの胸の先端に吸い付いてきた。
先端の突起を転がすように舐められ、甘噛された。
「ぁあっ…!や…だ…っ」
「…まだ嫌、なんて言うのかい?」
葉は唇を離さず、左手であたしの胸のラインをなぞった。
ビクリと反応してしまう。
「ひゃ…っんっ…ぁあっ!」
「…こんな、気持ちよさそうな声出してるのに、ねぇ?」
葉の目に、あたしの体が写されているのが見えた。