■あかし
- 「きゃ……!」
私は扉の前に立っていた。
そして扉の向こうには、蓮さんがいる。
無人島に来たのはもちろんお兄ちゃんの試合を観るためだったけれど、
なにより、私はもう一度蓮さんに会いたかった。
だけどゴーレムの事や、SF予選の事とかいろいろあって、
結局はろくにお話しも出来なかった。
でも、明日蓮さん達はこの島を離れてしまう。
だから、私は蓮さんの部屋の前にいる。
だけど―――なかなかその扉を叩くことが出来ない。
会って何を話せばいいのか分からないし、
だいたい蓮さんが、私の事をもうなんとも思ってないのかも知れない。
拒まれるのが、怖かった。
目の前の扉が開いて、蓮さんが迎えてくれたらどんなにいいだろうって期待したけど、
当然、そんな気配はない。
このまま明日になってしまえば、傷つくことはない。
でも、もしかしたら二度と蓮さんに会えないかも知れない。
それは、もっとイヤだった。
決心した私は扉をノックしようと腕をあげた。その時、向こうから―――
- 「何をしている?」
懐かしい、声がした。
「え! あ、あの…」
突然掛けられた言葉に上げた腕を止めたまま、戸惑って何も答えられなかった。
「いつまでもそんなところにいないで、中に入ったらどうだ」
…気付いてたんだ。
扉の前で立ち往生している私に、どんなことを思ってたか考えると恥ずかしかったけど、
結果的には蓮さんから誘われてうれしかった。
「は、はい!」
少なくとも嫌われてはないんだ。
蟠りの解けた私は、私と蓮さんを隔てている板を拓いた。
- 「え…………?」
扉を開けて私はまた立ち止まってしまった。
私の頭の中では、目の前に広がる光景に蓮さんの姿を重ねていたから。
でも―――
「蓮さん……?」
そこに蓮さんはいなかった。
部屋の先には、布団が一つ敷かれているだけだった。
…なんで? さっきの声は、幻聴?
私はただ呆然と部屋を眺めていた。
でも、焦点が合ってない。記憶が曖昧だった。
ただこの部屋に蓮さんがいなかっただけなのに、すごくさみしくなった。
なんで、いないの?
それが、数分前の出来事。
- 「きゃ……!」
私は強い力で後ろに引き寄せられたかと思うと、また強い力で体を固められた。
「ピリカ」
耳の側で、私を呼ぶ声がした。
声の主は、蓮さんだった。
後ろから、腕を回して抱き締められてた。
蓮さんはさらに腕に力を入れて、痛いくらいに私を抱き締めた。
「蓮さん……」
さっきまでの不安が全部吹き飛んで、今私の頭の中は蓮さんでいっぱいになった。
きつく抱き締められて、搾り取られるように、私は涙を流した。
「え? あ……」
急に私の体が宙に浮いた。
気付いた時には私は、首と足を支えられて、体が横になるように抱っこされてた。
「ちょ、ちょっと、蓮さん…」
何だか恥ずかしくなって降りようと体を動かしたけど、それより強い力でとどめられた。
「あ……」
蓮さんは顔を近付けてほっぺに溜まっていた涙を舐めて、そのままキスしてきた。
「ん……」
久しぶりのキスは、当たり前だけど、涙の味がした。
私は夢中で舌を絡めた。
蓮さんに抱えられたまま、布団に寝かされた。
そのうえに蓮さんが覆いかぶさる。
これから何をされるかは解ってた。私も、それを望んでた。- 「や………」
なのに、私は拒否した。
いやらしい女だ、って思われたくなかったんだと思う。
「んっ……!」
でも蓮さんは構わずに舌を入れてくる。
蓮さんには、判ってるんだ。私の言葉が、本心じゃないことを。
嘘をつく舌を絡め取って貪るように愛撫してくる。
全身の力が抜けていく。代わりに、蓮さんの意識が入り込んでくる。
「ちゅ…はぁ……んんっ…!」
蓮さんの手が浴衣の胸元から入り込んで、壊れ物を扱うように、やさしく撫でてくる。
きもちよくて何も考えられなくなる。代わりに、蓮さんの熱が入り込んでくる。
唇を離して、その口を首筋に押し付けて強く吸いつけてくる。
そのまま体中を吸われる。
「んっ…! あぁ……」
きっと私の肌には、たくさんの花びらが散っているんだろう。
そこから蓮さんの唾液が入り込んでくる。
花びらは太ももの辺りまで降りて、その間に溜まった。
「やぁ…っ…あ、あああっ…!」
電気が走ったみたいに、体が勝手に跳ねる。
それでも蓮さんの愛撫は止まらない。
指を入れられ、舌で掻き回されて、クリトリスを強く摘まれて―――
「あ、あああああぁぁ……!!」
目の前が真っ白になった。
そのなかに、だんだんと蓮さんが映って入り込んでくる。
- 私の体と頭の中は、蓮さんで支配されていた。
蓮さんが私の足を開いて持ち上げる。
「いいか?」
断る理由は何もなかった。
もっと支配して欲しい。
小さく頷くと、蓮さんは硬くなったモノを、私に宛がった。
熱が伝わってくる。
それが私を押し分けて入ってくる。
「あ、くぅっ…んあぁっ……!」
痛みを伴って少しずつ、蓮さんがゆっくりと入ってくる。
この痛みが消えたら、私は完全に支配される。
長い時間を掛けて、蓮さんが全部、私の中に入った。
「ピリカ…」
名前を呼ばれただけでもう、体の奥から快楽の証が溢れてくる。
「動いても、いいか?」
初めて蓮さんと繋がったあの時と同じように、聞いてきた。
その事がたまらなくうれしかった。
変わってないんだ。私の事を、思ってくれてる。
「はい…」
私も、あの時と同じ台詞で答えた。
私だって、蓮さんを思ってるのは、変わらないから。
そして、蓮さんの腰が動いた。
- 「ん…あっ、ああっ…!」
蓮さんの動きが速まるにつれて、私の声も大きくなる。
蓮さんが顔を私の胸にうずめて、先っぽを吸った。
「ひぁ…ん…っっ……ああぁ…!!」
たまらなくなって、私は蓮さんの首に腕を回して抱き締めた。
「れん…さん……」
「…ピリカ」
蓮さんのその言葉が、私の体から痛みを少しずつ剥がしていく。
そして、私の中から、完全に痛みは消えて、快楽へと変わっていった。
「蓮さん…もう……」
もうこれ以上耐えていられないことを伝えると、腰の動きが速くなった。
突かれるたびに、だんだん絶頂へと登りつめていく。
「ピリカ…っ」
ふと見た蓮さんの目には、私が映ってる。
目の中の私も、蓮さんを見てる。
合わせ鏡みたいに、お互いが限りなく続いて映る。
私がいて、蓮さんがいて―――
同じように、今この空間には、私達しかいない。
でも、私の意識が飛んだら、きっと自分の部屋で目覚めるんだろう。
一緒の布団で、同じ朝を迎えられるなら、私はいつでも待つ。
だから、今は私の中に傷をつけて、証を残して欲しい。
蓮さんが私のことを思ってる、証を。
―――――あ。