とりあえず、今日はこれで勘弁してあげます。
でも、そんな顔してると、どうなっても知りませんからね?










強化合宿の最終日、打ち上げで盛り上がる部員を横目に、
俺は予てからの計画を実行するべく宍戸さんを誘い夜の庭に出た。
(VOICE MESSAGE長太郎ナレーション風)

関東大会1回戦、氷帝学園は青学に敗北し、3年の先輩達は早すぎる引退を余儀なくされた。
というのは建前で、先輩達は相変わらず部活に参加していた。
あっというまの敗退で不完全燃焼というのもあっただろうし、どうせエスカレーターで
高校に行けるしということなのだろう。

夏休みに入ってすぐ、学園所有の某県にある高原の施設で強化合宿が行われた。
もちろん、3年の先輩たちも参加していた。
榊監督の鬼のようなしごきに、遊ぶ余裕も無く泥のように眠る日々だった。
練習・食事と一日中好きな相手と顔をつき合せているのに、会話すらままならない生殺し。
俺は正直なところ我慢の限界だった。
最終日くらいは大目に見てやろうという監督の気まぐれな仏心により、今日の練習量は抑えられていた。

久しぶりの自由な時間を満喫しようと、夕食後そのまま食堂で打ち上げになだれ込む。
俺は跡部さんの俺様トークにも、忍足さんと向日さんを中心に盛り上がるカラオケコーナーにも
参加しないで、宍戸さんの隣で大人しく座っていた。
ぐったりと疲れている宍戸さんは、騒ぐ周囲をぼんやりと眺めジュースを飲みかけたまま放心状態だ…


宍戸さん。俺の大切な恋人。
ずっと好きだった先輩で、片思いでかまわない恋のはずだった。
それでも、レギュラーの座を追われた宍戸さんが特訓の相手に俺を選んでくれて、少しは期待してもいいのかと思った。
二人きりで特訓を続ける日々に幸せを感じ、また真摯な宍戸さんの姿勢にますます想いは募った。
大好きだった自慢の長髪を切り落とし、レギュラーを取り戻したあの日、ついに俺は宍戸さんに告白した。
そのときはもし嫌われて軽蔑されたらどうしようなんて心配も吹っ飛んでしまったんだから、俺もどうかしている。
それくらいレギュラー復活が嬉しかったし、宍戸さんを好きになりすぎていた。
宍戸さんは俺の告白に、驚いた顔をしたけれど、耳まで赤くなって
「俺も、おまえのこと好き…かもしれない」と答えてくれた。
天にも昇る気持というやつを実感した記念日だった。
そこで、勢いあまってキスしたら、とりあえず抵抗されなかったので、それ以来隙を見ては抱きしめたり、キスしたりしている。
宍戸さんはいつも真っ赤になって、「やめろ」と文句を言うけれど本気の拒絶はされたことはないし、
相当の奥手のようなので好きにさせてもらっている。
でも、それ以上の発展は今のところない。

(それじゃ物足りないんです、宍戸さん。)俺は心の中で繰り返す。
合宿は絶好のチャンス!だと思ったけれど、太郎、いや監督のせいで体力のない宍戸さんはクタクタで、
夕食が終わると真っ先に部屋に戻ってしまう。恨みますよ、監督…
今日を逃せば後は無い。お誂え向きに練習量は少なめで、夕食の開始時間も繰り上げられている。
俺は手早く計画を練ると、下準備に取り掛かった。
レギュラーのみ、庭にある2人部屋コテージに泊まっていたので(ああ俺レギュラーでよかった!)
同室の樺地に、ジロー先輩の部屋で寝るように頼んだ。
樺地は理由も聞かずに「ウス」と了解してくれた。
これで、宍戸さんを俺のコテージに連れ込んでも問題はない。

そして、夕食の時から、なるべく自然に宍戸さんの隣の席に陣取り機会を待った。
あまり早い時間に抜け出して、周りに疑われるといけないので、時計が21時を回って宴もたけなわ、
みんな自分が楽しむことに熱中してきたのを見計らい、ぼんやりしている宍戸さんに声をかける。
「宍戸さん、ちょっと散歩に行きませんか?疲れてるみたいだし、ここのところろくに話もしてないですし」
めんどくさそうに俺のほうを向くと
「ん?ああ。いいぜ。夜風に当たるのも悪くねぇ。眠気覚ましにな」
そうして、二人きりで外に出た。
久しぶりに宍戸さんと二人になれたことと、今後の計画遂行を思うとにやけてしまう。
「なんだ、長太郎。ニヤニヤしやがって気持ち悪ぃな」
「嬉しいんですよ。宍戸さんと二人きりだから」
そういって宍戸さんの手を握って歩き出すと、赤くなって俯いた宍戸さんは消え入りそうな声で答えた。
「ばかやろう。何言ってやがる…でも、俺も…」
(素直じゃないんだから。でもそんなところも可愛いんですよ、宍戸さんは)
さすがに夜は冷えますね、なんて他愛の無い会話をしつつ手を繋いでの散歩は思った以上に楽しかった。
宍戸さんもどうやら、楽しんでいるらしかった。
さりげない誘導のおかげで、俺のコテージが近づいてきた。
さぁ、ここからが勝負だ。油断せずに行こう(あ…)

「宍戸さん、食堂戻っても騒がしいだけですし、宴会終わるまでちょっとここで休みませんか?」
「ああ。飲み物くらいはあるだろう?」
「はい」
(かかった!警戒心のかけらもないんですね宍戸さん。迂闊すぎます。
 って引っ掛けた俺が言うのもなんだけど…これから気をつけるように言わないと)
鍵を開けて、先に宍戸さんを部屋に入れる。
「なんだ、お前らの部屋きれいだな〜」
入り口にたったままのん気に見回す宍戸さんを背後から抱きしめて、後ろ手で鍵を閉める。
「なっ…何するんだ、長太郎。はなせって。なんで鍵閉めンだよっ…おい、長太郎っ」
真っ赤になって焦っている姿がなんとも言えず可愛い。
(もう遅いんですよ、宍戸さん…)
「やっと二人きりになれたんです。毎日顔をつき合せているのにこうやって触れることもできなくて
 俺すごい辛かったです。宍戸さんは?平気だった?」
「うるせぇ、知るか。放せよ」
「嫌です」
「!このやろう…んっ…んん」
このままずっと文句を言われそうなのでさっさと口を塞ぐ。舌先で上顎をなぞると
力が抜けてしまったように、大人しくなった。
「ん…っ……ぅん」宍戸さんの漏らす声と湿った音だけが支配する。
散々甘い舌を味わってから、解放すると、宍戸さんは目元を潤ませて睨み付けてきた。
俺は唇を耳に寄せて「そんなによかったですか?なみだ目になってますよ?」囁いて舌を這わせる。
耳が弱点の宍戸さんは、ビクリと身をすくませる。そんな反応もますます愛しさを募らせる。
「…あっ、くっ、やめろっ…よ」
俺は構わず、唇を耳から首筋、鎖骨へと下げていく。
「はぁっ…マジ、やめて…くれっ、ちょ…たろっ」
頬を上気させ、息を弾ませていく宍戸さんを見ると、もっと乱れさせたくなる。
俺の夢の中で啼く宍戸さんの声よりも、実際の声はより艶っぽく、俺の欲望を刺激する。
身体を移動させ、正面から抱きしめ直し、Tシャツのすそから手を滑り込ませる。
背骨をそっとなぞる様に上下に動かす。だんだん、下へその手を伸ばし、
双丘の谷間をかすめるように愛撫する。もう片方の手で、胸の突起をいじる。
「んあっ…は…、あ…イ…ヤだ」
息を乱し、喘ぐ姿は壮絶に色っぽい。
(ああ、俺もう止まれない)
宍戸さんを壁に押し付けて、片腕を縫いとめる。そしてジーンズのファスナーを下ろし、
下着の上からすでに頭を擡げ始めている宍戸さん自身に触れる。
その瞬間、ビクッと身体をはねさせ、これまで本気の抵抗を見せなかった宍戸さんが、
自由になっているほうの腕で思い切り俺の胸を押した。
体格差とパワーの差で、このくらいの抵抗なんて本当はあっさり押さえつけることもできるけど、
はっきりとした拒絶の意思を感じて、俺は行為を中断する。
「長太郎、これ以上は、勘弁してくれ。頼むから…」
息を乱して俯く宍戸さんを見下ろして、俺は熱が急速に引いていくのを感じる。
(焦りすぎて失敗した?)
「すみません、宍戸さん…俺…」
拘束を解き、乱れた着衣を整えてあげる。
「お前、怖ぇんだよ…でかいし力強いし…もうちょっと加減しろ」
痛そうに押さえている腕には真っ赤な跡がついてしまっていた。
「痛いですよね…すみません」
「お前の、気持ちは…その、俺も、理解できる…けどな」
必死で何かを伝えようとしている宍戸さんを心配そうに見ながら
(このまま無理やり犯っちゃうことも、できるんだけどな。宍戸さん力弱いし、色々弱いから。
 でも、もしトラウマとかになっちゃって、二度とヤらせてもらえなくなったら最悪だし…)
なんてことを考えていることがばれたら、俺は絶対口も利いてもらえないだろう。
鳳長太郎=いい人、だと信じているみなさんもきっとショックを受けるに違いない。
「俺、女と付き合ったこともないし…」
「え?」
その一言で引き戻される。ってことは宍戸さんは…チェリー?
「そんなに驚くことかよ。お前らみたいにもてねぇんだよ」
ちょっと膨れて横を向く宍戸さんが愛しくて、ついまた抱きしめてしまう。
(あの先輩達の中にあって、宍戸さんの存在は奇跡です!神様ありがとう!)
「こら、放せ。だから加減しろって言ってるんだよ…」
「はっ、すみません」
今度は素直に反省する。
「別に、お前と…その、なんだ、そういう関係になるのも嫌…じゃない、多分。
 でも、な。いきなり…男に抱かれるなんて…俺にはできねぇ。
 キスだけでもいっぱいいいっぱいなんだ。くそっ、恥ずかしいこと言わせやがって」
本当は愛しさのあまり抱きつぶしてしまいそうだったけれど、理性と経験値を総動員してそっと抱きしめる。
(可愛い…なんでこんなにこの人は可愛いんだ)
「宍戸さん、すみません。俺、焦りすぎました。」
(確かに、俺がもし樺地に抱かれるなんてことになったら、…うっ、変な想像してしまった…)
「わかってくれたなら、いいんだ…だから…」
そういうと宍戸さんは俺の頭を引き寄せて、いきなり口付けた。
おずおずと、それでも明確な意思を持って口内に侵入してくる舌。
俺は驚いて一瞬頭が真っ白になったけれど、優しく動く宍戸さんの舌にそっと応えた。
宍戸さんから俺にキスをしてくれたのは、これが初めてだった。

唇を離すと、恥ずかしそうな表情だけど視線をそらすことなく続けた。
「これが、今の俺の精一杯だ。だからもう少し待ってくれ…よ」
(まあ、いいか。今日はキスに免じて許してあげます。)
「初めて宍戸さんからキスしてくれましたね。俺、感動です。でも…キスはもっと激しく情熱的に…」
「え」
首を思い切り仰け反らせて、覆いかぶさるように口付ける。舌を絡ませ、吸い尽くし、呼吸までも奪う激しいキス。
膝の力が抜けて俺にしがみつく宍戸さんをしっかり抱きしめて、長い長いキスを堪能した。
やっと解放されて、肩で息をする宍戸さんの顔を覗き込んで
「これくらい、してくれないと…ね。今日のところはこれで満足することにします」
にっこり笑ってそう言うと、
「そんなことできねぇよ…けどとりあえず助かったぜ(超小声)」
あからさまにほっとした嬉しそうな顔で呟いたから、俺はつい意地悪をしたくなる。
「俺、宍戸さんがその気になるまで待ちますけど、そんなに気は長いほうじゃないですから」
耳元でボソボソと囁く。
「…っ」
耳を押さえて後ずさり、怯えた表情の宍戸さんに
「あははははは」
俺は大声で笑ってしまった。
「てめっ、このやろう、からかいやがったな〜」
(あーあ、真っ赤になってムキになる姿、どうしようもなく可愛いです。
 これ以上俺を骨抜きにしてどうする気ですか)
じたばた暴れる宍戸さんを捕まえて、腕の中に閉じ込めて…
「俺、本気ですから、早くその気になってくださいね。好きですよ、宍戸さん…」
大人しくなった宍戸さんに今度は、そっとキスをした…



食堂に戻った俺が「二人でランニングしてきた」というと、誰も不信感を持たずに納得したようだった。
ただ一人、宍戸さんだけが、じとーっと俺を見ていたけれど、あえて気がつかないふりをした。
正直に話してもいいけど、そうしたら困るの、宍戸さんでしょう?
なんて、これ以上意地悪するのは、今夜は勘弁してあげますよ。
当分の間は、あなたのキスに騙されたことにしておきます。






言い訳のみたいなあとがき
はじめて書いたとりしし。私は寸止めも結構好きです。でも申し開きもありません。
…逝ってきます(涙)


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