異様なほどの喉の渇きに、俺は目を覚ました。
見覚えの無い部屋の様子にぐるりと頭をめぐらした瞬間、激しい頭痛を感じた。
暗闇に慣れてきた目で、なんとなく自分が何処にいるのか理解する。同時に記憶がよみがえって来た。
現在に至るまでの経緯を思い出していくたび、ますます頭を抱えたくなっていく…
「俺、何してんだ…」










関東大会、俺たちは激闘の末、青学に初戦負けを喫した。早すぎる敗北にうなだれる部員たち。
学校に戻ってからのミーティングは重苦しい雰囲気のまま進んだ。
いきなりの引退、そして新体制への移行。実際まだまだ先だと監督すらも思っていたため
具体的な決定は何も無いまま、
「明日の部活はとりあえず休み。各自十分休息を取るように」という言葉で解散となった。
いつも俺様で、人前では決して弱ったところを見せない跡部ですら、様子が違う。
ジローも寝ていない。誰もが気安く声をかけるのをはばかられる、そんな感じだった。

俺は、長太郎といつものように一緒に帰路に着いた。
アイツが試合後泣いていた理由を聞いたら、
「俺が高等部に行くまで宍戸さんとダブルス組めないじゃないですか」
きっぱりとした返事が返ってきて、あきれたけど、少し心が軽くなった。

俺と長太郎のペアは乾・海堂ペアに勝ったし、自分ではわりと大丈夫だと思っていたが。
身体は疲れているのに、負けた瞬間のイメージが繰り返し浮かび、目が冴えて眠れない。
何度目かわからない寝返りをうったそのとき、ケータイがメールの着信を知らせた。
「跡部からか・・・なんだ?『明日18時に俺の家に集合。以上』
 相変わらず偉そうだな。アイツもう立ち直ったのかよ。はえぇな」
まあ、どうせ部活も休みだし、言うこと聞いてやるか。
何するんだろうな…そんなことをつらつら考えているうちいつの間にか寝入ってしまった。

翌日、指定の時間に間に合うように跡部の家へ向かった。
いつ見ても、嫌味なくらいデカイ家だ。
シツジだかメイドだかに案内されて、やけに高そうな家具が設えられた部屋に行くと、
いつものレギュラー陣がすでに揃っていた。
「あ、宍戸さん。こっち空いてますよ」
長太郎に呼ばれて俺は大人しくソファの隣に腰を下ろす。
「今日は何があるんだ?」
「さあ、聞いてないです。あ、跡部さん来ましたよ」
自宅でもなぜか樺地を連れた跡部が部屋に入ってくる。
控えていた使用人になにやら指示を出すとおもむろに口を開いた。
「今日は打ち上げだ。他所だと俺様の口に合わないからな。ウチでやることにした。文句ねぇだろ」
「ウス」
「文句言うたかて聞かへんやんか」
「忍足、何か言ったか?」
「なんでもないですぅ」
「負けちまって納得いかねぇけど、ま、いまさら仕方ねぇ。今日は思う存分騒いで構わねえぞ」
跡部のやつ、やっぱもう吹っ切れたのか…などと俺が考えてるうちに、突然覚醒したジローが騒ぎ出す。
「マジマジ?騒いでいーのー?ちょーたのC〜」
高価そうなソファの上でぴょこぴょこ跳ねるジローを見る跡部の眉間に皺が…と思ったら
「先輩、この椅子高いけど弁償できるんですか?」
すかさず日吉がつっこみを入れる。
しかしジローの興味は運ばれてきた豪華な食事の数々に移ってしまい、完全にスルーだ。
「げ、下剋上だ…」
俺は少し日吉に同情した。

凄まじい食欲が発揮され、大量に用意された食事が全て空になった。
運ばれてきた飲み物や菓子類を口にしながら、だべっていると、昨日までと何も変わらないような気分になる。
しかし、俺たちの夏は終わってしまった。
次の試合のために、とこのメンツで何かすることはもう出来ない。
そして跡部の発言以外、誰も昨日の敗戦の話題に触れない。きっと触れることが出来ないんだろう。

俺はちびちびジュースを口にしながらそんなことを考え、適当に相槌を打っていた。
「なぁなぁ。ジロー、ゲームしねぇ?」
岳人がついに大人しくしていることに飽きたらしく、ジローを巻き込んだ。
「いいよー。何する?」
「そうだなぁ。たけの○ニョッキ!」
「二人じゃ少ないじゃん」
「侑士、お前も入るよな?」
「ん?ああ、ええで」
(こういうときいつも思うけど、忍足って付き合いいいよな…)
指名された日吉も嫌々参加して、低次元なバトルが始まった。
何度か繰り返された後、なぜか今日は起きているジローが言った。
「跡部〜。何か変な飲み物とかある?罰ゲーム用に〜」
「そんな安モン、ウチにはねえ。」
とか何とか言いつつ、内線で用意するように命じる跡部。
しらけて見ているのかと思ったがヤツなりに楽しんでいるのかもしれない。
「宍戸、お前も入れよ」
(岳人のやつ、負けが込んできたからって俺を誘いやがって…まあ、見てるだけよりやった方がいいよな。)
それに、なんだかんだいって、思い切り騒ぎたい気分だった俺は了解してやった。
「宍戸さんが入るなら、俺も入ります」
「長太郎、お前なあ…」
しかし、周りは特に何の反応も無い。
(いいのか俺たちコレで…)
「樺地、お前もやってこいよ」
「ウス」
心なしか嬉しそうな返事をする樺地を含め、運ばれてきた飲み物(ブランデーだ!)を罰ゲームにバトルは再開した。
やはりもやもやした気分を晴らしてすっきりしたかったのは俺だけじゃなかったらしい。
罰ゲームの効果もあってか、先ほどよりも白熱した戦いが繰り広げられる。

さっきまで岳人が一人負けだったくせに、俺が入ったおかげで二人負けになった。
たまに負けるジローと日吉のほぼ四人で、かなりの酒を消費してしまっている。
(ちょっと、ヤバイかもしれねぇ…)
俺は酒は弱いほうではない、と思う。
しかしアルコール度数の高いブランデーを立て続けにあおった影響はすでに出始めていた。

ゲームはいつのまにか「山手線ゲーム」に変わっていた。
こういうゲームほど酔いが回ってくるとミスるものだと実感する。
酔っ払い4人組の負ける頻度がますます高くなってきた。他の連中はなぜか殆ど負けない。
急激にテンションが低くなったジローがゲームの最中に眠ってしまった。
優雅にブランデーグラスを片手に寛ぐ跡部(お前マジでいくつだよ)が樺地にジローを連れて行くように指示する。
どうやら別室に布団が用意してあるらしい。こんな事態もお見通しだったのか。さすがインサイトだ。

ジローの退場を境に、ゲームは終了。
ほとんど負けず、酒が飲めなかった忍足と長太郎は跡部に頼んでカクテルを運んでもらっている。
戻って来た樺地は酒があまり好きではないのかこぶ茶など啜っている。
対照的に罰ゲーム三昧だった日吉、岳人はぐったりとしてミネラルウォーターを飲んでいた。

突然、「う…吐く…」岳人が真っ青な顔をして口元を押さえた。
「ここではアカンで、岳人。ちょお我慢しぃ」
岳人と同じくらい青くなった忍足が、岳人を横抱きにしたままマッハで部屋を飛び出していった。
「アイツ、俺のテレポートダッシュより早いかも…」
思わず口に出した俺に対して、いつもより皮肉っぽさが3割減の跡部が
「何いってんだ、ばーか」
と返した。やっぱり今日の跡部は少し楽しそうだ。
「宍戸さん、酔ってますか?ちょっと顔が赤くなってますよ」
心配そうに覗き込む長太郎にデコピンをかまして
「なんともねぇよ。俺にもそれくれ」
長太郎が美味そうに飲んでいたグラス(4杯目だ)を取り上げる。
普段の俺なら、ここでさらにアルコールを摂取することはまずいぞと思うはずだ。しかし俺はかなり酔っていた。
一口飲んで、顔をしかめる。長太郎こんな強い酒平然と飲んでやがったのかよ…
なんか悔しかったので続けて飲んでやった。

岳人を介抱して寝かしつけた忍足が戻ったのと入れ替わりに、今度は日吉がいきなり
立ち上がるとフラフラと部屋を出て行った。
「おい鳳。アイツ見てやれ」
跡部に言われた長太郎は、あんなカクテルを3杯も飲んだとは思えない足取りで日吉を追いかけていった。
長太郎がいなくなって話す相手もなく、俺は退屈になってしまった。
(早く戻って来い長太郎〜つまんねぇぞ。)
跡部と忍足と樺地は楽しそうに、時に俺のほうを見てニヤニヤしながら何か話をしているようだが、
俺にはよく理解出来なくなってきた。時々意識が飛んで、眠くてたまらない。
長太郎が帰ってくるまでは起きていようと思って、頑張って目をこすったり、
口にものを入れたりするが、あまり効果が無い。
何度目か意識が飛んだ後、段々からだが冷えて寒くなってきて、(跡部家は地球に優しくないエアコン設定だった)
俺は、隣に戻って来たきた長太郎で暖を取ろうとした。
「なぁ長太郎、寒い」
「ウ・ウス?」
「あん?なんだてめぇかばじかよ。長太郎どこだよ」
「う…うす」
「宍戸、オラ、樺地に絡むんじゃねぇよ。この酔っ払いが」
「俺はよってねーぞ」
「酔っ払いほどそう言うんやで、宍戸」
突然すごい力で引っ張られて、俺は樺地から引っぺがされた。
「し、宍戸さん、何してるんですかっ。ああ、樺地悪い、席替わってくれないか?」
「う、うす」
何で樺地怯えた顔してるんだ?
俺の隣にやってきた本物の長太郎は、俺を自分の方に引き寄せてがっちりホールドする。
「(ドアからココまですごい速さやったで鳳)鳳お疲れさん。日吉どうなったん?」
「ああ、アイツ吐いてる途中で寝ちゃったんで、布団に置いてきました。
 それより、忍足さん、跡部さん。宍戸さん他に何かしませんでした?」
「何だよ長太郎。かおこわいぞ」
「もう、宍戸さんはいいから。大人しくしててください」
そう言うと、ますます俺を抱きしめる腕に力を込めた。
(ぬくい…)俺の眠気はそろそろ限界だ。
「宍戸は半分寝てただけだぜ、安心しろ鳳」
跡部、顔がひきつってるぞ?
「おとなししとったで?せや、度々で悪いけど、宍戸連れてったてくれへん?」
忍足、腰が引けてるぞ?どうしたんだ二人とも。
「言われなくてもそのつもりです。行きますよ宍戸さん。立てますか?」
「おう」
ちょっとフラフラしつつ、立ち上がり長太郎に支えられて出口に向かう。
「おい、鳳。俺様の屋敷でヤんなよ?」
「部屋余っとるからって、やめてや?」
おぼろげながら意味を理解した俺は、何言ってやがるんだ二人にと言い返そうとしたが先を越されてしまった。
「しませんよ。宍戸さんの声聞こえたら困りますから。声のひとつですら先輩達に聞かせるのもったいないです」
ものすごい笑顔でそんなこと言うと、バタンとドアを閉めた。
閉まる前に見えた跡部と忍足のなんともいえない表情が俺の頭に残った。



長太郎は俺を引きずるようにずんずん進んでいく。
「なっ、長太郎、あるくのはやすぎるぜ」
「すみません」
ちょっと歩調を緩めてくれたが声が不機嫌だ。
「なんでおこってるんだ?俺なんかしたか?」
心配になって普段は意地でも聞きたくないことを聞いてみた。
突然止まって振り返ると、俺の両肩に手を置いて
「あんなことこれからは絶対俺以外にしちゃだめですよ?」
「あんなことってなんだよ」
「(くっ。コノヤロウ)樺地にベタベタしてたじゃないですか」
「お前だと思ったんだよ。大きさにてたから。」
「だからって」
「でもすぐおまえじゃないってわかってやめたぜ?」
「あたりまえです」
「あーーーもしかしてやきもちかぁ?」
「…もしかしなくてもそうですよ。俺が妬くからあんなこと二度としないでくださいね」
(バカだなあ長太郎。お前頭いいくせに、馬鹿だ)
俺は体の冷えも手伝って長太郎に強く抱きつくと肩に顔を埋めたまま
「バカだな。俺お前のことしか好きじゃない。ちゃんとわかれよ」
酔っ払った挙句眠くてたまらない頭は、普段なら絶対言わない台詞を言わせた。
「宍戸さん…今の本当ですか?」
俺の顔を上げさせ、ちょっと驚いた表情の長太郎がじっと見つめてくる。
「ああ。お前が思ってるより俺ちゃんとお前のこと好きだぜ」
その言葉に嬉しそうに笑った長太郎が「タチ悪いですね、宍戸さん」と、唇に触れる瞬間そう呟いた。
すぐに唇を離すといつもよりずっと低い声で囁く。
「ちょっと口開いて?」
「ん?こうか?」俺はつい素直に従ってしまう。
頬に手を添えると、俺を上向かせ唇を塞ぐ。容赦なく進入してくる舌。
キスはアルコールの味がしてますます酔ってしまう。
「んんっ…う…ん…っ」
力が抜ける。何も考えられない。頭がボーっとする。
やっと解放されて、とろんとしたまま、正直者(になってしまっている)の俺は
「れろれろして気持ちよかった」と、つい本当のことを言ってしまった。
長太郎は、目を見開いて、困ったような顔で笑った。
「ほんっと タチ悪い…」
さっきよりも深く口付けられ、俺の意識は闇の中へと沈んで行った。




色々と思い出したくないことまで思い出してしまった。
さらに頭の痛いことに気がついた。枕だと思っていたのは長太郎の腕だった。
(ああ、もう何も考えたくない…頭痛も思い出したくないアレコレも忘れてしまえ)
俺は強引に目を閉じた。もう一度目が覚めた時には全部夢だったらいいのに、とか都合のいいことを考えながら。

もちろん、現実はそんな甘くなかった。
かなり長い間、ヤツラ(主に跡部と忍足)はことあるごとに俺の醜態をネタにしやがった。
それでもまあ、いつまでも負けたショックをひきずられるよりはましだろう、多分…。





言い訳のみたいなあとがき
宍戸さんがまたもや乙女になってしまいました。ヘタレじゃなくて、乙女…
とりあえず長太郎はザルだと思っています(未成年だから)
氷帝レギュラーは仲良しでしょっちゅう跡部の家で遊んでたらいいなー。監督込みで


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