ある雨の日に。
「うっわ〜!!やっぱ降ってきたじゃん!蛮ちゃんのうそつき〜!!」
その場に居ない相棒に苦言を呈しながら、近くの電話ボックスに飛び込む。買い物袋をテレフォンカードの自動販売機の上に置き、
お釣りの中から小銭を探す。
「40円・・・。場所の説明終わるまでもつかな?」
独りごち、周りの店名を確認する。そして、手の甲に乱暴に書かれた番号を見ながら、
一つ一つボタンを押していき、最後にスタートと書かれたボタンを押して、少し待つ。 と、
トゥルルル・・・トゥルルル・・・
呼び出し音が鳴り、
『銀次か?』
聞き慣れた相棒の声がした。
「うん。 あのさ、雨降ってきてて 歩いて帰れないんだけど・・・帰りに拾ってもらえない?」
『ああ?こっちゃ降ってねえぞ?にわか雨だろ?』
「そうなの?こんなに降ってるのに・・・?」
ざあざあ、と形容した方が良いような外の景色を見ながら答える。
『・・・どこにいんだよ?』
「蛮ちゃんが降ろしてくれたとこの斜め前の、ふくい書店?、の近くの電話ボックスだよ。 蛮ちゃんは? ・・・『用事』、終わった?」
『おう。まぁな。 ちょっとそこで待ってろ。すぐ行ってやらぁ。』
「うん!ありがとう。」
「あ、ばんちゃ・・・」
ツー・・・ツー・・・ツー・・・
言いかけた銀次を遮って、40円の効力は切れた。
「ちぇ。 ・・・まぁいっか。」
場所を伝えられただけでも良かった、と思い直し、ガラス戸にもたれて外を眺める。
ふと、
ガラスに映った自分と目が合う。
「やりたいコト・・・・・か。」
あの頃。
よく、こうやってガラス越しに外を見てた。静かなBGMの流れるあの喫茶店で。
何をすればいいのか。
今から何をすべきなのか。
わからなくて。
ただ、“外”をみていた・・・。
「・・・お前さ、何かやりたいコトとかねぇの?」
いつものようにHONKYTONKに銀次を迎えに来た蛮が、夕食を取りながら唐突に問いかける。
「え?」
「や、毎日そっから外見てっけど、他にやりてぇコトとか、行きてぇトコとかよ?ねぇの?」
「やりたい、こと・・・。」
少し、表情を暗くして考え込む銀次に
「ま、ねぇならゆっくり探しゃーいい。別に急ぐこたねぇし。」
と、付け足す。
「君は?俺がここに居る間、君は何をしてる?」
「俺か?まぁ、いろいろと、な・・・。」
「そうか。」
「・・・なぁ、いい加減その、“君”ってのやめねぇ?」
「え?」
「そんな呼ばれ方されんのはちっとな・・・。」
「そうか・・・。じゃあなんて呼べばいい?」
「蛮、でいいぜ? “銀次”?」
「蛮、・・・?」
「おう。」
「蛮、・・・ちゃん・・・。」
「・・・は?」
一瞬、自分の名にちゃんづけされたような気もしたが、この男がそんなことをするわけがないと思い直し(なにしろ相手は雷帝だ。)
蛮は、
「―― お前さ、俺と組む気あるか?」
と、軽く提案した。
― もともと無敵のオレ様と、“雷帝”が組むっつーのは、悪くねぇ思いつきだ、と内心で自画自賛しながら。―
「・・・え?」
「強くなりてぇ っつってただろ?」
「・・・うん。」
「俺と組みゃあ、なれるかも知れねぇぜ?何しろ俺は無敵だから?」
冗談とも本気ともつかない様子で、蛮が続ける。
「・・・。」
少し、考える様子の“銀次”を見て か、
「“やりたいこと”も探せるだろうし、な?」
と、付け加えた。
「・・・。組んで、何をする?」
「奪還。」
「だっかん?」
耳慣れない言葉に、思わず聞き返す。
「おう。 奪られたものを奪り還す、ってコト。 誰にでも
奪られたくねぇものってあるだろ?
でもそれが誰かに奪られちまって、自分では奪り還せねぇ。 んな時こそ奪還屋の出番、ってわけだ。」
「・・・・・・・・・・奪還、屋・・・。 いい仕事、みたいだね。 ・・・。」
「まぁな。」
「君のように、強くなってみたい。それに、“やりたいこと”も探したい。だから、組むよ。君と一緒にやる。」
「おっし。そうこなくっちゃ。 よろしくな、銀次?」
「うん。蛮ちゃん。」
満面の笑みを湛えて銀次が言う。
蛮は、初めて見る銀次の笑顔に驚いたらしく
( 見とれていた、と言うのが 目撃者波留の談である。)、己の呼び名を訂正する
最大のチャンスを逃した・・・。
そんな感じで始まった奪還屋生活によって、間違いなく、銀次は“変わった”。
あれから、色々なことがあって。
それを通して強くなれたかどうかは、自分ではわからない。心が暴走すると、
力がすべてを支配してしまうのは昔のままであるような気がする。
だが、様々な相手と戦って経験は増えたはずだ、と自分をなぐさめる。
“やりたいこと”は少し見つかった気がする。・・・まだ言葉にはならないけれど。
そして、何より“変わった”のは、あの時、あれだけ倒したいと思った男を、信頼し、相棒としてだけでなく必要としている、ということ。
ただ、その変化は、自分にとって良いことなのか、
それとも――?
「へんなの。」
ガラスに映った自分が、余りにも頼りなさげに見え、悪態をつく。
蛮ちゃん、まだかなぁ。
ぐるぐる回ろうとする思考に歯止めをかけるべく、ガラスの中の自分から目をそらし、車道を見る。
「・・・あ!」
蛮のスバルが目に入った。途端に、倦んでいた心が晴れるのがわかって、少しそれに戸惑いつつ、荷物を濡らさぬよう抱え込んで、
近づいてきたスバルへと急いだ。
「待たせたか?」
渋滞にひっかかっちまってよ、と詫びるでもなくいう蛮に、
「ううん!来てくれてありがとう!!」
と、礼を言えば
「へっ。オレ様のタバコが濡れんのはゴメンだからな。」
少し目を逸らしつつ答えるものだから、思わず、素直じゃないな〜と苦笑してしまう。
――カミサマというものが本当にいるのかどうかはわからないけれど、
こんな時は
その存在に心から祈ってしまう。
どうか、この“幸せ”がずぅっと続くように、と。
そうこうしているうちに車は順調に進み、ちらほらと見覚えのある風景が視界を通り過ぎていく。
ふと、先程の問いが 又 脳裏に浮かび、窓に映る自分を、見る。
そこには、先程の頼りなげな顔ではなく、一つの明確な“答え”があった。
今の自分を、“幸せ”だと、心底思うのであれば。
自分は良い方に変わったのだと思っていい、と。
窓の中の自分が言っているように見えた。
何となく、すっきりした気がして、窓に映る自分に笑いかけた。
―と、
「復活したか?」
蛮の声。
「・・・うん。」
いつからわかってたの?と、問いかける銀次に、前を見たまま、答える。
「迎えに来たときから くっら〜い顔してやがっただろうが。
ったく何考えてんだか知らねーけど、頭弱ぇんだから、難しいコト考えんじゃねぇ・・・って、うぉ!。」
最後まで言い終わらないうちに、銀次に飛びつかれて、手元が狂いそうになり、
「っぶねーだろ!!ンの馬鹿!」
ゴツっ!
と派手な音を立てて、蛮の拳が炸裂する。
「いったいな〜。へへ。でも蛮ちゃん大好き!」
「・・・・・・・・・・殴りすぎたか?」
痛がりつつそんなことをのたまう銀次を見て、蛮が怪訝そうに言い、
ま、こいつは丈夫だし?大丈夫だろ、と続け・・・銀次をむくれさせた。
――きっと、蛮ちゃんと一緒にいれば俺はもっと変われる。
やりたいことを見つけて、 強くなって、蛮ちゃんと共に戦っていける――。
――きっと。――
<了>
11/4up!
大沢さまのキリリク・・・です。遅くなっちゃってすみません〜〜!!(平謝り)
更に内容も、蛮ちゃんが俺を誘ってくれた日、というお題から微妙にそれている気が・・・!!
すっっ・・・すみません!!
うっわぁ〜vv ここ・こんなにステキなSSをっ!・・・ホントに頂いてしまってよろしいのでショウか??
出会った頃も・・・出会って変われた今も・・。相変わらずな銀次のピュアさにモエv
そして・・一貫して、悪態をつきながらの・・美堂サンの世話焼きぶりにモエモエvv
―――あき。サマ〜〜v 心から感謝致しマスぅ〜〜っっvvv