|
>>>カウントダウン
「蛮ちゃん!」
「あ?」
勢いよくかけられた声に、蛮は読んでいた新聞から視線を外した。
声の方向へ視線をやると、銀次が風呂場から洗い髪もそのままに、雫を散らせながら慌ただしく一直線に
蛮の元へとやってきていた。
「良かった!間に合ったー!」
「はあ?」
呆れたような蛮の視線をものともせず、銀次は蛮の隣へ腰を下ろすと、時計を見上げ、突然10から逆に
カウントダウンを始めた。
「・・・・・・・・・さーん、にーい、いーち、ゼロ!」
「何やってん・・」
蛮の言葉は、ゼロ!と同時に勢いよく抱きついてきた銀次によってかき消された。
「蛮ちゃん、お誕生日おめでとー!!」
銀次の口から出た言葉に、蛮は初めて今日が自分の誕生日だったことを思い出した。正直、自分が生ま
れた日なんてめでたいとは思わない。むしろ忌まわしいくらいだ。だから、毎年思い出しもしなかった。
だけど・・・
「・・・悪かねえかもな」
こうして、他の誰でもない、銀次が祝ってくれるというのなら。
「え?」
きょとんとした顔で銀次は蛮を見つめた。
「なんでもねえよ。それより、おめでとうっていうからには、何かプレゼントあんだろうなあァ?」
わざと語尾を強調して意地悪く言ってやると、思った通り銀次は慌てだした。
「え!あの!その!んと!ない・・・です・・・・・・。ごめんなさーい!」
銀次は一通り慌て終えると、最終的にガクリと肩を落とし、蛮へ両手を合わせ頭を下げた。
「ああ?ふざけんな!誕生日にはプレゼントが付き物だろォ!?」
蛮は銀次の頭にゲンコツを落とした。
「うう゛、ヒドイよ、蛮ちゃん・・・。て、蛮ちゃん、オレがお金持ってないの知ってるでしょー!」
「あ?それとこれとは別だ!」
「別って・・・。もう、蛮ちゃんってばメチャクチャなんだから!大体お金ないの誰のせいだと思ってるのさー?」
「あ?誰のせいなんだ?」
ギロリと蛮は銀次を睨んだ。
「だ、誰でしょう・・・・・・」
銀次は明後日の方向へ視線を逸らした。
「ったく、しゃあねえなー。じゃあまー、お約束だけどよ」
「え?」
蛮は銀次の肩を抱き引き寄せると、耳元に唇を寄せ吹き込むように告げた。
「プレゼントはオマエでいいぜ」
「・・・・・・は!?」
銀次が蛮の腕の中で硬直した。
「金もかからないし、いーと思わねえ?俺様って優しいよなあァ」
「な、な、なに一人で納得してんの、蛮ちゃん!?」
銀次が蛮の腕の中で慌てふためいた。
「・・・祝ってくれんだろ?」
蛮は再度銀次の耳元に吹き込んだ。
「・・・蛮ちゃん、その声は反則なのです・・・・・・」
「じゃ、頂くぜ」
蛮はひょいっと銀次を抱き上げた。
「わ!ば、蛮ちゃん!降ろしてー!は、恥ずかしいのです!」
銀次は顔を真っ赤にして、蛮の首に腕を回してしがみついた。
「あ?別に誰も見てねえからいーだろ」
「で、でも・・・」
蛮は尚も恥ずかしげに顔を伏せる銀次の髪に顔を埋め、キスをした。
「プレゼントはプレゼントらしく、おとなしくしときな」
|