冬の空気は透明で。

ガラスのように鋭い輪郭で優しく微笑む月に。

お前の瞳を重ねてみる。

腕を伸ばしても決して届くことのないあの月が。

それでもこの惑星に惹かれているように。

お前に引き寄せられて。

この手はいつかお前に届くだろうか。






『Lovers on the Planet』






「すっかり遅くなっちゃったよねぇ・・」

「まったくだ。波児のヤロウ、この俺さまをタダ働きさせやがって」

「タダって・・しょうがないよ・・・ツケ貯まってたんだから」

「うるせぇ!!こっちは現金拝んでないんだからタダはタダだ!!」

「一回受け取っても返しちゃうんだったら一緒だと思うけど・・ぎゃっ!!」

「うるせぇってんだ・・・オラさっさと帰るぞ」

「んぁ〜もぅ・・・蛮ちゃんってばすぐ殴るし・・・って、待ってよぉ」

それでも自分に懐いてくる相棒が愛しくて。

少し乱暴に自分の胸に引き寄せる。

その体温をこの腕の中に。

抱きしめていてもどこか夢のようで。

いつかは消えて失くなるんじゃないかと。

今も距離を感じていて。

恥かしそうに照れて赤くなるお前を。

もっと抱き寄せてキスをする。

「・・・どしたの? 急に・・」

「別に・・・したくなったからしただけ」

「蛮ちゃんってば変・・」

理由なんてない。

キスで繋ぎとめられる理由なんて。

ない。

いつかは消えるかも知れないこの至福の幻を。

明日かも知れないその時まで。

お前の笑顔をこの瞳に焼き付けて。

今日という日を記憶に残す。

「へぇー・・・」

不意に溜息のように感嘆の声を漏らす腕の中の金髪。

「冬のお月様ってキレイなんだねー」

その瞳は天空を仰いで。

月に劣らぬ琥珀を湛え。

「冬は空気が澄んでるからな・・・それにあれは太陽に照らされて

 光ってるだけで実際はなぁーんもない荒野なんだよ」

「もぉ〜! 蛮ちゃん、夢、無さ過ぎ!!」

お前みたいだ なんて。

お前の方がキレイだ なんて。

思わず言いかけた言葉を誤魔化した。

「でもさぁ・・・あんなに遠くにあるのに・・・

 あそこまで行った人もいるんだよね・・・スゴイよね」

それは神業のような。

「あぁ、今よりも全然いい加減なCPU積んでな・・・

 何でも手に入れようってのは人間の悪いトコロだよな。

 不細工なぐれぇ馬鹿デカイブースターロケットまでケツにくっつけて、

 無理やり重力に逆らってあんなトコに行こうなんてのは

 人間のエゴ意外の何モンでもねぇよ。ある意味、神への冒涜だな」

「蛮ちゃん・・・何か怒ってる?」

「・・・・・いや・・・・・悪かったな。 夢壊すような言い方しかできなくてよ」

「それはいつもの事だけどね」

「ンだと!!」

「あはは・・・痛いよ蛮ちゃ〜ん」

刻一刻と表情を変える愛しい天使は。

俺の手の届かないトコロにいて。

それを手に入れようとする俺は。 

やはり神の怒りを買うのだろうか。

神を冒涜した 愚かな悪魔として。

「ねぇ、蛮ちゃん?」

「あ?」

「あれって地球に引っ張られてて、それで地球の周りをぐるぐる周ってるんだよね?」

「・・・まぁ、お前の頭で解かるように言えばそう言うこった」

「じゃあさ、地球と月って蛮ちゃんと俺みたい」

「・・・・・」

・・・俺とお前。

永遠に。

手の届かない。

「だって俺、いっつも蛮ちゃんの行くトコくっついて歩いてるもんね

 あの月と地球みたいにずっとずっと一緒に居られたらいいのにね」 

ずっと一緒に。

この距離は縮まることなく。

手を。

「銀次・・」

伸ばしても。

「なーに?」

届かない。

「・・・ちょっと付き合えや」






「・・んっ・・・ア・・・・ああっ・・」

「・・っ・・・銀次・・・ぎんじ・・」

神への。

冒涜だ。

「・・ばん・・・ちゃん・・んあぁっ・・・今日っ・・へん・・だよっ」

「変でも何でもねぇよ・・・・お前が欲しい・・それだけだ」

手を伸ばして。

伸ばして。

伸ばして。

「・・・・・乗れよ」

刹那の。

お前を手に入れる夢を見る。

「・・・・んぅ・・・アアッ・・・・・っは・・・・」

俺の言葉に従順に従うお前の涙が。

俺の罪深さを更にカタチあるものに変えてゆく。

俺の上で踊るお前を見ながら ふとサンルーフを開ければ。 

彼方で微笑むあの月に手が届くような。

そんな気がして。

腕を・・・・・

「・・?」

不意に視界から消える月。

代わりに闇に覆われた眼前に落ちてきたのは。

官能に潤んだ色で俺を見下ろすお前の瞳。

フワ... 

お前の掌が俺の頬を掠めて。

「・・余計なこと・・考えてんじゃねぇよ・・・集中しろ・・」

似合わないお前の台詞にハッとする。

「・・って・・・いつも蛮ちゃん言うクセに・・・・」

じゃあ・・さっきのは叩いたつもりだったんだな。

「あ・・・あぁ、そうだったな・・悪ィ」

無意識に天空に伸ばしかけていた腕で。

金髪の頭を抱き寄せてキスをしたのは。

唇に触れる熱で存在を確かめたかったから。

お前はここにいるのか?

近くに感じたい。

もっと声が聴きたい。

「・・・っあああ!!・・んっあ・・・アッ・・ぁ・・・ア・・」

「・・・お前は・・俺のモンだ・・・・・何処にも・・」

この腕にお前を抱いている間だけは。

どうしようもなく遠いこの距離が。

縮まった気がした。






「・・・ねぇ・・・どうしたの?」

「あ?・・・何がだよ」

「蛮ちゃん、今日 変だよ」

「何でもねぇよ」

「・・・・・うそだ」

流石に今夜のは誤魔化しきれそうにない・・か。

「・・・昔、奪い屋やってた頃に、どっかの城で見たキレイな月がよォ、

 流石のオレ様でも、奪いきれなかったってだけの話だ」

「それで俺が月の話してから拗ねてたの?」

クスクスと笑うお前に気付かれたくなくて。

「蛮ちゃんってばコドモー・・・ったぁ!!また殴るし」

嘘の上塗りみたいな自分に呆れる。

それでも今。

俺の隣にお前がいるのならいいか。

どんなに距離が離れていても。

なんて思ってしまうのは。

お前の笑顔が見られたから。

「じゃあねぇ、さっきのはちょっと訂正」

「は?」

「蛮ちゃんは俺にとって太陽なんだ」

「・・・」

「そんで俺が地球。 

 だって太陽がないと生き物みんな死んじゃうんでしょ?

 俺、蛮ちゃんがいないときっと死んじゃうから

 だから蛮ちゃんが太陽で俺が地球ね」

「・・・・・余計に離れやがった・・・」

「え?・・・何か言った?」

「何も言ってねぇよ」

きっと自嘲気味に笑ったのだろう。

お前の瞳が訝しそうに俺を見る。

その顔がふと優しく。

この上なく穏やかに優しく微笑んで。

「大丈夫だよ」

急にフワリと抱きつかれて。

囁かれた言葉に心臓が高鳴った。

「俺は何処にも行かないから」

「・・・・・俺は何にも言ってねぇぞ」

「いいの・・・俺がそう言いたかっただけ」

十分に見透かされている。

それでも清々しい気分なのは。

今はまだ。

この腕の中に体温を感じていられるから。

いつかは消えて失くなっても。

それまではこの距離を楽しめばいい。

「・・・それにしても、今どき誰も使わねぇ口説き文句だよな」

「へ?」

「キミはボクの太陽だーなんて・・・恥かしい台詞吐けるの、お前だけ」

「それは・・蛮ちゃんがっ!!・・・もぅ!!知らないよ!!」

真っ赤になって拗ねる恋人がかわいくて。

こっちを向かせてキスをする。

唇から。

回された腕から。

膝の上から。

お前の体温が伝わる。

「もっかい・・するか?」

「・・・・・集中して・・ね」

「了解」

今は。

これでいい。 









END




ただただ、うっとりと溜息をつくような・・・

綺麗で、イタイほどに切ないお話です・・・vv

同じモノを見て、違うコトを考える。
2人の心に距離があるわけではナイと、ワカっているのに
感じてしまう寂寥。

それだけ、銀次への想いが深いんだよね。蛮ちゃん・・・

無垢過ぎる銀次が、かえって切ないケド・・
最後には、その銀次の透明さに救われて・・・。

うーん。。。今更ですが・・何て素敵なんだろうvv
かえで様の文才に、心酔ですっvv 心から敬服なのですv

かえで様、フリーにして下さって
もうもう、本当に有り難う御座います!!


 

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