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10月、11月・・・ もう少し、あと少し。 あと少しで大好きなあなたの生まれた日。 1年に1日だけの特別な日。 [世界に一つだけのプレゼント] 「今日も寒いなぁ〜・・・」 「なーに寝言言ってんだ!さっさとビラ配れ!」 冬が到来し、朝晩だけでなく昼間も寒さが現れてきた頃、 この二人は相変わらずの仕事のなさにビラを配って宣伝活動をしていた。 当然のことながら、彼らに金などというものはなく、 いつもの格好・・・ではないのだが。 あまりにも惨めだったのでと波児が彼らにコートを支給してくれた。 (と、言っても実はツケに入っているのだが) いくらコートを着ているにしても下はいつもの夏の格好。 ましてや足を出している銀次にとっては寒さは大敵。 この人の多い東京でもさすがに人が多いからといって暑いわけでもない。 「んあ〜・・もぉやめようよぉ・・・寒いよ〜」 「オメー、メシなくてもいいのか?」 「それはイヤだけど・・・ホンキートンクで食べれるじゃん?」 「んなコートまで貰っといてツケも払わずノコノコ行けるか!」 こんな時だけ、食欲よりもプライドが勝つ。 最終的にはまたお世話になるって分かっていても、どうしてもプライドの高い彼にとっては また波児に頼るということが許せなかった。 ビラを配っていても、 受け取ってくれる人は半分ほど。 興味を持って受け取ってくれる人は殆ど居なくて、 大体は受け取ってやらなくちゃ可愛そうという情けで取ってくれている。 それを分かっていても、いつかはきっと仕事が来ると最期の望みを掛けてこうやって毎日毎日ビラ配り。 もうここ1ヶ月はマトモな仕事はしていないだろう。 まぁいつもマトモな仕事は殆どと言っていいほどないのだが。 寒さと残りのビラの多さと格闘しながら、 ふと流れてきた聞き覚えのある音楽を耳にする。 「あ・・・」 それは12月に入ると大抵の街では聞ける、クリスマスソング。 これが流れているってことはつまり・・・・ 「蛮ちゃん!!!」 「あ?」 少し離れた所にいる相棒に向かって叫ぶ。 「今ってもしかして12月?」 「はぁ!?とっくに12月になってるっつーの!!」 「うっそぉ!!!!!」 「何でんなコトで嘘つかなくちゃいけねぇんだよ!」 最近はもう何月何日かなんてどうでもよかった。 ・・と、言うか時間を伝えるものはあっても、 日にちを伝えるものは彼らの間ではなかったからだ。 ホンキートンクでたまに日にちを聞くか、 仕事の関係で知るだけであって 特に彼らには日にちなんてそんなに重要なものではなかった。 「今日って何日〜???」 「確か・・・12月10日だ」 スバルで少し休憩にと、なけなしの金で暖かい飲み物を飲みながら問いかける。 思っていたより日にちが経っていて驚くと同時に焦りが出てくる。 「どうした?」 「え!?えーっと・・・もうすぐクリスマスじゃんね!」 「んなもん、どうでもいいっての。子供かお前は。」 「え〜?いいじゃん!街の様子とか見てるの楽しいよ?」 クリスマスになると街にはサンタクロースの格好をした従業員、 あれが欲しいこれが欲しいと駄々をこねる子供、 お揃いの指輪を付けたカップル。 そんな人たちを見るのが好きだった。 あぁ、この人たちって今幸せなんだなぁ・・・って。 「・・ま、別に何もねぇけどな。」 「何か欲しい何て言ってません!」 「さーて、続き続き!!!」 「え?もう?寒いよ〜!!!」 冷たい風が吹く街中へ走る二人。 そんな中、さっきとは違って浮かない顔の銀次 (どうしよう・・・あと7日・・・) 忘れるはずがない。 でもこんなにすぐだとは思っていなかった。 (あと7日、つまり1週間後・・・蛮ちゃんの誕生日・・・) クリスマスに浮かれているんじゃない。 本当は、もうすぐで蛮ちゃんが生まれた日が来るということ。 絶対にアルバイトして何か蛮ちゃんの欲しい物買って驚かすんだ! って決めていたのに・・・。 あとたった1週間じゃどうしようも出来ない。 お金もこれだけしかないし・・・。 こっそりお菓子を買っていいと言われて貰ってたお金。 でもそんな大金じゃないし。 「物はお金の価値じゃない、気持ちが大事なのよ」 前ヘブンさんに言われた言葉を思い出す。 そのあとで蛮ちゃんが・・・ 「金持ってるオメーが言っても説得力ねぇんだよ」 って言ってたっけ・・・。 でも蛮ちゃん・・気持ちとか受け取ってくれるかなぁ? ううん。蛮ちゃんだったら受け取ってくれるよね! 「おい!コラ!!さっさと来い!!」 「あ、待ってよ蛮ちゃん!!!」 あと7日・・・夏実ちゃんにお願いしてみよう!!! 「おい・・・今度来る時はツケ払いに来るんじゃなかったっけ?」 結局、ホンキートンクで夕食を取ることになり、しぶしぶ店へ入る。 どうせそうだろうと思ったと波児の嫌味ももう聞きなれた。 「寒かったから人少なかったんだよ!」 「へいへい・・・今日はツケ倍だからな」 「へっ、でっかい仕事してパーっとすぐ返してやらぁ!」 「減らず口叩けるのも今のうちだぞ」 と、波児と蛮ちゃんが言い争いしている間に・・ 「ねぇねぇ夏実ちゃん」 「何ですか?銀ちゃん」 蛮ちゃんの誕生日がもうすぐ。 時間もお金もあんまりかからないプレゼントはないかと聞いてみる。 いくつか思いついていても自分一人ではとてもじゃないけど無理で。 「うーん・・・じゃあ・・・」 さすがは女の子だなぁ・・・ すぐに思いついたみたいでこそっと耳打ちしてくれた。 あ、なるほど! これならお金もそんなにかからないし・・・ 「え?そんなのしたことないよ!!」 「大丈夫!教えてあげます!!」 自信満々な夏実ちゃんの声が夜空に響きました・・・。 「お前、何か隠してないか?」 「へ?」 夜も遅くなった頃。 スバルに戻った俺たちは、いつものように寒さに耐えながら寝ようとしていた。 「何か夏実と話してたからな・・」 「ふーん・・・妬いてるのぉ??」 「ばっか!違う!!!」 絶対17日までにはばれないよう、何とかごまかしてみようと いつもなら口で勝つことは絶対出来ないけど今日はいろいろ言ってごまかしてみる。 「蛮ちゃんかーわいー」 「・・・・ヤられたいのか?」 「うそうそ!!ね、早く寝よう!明日も頑張らないと!!ね、おやすみ!!」 「・・・・・・なーんかおかしい・・・」 蛮ちゃんは頭も勘もいいのできっと隠し事しているのはバレバレなんです・・。 でもこれももう少し、もう少しだから・・・ね? 「じゃあ、買出し行って来ますのです!!」 「行って来ます〜!!」 次の日、やはり食事はホンキートンクで取ることになり、寄ると夏実と何やら話す銀次。 ・・・やっぱり何かあるな。アイツら・・・・。 店の買出しと行って二人して出かけた後、 どーせコイツなら何か知ってるだろうと波児に問いかけてみるものの、 「ただの買出しだ。見て分かるだろう?」 んなコト聞いてねぇっての!! 「嫉妬はみっともないぞ」 「うるせぇ」 銀次にムリヤリ聞くって手もあるが、そんなみっともないこと出来ねぇ。 過去に一度同じことをやって解散という言葉が出るまで騒ぎになったことがある。 同じ失敗なんざ、してられねぇ。 どうやって聞き出そうか・・・・。 ふと、昨日の会話を思い出した。 「もうすぐクリスマスじゃん」 あぁ・・・そういえばそこいらのガキみたいにクリスマスが好きだったっけ・・・? 夏実とクリスマスに何かするのか? まぁアイツらのことだ。 ケーキなんざ買ってきて物々交換なんざ、女同士がするようなことでもするんじゃねぇの? 勝手にそう解釈し、これ以上は気にしないことにした。 クリスマスまでの辛抱だ。 「でねでね、銀ちゃん」 「うん、それで?」 ・・・辛抱なのだが・・・。 「え?違います!!!」 「んあ〜!!!分からないよぉ!」 それから2日、3日、4日・・・・ ずっとホンキートンクに寄っては夏実と銀次がキャーキャー何かをしている。 「絶対蛮さんは見ないで下さい!見たら出入り禁止にします!!」 という夏実の言葉に、仕方なくも引き下がる。 あんまり逆らわないほうがいいと判断したからだ。 見ないでとか言われてもどうすりゃいいのか分からず、 金はないからパチンコには行けない、ビラ配るつってもビラ作る金もねぇ。 波児が二階を貸してくれるっつったからただひたすらゴロゴロして煙草吸って・・・。 ヤベェ・・・煙草もうないのかよ・・・。 残りの金で・・何とか1箱は買える。 することもねぇし、煙草でも買いにふらつくか。 トントン・・と階段の音 「夏実ちゃん!隠して隠して!!」 「え?は、はい!!」 「何やってんだ・・・?」 「べ、別になにもないよ!!蛮ちゃんは?」 「煙草なくなったから買ってくる」 「へ・・へぇ・・・行ってらっしゃい・・・」 慌てて何かを隠したのは分かっている。 イライラしているのが自分でも分かっている。 だからこそ、今ココに居ないほうがいい。 別に悪いことしたワケでもないし、普通にしていたつもりなんだが・・・ 「ゆっくりしてってね」 この言葉さえなかったら・・・・ 「うっせーんだよ!仕事もロクにしないでコソコソコソコソしやがって!」 「ちょ・・・蛮さん!」 「大体テメェが寒いとか抜かしやがるから仕事も取れねぇんだよ! ずっとソコで夏実と飯事でもしてろ!一人で仕事してくる!!!!」 ドン!とドアが壊れそうな悲鳴を上げて閉まると 「銀ちゃん・・・」 「俺が悪いんだよね・・・。 こんなにギリギリまで日が分からなくて、こうやって蛮ちゃん追い出してまでこんなことして・・。」 「追い出してなんかないですよ?それに銀ちゃんは蛮さんの為に・・・」 「いいよ。夏実ちゃん。蛮のことだ。暫くしたら帰ってくるから」 「そ、そうですよ!銀ちゃん!泣かないで。早く準備しましょう!あと2日ですよ!」 あぁ・・・何かイライラする・・・。 みっともないのは分かっててもどうしてこうなっちまうんだろうな・・? さっき買った煙草も殆ど空になっている。 適当にその辺ブラついていても、結局考えるのは銀次のことばかりで。 馬鹿みてぇ・・・ 暫く、頭を冷やしてくるか・・・。 隠して停めておいたスバルに乗って、ただひたすら走らせた。 +++++++++++++++++ 12月17日 今日は蛮ちゃんの誕生日です。 1年に1度だけの特別な、大切なあなたの生まれた日。 なのにあなたは帰ってこない。 ねぇ・・・やっぱり怒ってる? 俺なんかどうでもよくなった??? すっかり夜。準備の整ったホンキートンク。 プレゼントも間に合ったし、料理も夏実ちゃんのお陰で何とか作れました。 蛮ちゃんがオイシイって言ってくれるか分からないけど・・・・。 あとは蛮ちゃん・・・。 あれから2日。 まさかとは思ってたけどやっぱり帰ってこなくて。 相当怒ってたもんね・・・。 スバルの停めてある所へ行ってもなくて。 スバルがなくなってるってことはやっぱり・・・・・ 「ホラホラ!元気だしなさいって!ね?」 「うん・・・」 わざわざヘブンさんが店に来てくれてこうやって慰めてくれてる。 でもやっぱり俺が蛮ちゃんを怒らせたんだもんね。 もう帰ってこないよね・・・? 「あ、電話してみなさい!私の携帯からだったら分からないでしょ?」 「・・・でも・・・」 「このままにしてあとで後悔するわよ?」 「・・うん・・・」 頭が悪くてもこれだけはちゃんと覚えてる 蛮ちゃんと俺の仕事用の携帯の番号。 だってコレがなかったら離れていても蛮ちゃんと連絡取れないんだよ? 蛮ちゃんと話せる大事な番号。 何回かコールがなって 『何だ?今更仕事か??』 俺の大好きな低い声。 「・・・・蛮ちゃん・・・・」 『・・・どうした?』 声を聞くからには特に怒ってないみたい。 「ドコにいるの?」 『今は新宿に帰ってきてる』 「帰って来るの?」 『・・・んなアホみたいな飛び出し方しといてノコノコ帰れるかっつーの』 「俺は?いらないの?」 『ばーか。そのうち迎えに行くって』 「イヤ!今!!今すぐがいい!!」 ここで諦めたら蛮ちゃんに会えない。 今すぐ会って、この大切な日を祝ってあげたいの。 『・・・ごめんな』 「どうして謝るの?」 『勝手に一人で怒って飛び出して、挙句の果てには帰ってこなくて』 「いいの!俺が悪いんだから!ね?今新宿でしょ?どこ?行くから!!」 「銀ちゃん!?」 携帯で話したまま、店を飛び出す。 新宿・・・と言ってもかなり広い。 大抵いつも行ってる公園、ビラを配ってる場所・・・ いろいろ回りながら話は進む 『おい!お前何してる?』 「蛮ちゃんを迎えに行ってるの!!」 『・・・後ろ!!!』 「ふぇ?」 言われて後ろを振り向くとそこにいたのは蛮ちゃん。 「あれぇ・・・???」 自分はドコを走ってるのか分からなくて・・・。 方向音痴だからただ適当に走ってて・・・ でもどうして蛮ちゃんが・・・??? 「この馬鹿!!!普通に横通り過ぎただろ?」 「うそぉ?!」 蛮ちゃんを探すのに必死になってスバルは見てなかったみたいです。 そういえば蛮ちゃんはスバルに乗ってたんだっけ・・・・?? ばんちゃーん・・・ 声にならない声で飛びついてゴメンなさいを繰り返す。 辺りはもう人も殆どいない夜の公園。 「あ・・・今何時・・??」 「10時・・・過ぎかなぁ・・」 「よかった!まだ間に合うよ!!!」 「何が?」 「蛮ちゃん!お誕生日おめでとう!!!」 「・・・あ・・・今日って17日だっけ・・・・」 本人もすっかり忘れていたらしい誕生日。 何とか17日の間におめでとうが言えてよかったと笑顔を見せる銀次。 「よかったよぉ・・・言えて・・・」 「・・・まさか今までのアレって」 「誕生日プレゼント用意していたの。見つかるとおもしろくないでしょ?」 涙目で、それでも笑顔を見せて言う銀次を抱き、 「・・・ありがとな」 小声でそう呟く。 1年に1度の・・・オメデトウ。 生まれてきたことにもカンシャするけど、 何よりその場に、ココに蛮ちゃんが居ることが何よりのカンシャ。 「お?帰ってきたぞ?主役の我侭男」 「うるせぇよ・・・」 あたりはもうどの店も閉店している中、 只一つ明かりが灯っているホンキートンク。 ドアを開けると見たこともないような料理の量の多さに少し戸惑う。 「見て見て!!!コレ銀ちゃんが作ったんだから!!」 「・・・マジ・・??」 「そうだよ!蛮ちゃんの為に頑張ったんだから!!!」 料理はかなり苦手だったハズの銀次がここまで作ってくれているという。 良く見れば手には切り傷やら絆創膏がいっぱいで。 「あ、あとコレ!寒いでしょ?だから編んだんだよ!!」 網目は決して綺麗とは言えない、黒いマフラー。 「・・・女みてぇなコトするよなぁ・・・」 「酷いよぉ!頑張ったんだから!!!」 「分かってるって・・・・ありがとな」 「ううん。喜んでくれて嬉しいよ!ありがと!!」 「オメーが感謝すんなって」 「じゃー・・・もっかいおめでとう!!!!」 その日は朝方まで笑い声が響いた。 誕生日にこんなに祝って貰うなんざ初めてだった。 でもな・・・・ どんなたくさんの料理でも、 どんなにいろんな物を貰っても、 やっぱりオメーの笑顔が何よりのプレゼントだぜ?銀次・・・。 2003.12 butterfly*effect 紫苑ゆあ |
ゆあ様の限定イラスト&SSをGETです! イラスト・・・ただただこの美麗さにウットリv 17日限定なので、GET出来てラッキ〜ですv SS・・・個人的に大好きな、ゆあ様のホンキートンクシーン。 スグ側に居るのに、ケイタイ越しに話す蛮ちゃんにモエv そして、けなげすぎる銀次! だって、だって、手編み!そして手料理〜vv オトコなら、誰でも夢見る(笑)プレゼント! オマケにコイビトの極上の笑み!! 美堂さん、ウラヤマシ・・。 会話が生き生きしていて、文にムダがないのです。 尊敬〜vv ゆあ様、ステキなイラスト&SSを有り難う御座います。 |