HappyBirthday to you・・・


暗闇の中、直ぐ近くで聞こえた低音に、蛮はぞくりとその身を震わせた。

以前なら、誰かをここまで近づけることはなかっただろう己の『変化』に苦笑しながら、声の主を振り返る。

「・・・ガキびびらして喜んでんじゃねぇ。」

「それは悪かったな。」

驚くようなタマじゃあるまいに、と言外に匂わせて、彼は答える。

「じゃ、改めて。」

暖かな腕が蛮を包む。

「HappyBirthday・・・蛮。」



Happy Birthday   from・・・?



 寒さを感じて目を開くと、スバルの天井が目に入った。
 よくは思い出せないが、良い夢を見ていた気がして、薄暗い車中に一人微笑んで・・・
相棒の不在に気がついた。

見れば。
助手席にへたくそな文字が並んだ紙。

『蛮ちゃんへ』

『honkitonku にいます』

『起きたら向かえにきて下さい』


誤字余字は今更突っ込むまでもないが、その内容に蛮は突っ込んだ。

「ちゃんと迷わずに行けてんだろな・・・?」

HONKYTONKからずいぶんと離れたこの場所からそこまで、あの銀次が迷わずにたどり着ける可能性は、哀しいほどゼロに近い。

仕事明けの疲れた身体を引きずってこの寒空の下を彷徨えば(どれだけ銀次がバカだといっても)風邪をひくのは必至である。

「ぁんのバカ!!」

一人悪態をついて、波留に電話をかけてみる。


るるるる...るるるる...

後一回出なかったら切るぞ!!と蛮が決心を固めたとき

『はい。HONKYTONKです。』

聞き慣れた声がした。

「銀次?ちゃんとついたのか?!」

『蛮ちゃん!!おはよう! あ。オレの手紙見た??』

「手紙・・・ね・・・。(書き置きだろうが!) ああ。見たぞ?」

『じゃあ早く来てね!!待ってるからね!』

言って、銀次は受話器を置いたらしく、切れたことを示す電子音が素っ気なく蛮の鼓膜を振るわせていた。

「ちっ!」

舌打ちを一つして、通話終了ボタンを押す。


FMをつけ、スバルを発進させる。軽快なクリスマスソング。これでもかというくらいに甘い、メッセージの数々。

銀次が側にいれば、気付かなくてもよかった、それらのものに気付かされた苛立ち・・・。

ぶちっ!!

そんな気持ちをぶつけるように、蛮はラジオのスイッチを切った。
よく知った街角が、HONKYTONKが近いことを教える。

「んのバカ!覚えてろよ?」

誰もいない空間に向けて一人言い放ち、駐車準備に入った。






「ち〜す・・・。」


「蛮ちゃん!!いらっしゃい!」

甘ったるい匂いに少しカオをしかめながら、手近のカウンター席に陣取ると、奥から銀次が嬉しそうに飛び出して来た。

「いらっしゃい!じゃねーだろ!!このバカ!!!」

金色の頭を抱え込み、思いっきり頭突きをくらわしてやる。蛮の頭も少しくらくらとしたが、

銀次にそれ以上の衝撃を与えられたことに満足し、煙草に火をつけようとすると・・・。

「ば・・・蛮ちゃん!!」

くらくらとしているらしい頭を必死に再起動して、銀次が呼びかける。

「あ?」

「何でオレがここにいるか、訊かないの?」

「・・・。あ〜・・・? ・・・何でだ?」

「ふっっふ〜。」

「おい!何だその態度は!!俺様が折角訊いてやってんのに!!」

「うわ〜!!えっと!ちょっと待って〜!!」

またも攻撃を加えられると思ったのか、銀次は頭を防御するように抱え込んで、しゃがんでしまった。

「お〜い...。な〜にさわいでんだ?」

奥から波留が顔を出す。

「お!来てたのか。蛮。」

「邪魔してるぞ〜。」

「んで?何やってんだ?銀次?」

「え・・・俺がここに居る理由を説明しようと頑張ってるんだけど...。」

蛮の右腕に頭をロックされたままの状態で、へろりと笑って応える。

「ふ〜ん・・・。さっさと来いよ?」

「うん!ゴメン波留さん。」

「?さっさと説明しろ?俺だけ話 見えてねーぞ?」

蛮が銀次の頭を離し、先を促す。

「え、とね?前から蛮ちゃんがパチンコ行ってるときにここにオレ置いてってたでしょ??」

その時ずっとお皿洗いとかのお手伝いしてて・・・、という銀次の話を頭の片隅で聞きながら、

蛮は、奥から夏美が何か甘い匂いのするものを持ってきたことに、気を取られていた。

「あ。蛮さん!こんばんは〜。  銀次さん。コレ持ってきて良かったですか?」

夏美の声に、銀次が慌てたように振り向き、

「うん!!ありがとう!冷蔵庫に入れといてもらえる?」

嬉しそうに応える。

(何を嬉しそうにしてやがんだこのバカ!)

心中で一息に銀次を罵倒して、夏美の持つものに目をやる。

「ケーキ・・・??」

少し驚いて言うと、銀次がこれ以上ないくらいの笑顔で

「うん!!後で食べようね!」

「あ?売りもんじゃねぇのか?」

「・・・?? ・・・オレの話、聞いてた?」

少し怒りを含んだような銀次の声に、思わず嘘をつく。

「お..ぅ。ぁたりまえだろ?」

うわずった蛮の声にも気付かず、銀次の表情が明るくなる。

「甘さ控えめにしたから、蛮ちゃんも大丈夫なんだよ〜!」

「ですよね〜!」

いまいち状況のつかめていない蛮を後目に、夏美と銀次は嬉しそうに笑いあっている。

「蛮、に、銀次、夏美ちゃんも。早く奥の方に来いよ?」

「あ。は〜い。」

「いこ?蛮ちゃん!」

銀次に引っ張られてスタッフルームに入ると・・・


「ぅわ・・・。」


ここ最近お目にかかったことのないような大量かつ美味そうな食事が、テーブルの上で蛮を待ちかまえていた・・・。

「っすっげぇ。」

「でしょでしょ?」

得意そうな銀次。

「頑張りましたもんね〜。」

「ね〜。」

「ほんとにな・・・。」

何故か一人だけ疲れたコメントを発して、とぼとぼと店に戻る波留を見て、蛮はここ数時間のうちに、

この場所で起きた惨劇を正確に予測し、心から波留に同情した。

「お前もつくったのか・・・。」

その一点において、この料理の味を疑ってかかろうとする蛮に、

「大丈夫ですよ!!私とマスターが徹底的にサポートしましたから!!」

と、夏美からのフォローが入る。

「うん!!すっごくおいしいよ!蛮ちゃん、はやく食べようよ〜!」

「そうです!冷めないうちに食べて下さい!」

と、二人から言われ、今ひとつ状況を把握できないまま、手近のいすに腰掛ける。

「おーい。ケーキ忘れてるぞ?、と。夏美ちゃん、そろそろ・・・」

「あ!もうこんな時間!銀次さん!私もうお店に戻りますね!!」

ケーキを持ってきた波留の催促に、時計を見上げて夏美が言い

「うん。頑張ってね!いろいろありがとう。」

「いえ!じゃ、蛮さん、銀次さん、ごゆっくりどうぞ。」

ぱたぱたと荷物をまとめ、出ていった。


「ごゆっくり、って?」

不思議そうな蛮の問いは



「『はっぴ〜ば〜すで〜』蛮ちゃん!!」

銀次の言葉と、背後から回された暖かい腕によって、完全に宙に浮いた。



「あ?」

思いもよらなかった銀次の行動に、いすからずり落ちそうになりながら、銀次のカオを見上げる。

「あ?って・・・。やっぱオレの話聞いてなかったんだ〜!!」

「ふくれんなよ...。下から見てっと更に変なカオだぜ?」

「だって!せっかく頑張って作ったのに〜!」

そっと、右腕を伸ばし、むくれる銀次の頸を下に引き寄せ・・・。

自分と同じ目線まで来たところで、その愛らしい唇に、キスを落とした。

「ありがとな。」

唇に息がかかる距離でささやくと、むくれていたカオが、照れたような笑顔に変わる。

「へへ!よかった〜!」

するりと蛮の腕から逃れ、すとん、と自分の席に着き、波留からの誕生日プレゼントだというワインを開けて、それぞれのグラスに注ぐ。

「おい・・・。飲酒運転で捕まる気か?」

罰金払えねーぞ? と尋ねる蛮に、

「へへ!今日の夜はここに泊まれるんだよ〜!!」

得意げに銀次が宣言する。

「あ?波留がんなこと許すわけが・・・」

そこまで言って蛮は、波留が何故か銀次には甘いことに思い至った。

「仕方ないな、っていってくれたよ?布団もほら、そこに。」

ご丁寧に、簡易式のベッドと布団のセットが置いてある。

「なるほどね・・・。」

蛮が納得したのを見て取ったのか、おもむろに銀次が蛮にグラスを持たせ

「蛮ちゃんの18回目の誕生日おめでとー!ということで。」

よくわからない祝辞のようなものを言い、

「「乾杯!!」」

二人、グラスを合わせた。

ワインを一口飲んで、

「この一年も蛮ちゃんにとっていい年だといいね!!」

満面の笑顔で告げる銀次に、

(こんな誕生日もわるくねぇな)

と蛮は心の中が暖かくなるのを感じていた・・・。



あの時も、そうだったな・・・。

――故人との暖かな思い出を、その片隅にほろ苦く思い出しながら


蛮は


相棒の精一杯の心づくしを、思い切り楽しむことにした。――


<了>



ちょっと切なくて・・・・。

でも、今有るシアワセと最高の相棒へ
素直に想いを馳せる美堂さんがステキですvv
銀次の本当にワクワクと嬉しそうな様子がカワイイ〜v

2人の何気ないやりとりからも、互いへの想いが
伝わって来ます!・・・萌えvv
ホンキートンクの2人、名脇役!!

あき。さんのSSは、皆がほんわり優しくてダイスキです〜v

ステキなSS、フリーにして下さって
有り難う御座いますv



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