miniSS〔GB〕2 お題16 淋しさ
求めるもの
『好きな人との初めてのデート。
あなたならどこに行きたいですか?
@映画館や美術館
A遊園地や動物園
Bフランスレストランやブランドショップ
C公園や展望台
「銀ちゃんは蛮さんとデートするなら、どこに行きたいですか?」
「え〜やっぱり、遊園地?!」
「えーとですね…、遊園地はA番。恋人に求めるものは『行動力』だそうです。蛮さん行動力ありそうですもんね。あ、母親のように自分を包んでくれる人物を恋人として選ぶことが多いはず。あなたはかなり依存心が強いでしょう。だって。銀ちゃん、当たってるね〜」
「うん。すごいね〜。大当たりだねvvv」
「バカ。なにが、〜〜だねーだよ、お前は」
「あ、蛮ちゃ〜んvvv」
i朝、パチンコに行くと言って出かけた蛮。
それから約2時間。蛮が帰って来たことにも気づかないほど、銀次と夏実は2人で盛り上がっていたのだった。
「いちいち抱きつくな、テメーは。で? なにやってんだ、夏実」
「はい。心理テストです。買った雑誌に載ってたんです。今クラスですっごく流行ってるんですよ。蛮さんもやってみてください」
「あ? オレも…か?」
「はい」
逆らえず、テストの問題をサラッと読むと、形のいい指でもって@を指差した。
「え〜、蛮さんが恋人に求めるのは……『知性』……」
「え?」
夏実がそう言ったとたん、銀次がすかさず反応を返す。
「『尊敬の念がいつしか恋へと発展していくケースが多いのでは? ところが自分が知っていることを相手が知らないと、とたんに熱が冷めてしまいます』……」
「ええ────ッ!!! 蛮ちゃん! ホント?! 冷めちゃう? 自分より頭悪い人は嫌いになっちゃう?!」
「だ──────ッ!!! うっせーテメーはッ。所詮は心理テストだろうがよ」
「そうは言いますけどね、蛮さん。結構これ当たるんですよ」
「ばんちゃ〜〜〜〜んΣ(T□T;)」
テメ…この、夏実…銀次の不安、無駄に煽るんじゃねぇ」
「蛮ちゃん、話してるのはオレなの。オレを見て答えてよ。ね!」
蛮の両頬を手で挟むようにして、自分の方へと顔を向けさせる。
「なにすんだ、このバカ銀次! グキッて言ったぞ、グキッて」
「オレのこと、嫌い?」
「嫌いだったら、一緒にいるわけねーだろッ」
「オレ、バカだよ」
「んなことわかってる。…って、自分で言うなッ」
蛮ちゃんは、デートするなら映画館か美術館がいーんでしょ? オレ、映画見ると寝ちゃうし、美術のことはよくわからないもん」
「お前にそんなことは望んでねーだろーが。────っつーか、いい加減しつけぇよ」
蛮がそう言ったとたん、銀次が泣き出す。
「ゴメンね。もしかして、オレのわがままきいてくれて、一緒にいてくれたの? オレが好きだから一緒にいてって言ったから?」
「…………………」
そんなことで泣くなと殴ろうとした拳を、蛮は無言で収め、波児がお情けで出してくれた水の入ったコップを手にする。
躊躇することなくヒヨコ色の銀次の頭に、それを零したのだった。
「…………蛮ちゃん?」
呆然とした表情で蛮を見つめる。
「それ以上言ったら、マジで怒るぞ。オレが惰性でテメーと一緒にいるんだなんて考えたら、ホントに見捨ててやるからな。だいたい、同情でテメーと一緒にいるような人間かどうかぐれーわかるもんだろがよ。そんなお人好しか? オレァ」
「蛮ちゃんは優しいよ、すごく」
「そーゆーイミじゃねーだろ、バカ。………っつーか、そんなこと言うのは、お前だけだ」
「マジだよ。蛮ちゃんは優しいよ、すっごくね。だからオレはいつもハラハラしてるんだって、蛮ちゃんに自覚してほしいんだよね」
カウンターチェアに座ったままで、蛮の肩をそっと抱き込む。
蛮の好きな人は知的な人だと占いで出たときは、あまりのショックにたれ下がり、目の幅涙を流してしまうほどだったけど。氷入りのコップ水を掛けられて、少し頭が冷えたおかげか、蛮が静かに怒っている理由がやっとわかった銀次だった。
『ゴメン』の気持ちを込めて、肩を抱く腕に力を込める。
それがわかるのか、蛮もその腕を振り解いたりなどせずに、銀次のしたいようにさせていた。
まったりと甘い雰囲気が2人を包んでいた。
「あー……コホン」
ワザとらしい咳払いで我に返ると、波児が丸めた新聞紙で肩を叩くようにしながら、台フキンを投げてよこす。
「テメーら、その濡れた床とカウンター拭いておけよ」
すわ健全な女子高生に不健全なものを見せつけるなとドヤされるかと思えば、肩透かしをくらうかのような、そんなセリフで。
波児曰くの(健全な?)女子高生はと言うと、そんな2人をニコニコと屈託のない笑みで見ているのだから堪らない。
「拭き終えたか? だったら、もう閉店だ。お前ら帰れ」
追い立てられるように、2人は店から追い出されてしまったのだった。
ネオン街の夜道を、無言で歩く。
タバコを吹かしながら歩く蛮の後ろを、少し俯き加減でついていく銀次。
「なんだ? やけに静かじゃねーか。まだ落ち込んでんのか?」
「ん? 違うよ。そのことを考えてたんじゃないんだ。それは蛮ちゃんに怒られて反省したから」
「別に怒ってねーだろ」
「うん。そーだね。悲しかった? ゴメンね。もうあんなこと言わないから」
「誰が悲しむか! お前のバカさ加減に呆れただけだ。自分に都合のいい解釈すんじゃねーよ」
「蛮ちゃんはね、ホントに強いと思う。戦ってとかって言うんじゃなくって、なんて言うか、気持ち!? そーゆーのが。でもどんなに強い人でも、悲しかったり、辛かったり、寂しかったり、弱音を吐きたかったりするときってあると思うんだ。蛮ちゃんそーゆーの他人に見せたりするの好きじゃないってわかってるけど、オレの前でだけは、無理しないで素直でいてほしいんだ。そのための相棒でしょ」
「あ? こーゆーときに、相棒ってのは使わねーだろ」
「もう! ヘリクツばっかり言ってッ。いいから、約束して!」
「屁理屈って、意味わかってんのかよ」
「蛮ちゃんッ!!」
「…………わかったよ。────ったく、お前の方がよっぽど頑固だぜ」
残り少なくなったタバコを踏み消して、新しく取り出した1本に火をつける。
「銀……さっきの心理テスト、覚えてるか? オレが選んだ@番っての」
「ん?!…うん。えーと、映画館か美術館でしょ?」
「恋人に求めるものは『知性』。自分が知っていることを相手が知らないと冷めてしまうってヤツだ」
「うん。覚えてるよ。蛮ちゃんと比べたら、オレは物知らな過ぎるから、冷めまくっちゃうと思ったんだ」
「まあ…冷めるというより、呆れてるって方が正しいだろうな。でもな銀次、それを補って余りあるくらいテメーの行動はオレも読み切れねーし、突拍子もねーんだよ。まあ…天然の不可解さってやつかぁ」
「んー…? それって、…えーと……蛮ちゃんにもわからないところを、オレが持っているから、蛮ちゃんはオレのことが好きってことなんだよね。よかった────!!!」
「どうして、今のがそーゆー解釈になるかな」
もうきっと今の銀次になにを言ってもダメなんだろうな……そんな諦めにも似た思いの蛮だった。
「それにさ、オレたち初めてのデートの場所は、あの心理テストに当てはまらないもんね」
ニッコリ笑って、蛮の腕に自分の腕を絡ませてくる。
「“海”だもんね───!」
そういう問題でもないんだが…言葉に出さずに、蛮は心の中で突っ込みを入れていた。
「あのテストに当てはめたら“海”はなんだろーね。恋人に求めるものって。母なる海とか言うくらいだから、ホー…ホー……りょ…く? かな?」
「ほ…?…………もしかして、包容力か?」
「そうそう。ホーヨーリョク!オレたちにピッタリでしょ」
「あ〜? どこがだよ。包容力っていうのは、相手を包み込む愛情の大きさを言うんだぞ。オレらのどこにそんなもんが存在すんだよ」
「オレはすっごくホーヨーリョクあるよ。海より広く…ううん、空なんか目じゃないくらい広ーいホーヨーリョクあるもん。蛮ちゃんへの愛だけだけどね〜」
太陽のような笑みが、光に弾けたのだった。
蛇足:B──恋人に求めるものは『経済力』 極端な話、愛情がなくても経済的に豊かであれば、とりあえず付き合ってみるという考えの持ち主。恋人にお金を貢がせたり運転手代わりに使ったりしそう。自分の思う通りに動いてくれる心の大きな人でないと、あなたの恋人は務まりません。
C──恋人に求めるものは『容姿』 あなたは恋人を選ぶ傾向が。女性であれば『かっこよさ』、男性であれば『スタイルのよさ』や『美人』であることが恋人の第一条件になっています。人間外見だけでは生きていけません。一緒に歩いていて鼻が高いといった理由で恋人を選ばないように。
2004/11/21 脱稿
実はこの後に蛮ちゃんの言葉が続くんだったんですけど、切りなく2人でどうでもいいことをツラツラと話してしまいそうな感じだったんで、バッサリと切り捨ててしまいました。えー最後補足ですが、包容力があるのは銀次だけです。うちは。蛮ちゃんは銀次に対しては甘いだけで、包容力ではないです。許容範囲ものすごく狭いから。 こんな艶っぽくもなんともない話を読んでいただいてありがとうございました。 |
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