miniSS〔GB〕bP                             お題37 探しもの

ココニイルコト

「どうしたの? 蛮ちゃん」

なにやら探し物をしている蛮に、銀次が声をかける。

「いや……昨日、ここに置いておいたはずのメガネが見当たらなくて」

「メガネって……いつも蛮ちゃんが掛けてる、紫色のレンズの?」

「ああ」

「え……ないの? そういえば、蛮ちゃんって目悪くないのに、なんでメガネなんて掛けてるの? せっかくの綺麗な青い目が見えなくなっちゃうよね」

「あ? なんでって……邪眼よけ」

「邪眼よけ? そうは言っても、蛮ちゃん間違って人に邪眼かけちゃったなんてことないじゃん」

「ねーよ。当たり前だろ。この美堂蛮さまがそんなミスするかよ。まあ、邪眼よけっつーのは名目であって、本当はこの眼自体を隠すため、かな」

「え〜〜ッ、なんで隠しちゃうのさ、もったいな〜い」

「なんて言うのは、お前だけだ。現に夏実と初めて会ったときは、オレの眼見てビビッてたしな。この眼のせいで依頼人にでも逃げられたら、元も子もねーだろ」

「んー……それは違うよ、蛮ちゃん。夏実ちゃんは見惚れたんだよ、蛮ちゃんのその綺麗な眼に。もう蛮ちゃんってば、すぐそんなふうに考えちゃうんだから。ダメだよ、こんな綺麗な眼のことを恐いなんて言ったら──────あ、でも、みんな見惚れちゃって、蛮ちゃんに惚れられたら困るなぁ。やっぱメガネは必要かな、そーなると」

「おま……頭大丈夫か? 病院行った方がいいぞ。いや、眼科か?!」

「なに言ってんの、蛮ちゃん。オレはコンセントがあれば病院いらずだって、前に言ってたじゃない」

そういう意味じゃねえ……そのまま、床に懐きそうになった蛮だった。

 

 

+ + + + +

 

 

「へへ……」

「なんだよ、気持ち悪ィな」

「だって今日は蛮ちゃんの眼が、なににも邪魔されずに見れるんだよ。嬉しいの、オレは。もう蛮ちゃん美人さんvvv誰でもいいから、自慢したくなっちゃった」

「お前の頭は、ぜってー腐ってる。赤屍呼んで、中身見てもらえ!!」

蛮が叫ぶと、すかさず銀次が蛮の口を塞ぐ。

「ダメだよ、蛮ちゃん。赤屍さんの名前なんて出したら、どこからともなくやって来るから」

真剣な表情でそう言う銀次に、ただ蛮はコクコクと頷いていた。

「蛮ちゃんの邪眼は有名だし、どういう効果があるのかもわかっているから、邪眼にかからないようにするには、邪眼よけのメガネをかけるか、眼を合わせなければいいんだってみんなわかってるんだよ。でもね、やっぱりかかっちゃうのは、蛮ちゃんの眼って、綺麗で見惚れちゃって見ないではいられなくて、見るとボーっとしちゃって。そうすると、いつの間にか邪眼にかかっちゃってるんだ。そのくらいすごいんだよ、蛮ちゃんの眼は」

乏しい表現力を酷使した結果の、銀次独特の表現で、蛮を誉めちぎる。

「あー……だから、なにが言いてーんだ、テメーは」

「誰もが蛮ちゃんに見惚れちゃうから、メガネはやっぱり必要だねってこと」

今の長ったらしいセリフがそこへ落ち着く銀次の思考回路の方が、いろんな意味ですごいと、心中で白旗を出す蛮だった。

 

 

+ + + + +

 

 

「蛮ちゃん、蛮ちゃん、思い出した」

「あ!? なにを」

「メガネ。どこにあるか、わかったんだって」

「ああ?! どこだよ。っつーか、なんでお前が知ってんだよ」

「昨日帰って来たとき、車ん中で始めちゃったでしょ、オレたち。で、ずり落ちそうだったから、蛮ちゃんのメガネはオレがはずしててんとう虫のボードの上に置いたんだよ。そうだ! 思い出した」

「お前か、元凶は」

言いながら、仕事終わりで少し興奮ぎみだった自分たちは、駐車場に車を止めるなり、そのままのノリで抱き合いキスして、お互いの体を弄り合ったのを思い出していた。

「じゃあ……ジッポもそこか」

吐き出すように、小声で呟く。

実はメガネだけでなく、ライターも探していたのだ。

見当たらず、諦めていた。

大切な物だったけれど、なくなってしまったのは仕方がないのだと。

そんな目と鼻の先にあるのかと思ったとたん、必死になって探していた自分が滑稽に思えて、照れ隠しに銀次の頭を思い切り小突いておく。

「────ったぁ、蛮ちゃん痛いよぉ…」

「テメーのせいだろがッ。あんなとこでおっ始めるから、いらぬ労力使うハメになったんだろッ」

「そんなこと言ったって、蛮ちゃんだってノリノリで……」

「ああ!? テメーがあんまりしつこくヤろうって言うから、大人なオレ様が折れてやったんじゃねーか」

「だって、疲れた蛮ちゃんって艶っぽいんだもん。しょーがないだろー」

そんなこと、力説するようなことか?

ムキになる銀次に、呆れた表情でため息をつく。

「そんなことより、ハラ減った。HONKY TONKに行くぞ」

「そんなことって……ねえ…蛮ちゃん、ちょっと……そんなことじゃないんだよ、大事なことなんだってば」

「だ────ッ、お前も大概鬱陶しいな。メシ食わねーんだったら、留守番してろ」

「わあ〜〜ッ、待って! 行く行くって───────蛮ちゃんッ!!」

さっさと玄関を出ていく蛮の背中に、銀次の後ろ姿が重なる。

抱きしめるように、背後から腕を回して蛮の動きを止める。

「なんだよ、銀次。動けねーだろ」

「忘れ物だよ、蛮ちゃん。行ってきますといってらっしゃいのチュウ」

「んなこと毎日やってられっか────んッ!?」

蛮の顎を押し上げるようにして、少し無理な体勢のまま抱き込むようにキスをした。

「いってらっしゃい。それから、行ってきます……だね」

すぐさま、再び口吻けて。

数秒の後、ゆっくり唇を離した。

「今日も1日、お仕事がんばろうね、蛮ちゃん」

「ああ、もちろんだ」

 

 

 

空は快晴。

透けるような青空で。

なにか素敵なことがありそうな。そんな予感を感じさせてくれる1日の始まりだった。

 

 

そして、彼らは。

いつも通り、変わることなく2人一緒に家を出るのだった。

 

(P.S.)

「メガネはダッシュボードの上、ライターは運転席の足元に転がっていました」銀次

2004/11/05 脱稿

なんなんすか? これは。はあ〜すいません(-_-;)ホワンと暖かい、彼ららしい話が書きたいと思ってたらこうなりました。私はこんな感じの話は嫌いじゃないんですけどね〜。この話の萌えどころは前日車内でHしたってとこですかね(書いてないやん、そこは)で、ちょっと銀次のペースに振り回される蛮ちゃんが書きたかったんです。あ、そうそう。この話を書くに当たって決めていたことがありまして。銀次のすべてのセリフに蛮ちゃんの名前を呼ばせる!!!これが萌えでした。ですので、話内ではやたらとしつこく「蛮ちゃん蛮ちゃん」呼んでます。萌えです…(*^_^*)原作でも「蛮ちゃん蛮ちゃん」呼びまくってるので、今更かもしれませんが(^_^;)

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