HAPPY DAY

澄んだ空気に響きわたるように―――――――――。

 

 

 

白一色で塗り固められたような、花嫁。

真っ白な体で、あなたの元へ嫁ぎますなんて。

いまどき謙虚な想いで結婚する女がいるかっつーの。

「キレイだねぇ、蛮ちゃん。幸せそうだねぇ…いいねぇ…」

ほわんとした顔で、ウットリと見惚れている銀次。

「ああ?! なにがいーんだよ。これから束縛地獄が待ってんだ。あなたの色に染まりますなんて理由で、白無垢だとか白のウェディングドレスを着るっつーけど、結婚する前の女のどこが真っ白だっつーの。だいたいあの花嫁は、既に妊婦だろうが。やることやっといて、真っ白もねーよな」

「ば…蛮ちゃん…」

泣きそうなツラ。

まあ銀次は女に夢持ってるからな。

「で…でも、やっぱり…結婚式って、なんか特別って言うか。式を挙げた日からは、前の日とは違う自分になってるって気がしない?」

「そいつは、銀次……気のせいってやつだ」

「〜〜〜〜〜蛮ちゃ〜ん、夢なさ過ぎだよぉ」

「夢でハラが膨れるかッ」

「もぉ……」

男のくせにすぐ泣くんだ、こいつは。

最近やたらと泣いてねーか? そーいや……。

「お前な……」

ウジウジとした空気を放つ銀次を、叱咤しようと声をかけようとしたとき。

パン、パン……と。

祝いのバクチクが鳴る。

見れば新郎新婦は、盛大に頭からライスシャワーを浴びていた。

幸せそうに笑い合う2人。つられるように、周囲のヤツらも屈託なく笑う。

これから幸せになるヤツにケチつけたかぁねーが。

いもしねー神に誓いを立てたって、幸せなんかが舞い込んでくるとは思えねーな。

そんなんで幸せになれるんだったら、離婚するヤツらなんかどこにもいねーはずだからな。

そんなこと言えば、銀次のヤツはそう言ったオレに対して、「違うよ、蛮ちゃん。神様に幸せにしてもらうんじゃなくって、オレらが幸せになる努力をしていくから見ていてくださいって、神様に誓うんだよ。もう、蛮ちゃん頭いいのに、どうしてそんなことがわからないの?」とかほざきやがった。銀次のくせに生意気な……とかそんときは思ったが、そんな考えもあるのかと、オレとまったく思考回路の違う銀次に感心もしたんだ。

「行くぞ、銀―――…」

見知らぬ2人の門出をほのぼのと見ていた銀次は、なにやらたれて、うっとりと蕩けるような眼差しで見惚れていた。

(怪しい妄想入ってんのが見え見えだ、バカ)

自慢の握力で、饅頭のようなたれ銀の首根っこを引っ掴んで、その場を後にしようと歩き出す――――――と。

「まままま待ってッ、蛮ちゃん!」

「…あ?! なんだよ。まだ、なんかあんのか?」

ビチビチと必要以上に縮んだ手足をバタつかせる姿は、もはや人間とは思えない。

「え…えーと……あのね、お…お…」

「……『お』がどーしたって?」

ドモリまくった銀次を見て、嫌な予感を覚える。さっきのうっとり顔と、今の照れてたれた銀次。

しかも、嫌な予感ってのは当たるもんなんだ。

「オ……オレと結婚してください! 蛮ちゃん!!!」

精一杯の大声で。

その場にいるすべての人に聞こえたんではないかという、騒音だった。

知らぬは銀次1人で。

驚いて振り返る者。興味本位に指差す者。不信な眼差しを送ってくる者。雑多いたが、1人盛り上がりまくっている銀次には、そんな周囲の様子は目にも入らないらしい。

「なにバカ言ってんだ、恥ずかしい。冗談もホドホドにしろッ」

「ジョーダンじゃないよッ、いたって本気だってば」

「なおさら悪いわ、ボケ!」

銀次を石畳に叩きつけて、オレは足早に歩き出した。

―――ったく、見世物じゃねーぞ。

好奇の視線の中から、早く去ってしまいたい。

厚顔無恥な銀次はこの際放り捨てて、さっさとHONKY TONKに行っちまおう。

「ば…蛮ちゃん、ちょ…っと、待って…」

聞こえてくる銀次の声を振り切るように走る。

 

 

カーン、カーン……と。

鐘の音が、澄んだ空気に響き渡っていた――――――。

 

 

HONKY TONKまであと少しというところで、銀次にとっ捕まった。

「もう、蛮ちゃん…ひとりで先行かないでよね」

「テメーがトロいんだろーが」

自分が銀次を地面に沈めて、おいて行ったなんてことは言わない。

「ほら、迷子になっちゃうと大変だから、手つないでこ」

「だぁ〜〜〜なに言ってんだ。だいたいいつも迷子になるのはテメーの方だろーが」

「うん。だから、ね♪」

こ…この笑顔がクセモノなんだ。

オレはこいつのニコッに何度騙されて絆されて……煮え湯を呑んだか知れん。

この美堂蛮様が、こんなたれ生物に……。

 

 

「いっしょに生こうね、蛮ちゃん」

繋いだ手に力が籠められる。

花が開くようとでも言うんだろうか。

満開な銀次の笑顔が眩しくて、オレはまだ鐘の音が響いている空を見上げた。

 

 

「ああ……一緒に生こう」

 

言葉が木霊する――――――。

うきゃ(;O;)なんですか、これは! 銀蛮SS第3弾です。こんなんでいーんですか、私ってなぐらいワケわかりません。まあ、これは友人の結婚式に出た日の帰りに思い立って書いた代物なので、これはこれで思い出深いです。結婚という儀式に否定的だろう蛮ちゃんに、能天気な銀次は妄想のままに突っ走るんだろうなと思ったんです。最後の『生こう』はもちろん造語です。最初行こうと普通に言ってたんですが、もうちょっと印象深く…と思って、生きることに希薄な蛮ちゃんに銀次が言い聞かせるようにと思って、『生』の字を使いました。相変わらずの駄文ですが、読んでいただいてありがとうございました。

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