あぁ、散る。

もう直ぐ散ってしまう。

風に乗り、ざわめき、光を浴びて、ひらひらと、はらはらと、舞い降りる。

一定の場所に留まる事は出来ない。

風に流され、遠い所まで行く。

桜色の淡い花弁。

 

あぁ、またお前に逢える。

 

 

 

桜精 ousyou

 

 

 

人には見えざる者、だが、人は集まる。

私は桜の精。

春に咲いて、散り行く運命。

人々に愛でられ、その時を真っ当する。

 

 

初めてお前を見た時の事ははっきり覚えている。

私の・・・、いや、俺の1枚の花弁が舞った時だ。

風に誘われ、ふわふわと空中を飛び、風が止むと地上へと還る。

あぁ、落ちる。

そう思った時だった。

「お、桜やん、どっから来たんやろうなぁ」

人の掌に落ちた。

「んー、あっちか?」

綺麗な金色だった。

 

 

 

「へぇ、立派やな」

掌に持っていた1枚の花弁を地上へ還し、俺を見やる。

そう言われたのは久々な気がした。

此処は人通りから少し離れている、そして、1本だけの桜の木だ。

人が態々1本だけ見に来るという事は中々無い。

「人誰もおらへんし・・・ええなぁ」

彼は座って、樹にもたれ掛った。

「んー、空気うまー!!」

春だが、まだ風が冷たい。

俺は少し心配になり風を除けてやる。

と云っても動ける訳では無いのだが。

「ありがとう・・・」

吃驚した。

その言葉に、その意味に。

「風除けになってくれたんやろ?」

もたれ掛ったまま上を見、俺を見るように言う。

見える筈が無いのに、目が合った気がした。俺の声が聞こえる筈無いのに、彼は俺に言った。

ザーっと少し強めの風が吹き、俺の花弁は、1枚、また1枚と散って行く。

『別に気にすんな』

聞こえる筈無いけど、答えてやった。

「何や素っ気無いなぁ、ま、ええか」

・・・会話が繋がった気がした。

俺の気のせいだろうか。

 

 

金色は、毎日では無いが来てくれた。

そして、俺に話をする。

例えば愚痴だったり、クラスメートの事だったり。

それは金色の指定席で行われる。

最初に来た時のように俺にもたれ掛りながら。

 

 

「あ、忘れとったけど、俺の名前はシゲな!!こんだけ世話になっとって今更言うんもアレやけど」

日が暮れ、もう金色が帰ろうか、という時になってそんな事を言った。

『シゲ・・・』

サァーっとまた風が吹き、俺の呟きを消した気がした。

 

 

「もう、桜の時期も終わりやなぁ」

そうシゲが呟いて、俺もハッとする。

そうだ、もう直ぐ俺は散る。

そうなるとシゲとはもう話せなくなる。

『シゲっ・・・』

「なぁ、来年もまた来てええ?」

『え・・・』

「まぁ、来るな!ちゅーても来るけどな」

『言わねぇよ・・・だから来いよ』

約束をした。

 

 

後数枚で全てが散る、という時にシゲが来た。

「なぁ、ずっと考えとったんやけど、自分名前あるん?」

『・・・名前?』

考える。

けど、名前は思い当たらない。

そんな物は必要なかった。

だって、誰も呼ばない。

呼ぶとしても品種名くらいだろう。もしくは、総称して、桜と呼ばれるかだ。

例え呼ばれたとしても反応出来ないのだから。

「無いやんな?やったら俺が付けてもええ?」

『あぁ』

「せやなぁ・・・ヤマザクラやんなぁ、あ、ヤマさんとか、どや?」

・・・流石に俺に名前が無いとしてもそれはどうかと思う。

「でも、何や似合わんなぁ・・・」

ジッと俺を見つめながら考え込む。

小さく口が動いた。

「たつや」

『え?』

「竜也何て、ええんとちゃう?」

その時見せてくれた笑顔を俺はきっと一生忘れられないと思った。

 

 

 

季節は巡り、また春がやって来る。

その季節が巡るまでの間俺は、寝ている。

シゲが時々、来てくれたのは知っていたが、俺は相手が出来ない。

話は聞こえていた。

でも、会話が出来なかった。

今まで感じたことが無かった、寂しいという思いを感じながら俺はシゲの話を聞いていた。

 

 

 

「竜也!!」

数メートル前から呼び声が聞こえた。

『シゲ!!』

声が出る。

シゲには聞こえていないだろうけど、声が出る。

「何やこの竜也と会うんは久しぶりやなぁ・・・」

『そうだな、俺も何か久しぶりな気がする』

「やっぱり竜也はこうや無いとな・・・綺麗やで」

真顔で言うもんだから思わず照れてしまった。

「何や、照れとるん?」

春になりたての風が妙にくすぐったい気がした。

 

 

変だ。

シゲが変だ。

何時もと変わらない笑みを浮かべているはずなのに悲しそうな顔をしている気がする。

俺には言えない事なのか?

 

 

「竜也・・・」

シゲの柔らかい手が俺を撫でる。

それがどの風より心地良かった。

「俺な、京都行く」

『え・・・』

何を言っているのか分からなかった。

「京都に行ったら、竜也に会えんようになる」

そう言ったのは俺が満開になる、少し手前の事だった。

 

 

 

友人が出来た。

そう思っていた。

過去にも俺に話しかける奴は居たけど、ずっと話してくれる奴は居なかった。

それは本当に人と人の友人のように。

シゲは優しく笑いかけ、色々な話を聞かせてくれた。

友人だと思っていた。

けど、違った。

 

俺は、恋をしてしまった。

名前付けてくれた、あの金色、シゲに。

きっと一目惚れだったんだ。

でも、叶うはず無いじゃないか、だって俺は桜だぞ。

話すことも出来ないし、それにシゲは遠くへ行ってしまう。

俺は追いかける事も出来ない。

なぁ、シゲ。

俺を手折って一緒に連れて行ってくれないか?

そう言葉が発せれば良いのに。

そしたら、少しでも近くにいれるのに、シゲ。

 

 

 

時が止まればずっと一緒にいれるのに。

でも、シゲに満開の桜を見て欲しい。

一番綺麗な俺を見て欲しい。

 

 

 

「見事やなぁ」

『頑張ったんだ』

「去年より、ずっとずっと綺麗や・・・って失礼やな」

俺を見上げシゲがボーっとしながらそう呟いた。

別に構わない。

だって、お前に見て貰う為に頑張ったんだから。

「最後にこんなええもん見せて貰って、ありがとう、な」

あぁ、やっぱり最後なのか。

何となく分かっていた。

次にシゲが来た時が別れの時なのだろう、と。

もしかしたら、また会えるかも知れないけど、それだけじゃ足りなかった。

傍に居て欲しかった。

だけど、それが無理なら俺を忘れられないように、と、そう思った。

『シゲ』

「竜也、ごめんな・・・」

シゲの柔らかい体が俺を抱きしめた。

『謝んなよ』

あぁ、また風が吹く。

柔らかな暖かい風が。

『ッ、シゲ・・・』

更に柔らかいものが触れた。

「竜也」

それがシゲの唇だと気付いたのは直ぐだった。

「・・・ばいばい」

それが別れの言葉だとしたらあんまりだ。

俯いたシゲからは顔の表情が読み取れない。

俺からシゲの手が離れる。

「・・・・・・」

聞こえないよ、シゲ。

お前が何を言っているのか。

待てよ。

走るな。

止まれ。

『シゲーーー!!!』

ビューッと凄い風が吹き抜けた。

「・・・竜也?」

吃驚した表情で俺を見るシゲ。

 

 

あぁ、散って行く。

俺の桜たちが。

風に流されてく。

 

 

「竜也」

いつの間にか近くに来ていた。

「竜也!!」

抱き締められた。

暖かい。

俺も手を伸ばし、シゲを抱き締める。

 

 

・・・・・・・手?

何で手があるんだ。

シゲを抱き締めながら俺は手を動かしてみる。

手が動く、自分の意思で。

「ど、して」

酷く掠れた声だった。

「桜のお陰や」

「え」

俺の後ろにある、俺を見る。

いや、元俺を見上げる。

「う、そ」

その樹には花弁がついていなかった。

先程まで綺麗に咲いていたはずだったのに。

全てが散っていた。

「竜也」

「シゲ・・・」

「ずっと話しかけとった」

「う、ん」

「お前が人やったらどんなにええかと何回も思った」

「う、ん」

「だけど、そないな事ある訳無いし、でも、何回も抱き締めたいと思った」

「う、ん」

「竜也、俺と一緒に行こう」

「うん」

「ずっと一緒に居ろう」

「あぁ、シゲとずっと一緒に居たい」

 

 

 

ひらひら、と舞い散る桜だけが俺たちを見ていた。

 

 

 

 

 


・・・・・・・・久々に書いたんですけど、どうなのよ、これ!!みたいな。
それにしても動きじゃなくて心理ばっかりですね。相変わらず微妙で申し訳ないです。
パラレル?って言うんですかね、こういうの・・・。
桜シーズンなので何か書こうと思って書いたのが此れ、突発的なのでぐだぐだです。やっぱり相変わらずです。
本当は第3視点とかにしようかと思ったんですけども、桜の精が水野になってしまいこんな感じに。でも、書いてて楽しかったので良しとして下さい。
えーと、彼らの今後はいちゃいちゃだと思われます。
・・・桜の勉強しろって感じの作品ですみません。




戻る


Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!