お揃い



この季節になって一番に思い出すことと言えば何故か誕生日。
しかも本人がそれ程興味無さそうなのに思い出す。
本人が気にしない分だけ周りに影響しているのだろうか。



「ついに来よった……坊の誕生日が」
寒空の下で呟いた。
毎年俺にとっては行事の一部になっている気がする。
俺が人の誕生日祝うとか本来なら凄いもんやで。
大体覚える気が無いからなぁ。
まぁ、この場合たつぼんは仕方が無いというか、何というか。
中学で誕生日を聞き、何となくプレゼントを渡した。
その時の顔が忘れられない、何て青臭い事を言うつもりはないが。
理由は多分アレやな……俺以外から貰てる所を見たこと無いってのが一番の理由やと俺は思うんやけど。
いや、多分貰てる筈やねんけどな、女の子から。
やけどあいつ変な所で真面目やから断ってるんやろう。
そんな訳で可哀想、とか同情気分から始まった俺の誕生日プレゼントが今では恒例と化している。
「やって、何かあげんと……気持ち悪いやん」
男同士で、しかももう22歳にもなろうというのにプレゼントやるとかほんまなら気持ち悪い話やねんけど。
「はぁ、何や寂しい生活送っとんなぁ」
ため息と共に白い息が出る。
あまりの寒さに自分で作ったマフラーに軽く顔を埋める。
目的地まで後少し。



チャイムを押した後に言う台詞は決まっている。
「みーずのくーん、遊びましょー」
近所迷惑になるくらいの大きな声で。
まぁ、ほんまはたつぼんに聞こえるように言うとるだけやけどな。
「てめぇ、煩ぇ……!!」
玄関のドアを乱暴に開け顔を出したのはたつぼんだった。
「よぉ」
「よぉ、じゃねぇだろ……お前俺の世間体考えろよな」
「嫌やなぁ、ご近所でも評判の美男子やろ?大丈夫やって」
「はぁ、相変わらずお前に何言っても通じねぇな……上がれよ」
「お邪魔します〜」
家の中はやはり外と比べて幾分暖かった。
「シゲ」
「どない……っ!!」
玄関を閉めた瞬間に名を呼ばれ顔を手で包まれた。
「冷たい」
「そりゃそうやろ……外歩いて来たんやから」
たつぼんの手は温かくて、少し冷たくなっていた自分の頬には丁度心地良かった。
「それより早く上がらせてくれん?」
「あ、悪ぃ」
その手の感触は名残惜しかったが、まずは部屋に入る事が先決だろう。



コートを軽く畳みベッドに座る。
「おい、勝手に人のベッドに座んなよ」
「ええやん、ええやん」
そう言いながら俺は左手で軽くベッドを叩く。
つまりは此方に座れ、という意味で。
「はぁ……」
「何やの、シゲちゃんが来たってのに嬉無いの!?」
「嬉しかったら熱烈歓迎やってるつーの」
「……たつぼんの熱烈歓迎」
全くもって想像出来へん。
「あんまり深く考え込むな」
顔を見遣ると少し赤くなっていた。
自分で言っておきながら恥ずかしがっているらしい。
まぁ、気取り直して渡しときますか。
「はい、たつぼん」
「何?」
「例のアレや」
「……アレ?あ、あぁ」
少し考え込む様子をした後日付を見、思い出した様子で受け取る。
「やっぱり今年も忘れとったん?」
「別にそんな歳でも無いし」
「そないな事言うたら祝ってる俺って何なん……!!」
「あ、別にそんな意味で言った訳じゃ……」
「分かっとるって、開ける?」
頷いた後、小さい包装紙を開ける。
「……ストラップ?」
「そ、たつぼんストラップとか付けへんやろ?どうせ何かあげるんやったら肌身離さず持ってて欲しいし、ちゅーことで、ストラップにしてみたんやけど」
「肌身離さずは余計だけど……有難な」
「あ、因みに俺とお揃いやから」
そう言って俺はポケットに仕舞い込んでいた携帯を取り出す。
「……いや、引かんといて」
若干顔が引きつっている気がした。
「まぁ、有り難く貰っとく……こういうの嫌いじゃないし」
「素直やないな〜」
まぁ、そういう所が可愛いねんけどなぁ。
「煩い……」
そう言いながらも自分の携帯にストラップを付けようとする。
「……たつぼん、代わるで?」
顔を赤くしながらこっくりと頷いた。
相変わらず手先は器用では無いらしい。
まぁ、目の前で付けてくれようとするだけ可愛らしいのだが。
「ほい、出来た」
渡してやるとそのストラップが付いた携帯を見ながら微かに笑み言った。
「お揃い、だな」





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06.11.29

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