気紛れ



たまには良いんじゃない?
そんな気分で俺はあいつの家へと向かった。



「はーい……って、何でアンタがっ!?」
玄関から迎えてくれたのはお目当てのあいつだった。
俺が来る事を想像していなかったのだろう、物凄く驚いた表情で俺を迎えた。
「上がるよ」
そう言って勝手に入る。
「ちょ、勝手に入るなよ!!」
そんな言葉等気にせず俺はどんどん奥へ進む。
「あら、いらっしゃい」
「こんばんは、お邪魔します」
「母さんっ!!」
慌てる顔が面白く、笑いながら俺はリビングのソファーに座った。
「おい、何勝手に座ってんだよ……」
「別に良いだろ」
「……何しに来たんだよ、椎名」
俺の名を呼びながら前に座った。
「ちょっと顔が見たくてさ……とか言っても信じないだろ?」
薄く笑いながら足を組む。
最初の言葉で反応したのか顔が少し赤みを帯びていたが気にはせず、更に言う。
「お前さ、今日誕生日じゃないの?」
「そうだけど……椎名何の関係があるんだよ」
「……馬鹿じゃないの?」
「なっ!!」
20歳もとうに過ぎているはずなのにこの態度。
中学で出会った頃から少しも変わらない。
……だから面白かったりもするんだけどね。
「普通さ、誕生日に来客するって事は祝いに来たって思わない訳?」
「あ……」
やっと気付いた様な顔をして俺を見る。
「意外?」
そう聞くと黙って頷いた。
まぁ、確かに俺が水野を祝いに来るとか考えられないし。



水野宅へは数回来たことがあった。
勿論俺1人で、という事では無かったが。
その数回の中に、水野の母、真理子さんとも会った。
顔は似ているが性格が全く違うのに笑ったのを覚えている。
携帯の番号も知っているが、頻繁に連絡する訳でも無く、ただ用事がある時に使用する程度だ。
それなのに俺が水野宅に来たのは、そう、ただの気紛れだろう。



「はい、これ」
真理子さんに出して貰った紅茶を飲みながら、俺は水野に手渡した。
「開ければ」
困った顔をしたので俺はそう言った。
簡単にしてあった包装が綺麗に取られていく。
「……えーと、これは」
「DVDとパンフレットだけど」
「……見れば分かるけど」
小さい声でそう言うのが聞こえ、少しイラっとした。
「何、気に入らない訳?」
「べ、別にそう言う訳じゃないけど……何でDVDとパンフレットなのかな、って」
「俺が見て面白かったからに決まってるじゃん」
これ程簡単な理由は無い。
「へ、へぇ〜……」
あ、引きつった。
「……本当はサッカー関連にしようかと思ったけど何にして良いか分かんないし」
これは本当だ。
迂闊に買って同じものを持っていた……何てことになったら嫌だったし。
「……有難う」
俺が少し考えていたせいか水野はそう言った。
「そ、じゃ、俺帰るから」
照れた自分を隠す為に言った。
「え、もう!?」
「何、居て欲しい訳?」
「そういう訳じゃないけど……」
「じゃ、帰るから」
そう言って俺は立ち上がり、真理子さんに挨拶をして玄関へと向かう。
その後ろからついてくる水野。
「……今日は有難うな」
呟きながら靴を履く俺の背中に言った。
「別に、気紛れだし」
「そっか……」
扉に手を掛けながら言う。
「DVD、俺にも貸して。見てないから」
「え!?」
聞えた声は無視をして扉を閉めた。


ま、気紛れもたまには良いんじゃない。






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06.11.28

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