ごめんなさい、俺はサッカーがしたいです。
でも、あいつも助けてやりたいのも事実。
俺が何かをしてあいつを助ける事も出来る訳じゃないし、元気付ける事も出来ない。
この自分の足と風祭の足を交換出来たら良いのに……何度そう思っただろう。
でも、サッカーが出来なくなる、そう考えるとその思いは何時も消えてしまう。
ごめん、風祭……。
「あ、水野君」
お前の苦しんでいる顔を見るのが辛くて俺はなるべく会わないようにしていた。
「……風祭」
校門前でお兄さんを待ってたんだろう。
「今帰り?」
「あ、あぁ」
タイミングが悪い。
周りに誰もいない、そうなると自分自身が喋らなければならない。
……用事があるからと言って早くこの場からいなくなろうか?
そんな考えがよぎった。
「ねぇ、水野君」
「何だ?」
「時間ある?」
「……あ、あぁ」
「良かった。じゃ、部室で話そっか」
カツッ、ジャリッ
前を行く風祭の松葉杖が音を立てる。
「………」
風祭が部室の前で止まる。
「あ、悪い……今開ける」
ガラガラッと音を立て部室の戸が開かれる。
「有り難う」
俺の顔をしっかり見て笑って言う。
胸がチクリと痛んだ。
「………」
沈黙が痛い。
ずっと俯いていたが、風祭がどんな顔をしているか気になって上げた。
「っ」
目が合った。
「やっと見てくれた」
ふわりと優しい顔で微笑まれ、俺は視線を反らす事が出来なくなった。
「僕ね、ドイツに行こうと思うんだ」
「……え」
「ドイツにね、僕の足を治してくれる人が…」
「本当か!?」
風祭の足が治る。
そう思った瞬間、俺は立ち上がっていた。
勢いよく立ち上がったせいで倒れた椅子の音が響いた。
「うん」
静かになり、風祭の声がよく聞こえた。
「そっか……」
良かった。
「え、水野君!?」
ふっと体中の力が抜け、俺は床にへたり込んだ。
床の冷たさが丁度良く、俺に落ち着きを取り戻してくれる気がした。
「何でもない、気にするな……」
「う、うん」
戸惑いながらもそう返事を返してくる。
「水野君、もう少し近くに来てくれる?」
俺は言われた通りに近づく、床に手をつけたまま。
「何時になるか分からないけど、絶対治して戻ってくるから」
風祭の小さな手が俺の髪をサラリと撫でる。
「そんなに辛そうな顔しないで」
「でもっ!」
「僕は幸せだった」
「え……」
「あの時、水野君のボールを受け取れて、そして駆けてくる君の声が聞こえて」
「風祭……」
「幸せだったんだ、本当に」
そう言う風祭の表情は嘘をついている様子が欠片もなく、ただ幸せそうに笑っていた。
「だから信じて待ってて」
「………」
俺はただ頷くしか出来なかった。
声を出したら気付かれてしまいそうで。
「水野君」
「っ……」
名前を呼ばれた瞬間、ポタッと雫が床に落ちた。
「笑って」
風祭の指が俯いていた俺の顔を上げさせ、頬を伝う涙をふき取った。
「……っん」
もう片方の涙を自分でふき取り、俺は笑った。
それはきっと綺麗な笑顔じゃなかっただろうけど、それでも良かった。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
俺の足何て風祭には必要ない。
だって、風祭には風祭の立派な足がある。
だから、早く帰って来いよ風祭。
戻る
2007.5.29