死んだ。
そうだ、俺は死んだんだ。
飛びたくて。
飛べる気がして。
「何泣いてんのよ」
「別に泣いて何か……」
「そう?私には泣いてるように見えるけど」
「小島の見間違いだろ」
「ま、そういう事にしといてあげるわ」
言い終わると視線を教科書に戻す。
俺は小島を軽く眺めながら言われた台詞を思い返す。
泣いてなんかいない。
だって、ほら……。
幾ら目をなぞっても涙の跡なんて無い。
涙はとうに枯れ果てた。
いや、流れる前に枯れてしまった。
涙を流すことさえ出来ないのだ。
「泣けば良いのに」
ボソッと呟く小島に驚くが、彼女は相変わらず教科書に視線を向けたままだった。
「泣いたら慰めてくれんのか?」
俺らしくない。
「良いわよ。高くつくけどね」
「金とんのかよ!?」
「当たり前じゃない」
そう言うと小島と目が合う。
強い光を宿した目だった……射抜かれるかと思った。
「嘘、お金なんか要らない……」
揺らぎ始めた瞳。
すぅっと息を吸い込む音が聞こえた。
「しっかりしなさいよ。あんた水野でしょ」
言ってる事は意味が分からないが俺を元気付けようとしているのが分かった。
「あぁ」
俺は頷き微かに笑う。
「何があったか知らないけど……いつものあんたの方が好きよ、私」
耳が赤くなっているのに気が付いたがそれには触れずに言う。
「ありがと……」
ギィーーとなる重い屋上への扉を開ける。
フェンスを飛び越え反対側に行く。
風が強い。髪が靡く。
「さよなら」
どうか、どうか消えてなくなれ。
この不可思議な気持ちを、泣けないこの俺よ、消えてしまえ。
片手をフェンスから外す。
ガシャ
揺れる。
体が揺れる度フェンスが揺れる。
「飛べる」
だから消えてしまえ。
落ちた。
それは地面に落ちる前に粒子となって消えるんだ……。
もしくは降り注ぎ戻ってくるんだ。
「青い……」
最後に見たのは雲一つ無い空だった。
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06.8.29