Realize 2
chapter 22 別離
目覚めた時、私は夏彦の腕の中で眠っていた。
ベッドサイドのデジタル時計は午前3時を示していた。
横で彼は穏やかな寝息を立てていた。

彼を起こさないように、そっとベッドから滑り降りる。
「ん・・?・・」
「・・・ちょっと・・・洗面所・・・」
「・・ぁ・・ああ・・・」
ねぼけた声で彼は答えるとまたまぶたを閉じる。
私は部屋に散らばった衣服を集め、いすに置いた。
その中から自分の分をより分けると、バスルームへと行く。

少し熱めのシャワーを浴びながら、ぼんやりと今日のことを思い返した。

・・大丈夫。

もらったものは、全て私の中にある。
自分を振り返る強さ。
弱さも含めての自分であったということ。
そのままで、いい。
ただ、あるがままに生きていいという強さを。

全身に叩きつけるような水圧が私の眼を覚ましていく。

−ありがとう。

教えてくれた。
私は−

バスローブをまとい、部屋へと戻る。
まだ、夏彦は眠っている。

窓辺で眼下に広がる街並みを見つめる。

私が生きていく場所。
一人で。

そう、誰のためでもなく、自分のために、自分自身で歩いていく場所。

頼りたいと思ったこともあった。
すがってしまいたいと思ったことも。
飛び込んだら楽に逃げれると思ったことすらあった。

それをしなかったのは私であり、彼でもあったから。

良く眠っていることを確認すると、私は再度バスルームへと戻る。
今度は自分のかばんをも持って。

シャワーを弱く出しながら、身支度を整える。
大きな鏡に映る自分の姿。

夏彦のためにだけあった、ゆりの姿。

しっかりと見つめて、見返して。
ルージュを引く。

決めているから。

最初で最後だと。

きっと、言わなくても彼もわかっていると信じて。

−さようなら。

メモに小さく記す。
本当はありがとう、も書きたかったけれども。
でも、いらない。

そんなことをしない。

私と彼の最初で最後の接触。
これは愛じゃない。

でも

擬似恋愛でもない。

逢うべくして出逢った。
だから私は知ることが出来た。

人を好きになること。
人を好きでいること。

人に好きになってもらえること。

全てを教えてくれたのは貴方だったから。

私は忘れない。
貴方のことは決して。

でも、いつしかきっと。

記憶の奥底の追憶の彼方へと消えていくのかもしれないけれども。

それでも、この事実は消えないから。

一度でいい、抱き合えたこと。
私のためにここにきてくれた事が嬉しいから。

だから。

一言で、全て、忘れて、ください。

−さようなら−


・・・・・永遠に。

私がホテルを後にしたその瞬間、全てが、思い出になるように。
扉のオートロックがかかる音。

そのまま私の記憶も沈めてしまおう。
chapter 23 到達へ

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