あなたの視線は甘い媚薬
「うっふっふ。」
蘭世はうれしそうに、何かを抱えて外出から帰ってきた。B4変形版の大きさの包みを解き、大事そうにあける。
「ふふ〜〜〜。」
中から出てきたのは俊の写真集。
表紙は、上半身裸の俊。
・・・・きゃーきゃー・・・・かっこいい・・・・
と、毎日『本人』と会っている妻にあるまじき心の叫び。ビニールカバーを破り、うっとりと写真集を開く。
ページをめくるたび、心で歓喜の叫びをあげながら蘭世はのめりこんでいた。

そう、俊が入り口に立っているのも気がつかないほど。

「・・・・・・・」
殺気立った視線が蘭世に突き刺さる。その覚えのある感覚に蘭世は背中に冷や汗を流す。
顔を上げられるはずもなく、ただ、固まってしまった。
そんな蘭世に言葉が投げつけられる。
「・・・お前・・・・・何やってる?・・・・」
「え〜〜と〜〜そのぉ〜〜〜・・・・・」
こわばった笑いを浮かべながら蘭世はあわてて本を閉じるとキッチンへ逃げ込んだ。
「ごめんなさ〜い、ご飯の支度すぐしま〜す。」
リビングに残された、自分自身の本を見て、苦虫を噛み潰したような顔をする俊。
「こんなもん、買ってくるんじゃねぇ!!!!」
と恫喝するとその写真集を、ゴミ箱へほおりこんだ。
その様子をそっとキッチンから覗き見しながら蘭世はひやひやしていた。
だいぶ頭にきているらしい俊の様子。
蘭世は今夜はご機嫌取りに徹することを決めた。

夕食のメニューは俊の好物を並べてみた。
・・・・無言で黙々と食べるだけ。
食後にお酒でも・・・とふっても首を横に振る。
お風呂を勧めて、背中を流そうかといっても鍵をかけられてしまう。
蘭世は後片付けをしながら、途方にくれた。
・・・・どうしよう・・・・・
かちゃかちゃと食器を片付けながらため息ひとつ。
そうしているうちに俊が寝室へ上がっていく足音が聞こえた。
・・・お休みも言ってくれないで・・・・・
少し寂しい気持ちで後片付けを済ます。そうしてお風呂に向かい、バスタブに身体を伸ばした。
・・・分かっていたけどねぇ・・・・
見つかれば俊がいい顔をしないことぐらい承知の蘭世ではあったが、ここまで意地になるとは思ってもいなかったのだ。
・・・仕方ないか・・・・
と嵐が通り過ぎるのを待つしかないと心を決めた。決めた時点で蘭世は一人を楽しむことにした。
お気に入りのバスバブルを入れ、泡立てる。
いつも俊にちょっかいを出されてゆっくりと入っていることなどまれだ。
物思いに耽りながら蘭世はリラックスしきっていた。

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