the necessary one 4
立食に並べられている食事を軽く食べながらジムの仲間と話しているとひょいと克が顔を見せた。
「よっ!チャンピオン!」
からかうような口調に思わず高校時代を思い出す。
「なんだ、来てたのか?」
「神谷につかまっちまってよ。試合見てたらな。」
「そう、か。」
「そうそう、江藤見かけたけど・・・・」
きょろきょろしてから
「ここには来てないんだな。神谷の性格からしてつれてこないわけないんだが。」
「ああ、そうだな。」
その言葉の空気に克が俊の腕を引っ張り会場の角へ移動する。
「喧嘩でもしたのか?」
「・・・いや・・・そんなんじゃねぇよ。」

・・・ある意味喧嘩より悪い・・・・

「・・泣いてたぜ、嬉しそうにな。お前が勝った時。」
「・・・・・・」
「少し離れてたから声を後でかけようと思ったらもういなかったけどな。」
「そうか。」

・・・まだ喜んでくれるんだな、俺のために・・・

「今度また皆で飲もうぜ。お祝いかねてな。新チャンピオン。」
「お前に言われるとなんかむかつくな。」
と笑いながら俊が言うと
「これでも、誉めてるんだぜ〜〜」
「判ってるさ、日付決まったら教えてくれよ・・ちゃんといくから。」
「二人で来いよ。」
「・・・・・・・」
「江藤と一緒じゃなけりゃお前じゃねぇだろ?」
「・・・・・そう見えるのか?」
「は?」
克が呆れたようにため息をつく。
「お前、自覚無かったのかよ・・・」
「何が?」
「う〜わ〜。」
頭をかきむしりながら克が続ける。
「練習の時も試合の時もおまえ江藤がいるときといないときではかなり違ったんだぜ?」
「・・・?」
「あのな、意識して無いのかも知れないけど。いっつも眼で江藤探しまくってんだよ、いないとき。」
「それって手を抜いているってことかよ。」
「違う違う、手を抜いてるとかそういうんじゃねぇ・・・なんていうんだろうな・・・・」
一拍おいて
「安心して、自信もってやっているっていう感じかな。ちゃんと見ているってな。」
「・・・・そうか・・・」

・・そんな昔から俺はあいつに甘えてたってことか・・・

「江藤もお前がそばにいるってことで安心もしていたみてぇだけどな。」
「え?」
「知らんだろうがかなりもててたんだぜ、彼女。フリーって言う事でだいぶいろんな男からぶしつけな視線投げつけられててな。」
「・・・それで。」
「中には関節的に言ってきたやつもいたらしいけど・・・まぁあれだ、女がボクシングとかのマネージャーやるなんてそりゃ好きなやつでもいなきゃ難しいわな。・・・ということだ。」
「それが俺ってことか?」
「間違っちゃいないわな。」
にやりとすると肘で小突いた。
「ま、せいぜい仲良くな。」
「・・・・お前こそどうなんだよ。」
「どうって・・相変わらずさ。それなりにやってるよ。
将来はまだわかんねぇけど。なるようにしかならねぇしな。」
「仲良くやれよ、お前もな。」
「そうするよ。さて今日の主役をあんまり捕まえててもなんだな、ほら神谷が眼吊り上げてるぜ。」
「はは。あいつも相変わらずだな。」
「またな、連絡するよ。」
「ああ、ゆっくりしてけよ。飯はここ旨いぜ。」
「そうするさ。」
克と別れると、祝賀会のイベントが始まった・・・・


ー一夜明けた翌日は晴天だった。
アパートの部屋に差し込む朝日に俊はまどろみの中目覚めた。
昨夜の傷は不自然にならない程度には残してある。

ー人ーとして生きていく以上必要なことだ。
どこで誰に会うか判らない、そして今現在は特に。

お湯を沸かしコーヒーを入れるとブラックで飲み干す。

ーよし。

気持ちを切り替えるように俊はたんすを開ける。
ほとんど腕を通したことがないその服。
気合を入れそれを身に着ける。


呼び鈴を鳴らす。
程なく入り口に人影が見えた。
「お兄ちゃん。」
「・・・久しぶりだな。」
「お姉ちゃんならお散歩行ってるよ。」
「そか。じゃ、その辺探してみる。」
無邪気にそう答える鈴世の頭をくしゃっと撫でると俊は言っていた方向へと歩き出す。
「お兄ちゃんのそんな格好初めて見た!カッコいい!!」
後姿に鈴世は不思議そうに声をかける。
俊は振り返らず、大きく手を振った。


ー居る。


少し歩くと、何故だか判った。
見えるわけじゃない。
声が聞こえたわけでもない。

でもー


確かに自分が進んでいくその、先に存在を感じた。

・・・そうか、こういうことか・・・

意識を真っ白にしてただ歩き始めただけだった。
そのとき唐突に入り込んでくる感覚。


こんなにも・・・・だった・・・

急ぎ気味になりそうな足を必死で抑えながら俊はその感覚だけを頼りに進んでいく。


あの公園が見える小高い丘に女性の影が見えた。
流れる風に髪をなびかせて。

なんて声をかけようか一瞬戸惑うほど穏やかな空気を纏わせて。

それでもー


「江藤。」

びくん!と怯えたようにそしてゆっくりと振り返る。

 ・・・・真壁くん・・・・

声は聞こえなかった、唇の動きがそう読めた。
ゆっくりと近づいていく俊をただ見つめている蘭世から眼をそらさずに歩く。

「どうして・・・・?」
ここが判ったのか?という前にその力強い腕に抱きしめられた。

「・・・・・ごめん・・・」
「え?」
「悪かった・・・・」
「・・・・真壁くん・・・」
一瞬強張っていた身体も開口一番の謝罪で力が抜ける。

「試合、勝ったぜ。」
コクリと頷くのを感じる。
「だから。」

一瞬言葉を止めて

「やっと言えるから。」
ようやく腕を解くとその中の蘭世の瞳を見つめる。

「お前に八つ当たりしていたのかもしれない、どうしていいかわからなくてな・・・・」
「・・・・・・」
「聞かれて答えられなかったな、あの時。」
蘭世は先を視線で促す。
「・・・・・お前、だからだ。」
俊はそう言って自嘲気味に微笑んだ。


「虫のいい話だとは思う、許してくれなんていうのも言えねぇ。」
「・・・・」
「許さなくてもいい。」
「・・真壁くん!・・」

蘭世の両目から涙がこぼれた。

「これから先あんなことはしない、だから・・・・」
「・・・・・」
「・・・側に、いてくれ・・・・」

「真壁くん・・・・・・」
「・・・・・江藤、お前が、必要・・なんだよ。」
苦しそうにそれでもはっきりと俊は蘭世にそう告げた。

許されなくてもいい、でも側にいて欲しい。
生涯かけて二人で何かを創って生きたい。

蘭世は俊を見つめ返した。
「・・・・・・・」
俊はその瞳を穏やかに見つめ返した。
どんな答えでも受け入れるというそんな瞳で。

「もう・・しない?」
「・・・しない。」

はっきりと俊は答える。
もう、ない。

迷いは消えたのだから。

「・・・・・・怖かった・・・」
「・・・・」
「悲しかったし・・・淋しかった・・・」
「・・・・・・」
「私じゃなくてもいいんじゃないかって思いもした。」
俊が首を振った。

「お前だったから。」
もう一度繰り返した。


お前以外要らないー

そう、必要なのは、彼女。
全てを。
見せても、怖くない。
格好つけたりしなくても、いい。

ずっと、側で。
二人でいたい。


長い沈黙があった。

蘭世のスカートの裾が風に翻る。
花びらが空へと舞う。

「誕生日、に。」
春風が彼女を包む。
「・・・私も、一緒に貰って、くれる・・・かな?」

声が風に乗って俊に届いた。

不甲斐ない自分を許してくれている。
受け入れてくれている。

その言葉だけでわかる。

・・・・二度と、傷つけたりしないと約束は出来ないかもしれない。
でも、
何度でも、やり直せるんだとそう言ってくれる彼女に俊は今までになくいとおしさを感じた。

きっと、大丈夫。


「・・・あ?・・・ああ、今日・・・か。」
「そうだよ。忘れてたの?」

そんなことを思うことすらなかった。
許してもらえるか判らなかったから。

「・・そういえば、そうだったな・・・忘れてた。」
「初めて見る格好だね。そのスーツ。良く似合っている。」
「・・・選んだの、お前だろ。」
「うん、そうだけど。外で着ているの見たの初めてだもの。」
泣き笑いのような表情で蘭世は続けた。

「・・・ありがとう、真壁くん。・・・ずっと、側にいるから・・・ずっと、居て下さい。」

俊の手が蘭世の手をやさしく、包む。
もう一度しっかりと眼を合わせて。

別れていた影が、一つに、なった。

to Happy

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