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………

「ただいま」

「おかえりなさい、たくや」


今、俺は美月さんのマンションで一緒に暮らしている。


あの後、龍蔵寺は姿を消し、それを追ってか、絵里子先生もいなくなった。

それ以来、俺達の生活には何の奇妙な事件もない。

おそらく、すべては解決したんだろう──何があったにしろ、俺達の知らない所で。


洗脳は溶けたが、龍蔵寺が消え、しかも本物の龍蔵寺が

すでにこの世のものでないことを知った美月さんの嘆きは、深かった。

俺は、そんな美月さんの側を離れず寄り添い……そして、

いくばくかの歳月が経過した今、ふたりはこうして一緒にいるってわけだ。


「ご飯にする? それともお風呂?」

「……なんかそう言われると、新婚さんみたいだな」

「ふふ……」


だが実際、籍は入れてないけど、そんな感じなんだよな。

美月さんは龍蔵寺のいなくなった学校をやめ、今は全く別の仕事をしている。

有能だから引く手あまたで、新しい職場でもすでに周りから頼られているらしい。

俺はといえば、もう学校ですることなんてないと思ったんだが、

美月さんと亜由美さんの強い押しで、結局なんとか学校を卒業、

今は美月さんのこの部屋から、大学に通っている。

……ひょっとしたら、龍蔵寺や、クソオヤジと、同じ道に進むかもしれない。

亜由美さんといえば、当初はこの同居に大反対していたんだよな。

まあ、そりゃ、自分と同世代の美月さんの義理の母、ってことに

なっちゃうかもしれないんだしな……。

でも、今ではちゃんとふたりのことを理解してくれているみたいだ。


「あのね、たくや」

「ん?」

「少ししたら、今のお仕事、休職させてもらおうと思うの」

「……どうして」

「………ふふ」


微笑んだ美月さんの手がお腹に降りていく。


「もしかして……」

「そう、そのもしかしてよ、たぶん」

「ホントに!?」

「ええ、お腹の中に。たくやと私の、赤ちゃんよ」

「すごいな……。なんだかまだ実感が湧かないけど……ありがとう、美月」


俺は、全身の力を込めて強く、強く、美月さんを抱きしめた。


「あ……、ちょっと、痛いわ……」

「あ、ご、ごめん……」

「そういうことだから、夜は、しばらくは、こっちでね……」


美月さんは、そういうと温かい唇を使って、俺の頬肉を、耳たぶを、ついばんだ。

「……美月って……呼んでくれた」

「ああ、美月……」

「でも……」

「?」

「亜由美、あの年でお婆ちゃんってことになっちゃうわね」

「あ、そうか……」


亜由美さんには迷惑かけっぱなしだな、と申し訳なく思いつつも、

俺は美月さんとクスクス笑ってしまった。


「私がこんなこと言ってたなんて、亜由美にはぜったい内緒よ? たくや……」


これで良かったんだろうか、と思うこともある。

けど、これはこれで、幸せってやつさ……

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