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 マルク・ジェネ――超科学研究開発部。

 現代科学の最先端どころかそれを遥かに凌駕する科学力を誇る開発室は、普段はピンと張り詰めた

緊張感の漂う、冷徹な印象すら与える空間である。

 だが、今夜の様子は、いつもとは違うようだ。

 照明は薄暗く落とされ、研究用の機械類も沈黙し、正面の壁中央のモニターのみが光と音でその存

在を主張している。

 画面いっぱいに映し出されているのは、プリマヴェール……若草純菜の痴態であった。

 埋め込み式のスピーカーが、純菜の荒い息遣いも、わずかに残るコスチュームの衣擦れの音も、分

泌した体液の粘稠音すらも余すところなく吐き出している。

 この部屋から生まれる超科学が人間の英知の象徴であるならば、言語に絶する責めを受けて獣のよ

うな嬌声を上げてしまう少女もまた、人間の本質を表しているといえた。

 観客は一人だけだった。

 開発主任であるちはるは、そっけないほどシンプルな白衣に包んだ身体を落ち着かなげによじらせ

て、再びモニターに集中した。

「べつに見たいわけじゃないけど、これも仕事。仕事のうちなんだから……」

 今夜はプリンスによる「調教」が純菜に施される日であった。調教に使う責め具は開発室の超科学

を応用したものである。特に今日渡したバイブの効用をチェックするという名目で、ちはるは開発室

を独占してあられもないピンク・ショウを観覧しているのであった。

『あふっ……あふんんん……いいっ……気持ちいいです……ああっ』

「うっひゃあ、また盛大によがるもんねえ」

『もっとしてください……奥に……奥にィ』

「おもらししたみたいに濡れてるし」

『あうあっ……入って、入ってくるぅ……ふうあっ……いっぱい』

「うっそ。お尻にあんな太いのが入っちゃうんだ……」

『むん……はあぁ……んっ……かき回してえっ……』

「…………」

『ひうあっ……イキますっ……純菜はお尻が気持ちよくてイっちゃいます……』

「……ん……」

 上気した唇が、熱い吐息を産んだ。

 肘をついた腕を寄せて、二の腕で白衣越しに乳房を刺激してみる。

 実用一点張りの椅子の上で太ももすり合わせて、かすかな快感を得ようとしてみる。

 やがて、もどかしさに我慢できなくなったのか、ちはるの指はゆっくりと下へ向かった。むせ返る

ような熱い空気が、スカートの中で指を迎え入れる。辿り着いたそこが、湿った感触を返してきた。

「濡れてる」

 と、ちはるはわざと口に出してみた。その分、熱い蜜がよけいに分泌された。

「処理……しなくちゃ」

 事務的な言葉が自分をさらに高ぶらせると知りながら、ちはるは薄い布の上から快楽の発信源をい

じりつづける。

 熱っぽい目をモニターに向けると、後座位で貫かれる純菜の姿が飛びこんできた。

 プリンスの剛直が純菜の中を激しく出入りしている。無骨な手が少女の乳房を乱暴にこねあげてい

る。強い意志を感じさせる唇が、純菜の細いうなじを舐め上げ、吸い付き、いくつものキス・マー

クをつけていく。

(最近、あたし変だ……)

 粘液のような快感にたゆたいながら、ちはるはその光景に見入った。

 ちはるは処女ではないし、自分を慰めることも珍しくなかった。だが、あのプリマヴェールが捕ら

えられてから、調教を観察し、淫具を作っていくうちに、自慰の回数はずっと増えていた。純菜用に

開発した道具を渡す前に、自分で使ったことも何度となくある。

 始めのうちはそれでも、就寝前に、その日見た調教を反芻しながら自室のベッドでこっそりと慰め

ていたものが、今ではリアルタイムの実況を前に、はしたない行為に耽溺している。開発主任権限で

研究室を貸し切り状態にしているからこそ、できることだった。

 ちはるは左手で胸をまさぐりだした。

 すぐに直に弄りたくなって白衣のボタンに手をかける。だが、快感に震える指には難しい作業と気

づくと、最後の一つは引きちぎってはずした。糸のちぎれる音が、背筋をなで上げるような快感をも

たらした。シャツをたくし上げると、露出した胸を舐めまわす研究室の冷えた空気が気持ちいい。

「ふうっ……くん……」

 秘処を擦る指の速さも増してゆく。

 濡れそぼった布は、すでに隠す機能を放棄して、性器の姿をぴっちりと浮かび上がらせていた。

 ちはるはショーツを脱がずに、布をずらして横から指をこじ入れた。2、3度スリットを行き来さ

せてから、やおら膣口に指を突き立てる。最初から2本だった。

「んんんんんんんっっ」

 それだけでちはるは軽く達した。ごぽ、と押しのけられた蜜があふれだし、椅子の縁から流れて、

床に向けて光る線を引いた。

 同時に左手でショーツを引っ張り上げ、乱暴に恥丘とクリトリスを愛撫した。前かがみになって机

の角に胸を押し付け、硬く屹立した乳首をこすりつけて刺激する。

「や……だめ……」

 ショーツに邪魔される指も、机に押し付ける乳首も、思うとおりには動いてくれない。まるで自分

でしているのではないようなもどかしい愛撫が、弱火であぶりたてるような快感を産む。

 いつしかちはるの脳裏には、ひとりの男性が浮んでいた。

 ずっと昔から知っているその男は、研究に疲れたちはるを優しく抱きしめ、キスをし、思うさま愛

してくれるのだった。

「ん……そこもっと強く……いい……」

 愛液が飛沫になって飛び散るくらい、激しく何度も指を出し入れする。愛撫にはやがて左手も参加

した。勢い余って爪をクリトリスに突き立ててしまったが、その痛感すらも快楽を後押しする。

 腰のずっと奥から、なにかの塊がゆっくり浮かび上がってくるのがわかった。

「もうだめっ……お願いだからいっしょに……プリ――」

『ああっイク! イっちゃいます! プリンス様ぁっ!!』

 ひときわ大きく上がった純菜の嬌声が、ちはるの意識を現実に引き戻した。

 画面の中で、純菜がぐったりした肢体をプリンスの胸に預けていた。二人の結合部からは逆流した

精液が滴っている。

『あふぅ……プリンス様ぁ……好きぃ』

 ちはるは叩きつけるようにモニターの電源を切ると、冷たい机に突っ伏した。

 下半身の疼きは未だちはるを責め立てていたが、続きをする気にはどうしてもなれなかった。

 隣室の専用ロッカーで下着を替え、床と椅子の淫液の後始末をオートクリーナーが片付けたころ、

研究室入り口のドアホンが、電子音を鳴らした。

「――誰?」

「わたしだ」

 心臓が、止まるかと、思った。

「なっなっなっ、何の用よ!」

「うわっ。何を怒っているんだ」

 小さなモニターの中で、プリンスの目が丸くなる。自室に戻る前に、素晴らしい働きをしたバイブ

の出来を賞賛しようとやってきた彼には、ちはるの激情の理由がわからない。

「べつに」

「開けてくれないか?」

 ほんの少し逡巡した後、ちはるは“開”のボタンを押した。廊下の照明が室内を浮かび上がらせる。

「どうしたんだ、暗くして」

「もう部屋に戻ろうと思ってたから」

「……目が、赤いようだが」

「揮発性の薬品を扱ってたのよ」

 ちはるは廊下の明かりがまぶしい、といった様子で目をそらした。

「ああ、そうなのか。で、どうだった?」

「なにが」

「見てたんだろ? ――ぐほっ」

 不意打ちで蹴り上げられた急所攻撃になすすべもなく、座り込んで悶絶するプリンスの目の前で研

究室の扉は閉じた。

「な、なんなんだ」

 クエスチョン・マークを1ダースもぶら下げたプリンスの呟きは、もちろん部屋の中には届かない。

 ちはるはノロノロと椅子に腰掛けると、再び机に突っ伏した。

「……ほんっとに、馬鹿」

 その言葉が、女はわからんと言いながらよろよろと去っていく男に向けたものなのか、感情のコン

トロールもままならない自分に向けたものなのか。

 ちはるには分からないのだった。

(終わり)

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