初夜

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(……ジャックのスリーカード、か)

 ニコル・ジラルドは眼前に明かされた敵札の役に、口唇をかんだ。
 かみながらそっと掌で心臓を押さえる。この期に及んでポーカーフェイスなど
お呼びではなかったのだ。
 身体が熱い。鼓動は早鐘を打っている。
 一世一代の大勝負に、負けた――それとも勝ったのだろうか?
 この女に抱かれる初体験は、じぶんにどんな新世界をもたらすのだろうか?

「ニコル?」

 いつものように気さくな軽口もとばさず、黙りこんだままカードを明かさない
『したたかギャンブラー』ニコルに、いぶかしんだ問い掛けがなげかけられる。
 テーブルをはさんだ向かい側には、賭けポーカーの相手、「レズの王子様」
杏里・アンリエットの真剣きわまりないおもざしがあった。
 いつしか見馴れはじめてきた、バカで陽気な笑顔と声ではない。
ニコルがはじめて目の当たりにする、頬がひき緊まって優美な鹿をおもわせる鋭さだ。
(そんな表情もできるんだ、あんたは……)

 バカで陽気で、いっしょに歩いていて楽しい相手――
 そんな男なら、故郷のイタリアにだっていくらでもいたけれど。

「あたしの負けだ、センパイ」

 なにか言いかけていた杏里にかぶせるように、ニコルは手荒にトランプのカードを
投げ出した。
 汗に濡れた手許がすべり、2,3枚がテーブルを舞い落ちる。
 杏里とのポーカー勝負――賭けていたのは、ニコル自身の貞操だ。

「あたしはシックスのスリーカード。666か。
 これで、あたし自身を景品にした勝負の決着は、ついたってわけだよな。
 約束どおり、センパイがいってる『仔猫ちゃん』ってののひとりになるぜ。
 あたしは今夜、センパイに抱かれる。シャワー浴びたらな」

「……とりあえず、ボクをセンパイって呼ぶのも変えてくれるかな。ニコル」

 あまりに普段とはかけはなれた雰囲気な今夜のニコル・ジラルドに、杏里は
 ――あのおしゃべりな杏里が――無駄口をたたかなかった。
 万感の想いをこめたようにそのひとことだけ、ささやく。
 ふたりきりの静かな部屋にひびくその呼びかけに、ニコルはわずかに眉根を寄せた。
「……
 抱かれ終わったらな。あと、シャワーはひとりで浴びたいから乱入はカンベン」

「わかった。けどあとひとつね。
 ニコルは、景品なんかじゃないよ。
 キミは、ただボクの持ち物になってしまうそんな景品なんかじゃない。
 キミこそが手に入れるんだよ、ボクの愛を。そのちいさな身体に杏里・アンリエットの
捧げる両腕いっぱいの熱情と愛を受けとめるんだ。
 ……受けとめてくれるかな?」

 大仰な、熱烈な告白――およそ杏里以外のだれが語っても、悪ふざけのお芝居にしか
感じられなかっただろう。

「どうだかな」

 それへ短く、冷淡そうに言い捨てて、ニコルはバスルームのドアを後ろ手に閉めた。
 そうして杏里のすがたが見えなくなり、ひとりきりになったとたん―― 
 前髪の下の表情が豹変した。
 柄でもないハードボイルドの冷淡さが、拭ったように消え失せたのだ。
 かわってやるせない恋慕の波打つわななきが、骨細の肩をふるわす。
 そして制服を脱ぎはじめた。
そなえつけの籐カゴにシルクの肌着を投げいれながら、ささやかな吐息まじりにひとりごちる。

「杏里……」

 激しい水音のなか、ふたたびニコルはつぶやく。
 あまり量感豊かとはいいがたい胸の谷間を、ぬるぬるするシャワーの温水がむなしく流れていく。
 この豪華学園船のバスルームでは、ノズルからほとばしる温水には、あらかじめ
ボディーソープが溶かしこんであるのだ。
 むろん、ふつうのお湯もボタン操作で簡単に出てくるし、学園標準のボディーソープの
香りをきらってお気に入りのブランドで身体を清める者も多い。
 だが、ニコルにそのたぐいのこだわりはない。
 ひかえめにいって、育ちと年齢のわりにはそれほど身だしなみに気をつかう少女では
なかった。
 すくなくとも、杏里と出逢う以前のニコルは。

(早く洗い終わってシャワー、とめなきゃな)

 ふくらみに乏しい裸身をすべりおちてゆく温水に、ふと溜息をこぼす。
 すでに髪も身体のあらかたも洗った。あと、まだなのは――

(ここと、ここだよな。やっぱし……)

 ためらいをおしころして、とりあえず左掌を後ろ腰にまわした。
 そして立ったまま、こころもち脚をひらき、
 二本の指に力を渾めてゆっくりと尻の双丘をおしひらき、明るみにさらす。
 ふだんは秘めやかにけっして外気にさらされない、双丘の谷間の処女地。
 その部分の清楚さは、ニコルのみならずこの船のお嬢様たち全員に共通する属性
だったかもしれない。
 ニコルがどれほど蓮っ葉なはねっかえり娘であろうと、また父親がイタリアン・
マフィアの首領であろうと、
 それでも、この豪華学園船の在校生である限り、れっきとした箱入り娘には違いない。
 資産も名声もありあまっている上流階級の令嬢しか入学できないのが、この秘密の花園なのだ。
 いまだ男を知らない、咲き初めの花一輪のニコル・ジラルド。
その尻の双丘の谷間がたちこめる湯気にじっとりと汗ばみはじめていて、そして、

「くふうっ……」

 指を妖しく尻の谷間にくわえこんだまま、ニコルは鼻息を洩らした。
 こころもち背がそらされて腰を突き出す。
 指先に触れたむずかゆいような感覚に、わずかに戦慄が奔(はし)ったのだ。
 むずかゆさは、浴びているシャワーのもたらす異和感だった。
 温水がおしひらいた尻の谷間に沿って這い落ちてきて、ぬるぬると指先に――そしてまた、
触れているひっそりと息づくすぼまりに、執拗にまとわりついてくるのだ。
 不可解な感覚だった。まったく、我ながら緊張しきっている。
 使い慣れてきたはずのシャワーの温水が、今夜にかぎって、まるで杏里の舌であるかの
ように錯覚してしまうなんて。
 もちろん、ニコルは他人に肌を舐められた経験などない。
 ないのだが、つい生々しく想像してしまうのだ。
 杏里のあのつづけざまに愛の言葉をつむいできた舌づかいが、ベッドの上でも雄弁に
語りかけてきておのれを鳴かせる、その有様を。

(う……なにあたしってば妄想してるん)

 ニコルは首を振って、鮮明すぎるヴィジョンをかき消そうと努めた。
 すぼまりに押し当てた指に、わずかに圧力を加える。
 やらないで後悔するよりも、とにかくやってみて自爆してから後悔する――それが彼女の
長年の信条だった。

(洗っといたほうがいいんだろうな、奥まで。
 まあ、バージンのあたし相手にソコまで無茶しかけてくるとはさすがに考えられねえ
けど、やっぱいちおう。
 ……それに、こっちもだな)

 あいていた右掌を前にまわして、下腹部からまばらな柔毛(にこげ)の茂る秘所に
這わせる。
 まだ指を差しこむ気はない。
 二本の爪を唇にひっかけてドアをひらき、指先の触感で女としての微妙な体調を
おしはかる。
 そうやって立ち尽くしたままひどく無防備に、あられもなくおのれの指で二輪の初花の
蕾(つぼみ)をほころばせながら、
 湯気で曇った大鏡のまえで、生まれたままのすがたのニコルは、ぼやけたおのれ自身へ
苦笑を投げかけた。
 明日から――いや、今夜から、じぶんは杏里の恋人になる。
 ずっと待ち望んでいたのだ。あの浮気性の無邪気な純粋バカに身をまかせ、おなじ
ひとつのベッドで朝を迎えるのを。

(……とりあえず、ボクをセンパイって呼ぶのも変えてくれるかな。ニコル)

 ついさきほどの、杏里の懇願が思い出される。
 他のどんな上級生にむかっても、ニコルは先輩よばわりなどしない。
 年上や教師相手でもタメ口しか叩けない、そんな性分が他人に好かれもし、また鼻持ち
ならない高慢さと嫌われる理由でもある。
 それは承知なのだが、持ったが病で治せないのだ。
 実際のところ、彼女はこれと見込んだ連中には、言葉尻でなく語調や話す内容で敬意を
伝えていた。
 その言葉遣いの乱暴さに憤るのは、真の礼儀正しさというものをはきちがえていたり、
何年か早く生まれたというだけの根拠で他人に隷従を求めたり、ひとりの少女の尊敬に
値しないおのれ自身の醜悪さに逆恨みを抱いてしまったりする、
 そんな躾のなってないお嬢さまがきわめて多い。
 だが、ニコル当人はまだ、そこまで気づくだけの眼力なり世間知なりを育ててはいない。
赤の他人に関心を覚えられる年齢ではないのだ。
 気づいているのは、杏里に惹かれている自分。
 それにもかかわらず本質はレズビアンではありえない自分。
 だからこれまで故意のセンパイよばわりによって、無言のうちに女である杏里の求愛を
かわしつづけてきた、自分。
 だがもはや、自分を偽るのは限界だった。

(あたしってば、杏里に惚れてやがる……)
 しかも、本気の恋だ。
 女子校でありがちだという、魅力ある上級生へのほのかな憧れ――
 そのような甘やかな代物ではない。
 それは、杏里あいて以前にも恋の経験があるからよくわかる。かつての恋心といまの
それ、たがいのボルテージの高さを比較して判断できるのだ。
 この年齢で初恋というほど、晩稲(おくて)なニコルではなかった。
 そして、かつての恋の対象はいずれも男だったのだ。
 だからこそ断言できる、自分がレズビアンでないと。

「杏里……」

 みたび、ニコルはちいさく囁く。
 これからしでかす秘め事を、おのれにさえ認めたくないというように、ちいさく潤んだ
声音で。

(抱かれるまえに丁寧に洗い清めとくのは、礼儀ってもんだろ……)

 立ったまま右脚を白大理石のバスタブのへりにかけ、洗いやすいようおおきく膝を
立てる。
 ――煽情的なポーズだ。
 だがこれが掛け値なしにもっとも、少女の部分を洗いやすい姿勢なのだ。あまり
認めたくもないが。
 いつも想いを馳せてしまうのだが、今後なにもかもうちとけた恋人ができても、
シャワーシーンだけはのぞかれたくない。
 身体を洗うという至極真っ当な営みのために、じぶんを含めた少女たちがどれほど
あられもない姿態をとらざるをえないか知っているから。
 やけどを避けてお湯の温度を慎重に下げながら、ニコルは髪と同色の淡い亜麻色の翳り
に、シャワーを当てた。
 軽く腰をひねって、流水が奥まで届くようはからう。
 右掌でシャワーのノズルを握り、左掌で若草をかきわけつつ指をくぐらせて泡立てる――
もちろん破瓜をおそれて奥深くまで荒々しく抉りはしない。
 ほとばしるぬるりとしたボディーソープ混じりの温水だけが、あますところなく未通の
胎内を浸し、溢れて内腿をつたっていく。
 そのむずかゆさをこらえて二本の指先をこねあわせ、水音を立てつつ内壁をこすり
つづける。
 細かな襞(ひだ)すべてを丁寧に洗うのは結構まどろっこしい作業だ。
 指が届きにくい辺りを清拭するには、片膝を立てたまま腰をあおり、いろいろと
シャワーの角度を変えたりしなければならない。
 それは恋人どころかおなじ女にさえ、のぞかれたくないシチュエーションの第一だった。
 そうこうしているうちに、いつものように狭くて柔らかい粘膜のすべりが次第に良く
なっていった。
 浅い胎内で泡がはじけ、とろりと流れ出るむずかゆさが勢いを増す。
 ――いや、いつもとは違うと知っている。本当は。
 昨日までと変わらぬ指づかいの清洗をくりかえしていても、今日という夜はただ一度
なのだ。恋の相手と、はじめて肌をかさねる夜なのだ。
 初夜の怖れと期待に身を震わせる花嫁さながらに、秘肉は奥から疼いて熱くせわしない
吐息を洩らしつづけていた。
 いつもより胎内の空気が火照っているのが、指にはっきりと感じとれる。
 昂奮しているのだ、心も身体も。

「くうっ……」

 にじみでてくる快楽のシロップをおしとどめようと、つよく下唇をかみしめた。
 オナニーすら初体験だと、そんな嘘っぱちの綺麗事をつこうとは思わない。
 だがシャワーなど毎日浴びているのだし、そのたびごとに指遊びに興じるほど酔狂
でもなかった。
 ありていにいって、のるかそるかの船倉賭博のほうが、このいっぱしのギャンブラーに
とってはずっと深い陶酔を味わえたのだ、きのうまでは。
 そう、杏里と結ばれる覚悟を決めた、きのうまでは。
 紅く勃ちあがりかけているクリトリスに伸びようとする指を、危うく意志の力で
ひっこめる。
 これほど敏感で傷つきやすい箇所ならば、洗うときも爪など立てず慎重に、丹念に指の
腹でこすりあげていくしかないのだが、
 ……そうすれば、どうしたってニコルの幼い性感は刺激されてしまう。
 処女とはいえその手の快楽にまったく無知なわけではないとは、先にも述べた。
 つまり、しばらくそうして指の抽送をくりかえしていくうちに、
 ――ちろちろとくすぶり悶える性火が、清らかな身体の芯をとろかしはじめてしまう
のだ。
 挿しこまれた指は、弱電流の電極をおもわせた。腰の中心からくすぐったいような
快感のスパークがはじけ、じんわりと思考が麻痺してゆく。
 浴室にたちこめる湯気より濃密なもやが脳裡にただよいはじめ、指のうごめきがより
遠慮なく快楽をむさぼるものにかわろうとするのを必死でおしとどめねばならない。
 そこへシャワーのゆるやかな刺激が拍車をかける。
 へそが、下腹が不規則にへこみ、内腿がひきつって脚がバスタブから滑りそうになる。
 指をカギ型に曲げたときの骨関節の硬さが焦れったい。
 そして大粒の汗がふきだし、がくがくと膝が笑いはじめる。

(……あたしはっ、身体洗いにきたんだろココにっ)

 叫びたてる理性の主張が、次第にどうでもいいたわごとに聞こえてきてならないのだ。
 ――シャワーの水流のぬるさが気に食わない。
 コックを全解放してもっと熱く、勢いよく責められたいのだ。ノズルを直接股間に
押しつけたいのだ。いやそれだけではまだ足りない、もっと奥へ、奥へねじこんで――

(って……マジヤバすぎっ!)

 おもわず、ニコルはノズルをほうりだしてしまった。
 膨れあがって脈打つ妄想に、本能で危険を感じたのだ。
 同時に腰が砕けてしりもちをつき、くわえこんだままの指がとんでもない部分を弾いて
ぐちゅん! と甘露にぬめる。
 おもわず手の甲に爪を立てた。
 さらにもうひとつ不意を突かれて、ついにこらえていた、うわずった呻きが甲走る。
 一糸まとわぬ火照った尻でぺたりと座り込んだ大理石の床の、その冷たさに電流をうち
こまれたのだ。
 うわずった、甘やかな呻き――嬌声。喘ぎ声。罪深い手淫と女どうしの快楽を求めてやま
ぬ発情期の猫のさかり声。

(この指が杏里のだったら)

 甲走った喘ぎは杏里を求めていた。とどろく耳鳴りは、たったひとり杏里の名だけを
叫んでいた。唐突な性感の激発に理性のタガがゆるみ、本心が猛り吼えた。
 杏里が欲しい。
 ただ、欲しくてたまらないのだ。
 それが掛け値なしに唯一の渇望だったのだ。
 心のひと欠片(かけら)、身体をめぐる血の一滴にいたるまでなにもかもが、そのひとの
ために存在しているように信じられたのだ。
 すべてを求め、捧げたかったのだ。
 だれともこれまで結ばれた絆のない処女にとり、初めての相手はすなわち全世界と等価
である。
 理屈ではない。こらえきれなかった呻きがすなわち、杏里を恋せずにはいられなかった
ニコル・ジラルドの懊悩と至福の象徴だったのだ――。
 そう、懊悩と至福――性嗜好きわめてノーマルなはずのニコルが同性の杏里を恋する、
そのことの真の意味。

(なんでひとりHなんだろ。なんで女どうしなんだろ……)

 壁へもたれかかって荒い吐息をつきながら、ふと底深い疑問が脳裡をよぎる。
だがそれも一瞬だった。
 ――おのれの想念に気をとめていちいち考察する習慣は、この少女にはない。
(で、おつぎは、こっちかよ……)

 とろんと混濁しかかった意識で、ためらいすら忘れてそこに指をあてがう。
 それまでかろうじて堪え忍んできた快楽の喘ぎをあっけなく「おもらし」してしまい、
もともと軋(きし)んでいた理性の首枷に音立てて亀裂が入ったのだ。
 ハスキーヴォイスが昂ぶるわななきは麻薬の異様な快美感をもって、ニコルの理性を
根底から揺さぶった。
 おのれの咽喉からさえずりでた、聴き馴れない他人の声――
 それはどうしようもなく初々しくそして艶めかしく、震えおののく衝迫力をもって
日常性を破壊したのだ。
 熱したバターさながらにいつもの自分が濃厚にとろけてゆく、そんな忘我の悦楽を
もって。
 ほころんで半開きに舌の覗いた口唇から、そして独白が呟かれる。
だれにも、ニコル本人にさえ聞きとれない、熱に浮かされた淫蕩なうわごとが。

(…………)

 そうなのだ。杏里に抱かれる準備に、身体のあらゆる部位を洗い清めなくてはならない。
相思相愛の恋人に抱かれる準備として。
 壁にもたれかかったまま、素裸の両膝をひらいて立てる。
 口許をゆがめて鏡に映ったその姿態を見やり、夢うつつにまだ開脚ぐあいが足りないと
断じた。腰が引けている。

 もっとだ――

 ひとことそう呟き、透明な蜜に濡れそぼったおのれのサーモンピンクに魅入られている
かすんだ青瞳は、すでに正気を踏み外しかけていた。
 踏み外したその先は、色道のちまただ。ニコルは恋に堕ちていたのだ、みずから望んで。
 奈落の果てまで杏里とともに堕ちてゆきたい。
 マフィアの首領の家柄もちっぽけなプライドもなにもかも放り出して、杏里の大勢の
恋人のひとり――『仔猫ちゃん』の一匹に落ちぶれたい。
 そうして報いのすくない恋に身を焦がしていたいのだ。
 それでも後悔などけっしてしない。杏里・アンリエットはそれだけの価値のある女なの
だから。
 だから、もっともっともっと内奥をさらせ。すべてを晒せ。なにもかも曝せ。
 初夜におもむく恋人の愛欲のまえに、なにひとつ隠す怯惰は赦されない。
いまからその心構えが必要なのだ。
 誰にも人目に触れさせたことのない陰微なひそまりを、どうしても目を背けてしまう
恥じらいに責め苛まれてももっとすべてを露わに。
 そう、こんなふうに――

 こんなふうに、
 へたりこんで片膝を立てたまま脚を左右に投げ出し、もたれた壁をなかばずり落ちて、
 腰に敷いたその掌の中指を、無毛の幼女をおもわせる尻のすぼまりに深々と突き立て、
抉り、
 そして泡まみれの抜き差しに時折しゃくりあげる痴態をひとり、繰りひろげながら。

(杏里ぃ……)

 きらめく鏡は、一点の曇りもない冷徹さをたたえてあからさまに浴室のあるじの艶姿を
注視している。
 こびりついた湯気は、すでにニコル自身の手で拭われていた。
 そのなかに映る、すぼまりを清める指――柔らかに紅潮した双丘の奥処を泡だて、
揉みほぐし、マッサージして清める細く骨ばった硬い指肉。
 ぐちゅぐちゅと、あぶくまみれに容赦なく後ろの粘膜をこすりたてるその抜き差しが、
はっきりと見てとれる――視野をさまたげるわずらわしい柔毛は、そこには茂っていない
から。
 あたかも幼女の股間のごとくすべらかに肌理(きめ)こまかいちいさな尻のそのすぼま
りに、
 ぐねぐねと鎌首をもたげる小蛇の指がぬめらかに根元まで喰いこみ、清めつくすさまが
見える。
 掌に全体重をあずけて深々と喰いこんでいる、あてがった中指――

「くううっ……ん!」

 一声放って、ずるりと中指を抜き出す。
 もう充分だ。
 指で後ろを弄ったのはこれがはじめてなのに、杏里を想っていると天井知らずに性感が
沸騰しそうで怖い。
 それにうっかり処女膜を破る心配もいらないその部分への激しい抽送に、おぼれこんで
しまうためらいも覚えたのだ。

(早く、いかなくっちゃ……)

 丹念に泡を洗い流して、濡れた身体に下ろしたてのバスローブを羽織り、よろめき
ながらニコルは脱衣所のドアをあけた。
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