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 天界A99自治区。無限の広がりを持つ天界の西の一角の、さらにその外れ。 
 そこにたたずむ館では、毎朝おなじみになった光景が展開していた。 

「いい加減に起きろこのぐうたら天使っ!」 
 ごわしゃ、という天界の朝にはおよそふさわしくない破壊音が陽光の射し込む寝室に響き渡った。 
 ヴァールは頭から水をしたたらせたままベッドから身を起こすと、肩で息をしている侍従の少年をに 
らみつけた。 
「雇い主を殺す気か、お前は」 
「毎朝花瓶のかけらを掃除するこっちの身にもなってみろ! 冬眠中の熊だってもっとすっきり起きる 
もんだこの寝太郎!」 
「金を出して買い換えているのは俺……」 
「やかましいっ! 起きるのか起きないのか!?」 
 整った、少女のような美貌に青筋をたてて少年−プライマル−が怒鳴る。 
 今度は机か椅子でも投げつけてきそうなその剣幕に押されて(実際両方に手をかけていた)、ヴァー 
ルはのろのろと着替えをはじめた。 
「朝食はもうできていますから」 
 着替えを見届けると、プライマルはそう言い放ちドアを閉めた。ぱたぱたと軽い足音が徐々に遠ざか 
っていく。 
 どうも最近あの侍従がさらに生意気になってきたような気がする。一度よく言って聞かせたほうがい 
いのかもしれない。 
 天使衣の襟を整えながらそんなことを考えたが、口であの子供に勝った試しなどないことを思い出し 
てヴァールはため息をついた。 
 朝食のあいだ中なにかいい手はないか考えてみたがそれも徒労に終わり、仕事のため館の地下に通じ 
る扉の前に立った時、脳裏にある考えが浮かんだ。 
 愉快だが、危険な考えだ。中央にばれたらただでは済まないだろう。リスクとリターンを較べればこ 
れほどつりあいのとれない計画も珍しい。 
 だが、プライマルへの鬱憤と、「仕事」によって壊れはじめていた彼の倫理観、そしてなにより日頃 
感じている退屈がそれを実行に移すことを後押しした。 
「まずは相手を選ばないとな…」 
 天使にあるまじき邪悪な笑みを浮かべ、ヴァ−ルの姿は地下へと消えていった。 
 三日後。 
「プライマルくん、ちょっといいかな?」 
 書庫の掃除の手を止め、プライマルは雇い主の方を振りかえった。 
 いつもののほほんとした調子でヴァ−ルが書庫の入り口に立っている。 
「なんですか? ヴァ−ル様」 
「スカーレットがお茶と軽い食べ物を持ってきてほしいそうだ。行ってやってくれ」 
 スカーレットとは偶然にも一瞬だけ開いた天界への通路に吸い込まれ、魔界から連れて来られた4人 
の魔族の娘のうちの一人だ。現在彼女らはこの館で一人づつ客室をあてがわれ、天界での毎日を過ごし 
ている。 
「いいですけど、あの人ここのところ体の調子がよくないって部屋に閉じこもっておいででしたよね? 
もう大丈夫なんですか?」 
 少なくともプライマルはそう聞いている。 
 魔界の住人が天界で暮らしているのだ。体調を崩すこともあるだろうと、さして気にもとめていなか 
ったがもう回復したのだろうか。 
 少々いぶかしげなプライマルとは裏腹に軽い調子でヴァ−ルが返す。 
「ただの風邪だったらしくてさ、よくなったらもう腹が減って仕方ないんだそうだ。たのむ」 
「…わかりました」 
 箒を壁にたてかけ、プライマルは厨房へ走っていった。その青水晶のように澄んだ瞳が、ヴァ−ルの 
顔に浮かぶ薄い笑みをとらえることはなかった。 

========================================== 

「スカーレット様、お食事をお持ちしました」 
 ノックをすませ、紅茶のポットやらサンドイッチやらを載せた盆を片手にプライマルは呼びかけた。 
 相手が悪魔だろうとなんだろうと客人には敬語が基本だ。もちろん例外はあるが、さしあたって彼女 
はそれには当てはまらない。 
「スカーレット様?」 
 ノックと呼びかけを繰り返してみたが返事はない。たっぷり3分ほど待ってみたが、むこうからドア 
が開くことはなかった。 
 かつがれたか、とも考えたが、あの主人は馬鹿なことが大好きでもこういう類の冗談はやらないはず 
だ。自分で言うのもなんだが、召使を怒らせるとはっきり言って後が怖い。 
 ヴァ−ルが言うには彼女は部屋で待っているということだった。 
 一応確認のためドアノブを回し、ゆっくりと引っ張る。重厚なつくりのドアは、あっさりと開いた。 
「スカーレット様? お留守ですか?」 
 なんとなく後ろめたい気分を感じながら、そろそろと部屋に足を踏み入れる。 
 部屋の中央まできたとき、ソファーのかげに白い人影が倒れ伏しているのが見えた。 
「スカーレット様!」 
 盆を傍らに放り出し、プライマルはスカーレットに駆け寄った。うつぶせに倒れている彼女の肩に手 
を掛け引き起こし、やさしくゆする。ぐったりとした娘の口から低いうめきが漏れた。 
 汗もかいておらず、顔色も悪くない。そんなことを観察しているうちに、長いまつげを備えた瞼がゆ 
っくりと持ちあがった。 
 その瞬間、しなやかな腕が少年の首に巻きつき、ばら色の唇がプライマルのそれに吸い付いた。 
「んぅっ!?」 
 驚くまもなく舌が顎を押し開き、口腔内に侵入する。押しのけようとする両手をものともせず、スカ 
ーレットはさらに強く少年を抱き寄せてその唾液と舌をむさぼった。 
 じたばたと腕の中でもがくプライマルが見たのは、淫魔の美女の、その髪と同じ紫色の潤んだ瞳の奥 
に渦巻く、底知れぬ餓えと欲情だった。 
「ん……んむ……ぅ……っ!」 
 ぴちゃくちゃと、スカーレットの舌がプライマルの唇を、歯を、粘膜を蹂躙する。本能的に舌をちぢ 
こまらせて逃げようとするが、スカーレットの舌は巧みにそれを追いかけ、何度も何度も絡み合わせて 
吸い上げる。さらに右手は頭を捕えたまま、左手で少年の腰を抱えぐいぐいと自分の胴体に押しつけ密 
着させてくる。 
 息ができない。酸素ではなく、むせるような、どこか甘い女の匂いだけが体内に送りこまれてくる。 
淫魔の舌が口内をすべり、粘膜をくすぐるたびにプライマルはびくびくと体をはねさせた。 
 腰に回された手が背中の隅々を愛撫する。衣服の上からだというのに、その甘美な刺激はプライマル 
から確実に抵抗の意思を奪っていく。 
「はぁ……っ!」 
 窒息寸前でプライマルは縛めから解放された。後ろにとびすさり、荒い息をつきながらなんとか事態 
を把握しようと試みたが、先程の鮮烈な感触が邪魔をする。 
「何、するん、です……かっ」 
 できるだけ顔をそむけるようにして、ようやくそれだけの言葉を搾り出す。 
 知られてはいけない。羞恥で泣きそうになっていることも、この上なく速く脈打っている心臓の鼓動 
も、そして白い、神聖な衣の下で脈打ちいきり立っているモノも。 
「プライマル君……違うの……私……あんな……違う……」 
 立ちあがり、半ば涙声になりながらスカーレットも少年に弁解する。 
 恥ずかしくてどこかに隠れてしまいたい。なぜあんなまねをしてしまったのか、なぜ自分はあんなと 
ころに倒れていたのか。混濁した意識にふと、この館に住むもう一人の天使の顔が浮かんだ。 
 ヴァ−ル。 
 あの男だ。あの男が自分の前でなにかの書物を広げ呪文を唱え、そこで意識が途切れた。目がさめた 
時には間近に心配そうな眼差しをむける少年の顔があり、そして… 
 さっきの瑞々しい精気の味と、少年の、少女のような美貌に浮かんだ快楽の表情、抱き締めた時に感 
じた華奢な肢体の感触とが、熱となってスカーレットの全身をぐるぐる回る。 
 こんな子供に欲情してしまった。しかもあろうことか、自分の「オンナ」はまださらなる熱を欲しが 
っている。 
「プライマル君……さっきのは違うの……。あいつが私になにか変な術をかけて、それで……」 
 そう言っているあいだも、視線は無意識に少年のさらさらの金髪やほっそりとしたうなじ、衣から僅 
かに覗く素肌をさまよっていた。 
 身体の奥から涌き出る欲望はますます強くなるばかりだ。このままでは本当に押さえが効かなくなっ 
てしまう。 
「だから……ごめんなさい。……すぐに出ていくから。ごめんなさい……」 
なにか言いたげなプライマルを無視し、ここは自分の部屋だということすら忘れて、スカーレットはよ 
ろよろと歩き出した。 
 ぎゅっと拳を握り締め、出口まで一直線に足を進める。ドアまで後1歩だ。 
 ひとりでにドアが開いた。 
 いつもののほほんとした笑いを浮かべて、ヴァ−ルがそこに立っていた。 
「なんだ、効き目が薄かったかな、これ」 
 手に持った書物をひらひらさせてヴァ−ルが言った。 
「どういう…」 
「どういうことだっ!!」 
 スカーレットの声は途中で掻き消えた。 
 おそらく一部始終を見られていたであろうことへの羞恥、年上の美女に対する罪悪感、そしてわけの 
わからない状況で節操なく興奮してしまった自分への嫌悪。それらすべてを怒りに転化してプライマル 
は叫んだ。 
「なに、最近とみに生意気になってきた侍従を再教育してやろうと思ってな」 
 まったく動じた風もなくヴァ−ルが答える。 
「それで書庫から面白いものを掘り返してきたんだが……。どれ、もう一度だ」 
「黙れっ!!」 
 ヴァ−ルは飛びかかろうとしたプライマルを一瞥すると。ちょい、と右手を動かした。 
 まるで床に縫いとめられたようにプライマルの動きが止まる。 
「自分が2級天使のそのまた下の召使だってこと忘れてないか、お前」 
 声すら出せず硬直したプライマルに呆れた顔をむけると、ヴァ−ルは唖然として立ちつくしているス 
カーレットに向き直った。 
「さて、今度はうまくやらないとな」 
 書物を開き、記された呪文をなぞっていく。次第にスカーレットの瞳に恐怖の色が浮かび上がった。 
「いやあぁぁぁぁっ!! やだ、やめてお願いっ……あっ!?」 
 身体の深奥から再び欲望と渇きがこみあげてくる。今までの衝動とは比べ物にならないほど熱く、深 
い。 
「……あ、あ、なにこれ……っ……くぅ!」 
 髪の毛からつま先までが熱に覆われている。息が荒くなり、足が震える。胸当ての下の乳首がひとり 
でに固くしこり、股間を覆う布には黒い染みが浮き出していた。 
「簡単に言えば魔族の体を構成する魔力の流れをいじくって、腹を空かせたりいっぱいにしたりする呪 
法だそうだ。見つけるのに苦労した……このあいだ言わなかったかな?」 
「あ……あ……んく……は……」 
 声が遠く聞こえる。 
欲しい。欲しい。乳房と股間に自分の手を這わせ、哀願するような眼差しをヴァ−ルに向ける。すでに 
秘裂はべとべとにぬかるみ、あふれ出た蜜は太腿まで滴っていた。 
「まあスカーレットの場合、種族の特性上欲しくなるもの少々特殊なんだが……おっと、こっちじゃな 
くて、あっち」 
 ヴァ−ルは、足元にひざまずき、ズボンに手をかけようとしていた淫魔の娘を引き剥がすと、先程か 
ら動けないままのプライマルのそばまで引っ張っていった。視線の高さをプライマルに合わせ、にやり 
と笑う。 
「というわけだ、プライマル君。せいぜい頑張ってくれたまえ」 
 言って再びちょい、と右手を動かす。 
 体の自由を取り戻した瞬間、プライマルは床に押し倒されていた。 
「やめろっ! やめさせろちくしょう!」 
 のしかかられ、衣服を剥ぎ取ろうとする手と、しきりにおしつけられてくる唇と舌とに抵抗 
しながらプライマルがわめく。 
 ヴァ−ルはなにも答えようとはしない。椅子などに座って、にやつきながら足元ではじまっ 
たショーを見物している。 
「破戒天使っ! 悪魔っ! 地獄に落ち……ぅぐっ」 
 さらなる罵倒をあびせようと開いたプライマルの唇をスカーレットが塞いだ。 
 先刻の、口腔じゅうを荒らしまわるような獣じみたキスではない。優しく、ゆっくりとした 
動きで舌を這わせ、またもおびえて奥に引っ込んでいる少年の舌にふれさせると、慰撫するよ 
うになで上げる。さらになおも抗う両手を自らの乳房に導き、そっと押しあてた。 
「ん……う……ぁ……ふ…ああ……」 
「ん……んく…うん……」 
 両者のくぐもったうめきと、吐息だけが響く。 
 いつしかプライマルは、自分の口内でうねうねと動くやわらかなものを受け入れ、自分から 
もぎこちなく舌を絡ませていた。 
(私、感じてる……たったこれだけで……) 
 ぎゅっと目をつぶり頬を紅潮させ、慣れぬ感覚に必死で耐える少年の顔にスカーレットは身 
震いした。 
 揉まれるでもなく、ただ軽く触れられているだけの胸からひりつくような快感が全身に走る。 
重ね合わせたままの舌からは、直に少年の興奮が伝わってくる。 
(かわいい……) 
 少年の目から動揺と恐怖が完全に消えたことを確認すると、淫魔の娘は唇を解放した。混じ 
りあった唾液が糸を引いてきらきらと光る。 
 欲しい。 
 今すぐ。 
 この子を裸にし、露になった肉茎を自分の中で存分に味わいたい。 
 自分の固くなった乳房をもみしだき、濡れそぼった蜜壷をこすり、深々と子宮を突きまわし 
てもらいたい。 
 淫らな想像に意識をとばされそうになりながらも、それでもわずかに残った理性をふりしぼ 
って、スカーレットはヴァ−ルをにらみつけた。館の主は相変わらず椅子に腰掛け、こちらに 
笑みを向けている。 
「出ていって」 
「プライマルはいいの?」 
「いいから、出ていって!」 
「奴隷の分際でずいぶんじゃないか」 
「どれ……!!」 
 言葉を失ったスカーレットに追い討ちをかけるようにヴァ−ルは続ける。 
「そうだよ。この館にいるのは俺と、召使いが一人と、お前ら4人の女奴隷だけだ。…ああ、 
 さっき奴隷が5人になったんだっけか」 
 プライマルが蒼白になった。信じられないといった表情でなおもスカーレットが叫ぶ。 
「正気なの!? 天使が天使を奴隷にだなんて!」 
「いたって正気さ。さて、奴隷は仕える主人に奉仕し、また楽しませる義務があると思うんだ 
 がね」 
「誰が!」 
 ヴァ−ルはそれ以上なにも言わなかった。代わりに手にした本を開き、先程と同じページの、 
同じ呪文を唱える。 
一瞬怒りに吹き飛ばされたはずの欲情が、スカーレットのなかで再び荒れ狂いだした。 
「ひいいぃぃぃっ! 熱い、あついあついあついぃぃぃっ!!」 
「うん、結構結構。それじゃ再開といこうか?」 
 駄目だ。こんなやつの言いなりになっては駄目だ。自分は魔界でも由緒ある淫魔の一族なの 
だ。こんなやつに屈服させられるわけにはいかない。 
「はう……あん……は……いやぁ……」 
 転げまわりながらも歯をくいしばり、拳を握り締めて必死の抵抗を試みる。だが、ずっしり 
とした胸が、女性らしく発達した腰が、むっちりとはりつめた太腿が、のたうち床にこすれる 
たびに正常な意識を削り取っていく。 
「いや……こんな……いや……」 
 ヴァ−ルが席を立った。倒れ伏したままうわごとのように繰りかえすスカーレットに近づく 
と、つま先を彼女の太腿の間に潜りこませる。そして蜜で溢れかえりもはや下着としての用を 
なしていない布きれに狙いを定め、足首で捻りをいれながらえぐりあげた。靴に染みがつくの 
も構わず、ぐちゃぐちゃと卑猥な音を響かせながら突きあげ続ける。 
「あああああああああっ!! 駄目、出ちゃう、出ちゃううううううぅ!!」 
 絶叫とともにスカーレットの股間から黄金色の液体が噴出した。かすかな刺激臭と、淫魔の 
愛液特有の甘ったるい香りが部屋を満たしていく。 
「おやおや、淫魔のお嬢様がお漏らしとは。一体誰が掃除すると思っているんだ? なあ、プ 
 ライマル?」 
 目の前の痴態に固まったままのプライマルに皮肉げな視線をむけつつ、ヴァ−ルが嘲笑する。 
 そして放尿とともに絶頂を迎え脱力したスカーレットの股間をもう一度足で撫で上げると、 
それだけで淫魔の秘裂は新たな蜜を分泌しはじめた。 
「……ぁ……あ……あっ!?」 
「これは魔力を注いだり抜き出したりする呪法だって言ったろ? スカーレットにとっての魔 
 力の源である精気を補充しなきゃ、いつまでたってもこのままさ」 
「そんな、ひどい……あああぁ……熱い……あつい……の……」 
「ほら、プライマル。お嬢様が大層困っておいでだぞ? なんとかしてやったら?」 
 突如矛先を向けられ、プライマルは我にかえった。ズボンを突き上げている、怒張しきった 
こわばりを必死で両手で隠しつつ、しりもちをついたままの姿勢でずりずりとあとずさる。壁 
に背中がつくまで後退してから、のどに精一杯の力をこめて叫んだ。 
「なにがなんとかだっ! だ、大体、天使が悪魔を……悪魔を……」 
「抱くことはできないか?」 
「……!!」 
 ずばりと言われ、プライマルは言葉を失った。ヴァ−ルはまたにやにやと笑っている。たま 
らず視線を逸らした瞬間、こちらを見ていたスカーレットと目が合ってしまった。 
「困ったなあ、スカーレット。神聖にして唯一絶対の我らが神のしもべたるプライマル君にお 
 かれましては、不浄な悪魔娘など抱くどころか触りたくもないそうだ」 
「プライマル、くん……」 
「あ……あの……あの……」 
 四つんばいになったまま、壁際で震える少年に向かって、スカーレットがゆっくりと距離を 
つめていく。体内に燃える炎はさっきのヴァ−ルの言葉に煽られ、さらに火勢を強めていた。 
 抱く。抱かれる。犯す。犯される。交わり。性交。セックス。 
 限界だった。頭の中でそれらの言葉ががんがんと反響する。押さえきれない獣欲が、見られ 
ているという事実をどこか遠くに押し流していく。 
 「我慢、できないの……お願い……」 
 互いの息がかかる距離まで顔を近づけ、切なく、ねっとりとした声で淫魔が囁く。少年のお 
びえた瞳も、今はかえってスカーレットの欲望を増幅させるものでしかない。 
「やさしく、するから……ね……?」 
 そこまで言うと、返事を待たずスカーレットはプライマルのズボンを引き下ろした。 
「あっ! や、やだっやめてっやめてっ!」 
 じたばたと足をよじらせプライマルは必死に抵抗を試みた。だが、中途半端な位置までずり 
下がったズボンが足を拘束する形になり、逃げることができない。 
 押しのけようとする両手を同じく自分の両手で押さえつけると、スカーレットは少年の下着 
のすそを咥え、半ばひきちぎるようにして脱がせてしまった。 
 途端、スカーレットの目の前に少年の肉茎がぴょこんと顔を出した。サイズも未発達で、ピ 
ンク色の先端もまだ包皮に包まれてはいるが、血管を浮かせ先走りの汁にまみれたそれはまぎ 
れもなく男の象徴だった。そのひくひくと震える物体を目にした瞬間、躊躇なく彼女はそれを 
ほおばっていた。 
「ひゃう! やめて、やめぇ……やあぁぁぁっ!」 
 プライマルが少女のような悲鳴をあげる。 
それにかまわずスカーレットは口の中に閉じ込めた肉幹に舌を絡ませた。先走りをすくいとり、 
自分の唾液と混ぜ合わせ余すところなく塗りたくる。 
 やがて乾いた部分が完全になくなると、スカーレットは一旦獲物を解放した。一度だけ深呼吸
をして息を整え、半べそをかいている少年のものを再び咥えこむ。上あごの部分の粘膜と舌で幹
と亀頭をぴっちりと包み、首と舌を別々に動かしてやすりをかけるようにこすりたてる。 
そのまま舌の動きを持続させつついっそう強く粘膜を貼りつかせると、蝶が花の蜜を吸い出す 
ように思いきり喉の奥へと吸いあげた。 
「ひあああああぁっ!」 
 痛みさえ伴うほどに強い吸引に、プライマルは恐怖と快感がごちゃまぜになった絶叫をほと 
ばしらせた。 
 ぬるぬるとした舌が絶え間なく動き回り、幹を、先端を舐めしゃぶる。ときおり不意を突く 
ように舌先が尿道口にあてがわれ、切れ目をぐりぐりとくじりたてる。 
 天性の技ともいえる淫魔の舌使いに体がとろけていく。手足を封じられたまま責め立てられ、 
できることはこうして声をあげることだけだ。青い瞳からぼろぼろと涙をこぼしながら、プラ 
イマルは錯乱したように頭を振った。 
 一瞬、視界の隅にヴァ−ルの姿が映った。今更ながらその存在を思い出し、羞恥で顔がさら 
に赤くそまる。 
「見るなっ! 見るなっ……ひぁっ……見ないで……あああああっ!」 
 拒絶の叫びはすぐに弱々しい哀願となり、自分のモノが飲みこまれてしまうのではないかと 
思えるほどの強い刺激が再び悲鳴を呼び起こす。それとともに体の奥底から湧きあがる熱いた 
ぎりがじわじわと股間に集中してくるのが感じられた。 
 少年の絶頂が近いことを敏感に察知したスカーレットは今まで捕まえていた両腕を解放した。 
同時に自由になった自分の手をそれぞれ肉茎と陰嚢にそえて荒々しくしごきあげ、もみしだく。 
とどめとばかりに包皮を剥きおろし、露出した先端に舌を巻きつけ思いきり吸い込んだ。 
「嫌……出るよぉ……いや……あ、あ、痛い、痛いよっ出ちゃうよぉっ!!」 
 皮を剥かれた痛みと、敏感過ぎる剥き出しの亀頭に与えられる刺激に脳が混濁する。次の瞬 
間、目の奥で白い光が爆発し、プライマルは淫魔の口中に欲望のかたまりを解き放っていた。 
「やあああああぁっ!」 
「んうっ! ぅん……ん……んく……んー……」 
 五回、六回……喉奥に勢いよく精液が叩きつけられる。形がわかるほどに濃い白い飛沫を、 
スカーレットは眉一つ動かさずに飲みこんだ。手と唇でつくった輪でびくびくと余韻に震える 
肉幹をしごき、尿道に溜まった残滓を一滴残らず搾りだす。 
 同時に、絶頂とともにプライマルの体から放たれた大量の精気が体内に吸収されていく。少 
年の精気は想像していた以上に純度が高く、体に巣食った獣の欲情は急速に鎮まっていった。 
 ようやくながら餓えを満たし、スカーレットは少年のものを解放した。文字通り精を吸い尽 
くされて虚脱状態になっているプライマルにそっと寄り添い、やさしく抱きしめてやる。 
「……大丈夫だった?」 
「……痛かった、です……」 
「ごめんなさい……やさしくするって言ったのにね……ありがとう」 
 ぐすぐすとしゃくりあげながら上目遣いにこちらを見る少年がこの上なく愛らしく思え、ス 
カーレットはその頬に何度も口づけを繰り返した。今度は一瞬身体を震わせただけで、プライ 
マルはその行為を受け容れたようだった。 
 このまま眠ってしまったらどんなに幸せだろうか。二人がそんなことを考えたとき、頭上か 
らおどけた、しかし冷徹な声が降りかかった。 
「いい雰囲気だね、お二人さん」 
「今度は、何?」 
 プライマルをかばうようにして、スカーレットは殺意すらこもった視線をヴァ−ルに投げつ 
けた。さっきからずっと自分たちの嬌態を見続けていたくせに、次はなにをさせようというの 
か。 
 察しがいいな、とヴァールは笑い、そして言った。 
「今日はプライマルを教育するって言ったろ? スカーレットが先生になって、女ってやつを 
 教えてやってくれよ。『ここ』で」 
 さらりと、まるで「学校の勉強を教えてやってくれないか」とでもいうような気軽さで、若 
い天使はとんでもないセリフを口にした。 
 あまりのことにスカーレットは顔色を失った。再びこの男に対する怒りがこみあげてくる。 
「できるわけないでしょう! 私はそんなはしたない女じゃないわよ!」 
「はしたなくない女ってのは、無理矢理子供を押さえ込んで咥えるような女のことかな?」 
 皮肉たっぷりの言葉に、飛びかかりそうな剣幕でまくし立てていたスカーレットの表情が一 
変する。腕の中ではプライマルが先程の強姦同然の営みを思いだし、身を固くしていた。 
「あれはあなたが、あんな……」 
「もう一回使って欲しい?」 
「なんでそうなるのよっ! 絶対にいやですからねっ!」 
 やれやれ、といった風にヴァ−ルは肩をすくめた。例の本を片手に、ようやく上半身を起こ 
した二人を傲然と見下ろし冷たく言い放つ。 
「もう一度言うぞ。お前らは奴隷で、俺は主人だ。主人が奴隷をどうしようと自由ってことだ。 
 わかるか?」 
 淫魔の娘が何か言い返そうとする前にヴァ−ルは続けた。 
「大体、いまさら恥ずかしがることでもないだろう? お前は毎晩毎晩俺のものをくわえてよ 
 がっていたじゃないか。特にこの間は……」 
 「やめてっ!! ああ、言わないでっ! 言わないでえっ!」 
 露骨な辱めの言葉を浴びせられ、突如淫魔の娘が泣き叫んだ。それを無視してヴァールは次
々と今まで行ってきた「仕事」を詳細に、時には誇張を交えて言葉で再現していった。 
 絶望がスカーレットの心を徐々に覆い隠していく。 
 知られてしまった。はたしてプライマルは最初からこのことを、今までこの館で行われてい 
たことを知っていたのだろうか。もし知らなかったのだとしたら、どんな気持ちでいることだ 
ろう。 
 毎日男を迎え入れ、精を注ぎこまれているような淫売に犯されてしまった。そんな風に思っ 
ているのだろうか。 
 やがて得々と話していたヴァ−ルが言葉を切り、手が再びページを繰り始めた。その動きに 
二人の口から押し殺した悲鳴が漏れる。やがて呪文の最初の一説を唱え終えたとき、なぜかヴ 
ァ−ルは視線を書物からスカーレットらの方に動かした。 
「素直に言うことを聞いたほうが身のためだぞ」 
 わけがわからずこちらを見つめたまま震えている二人に、丁寧にも説明してやる。 
「この呪法を使う限り、スカーレットはずっと腹を空かしたままだ。ほっとけば魔力がすべて 
 流れ出て、衰弱して死ぬ。相手をするプライマルも、際限なく精気を吸い取られて死ぬ。さ 
 て、どっちが先かな?」 
「っ……この悪魔!」 
「お前が言うかな。それに俺はやさしいぞ……普通にすればこの一回きりで許してやる」 
「そんなこと、信じられるわけ……!」 
「じゃあしょうがないな。いや、残念」 
 残念さなど微塵もこめずに言うと、ヴァ−ルは第2のフレーズにとりかかった。力ある言葉 
がスカーレットの体に再び火種を送りこもうとしたとき、か細いつぶやきが詠唱に重なった。 
「やめてください……」 
 弱々しい、だがはっきりとした声はプライマルの口から発せられたものだった。目をふせ、 
震える声で少年は懇願する。 
「僕は、なんでもする……しますから、スカーレット様は……お願い……です……」 
 どうしてどうして、意外な展開だ。狂わせたスカーレットを使って少年の体と心を滅茶苦茶 
にしてやろうと思っていたのに、あちらが先に屈服するとは。ヴァ−ルはほくそえみ、呪文書 
を閉じた。 
「ずいぶんと健気じゃないか。ひょっとして悪魔に惚れたか?」 
 少年は答えない。女性的な顔に涙の跡をのこしたまま、ぐっと唇をかみ締め恥辱に耐えてい 
る。 
「そんなのじゃない……ありません……お願いですから……もう……逆らったりしませんから 
 ……」 
「どうかな。プライマルくんは口がうまいからなあ」 
「本当です……信じてください……」 
「へえ? でも保証なんてどこにもないぞ?」 
「そんな……信じて……」 
 言葉の端々に悪意をのせて、ねちねちとヴァールはプライマルをなぶる。いつもの強気な顔 
をぐしゃぐしゃにして哀願する少年の姿に、ヴァ−ルの嗜虐心は徐々に満たされていった。 
「でも、駄目だ」 
 死刑判決を下す裁判官のように、ヴァールは宣告した。少年の金髪をひっつかみ、スカーレ 
ットに向けて荒々しく放り捨てる。 
「何度も言ったはずだ。俺が主人で、お前らは奴隷だと。やるんだ。ここで。いますぐに」 
 凄みを出すため、言葉を短く切って命令する。 
 なんとかプライマルを受けとめたスカーレットは、少年の目にも自分と同じある確信が浮か 
んでいるのを悟った。 
 逃げられない。 
 もう、逃げられない。 
 頭の中で何かが切れた。やがて、天使の少年と淫魔の美女はどちらともなく肌を刷り合わせ、
互いの舌をむさぼりはじめていた。 
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