〜乃絵美・The・Gut!! Ending〜

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「はぁ・・・」

乃絵美はため息をついた。

全身の擦り傷が、St.エルシアの制服と擦れ合って、痛い。

堂島の毎日の責めのせいで、満身創痍だった。

けれど、体中の軋むような痛みよりも、抱かれるほどに全てを忘れて堂島の快楽に身を委ねてしまう自分自身への嫌悪感が、乃絵美をますます暗い気分にさせていた。

(いっそ・・・もう死んじゃうしかないのかな)

とすら考えてしまう。

堂島に抱かれて、無我夢中で痴態を晒し続ける嫌らしい自分。

それを兄に知られたくなくて、今日まで来たのに。

なのに、乃絵美の知らないうちに、兄にはつきあい始めた女性がいて。

そして、自分だけが、淫楽地獄へと堕ちていく。

(もう・・・どうでもいい・・・)

考えれば考えるほどに、自暴自棄な気持ちになってしまう。

「はぁ・・・」

何度目かになる深いため息をついたときだった。

「きゃあああっ」

突然、視界が青空でいっぱいになる。

どさっ。

と、音をたてて、乃絵美は尻餅をついた。

「痛たた・・・」

強い痛みを発する臀部を押さえる。

(青痣になっちゃうかなあ・・・)

痛みに顔をしかめながら、周囲を見渡した。

よく見ると、それは、地上から1メートル強ほどの深さに掘られた穴だった。

「どうして・・・こんな・・・?」

呟いて上を見ると、確かに道路工事の標識がある。

「あ・・・」

思わず、自分のドジに呆れた。

(道路工事の表札に気づかないほどに、ぼんやりしてたなんて・・・)

そう考えて、またため息をついた。

「よう。大丈夫か?」

ふいに陽光が遮られて、背後から声がした。

「は・・・はいっ」

慌てて、返事をする。

工事現場に落ちたのだ。

厳しく怒られてしまうかもしれない。

そう思うと、緊張した。

「す、すみません。つい・・・ぼんやりしてて」

謝りながら、言い訳する。

「ははは。いいってこと。怪我はないか?」

声の主は、少しだけハスキーな女性。

しかし、逆光越しに見えるその女性の姿は、乃絵美には形容しがたいものだった。

一言で言い表すとすれば、異形。

女性とは思えない発達した筋肉が、ボディビルダーのようなシルエットを描き出す。

けれど、その乳房はボディビルダーにはない豊かな丸みを帯び、女性らしい美しさすら誇っている。

「あ・・・あの・・・あなたは・・・?」

乃絵美は、おずおずと聞く。

逆光の向こうに佇む女性は、おそらく笑ったのだろう。

なぜだか、漏れた笑みから覗いた白い歯が、きらりと光った気がした。

「アタシは、高原美奈子。タカって呼んでくれよな」

高原美奈子と、伊藤乃絵美。

それは、運命の出会いであった。

「先生」

男が、耳打ちする。

先生と呼ばれた中肉中背の男は、男の話に耳を傾けようと、動きを止めた。

男の動きが止まると、荒い息を整えながら、少女が離れる。

少女を抱いていた男は、堂島薫。

少女の名は、芳野雨音と言う。

雨音は、乃絵美が姿を消してから、雇い入れた召使いだった。

乃絵美が消えてからというもの、すっかり意気消沈した堂島を見かねて、部下たちなりに乃絵美に似た雰囲気を持つ大人しい少女を捜してきたのだ。

雨音は、嫌がっているものの、吸い付くような白い肌と、どん欲な肢体が、見る間に堂島の欲望を吸い込んで、堂島ごのみの女へと変わりつつあった。

滅多にはないが、日によっては、雨音のほうから求めてくることもある。

しかし、抱けば抱くほど、堂島には乃絵美との違いばかりを感じて、果てた後にふさぎ込んでしまう。

そんな折りのことだった。

「伊藤乃絵美が・・・見つかりました」

男は、写真を見せる。

望遠で取ったのだろう。

喫茶ロムレットの窓越しに、乃絵美の横顔だけが覗いている。

「乃絵美・・・」

堂島は、食い入るように写真を見つめる。

「・・・昨日、帰宅したようです」

男は、それ以上何も言わず、引き下がった。

変わって、召使いが前に出る。

召使いの手には、いつものYシャツと背広。

堂島は、すぐさまシャツに手をかける。

「行くぞ」

玄関から、堂島を待つ車のエンジン音が聞こえていた。

カランカラン。

カウベルの音が、ロムレットに鳴り響いた。

久しぶりのロムレット。

そこは、以前乃絵美を抱いていたときと、全く変わらない様子だった。

「乃絵美!」

堂島は客の目も気にせずに、少女の名を叫んだ。

客の目が一斉に集まる。

けれど、それはゆっくりと、哀れみの表情を称えて、伏し目がちに逸らされて、皆一様に見なかったような素振りへと変わっていった。

「あの・・・堂島先生・・・何か?」

カウンターの奥から、気の弱そうな店長が出てくる。

乃絵美の父。

それだけの理由で、喫茶店の存続と経営を許されている男だった。

「乃絵美を出せ」

話す間も惜しいという様子で、堂島が詰め寄る。

「わわ・・・その・・・娘は・・・」

襟首を捕まれて、乃絵美の父はしどろもどろになる。

「出せ!」

そう詰問した時だった。

「待ちなよ」

厨房から、エプロン姿の屈強な女性が現れた。

高原美奈子。

それが、その女性の名だった。

「な、なんだ・・・お前は」

自分より首一つ以上大きな筋肉の塊を前にして、堂島はひるんだ。

「私は、高原美奈子。タカって呼んでくれよな」

言いながら、乃絵美に出会ったときと同じように快活に笑う。

「わ、儂は・・・乃絵美を呼んだんだ・・・お前じゃないっ」

今度は、堂島のほうがしどろもどろになる。

しかし、いかなることがあろうとも、引き下がる気はなかった。

堂島の股間では、かつてないほどに欲望がたぎり、骨より硬いとすら信じられるほどの大きな盛り上がりを誇示していた。

「乃絵美は、どこだ」

もう一度聞く。

困ったような表情で、乃絵美が奥を向いた。

「どうする?」

声に応じるように、奥から人の気配が現れた。

「出ます」

それは、かつで堂島の腕でかぼそい声を立てて泣いていた少女の声そのものだった。

「乃絵美っ」

思わず、堂島は駆け出す。

かけだして、住居と喫茶店を仕切るのれんをかき分けたとき、大きな衝撃にはじき飛ばされた。

「つっ!?」

壁ではない。

けれど、それはまぎれもなく、堂島をはじき飛ばすほどの頑強な壁のようだった。

「・・・人?」

尻餅をついたまま、見上げる。

そう。

それは、まさしく鋼のごとく鍛え上げられた筋肉。

肉の壁だった。

「堂島・・・」

肉の壁から乃絵美の声がした。

「そんな・・・・・・!!?」

混乱しながら、目を細めて、正体を見極めようとする。

「そんな・・・そんな・・・」

堂島は、パニックに陥りながら、驚愕の声を漏らしていた。

「・・・乃絵美・・・・・・なのか」

肉の壁が、大きく頷いた。

「どうする?」

タカが声をかけた。

どちらに向けて言ったかは判らない。

にも関わらず、乃絵美が頷いた。

乃絵美は、堂島に抱かれていたときと変わらぬ清楚で愛らしい顔立ちを残したまま、鋼の筋肉を鍛え上げている。

それは、師であるタカの指導のもと、肉体改造とすら思えるほどに肉体を苛め、鍛え抜いた結果だった。

それは、堂島にとって悪夢の結果であったが、病弱な体質から解放された乃絵美にとって、嗜虐からの脱出をも意味していた。

「あわ・・・わ・・・」

言葉にならない言葉だけが、堂島の口から漏れる。

そんな堂島を見て、タカが頷いた。

「いいのですか」

武人らしく、乃絵美が聞いた。

その言葉遣いは、かつての乃絵美ではない。

むしろあらゆる地獄を乗り越えてきた修羅のみが発せられる鉄の言葉のようだった。

「ああ。折角勃ったチンポだ。もったいないからな」

そう。

堂島は、こんな状態になりながらも、その肉棒を衰えてはいなかったのだ。

その肉棒めがけて、筋肉の山が動く。

「あひぃっ」

半ば強引にパンツをはぎ取られた堂島は羽交い締めにされて、為すすべもなく、乃絵美の唇に愚息を預けさせられていた。

「んむっ・・・んっ・・・」

尋常成らざる肺活量を活かした業務用バキュームのようなフェラチオが堂島を一瞬で昇天させる。

「はぁ・・・はぁ・・・」

荒い息をしながら、堂島は逃れようとする。

しかし、丸太ほどの太さを持つ乃絵美の腕が堂島を決して逃さない。

「た・・・たっ・・・助けてぇっ!」

店中に、絶叫が響いた。

(先刻の客たちがみせた気の毒そうな表情は、このことだったのか・・・!)

気づいたときには、既にもう逃れることの出来ない乃絵美の領域に捕らわれていた。

「ほら、また勃ってきたじゃねえか」

タカがけしかける。

バキューム並のフェラチオが壮年の男竿を見る間に堅く変貌させた。

「い、い、いけない・・・いけません。もう、勘弁・・・」

半泣きの堂島の必死の懇願も空しく、乃絵美は堂島の上に乗り、勢いよく腰を落とした。

「ひいいっ」

堂島の竿は、乃絵美の鍛え抜かれた括約筋に鬱血寸前まで締め付けられる。

「お、お、お・・・折れるぅぅっ!!」

堂島の絶叫を肴に、乃絵美はうっとりと腰を動かし始めていた。

「気持ちいい・・・」

声だけは愛らしい乃絵美の艶やかな吐息がこぼれた。

これが望んだ形ではないけれど。

けれど。

堂島は、ゆっくりと理解しつつあった。

こんな形の愛があってもいい。

そう思えるほどの、激しい快楽。

「は・・・はひぃっ・・・で、出ます。出ちゃいますっ・・・」

堂島の申告に、乃絵美の平手が頬を打った。

「ぎゃぶっ」

頬を張られた勢いで、奥歯の数本が床に散った。

「私がイくまで待て」

そう言って微笑む乃絵美が、堂島には何故だかとても魅力的に感じる。

「は、はいっ!」

幸せな二人の日々が、これから始まろうとしている。

屈強な乃絵美に抱かれながら過ごす余生。

それは、魅惑的な老後になりそうだった。

<おしまい>

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