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遙の部屋1

 窓の外に広がるのは冬特有の曇天の風景。今にも雪が降りそうな寒々とした世界。

しかし、暖房の効いた部屋の中は温かだ。孝之の頬を伝った汗が、ぽつりと肋の

浮かんだ胸へと落ちる。

「……あ、……あぁ」

 孝之が腰を打ち付けるたび、嬌声が漏れる。未だきつさの残る壁を押し分け、

先端が一番深いところを何度も叩く。以前に比べれば幾分マシに成りつつあるが、

乱暴に扱えば折れてしまいそうな細い体。そんな遙に大きく足を開かせ、容赦なく

何度も腰を振る。遙も感じているのか、孝之の腰のリズムに合わせて自らも動く。

「ああ……、た…孝之君……今日は…大丈夫だから……中でも……いいよ」

 喋るのもやっとという感じで遙が孝之に言う。孝之はそれには答えず、高まり

つつある放出への達成感を感じ、遙の背中に手を回す。密着度を高めながら、

さらに激しく腰を使う。胸板には押しつぶされた遙の胸の感触。そしてその胸の

先端で固くなっている物も感じられる。

「あっ………、もう……」

 もうすぐいきそうなのか、遙も孝之の背中に手を回す。そして、お互いにきつく

抱きしめあう格好となった。

「くっ……」

 孝之は射精感を覚え、遙の中から抜け出す。そして、遙の日に焼けていない

真っ白なお腹の上に熱い粘液を吐き出した。

「もうっ……孝之君……今日は大丈夫って言ったのにぃ」

 遙は頬を膨らませ、至極残念そうに孝之に言う。

「………ゴメン」

 いくら遙が良いと言ったからといって、流石に中出しはまずい。そう思いつつ、

言葉の上だけで孝之は遙に謝る。そして、遙のお腹の上の物をティッシュで拭き

取った後、ベットの上にゴロンと横になった。もう、何度見たか思い出せない、

遙の部屋の天井。それをただ、ぼーっと眺める。

 そんな孝之の胸元に遙がすり寄る。

「ねえ、孝之君?」

「……ん?」

「わたし、昨日橘町の駅前で見たんだ。水月とね……、平君が一緒に歩いてた」

「……………」

「あっ……ゴメン。また変なこと言っちゃったのかな。ゴメンね、孝之君……」

 無言でいる孝之に、慌てて遙は謝った。

「………いいよ。水月のことはもう好きとか嫌いとか……、そんな風には思って

 ない……、と思う……」

 遙の方にはあえて向かず、天井を見上げたまま孝之は言う。水月には感謝して

いる。その思いは今でも変わらない。ただ、今自分が本当に好きで、愛している

相手は、もう水月でないのは確かだ。

「………そうなんだ。それでね、平君と水月、どうも付き合ってるみたいだったよ。

 以前の二人とは違う感じだった」

「………そうか。慎二のやつ、こないだ電話したときのもそんなこと言って

 なかったな。………遠慮でもしてるのか?」

「そうかもしれないよ。ねえ……孝之君、また4人で会いたいね。それで……ね、

 あのね……、今までは3人だけで飲みにとか行ってたんでしょ? 今度はね、

 私も飲みに行ってみたいな。ダメかなぁ?」

 孝之は、正直、まだ水月とは会いたくはないと思った。心の中では整理がつい

ていると思う。ただ、それは自分だけの事かもしれない。でも、水月も慎二とつ

きあい始めたとなると………、もしかしたらまた4人で会えることが出来るかも。

「今日、慎二に電話してみる。飲み会の件も含めて、それとなく聞いてみる」

「有り難う……孝之君。孝之君は、優しいね。あっ、そろそろ茜が帰ってくる

 時間だよ。1階のリビングに降りておこようよ」  

 遙はそう言った後、もう一度だけ孝之に口付けた。


居酒屋よろこんで

 数日後、スカイテンプルまで迎えに来た遙と並んで、孝之は橘町駅前の居酒屋

へと向かう。いまの孝之には遙のお願いは断ることは出来ない。4人で一緒に

飲みたいと言われた日、直ぐに慎二へ連絡を取った。

 飲みに行く約束以外にも、慎二と水月がつきあい始めたという遙の言葉を確かめ

たかったこともある。付き合っているかどうかということを遠回しに探ったが、

上手くはぐらされた感じだった。普段なら単刀直入に聞くことも出来たが、流石に

今回の相手が水月と言うことで聞くことが出来なかった。でも、飲みに行くのはOK

ということで今に至る。

「孝之君の働いているところはじめて見ちゃった。なかなか様になってたよ、孝之君。

 今度はお客さんとして行ってもいいかなぁ?」

「………ああ」

 曖昧な返事を孝之が返す。今日もスカイテンプルに遙が迎えに来たときに天空寺と

玉野さんにいろいろと突っ込まれた。あんまり嬉しい状況ではない。

「駄目なの?」

「いや………、遙が来たいならいつでも」

「ねえねえ、私も一緒にバイトしちゃ駄目? そうしたら、孝之君ともっと一緒に

 いられるよね」  

「……………」 

「あはは。大丈夫、冗談だよ。一緒にバイトしたら孝之君もっと困りそうだもんね」

 凍り付いた孝之を見て、遙はニッコリと微笑んで言った。初めて飲みに行くという

ことで、少しはしゃぎ気味な遙と、少し浮かない表情を浮かべる孝之。好対照な表情が

そこにはある。

「ん………遙。ここだ」

 居酒屋が並ぶ通り、その中一つの店の前で立ち止まる。居酒屋よろこんでと店の

看板が掲げられている。そこそこ安くてそこそこ美味い料理が食べれるお店。孝之の

部屋で飲むとき以外、水月と慎二と3人で良く来ていたお店。前に来たのはいつだっ

たか思い出せない。それぐらいここ数ヶ月の孝之のまわりは慌ただしかった。

「ねぇねぇ、孝之君。わたし3年間寝てたけど、一応成人だよね? お酒飲んでも

 捕まったりしないよね。捕まっちゃったら、お父さんもお母さんも泣いちゃうよぉ」

「…………大丈夫だろ。ほら、入ろう」

 店内にはいると従業員達の威勢のいい挨拶を受ける。がやがやと騒がしい店内は

今日も繁盛している様子で、テーブルは既に全部埋まっている。先に慎二と水月が

きているはず。孝之は店内を見渡す。そして、店内の一番奥のテーブルに2人の姿を

見つける。別れて以来初めて水月と会う。孝之は少し心苦しさを覚えて、すぐに

テーブルへ行くことを躊躇した。

「孝之君、水月達、あそこにいるよ。ほらほら、行こうよ」

 遙の言葉に背中を押され、孝之は漸くテーブルの方へ向かう。

「よっ。まあまあ、座れよ。おーい、おねえさん、ビール中瓶で2つ」

 テーブルに行くなり、慎二がてきぱきとその場を仕切る。孝之と遙は並んで

椅子に座る。

「水月っ、久しぶりだね」

「……うん。遙も……元気そうで安心した。もういいの?」

「まだちょっと不自由することもあるけど、大丈夫だよ。こうやって、みんなで

 お酒を飲むことも出来るし」

「そうなんだ……。遙が元気になって良かったよ」

 そう言う水月は見た目元気がなさそうだった。まあ、オレと会うのはまだ

早かったのかも……。孝之はそう思いつつ、水月と目をあわさないようメニューを

開く。そのメニューを物珍しげに遙が覗き込む。ピタリと肩と肩が触れ合う。

普段ならそんなことは気にしない孝之だが、今は水月の手前気になる。持っていた

メニューを遙に慌てて手渡す。

 孝之が水月の方を見ると、孝之の方を見ていた水月と目線があった。やはり

気にしていたのか、慌てて水月の方が目線を外した。

「いやいや、仲がよろしいようでお二人さん! なんか、昔に戻ったみたいだな」

「や……やだなぁ平君。そんなことないよね、孝之君」

 少し照れた笑いを浮かべた遙が、孝之に同意を求める。水月の表情はよけいに

曇った感じだ。普段なら気にしすぎるぐらいに気を遣う慎二が、何故こんな事を

言うのだろう。それを孝之は不思議に思った。

「じゃ、ビールも来たし、乾杯しようか。それでは、涼宮の回復と、4人の再会を

 祝して、乾杯」

「かんぱーい」

 お酒が入った遙は、いつもよりも饒舌でいろいろな話をした。昔の記念日の話

などをばらされそうになり孝之を慌てさせる。孝之も慎二も遙の話に乗せられ、

昔の話などに花を咲かせる。

 ただ、水月だけは頷いたり合いの手を入れるだけで、なんだか元気のない様子。

飲み始めてから今までの間、何度か慎二が水月の耳元で話をしていたぐらいだ。

手に持ったビールグラスの中身を水月はジッと眺めていた。

「水月………どうかしたの?」

「えっ……な、何でもないよ……遙。本当に………何でもない………」

 そう繰り返す事がかえって怪しい。やはりオレと会うのが気まずかったのか。

孝之は水月に悪いことをしたと心の中で謝る。

「あっ……」

 その時、水月が持っていたビールグラスを落とし、こぼれたビールがテーブルの

上に広がっていく。慌てて他の3人がおしぼりでそれを拭き取る。

「おいおい、もう酔っ払っちまったのか?」

「ご……ごめんなさい」

 孝之の言葉に水月が謝る。今日初めて成立した二人の会話。水月は気分が悪いのか

ぎゅっと目を閉じて何かに耐えているようだ。

「本当に大丈夫か?」

「あ……、だ…大丈夫だよ、孝之」

 心配そうに聞いた孝之に、そう答えた水月の声は震えていた。全然大丈夫そうには

見えない。額には脂汗がにじみ、頬が紅潮していた。

「ねえ、誰かの携帯に着信中だよ。ほらほら、携帯が振動している音がする」

「えっ!」

 水月が慌てた様に大きな声を出す。遙の言葉に、孝之は耳を澄ませると喧噪に

包まれた店の中、確かに携帯が振動する様なモーター音がしている。

「あっ、多分オレのだ。大学の講義中に着信音が鳴らないようにとマナーモードに

 してたから」

 そう言って慎二が、テーブルの下に置いてあった鞄の中から携帯をとりだした。

モーター音は止まった。

「おいおい、どっかの女からか!」

「ちがうぞ、うちの親からだ。おっと、ほらほらもっと飲もう」

 慎二はそう言って、孝之と遙のグラス、そして自分のグラスにビールをつぎ足す。

「速瀬は……まだ飲めそうか?」

「えっ……、もういいよ」

「やっぱり気分が悪いのか? 吐きそうなのか? そうならトイレに行って吐いて

 きた方が良い。オレがついていくから、遠慮すんな」

 遠慮しながらも、渋々水月は慎二に付き添われながらトイレの方に向かっていった。

そんな二人を見ながら、孝之はやっぱり付き合ってるのかとの思いを抱いた。 

 しばらく経って水月と慎二が戻ってきた。戻ってきた水月は何度も吐いたのか

目が赤く充血しており、顔も赤らんだままであった。目尻には涙がたまっており、

かなり辛そうな印象をうける。そして、足下もふらふらとしておぼつかない様子だ。

結局、今日はココでお開きということになり、4人とも店を出た。

「オレは速瀬を送っていくけど、孝之達も柊駅まで一緒に帰るか?」

「あ………、オレ達はちょっと寄るところがあるから」

 それは水月達を待つ間、遙が言い出したこと。3年前二人で行った海辺の公園に

行ってみたいとおねだりされた。今日は遅いからまた今度と言っても、どうしても

今日が良いと遙は頑だった。

「そっか、それじゃ気をつけて帰れよ。心配するな速瀬は家まで送っていくから」

「ああ、それじゃまたな。………水月も」

「………うん」

 その孝之の言葉に、ちょっと複雑な顔をしたが水月は頷いてくれた。孝之はそれが

嬉しかった。複雑な思いをしたけど、来て良かったと思った。また以前の様に4人で

会える。あの頃とはそれぞれの立場は変わってしまったけど………。

「ねえ孝之君。やっぱりってあの二人付き合ってるのかな?」

「………なんかそれっぽいな」

「そうだね。平君って昔から水月のことずっと見ていた感じだったよね」

 自分が叶えられなかった水月との幸せな未来。慎二ならそれを叶えてくれるかも

しれない。漠然とだが孝之はそうなって欲しいと思った。慎二になら………。


海辺の公園

 海辺の公園は12月の寒さもあってあまり人がいなかった。いるのはカップル達

ばかり。自分たちも男と女同士なんで文句は言えない。再び遙とこの場所を訪れる

ことになるとは……。半年前までは考えられないことであった。そう思うと、孝之の

頭の中を半年間の思いが巡る

「ほらほら、ここで孝之君に膝枕してあげたよね。覚えてる?」

 芝生の上に遙は座り、孝之に尋ねた。孝之もその横に腰を下ろす。

「……ああ。………遙が鳩に餌をやろうとして鳩まみれになった」

「もう、変なことばかり覚えてるんだから」

 言葉では怒っている遙かではあったが表情は笑っている。懐かしい………。純粋に

遙を好きだった3年前。あれからいろいろとあった。遙が交通事故に遭い3年間眠り

続けたこと。そして目覚めてからの数ヶ月。今の自分の置かれている立場を孝之は

想像すら出来なかった。


 ピリリリリリ。ピリリリリリ。

 静かな公園に孝之の持つ携帯の着信音が響く。慌てて孝之はポケットから携帯を

とりだし電話に出た。

「もしもし。………茜です」

「ん? どうした……」

「姉さんの………帰りが遅いから。それに姉さんの携帯電源切ってるみたいだし。

 ………まだ、飲んでたりするんですか?」

 電話の向こうの茜の声は少し心配そうであった。まあ、退院したとはいえ、酒を

飲みに行った姉の帰りが遅かったら心配もするか。孝之はそう思いつつ話を続ける。

「いや。もう飲んでない。公園にいる………酔いを醒ますために」

 孝之が電話で話していると、そっと遙の指が孝之のズボンのファスナーに触れる。

それを驚きの表情で見つめる孝之の目も気にせず、ゆっくりとファスナーをおろし、

中に仕舞われていたモノを取り出す。遙の指は冷たかった。それ以上に外気は

もっと冷たい。急激に冷やされた孝之のモノが情けなく縮こまっていく。しかし、

それはすぐに温かな遙の口内におさめられた。まだ小さな状態の孝之のモノを

遙は舌先で転がすように愛撫する。

 孝之は慌ててまわりを見たが人影は見えなかった。

「もしかして………姉さんと変なことしてませんよね?」

「…………」

「あっ………変なこと聞いたから、怒っちゃいました? ……ゴメンなさい」

「い……いや別に。………急にへんなこと聞くから驚いて」

 孝之が返事に窮する間にも、孝之の既に大きくつつあるモノを遙は根本の方から

舐めあげていく。上目使いで孝之の表情を確かめながらニッコリと微笑む。電話の

主が誰かはすぐに分かったようだ。そして、今度は孝之の物を喉深くまで飲み

込んでいく。

「でも……いいなぁ。私も早く飲みに行ってみたいです。大人になったら連れ

てってくれますか?」

「………ああ。お酒……飲めるようになったら連れていくよ」

「本当ですかっ! 約束ですよ」

 途中で話を打ち切ったら不審に思われるかもしれない。遙のテクニックの前に

声が出そうになるのを我慢しつつ、孝之はしばらく話を続けた。

「遙は終電までに送っていくから。………それじゃ」

 これ以上話していたらバレるかもしれないと思い、孝之はそう言って自分から

電話を切った。

「茜に………バレなかったかなぁ?」

「…………」

 いたずらっ子のように微笑む遙に対して、孝之は無言であった。そして、再び

孝之のモノをくわえる遙の頭に両手を添える。より激しく、より深く快楽を求め

るため、遙の頭を掴んだ手で動かし喉の奥深くに放った。

遙の部屋2

 混濁した意識の中、孝之の五感に最初に触れたのは誰かの泣き声。その声には

聞き覚えがある。ここは何処だろう? オレは何をしていたのだろう? その声は

誰の声だろう? 朦朧とした孝之の頭の中で、疑問が浮かんでは消える。

「もうやめて、慎二君! もう許してよ、遙っ! どうして……う…うぐっ」

 さっきよりも鮮明に、孝之の聴覚が言葉を捉える。それは悲痛な叫びをあげる

水月の声。……慎二? ……遙? ………やめて? ………許して? そして、

いつか聞いたことのあるモーター音が………している。

「大きな声出すと孝之目を覚ますぞ。ほら速瀬、もっとちゃんとくわえろよ!

 まったく……、孝之もよくこんなやり方で満足できてたよな。教育がたりないぞ、

 教育が!」

 それは確かに慎二の声だった。しかし、その内容は孝之の知る慎二が話す言葉とは

とても考えられない。それが本当に慎二かと姿を確認しようとしても……何も見えは

しない。

「きっと……水月、下手だから孝之君に捨てられたんだよ。じゃ、私が捨てられ

 なかったのは……上手だったからなのかなぁ」

 次に孝之が聴いたのは遙の声。……信じられない内容。どうして………、遙が

こんな事を言うのだろうか? どうして水月を傷付けるような事を………平気で。

今すぐにでも大声を出して問いつめたい。しかし、それは出来そうもない。孝之の

口にはご丁寧に猿轡が噛まされていた。目にもアイマスクをされ何も見えはしない。

ただ今できるのは聴くことだけだ。おまけに、後ろ手に手錠をかけられているようだ。

手首の辺りを締め付ける感触がある。しかもご丁寧に手錠をかけられた両手の間には

何か柱のような物があって、抜け出すことが出来ないようになっている。

 どうしたんだ………。一体………何が。必死に思いを巡らせる孝之であったが、

答えは出ない。あまりに非現実的な状況に投げ出され、まともに考えることすら

出来はしない。それにまだ頭の中がフラフラして吐き気さえしている。

 どうしてこうなったのだろう……。孝之は困惑する頭の中、記憶をたどる。

昨日の夜に遙から電話があった。明日、遙の家でまた4人で集まろうと。そして今日、

遙の家に行くとまだ水月と慎二は来ていなかった。リビングで遙にお茶を出され……

それ以後の記憶は………ない。

「ん……うぐ……んあ。し、慎二君、お、お願いだから…も……あっ!」

 水月の悲痛な声の途中で、ドンと大きな音が響く。何かが床に激しくたたき

つけられた音。そしてその後で、ジャラジャラと何かチェーンのような物が擦れあう

音がする。そのたたきつけられた音の大きさに、思わず孝之の体も反応する。

「何度言えばわかるんだ! お前にはお願いする権利も、拒否する権利もないぞ!」

 孝之の理解の範疇を超えた、あまりに一方的で、あまりに酷い慎二の言葉。

「…………クスッ」

 ゾクっと孝之の背中に冷たい物が走る。耳のすぐ側で聞こえた遙の微かな笑い声。

「もう起きちゃったのかな、孝之君。おはよう」

 それは普段と全く変わらないような遙の声色。ごくごく普通の、今のこの異常な

状況とは無縁な感じ。それが孝之に恐怖を覚えさせる。

「は……はふは!」

 孝之は思わず遙の名前を叫んでいた。しかしそれは、猿轡を噛まされ上手くは発音

できなかった。それでも遙はその言葉を理解したようで、ゆっくりと孝之の頭を

撫でていく。

「ゴメンね、孝之君。本当はこう言うことはしたくなかったんだけど……ね」

 孝之の頭を撫でていた遙の掌が、今度は耳に添えられ内緒話をするように囁かれた。

何を言われようと、この状況を許すことなど孝之には出来そうにない。激しく首を

振って、耳に添えられた遙の掌を払う。

「あ〜あ、孝之起きたようだぞ。よかったな、速瀬。お前の姿、見て貰えるぞ」

「や……やだっ!! お願いだから………。それだけは、やめてよっ!! ねぇ、

 お願い……慎二君! お願いよ、遙!!」

「ダメだよ……水月。これはあなたに対する罰なんだよ」

 冷静な遙の言葉。それは、孝之にとっては非常に冷酷な声色に聞こえた。そして、

遙の手が孝之のしているアイマスクの紐に掛かり、ゆっくりとアイマスクを外す。

 蛍光灯の眩しさで、孝之の視界が一瞬真っ白になる。そして徐々に視界を取り戻す

孝之の見たものは、お腹を押さえてうずくまる鎖の付いた首輪をつけられた水月の姿。

顔以外の場所には、無数の痣。既に黒くなっている物から、比較的新しくつけられた

だろう赤く腫れた物もある。そして、股の間からは数本のコードが伸び、その先にある

ボックス状のスイッチがガムテープで両方の太腿に貼り付けられている。

 そんな、あまりにも痛々しい水月の姿に思わず孝之は目を伏せた。

「ひ、酷いよ……。どうして………こんな。ぐすっ……ううう」

 うずくまった状態のまま、水月は泣き始めた。

 どうして……、どうして水月がこんな目にあうんだ。どうして……。孝之の心の中、

理不尽な慎二と遙に向けられた怒りがこみ上げてくる。

「水月……これに対する………罰だよ」

 遙はポイっと何かを投げた。蛍光灯にきらめくその物体は、二、三度床で跳ね、

水月の方へコロコロと転がっている。それはいつも水月が左手の薬指にしていた

孝之が送ったシルバーの指輪であった。

 目の前に転がってきた指輪を水月は慌てて拾う。そして大切そうに、愛おし

そうにギュッと握りしめた。

「もし、その指輪がなかったら……今の現実は違っていたはずでしょ……水月!」

「…………」

「何か言ってよ……水月!!」

「……ご、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい…………」

 責めるような遙の口調に、水月はひたすらごめんなさいと繰り返すだけだった。

今の水月は、遙に対する恐怖に怯えきっているようだ。

 でも何故水月だけが責められるんだ。責められるのならオレも同じのはず。

ましてや………。孝之は一方的に水月に向けられる遙の怒りを不審に思った。

「まあ、まあ。涼宮もそんなに速瀬を責めるよ。さて、速瀬。今日は涼宮と孝之

 というギャラリーがいるんだ。いつもより楽しめそうだな」

「……えっ!」

 いつの間にか服を全て脱ぎ捨てていた慎二が水月の体に触れる。水月の股の

間から出ているコードの束を慎二が引っ張ると、複数のローターが床に落ちた。

腿に貼ってあるガムテープをはがし、スイッチ類も投げ捨てる。そして、空いた

水月の中に慎二が指を3本、一気に埋めた。

「あっ……。い…いや……。やめてよ」

「そうか? こんなにしちまってんのに。それにオレに初めて抱かれたときも

 あんなによがってたじゃないか。そうだ、孝之。今度その時の写真見せてやるよ。

 写真の趣味が盗撮に走っちまったけど、意外なところで役立つもんだな」

 そのにやけた笑い顔を見て、怒りを覚えた孝之はぎゅっと拳を握りしめた。これが

これが……、この男の本性だったのか? ずっと長い間付き合ってきた……親友と

呼べる間柄だと思っていた。そう思うと、孝之の目に涙が浮かんできた。

「やめて! もうこれ以上言わないで」

 居たたまれなくなった水月が悲痛な叫びをあげる。しかし、そんなことは気にせずに

慎二は話を続ける。

「そう言うなよ。だいたいオレが速瀬を初めて抱いたのは、速瀬が孝之に振られた

 あの晩だぜ。あの後、オレに電話をかけてきて……オレが慰めてそのまま……な。

 まったく男に振られた後に、すぐ別の男に抱かれるなんて、速瀬も淫乱だよなぁ。

 おまけに、漸く付き合えるかと思ったら、まだ孝之の事が好きだって言うんだぜ。

 信じられるもんかよ。まあ、写真をネタに一応付き合ってる風にはなったがな」

 言いながら慎二は、うずくまったままの水月を後から抱きしめるようにして、

ゆっくりと水月の中に既に固くなったモノを入れていった。そして、徐々に激しく

腰を前後に動かし始める。

「いやッ!……あ…ああ……。だ……だめ」

 俯く水月の顔から涙がこぼれ、ぽつぽつと床の上に広がっていく。その水月の髪を

慎二が掴み、孝之見えるように無理矢理顔を上げさせる。

「ほら、孝之にもよく顔を見せてやれよ」

「ひんひっ、ほはへ!!」

 理性が働くよりも早く、孝之は慎二につかみかかろうとして立ち上がった。

しかし、途中で手錠が柱に引っかかる。孝之の両腕に激しい痛みが走った。そして、

そのまま尻餅を付く格好になった。

「………」

 無言で痛みに耐えながら、孝之は振り返った。後はベットであった。ベットの足が

邪魔をして立ち上がることが出来なかったのだ。どうやら抜け出すことは無理の様

……衝撃でベットが多少動いたくらいだ。

「大丈夫、孝之君? あっ、血が出てるよ」

 そう言って側に来た遙を孝之はきつく睨み付ける。それを見た遙の顔は今にも

泣き出しそうだった。

「そんな顔しないでよ、孝之君。水月への罰は……、これで最後だから………ねっ」

「だいたい孝之、お前が怒れる立場にいるのかよ。お前は速瀬に対して何をした?

 涼宮の意識が戻らなくなった3年間、速瀬は水泳を捨ててまでお前を立ち直らせる

 ことを選んだんだぞ。それに対して、お前は………」

 孝之の心を刺す、慎二の言葉。割り切ったつもりだった。だが、それは自分の心の

中の問題だったかもしれない。水月や慎二には割り切れない問題だったのか……?

「まあ、暗い話ばかりも何だ。そうだ、涼宮、孝之にもしてやれよ」

「うん、そうだね」

 慎二の言葉に従い、遙は孝之のモノを取り出すとそのまま口に含んだ。自由になる

両足をばたつかせて抵抗した孝之だったが、それはかなわかった。

「どうだ、孝之。涼宮……上手だろ? 何せオレが教え込んだからなぁ」

「あっ、平君。それは言わない約束だったのに………。ひどいよぉ」

 ちょっと悲しそうな顔をした遙が、ちらっと孝之の顔を見た。そして、またすぐに

口にくわえ、激しく頭を上下し始めた。

 ………慎二が教えた? これをか? そして、孝之の脳裏に浮かぶ病室での一齣。

あの時の…………あれは既に練習済みだったってわけか。オレは上手く乗せられ

たのか? その結果がこれなのかよ!

「おいおい孝之。そんなに怒るなよ。涼宮だってお前に振り向いて貰おうと必死

 だったんだからさあ。速瀬も孝之に振り向いて貰えるようにさらけ出せよ」

「あ…何を………。あ………あん」

 いつしか耐えきれず、泣きながらも甘い嬌声をあげ始めていた水月が慎二に聞く。

「孝之、お前は2年間付き合っても気づかなかったようだけど、速瀬はマゾの素質が

 あるんだ。こうやって物の様に扱われて、虐めれるのが興奮すんだよな、速瀬」

「えっ……違うっ!! あ…ああ……んんっ」

「ほら、今だって感じてるだろ。こういう奴なんだよ、速瀬は。まあ正直、速瀬には

 幻滅させられたよなぁ。想いが長かった分、実際にそうなるとな。隣の芝生は

 青いってやつかな」

 そう言いながら慎二は指を舐め、その指を水月の後の穴へと入れていく。

「だ……だめ……。ああ…あん! ああ……。ああっ……もう……い…く」

「ほら、こっちの穴も開発してやったぞ。速瀬こっちの穴も感度良いよな。ほら、

 もういっちまいやがった。しっかし孝之、お前水月の体のこと、全然分かって

 なかったみたいだな。真剣に水月のこと見てたのか?」

 …………。慎二の激しい攻めを受け、喜びの声を上げて達した水月を見た。こんな

こんなに激しい水月を見るのは………初めてだ。居たたまれない敗北感が孝之を襲う。

「あ……萎んでいく……。もう……平君、折角いいところだったのに」

 敗北感により萎え始めた孝之のモノ。それを遙が口から離し、慎二に対して

文句を言う。

「どうだ、速瀬……気持ちよかっただろ。孝之に教えてやれよ。オレと孝之……

 どっちがイイかってな!」

 今し方達したばかりで、床におでこを着けて大きく行きをしていた水月の

髪を持ち、慎二は再び水月の顔を孝之の方へと向けさせる。その間にも容赦なく

腰を使い水月の中の感触を楽しんでいる。

「え……っ!」

 驚きの声を出し、水月の目線が孝之とあう。そして、ポロポロと大きな涙が水月の

目からこぼれ落ちた。

「……わたしは………わたしは、孝之じゃなきゃだめ。……だめなんだよ」

 ………水月。割り切ったはずだった孝之の心に突き刺さる。

「忘れようとしたよ。でも………私には孝之だけだったんだもん。私には孝之が………

 いればそれでよかった。忘れる事なんて、出来るわけないよ!!」

 こんなにボロボロにされた水月の体。こんなに傷付けられた水月の心。それをオレは

癒すことは……もう出来ないのか? 孝之は何も出来ない状況の自分を責める。

「ったく。いまだにそんなことを言うんだな。まあいいや。涼宮との約束で、速瀬を

 抱くのもこれが最後だしな。次があるし。ああ、もういきそうだ。最後に……

 中に出すからな」

「えっ。やめて!! ……あっ」

 止めようとする水月の声を無視して、慎二は満足そうに水月の中に放出した。

「………酷い。酷いよぉ」 

 水月はそのままの格好で、その場にうずくまって泣き崩れていた。


「そうだよ。平君ひどいよぉ」

「おいおい、涼宮がそれを言うのは反則だろ?」

「………クス」

 慎二の言葉に遙が微かな笑みを漏らす。

「もう、平君。水月にこんな事しちゃ駄目だよ。駄目、駄目ぇ。だって水月は………

 私の大切な友達なんだから」

 遙の口から発せられた言葉。水月の体はその言葉を聞いて恐怖に反応する。

ブルブルと震えが止まらないようで、水月はギュッと自分の体を抱きしめた。

「ねぇ、水月。こっちに来て」

 水月を呼ぶ遙の声。これ以上何をしようというのだ。 遙はどうしちまったんだ!

目覚めてからの遙は、3年前の遙とはどこか違っていた。それはほんの些細なことだと

孝之は最初のうち思っていたが………。

「いいから、こっちに来てよ。水月」

 それはまるで3年前に戻ったような遙の言葉。恐怖に顔を引きつらせ、水月は

遙の顔を見る。孝之はただ次に起こるであろう遙による凄惨な出来事を思い、水月の

身を案ずることしか出来ない。今、おかれている状態……孝之はあまりに無力だった。

「ほら水月、もう怒ってないから。だから来て、孝之君もここにいるよ」

 そう言って遙は手招きした。

 水月はチラと後ろ手に縛られた孝之の方を心配そうに見て、それでも震えながら

ゆっくりと遙の方へ歩き始める。遙の言う友達という言葉は当てはまりそうもない

二人の現在の関係。水月が遙の元へ一歩一歩近づくたび、ジャラジャラと床を這う

鎖の音が部屋に響く。

「ねえ、水月。指輪を貸して」

「……………」

 無言のままで差し出された水月の指輪を受け取ると、遙はその指輪を水月の左手の

薬指にはめた。

「えっ! は……遙?」

 水月が驚きの声を上げる。それを見ていた孝之も驚く。

「やっぱりこの指輪はここにあるのが一番なんだよ。水月ゴメンね。ほら、首輪も

 外さないと」

 その行動をあっけに取られて見つめる孝之と水月。今までの遙とは正反対の変貌

振り。一体どうしたのだろう? そう考えつつ遙を見つめる孝之。その視線を感じ

たのか、遙は孝之ににこやかに微笑みかける。

「孝之君は……優しいよね?」

 不意に掛けられた遙の言葉。孝之の心が当惑する。そんな孝之の顔を見て、遙は

再びニコニコと笑っていた。

「水月は………孝之君のこと好きなんだよね?」

「………うん」

「誰よりも……孝之君のこと好きなんだよね?」

「………うん。ゴメン……遙」

 遙の方を真っ直ぐ見つめて返答する水月。質問する側の遙の表情も穏やかであった。

「そっか。それじゃ水月もわたしと一緒だね。わたしも孝之君のことが誰よりも

 好きだよ。でも……水月となら………孝之君を一緒に」

 再び孝之の方を遙が見る。遙の目線を追い、水月も孝之の方を見つめている。

「ほら、水月。孝之君はここにいるよ。大丈夫、孝之君優しいから……水月も

 受け入れてくれるよ」

「えっ!? ………ほ……本当?」

 水月がゆっくりと孝之の前まで歩いてくる。そして、しゃがんで孝之の顔を

覗き込んだ。

 孝之は目を逸らさず水月の顔を見た。今の状態の水月を拒絶することなど孝之

には出来はしない。ただ、黙って水月の顔を見続けた。水月………辛かっただろ。

これも、もしかしたらオレのせいかもしれない。水月は被害者だ………すまない。

孝之の目尻が熱くなり目から涙がこぼれ落ちそうになる。

「た……孝…之」

 既に涙声の水月は、そっと顔を孝之の胸に埋めた。水月はただただ譫言の様に

孝之の名前を繰り返し泣いていた。

 孝之の胸を熱い涙が濡らしていた。啜り泣く水月の頭は孝之の顔のすぐ下にある。

水月の髪の匂いが鼻腔を擽る。懐かしく、そして何故だか安心できる匂い。水月を

これ以上傷付ける事がなかったという安堵感も孝之の心に湧いてくる。

「水月、ほらほら」

 遙は水月の手を取って、孝之のモノに導く。そっと水月の指が触れ、ゆっくりと

握りしめる。

「あっ………」

 水月はそれを軽く握ったり放したりしながら愛おしそうに見つめた。そして、

それを夢中でしゃぶり始める。玉の縫い目に沿ってそのまま竿の先端まで、舌先を

這わせる。それは孝之の知らないテクニック。おそらくは慎二によって仕込まれた

技であろう。孝之のモノも徐々に快楽を感じている反応を見せる。

「孝之……。きもちいい?」

 上目遣いで孝之を見つめ、問いかける水月。……遙も同じ事をする。きっとそれも

慎二によって教えられたことだろう………。孝之はそう考えながらも水月のもたらす

快楽にはまりつつあった。

 ガチャ。

 その音は不意に一階から聞こえた。おそらく玄関のドアが開く音。それは孝之に

とっての絶望への扉が開く音でもあった。

「ただいま〜」

「……んっ!! あはへっっ!!」

 微かに聞こえたのは、紛れもない茜の声。今の孝之にとって愛すべき大切な人。

慌てて孝之は遙の方を振り向いた。

 その遙は、微笑んだままで部屋の扉の方を見ていた。

「ようやく茜ちゃん、帰ってきたみたいだな。待ちくたびれちまったよ」

 その言葉に孝之は、今度は慎二の方を見た。この男はさっき『次がある』と言った。

それはどう考えても………。最初っから………最初からこれが狙いだったのか?

孝之の心に戦慄が走る。

「まあ、涼宮との約束だ。茜ちゃんと楽しませてもらうぜ、孝之」

 下卑た笑いを見せ、慎二は孝之にそう宣言した。

 その言葉を聞き終わるまでもなく、孝之はきつく慎二の方を睨み付ける。よもやここまで

腐りきった奴だったとは!!

「おいおい、そんな顔するなよ。孝之には涼宮と速瀬がいるだろ。その二人で満足しとけよ。

 だから茜ちゃんは譲れよな」

 茜を失いたくなかったからこそ今日まで続けてきた遙との秘め事。例え水月であろうと

遙であろうと、今の孝之にとっての茜の存在とは比べることさえ出来ない。それほど

大切でかけがえのない存在。その茜が………。どうすれば………どうすれば茜を

助けることが……。必死で考える孝之であったが、その答えは出ない。

 孝之の股間に顔を埋めていた水月が口をはなし、心配そうに孝之の方を見つめた。

 遙は座っていたベッドから立ち上がるとゆっくりと部屋のドアの方へと歩いていく。

そして、再び焦りを感じている孝之の方を振り向く。その顔は………笑っていた。

 この女は………狂っている。孝之は恐怖での中でそう思った。目覚めた後の遙は

どこか大事な部分が……人として大事な部分が壊れているように感じる。

「ねえ……茜。ちょっと来て」

「なに、姉さん? でもお客さんが来てるんじゃないの?」

「うん、来てるよ。でも、孝之君もいるから……だから早く来て」

 いつもと変わらない声色で茜に呼びかける遙。

 妹思いの姉、姉思いの妹。孝之が茜と付き合い始めてから、まわりはそんな風に

感じただろう。星乃さんも感心したようにそう言った覚えが……孝之にはあった。

普通ならば好きな男を妹に取られた姉の取れる態度ではない。それならば……これは

この現状は普通と言えるのか?

 いや……どう考えても異常だ! いくら何でも………これは異常すぎるだろ!

 トントンと階段をあがってくる茜の足音。その足音は何の警戒も抱いてないような

軽やかさである。

 孝之は必死に叫ぶが、猿轡のせいでくぐもった音しか出すことができない。それでも

何とか危険を知らせようと自由になる足をばたつかせ、踵で床を何度も叩く。

「もう、姉さん近所迷惑だよ。何やってるのよ、一体………」

 扉が開いた。部屋の中の状況を確認した茜は呆然と立ちつくす。服をはだけさせて

後ろ手に縛られ、さらには猿轡まで噛まされている孝之。そして、その隣には全裸

の水月。茜の持っていたスポーツバッグが床へと落ちた。

「水月先輩、孝之さんに何やってるんですかっ!! ………あっ」

 我を取り戻し孝之と水月の方へ詰め寄ろうとした茜を、慎二が後から羽交い締めにした。

そして、柊学園の冬服の内側に隠された茜の胸を服越しに鷲掴みにする。

「おかえり、茜ちゃん。随分待たされたよ」

「ちょっ……やだっ、何するんですかっ! やめてくださいっ!!」

 叫び声をあげ茜は慎二を必死に振りほどこうとするが、それはかなわない。

「おいおい、そんなに暴れるなよ。まあ、多少は暴れた方が雰囲気出ていいけどな」

「やめてっ! 助けて……孝之さんっ! 助けてよ、姉さんっ!! 」

 救いを求める茜の叫び。孝之は我が身に代えても茜を救おうと何度も手錠を壊そうと

柱に打ち付けたが、しかし、頑丈な手錠は壊れそうにもなく孝之の手首からはダラダラ

と血が流れていた。

「残念だったな、茜ちゃん。これは涼宮……君の姉さんの望んだことなんだ」

「えっ! ………姉さんの!?」

 信じられないような顔をして、茜が遙の方に顔を向ける。

「茜言ってたよね、孝之君のことお兄ちゃんになって欲しいって。だから私と孝之君が

 結婚すればいいって! それなのに………茜が悪いんだよ。私と……水月から

 孝之君を奪ったからっ!! 」

 既に遙の表情からは、笑みは消えていた。孝之も今まで聞いたこのとのない、

強くて激しい遙の口調。

「そ、そんな……姉さん……」

 茜は遙からの言葉にショックを隠せない。

 それは孝之も同じだ。自分と茜が付き合うと言うことを遙には許してもらっていると

思っていた。それは違ったのか? だから……こんな妹である茜を傷付けるような

真似をするのか。でも……先程までの水月に対する遙の行為を考えれば、十分納得

できることであった。

「そんなわけだ。楽しませてもらうぜ、茜ちゃん」

 茜が呆然としているその隙を逃さず、慎二が茜を床へと押し倒す。 スカートが

まくれあがり健康的な太腿と白の下着がみなの前にあらわになる。その下着の

上から慎二の指が茜の秘部に触れる。

「もう、やめてくださいっ!! こんなコトして警察に電話しますよ!」

 手足をばたつかせ叫び、茜は何とか逃れようとする。

「電話したければ電話すればいい。そのかわり、涼宮も共犯だからな。茜ちゃんの

 姉さんも一緒に捕まるぞ。茜ちゃんも きっとここには住めなくなる。それでも

 良ければ電話しちまえよ。お父さんもお母さんも悲しむだろうなぁ」

「そ、そんな……。うっ……うあ…あっ…やだ!!」

 暴れる茜の両手を左手で押さえつけ、慎二が床に落ちていたローターを拾い上げる。

そして、スイッチを入れてショーツ越しに一番敏感な部分を探り当てるように肉の谷間を

這わせて行く。

 思わぬ刺激に茜の口からも僅かながら声が漏れる。

 その声は孝之を寄りいっそう焦燥に駆り立てる。なんど打ち付けても壊れそうに

ない手錠の呪縛。それでも何とかしたくて手錠を柱へと打ち付ける。

「孝之、もうやめなよ。こんなに血が……」

 床に流れ落ち溜まった血を見て水月が心配そうに孝之に言う。

 だがそんなことを聞き入れるつもりは毛頭なかった。何かをしてなければ、例え

それが自らに痛みを与える行為でもいい……焦燥が絶望へと変わらないように

何かをしていたかった。まだ……この事態から茜を救えると信じていたかった。

「ほほぉ。茜ちゃん結構濡れやすいんだな。ほら、もうこんなになってるぜ」

「そんなことありませんっ!!」

 茜は咄嗟に否定した。しかし一番感じる部分をローターで嬲られた体は、明確な

反応を見せ遠目で見ても分かるくらいに下着を濡らしていた。それでもそれを認め

たくなくて茜はいっそう激しく抵抗を見せる。

「こんなに激しく抵抗されたら楽しめねえよ。なぁ、押さえるの手伝ってくれよ」

 押さえつけることに躍起になっている慎二が遙と水月の方を見て、助けを求める。

「ねぇ、水月。慎二君を手伝ってあげてよ」

「えっ……、でも……」

 先程まで自分も同じ目に遭わされていたんだ。それを手伝う分けないだろ。孝之は

遙の言葉にそう言いたかった。水月が手伝うわけはない。それは当然に思えた。

「また……孝之君を茜に奪われちゃうよ。それでもいいの、水月?」

 遙のその言葉に水月は何も答えず、孝之の方をチラッと見た後、重い足取りで

慎二と茜の方へ歩いていく。

 ……水月!? 孝之にはそんな水月の行動が信じられなかった。今まで自分が

受けていた辛さを今度は茜に与えようとするのか? 誰よりもその辛さを知っている

はずの水月が。

「茜……ゴメンね」

「そ……そんな、嘘でしょ……水月先輩」

 心苦しそうな表情。涙がこぼれ頬を伝う。それでも水月は茜の両腕を押さえつける。

「ふぅ、これで楽になったし、思う存分楽しめそうだ。なにより白陵の制服ってのがもえる

 よな。速瀬にも着せれば良かった」

 そう言いつつ慎二は、茜の両の頬を指で押さえ、半開きの口を閉ざせないように

する。そしてゆっくりと顔を近づけ、茜の唇をゆっくりと味わうように舌を這わせた。

そのまま今度は舌を茜の口内へと入れ、逃げようとする茜の舌をゆっくりと楽しむ

ように絡め取る。

「あっ……いやああ!!」

 茜はこれまで感じたことのない様な嫌悪感を抱き、頭を振って逃れようとする。

しかし慎二にがっちりと両手で押さえつけられていては、頭を振って逃れることも

出来ない。ただ、自分の口内を蹂躙されることに耐えるだけであった。

「どうだい、オレのキスは。孝之より上手いか? さてと、次はこいつを舐めて

 貰おうか。やり方がわからなくてもすぐにオレが仕込んでやる。心配すんな」

 目の前に差し出されたモノをみて、茜の顔が恐怖に引きつる。孝之のモノですら

まだこんな明るい場所で……こんな間近に見たことはなかった。

 慎二は閉ざされた茜の口を強引に開かせようと、髪を掴み、先端を茜の唇へと

押し当てた。

 茜は吐き気を覚えるほど嫌悪感を感じながら、それでも死にものぐるいで口を

開かないよう耐えた。

「ちっ、そんなに嫌なのか。まあこれはまた今度でいいや」

 孝之も驚くほど、慎二はあっさりと諦めたようだ。水月の体の傷を見れば、無理

矢理に暴力をもって言うことを利かせていた事は伺える。そう考えていた孝之の目に

スカートと下着をはぎ取られた茜の姿が映った。

「いやっ!! 孝之さん……お願い……見ないでください」

 茜の言葉に孝之は慌てて目を伏せた。

 茜は必死に足をとじようとするが、それは既に恥丘に添えられていた慎二の手を

挟み込むだけであった。

 慎二の指が動く。そのたびにクチュクチュと既に濡れそぼった茜の大切な部分から

恥ずかしい音を立てる。手を茜の両の腿で挟まれてはいるが、それでも的確に感じる部

分を指先で探り当てていく。

「う……くぅ……」

 茜は顔を真っ赤にして、その恥辱に耐える。声を出さまいとして口は真一文字に

結ばれている。

「ねぇ孝之君……どんな気持ち?」

 いつの間にか孝之の隣に腰を下ろしていた遙が、不意に孝之に尋ねた。

「ふはへるはっ!!」

 思わず孝之は叫んでいた。どんな気持ちだと! 今の孝之には不安と怒り以外の

感情は感じていない。

「そうだよね。怒ってるよね。でも……不安で不安でしょうがないんだよね。私も

 そうだった………。事故に遭っちゃって、何も出来ない内に孝之君を水月に

 盗られて………、目が醒めてからは………今度は妹の茜に盗られた。酷いよね、

 私……孝之君に迷惑掛けるかもしれないからって何も言わなかったのに……。

 茜にうつっていく孝之君の心を知ってたのに。 ねぇ、私の気持ち……少しは

 わかってくれた?」

「…………」

 遙の言葉に孝之は思わず黙り込んでしまう。……確かに遙の気持ちは分かる。

しかし、この状況を許せるわけない。これは明らかに行き過ぎだ。

「さてと……そろそろ準備もいいみたいだし、しようか?」

 慎二はそう言って、閉じていた茜の足を強引に開き、その間に自らの腰を割り

込ませる。

「いや、そ、それだけはやめてくださいっ! お願いっ! お願いします!!」

 慎二のモノの先端が触れる。その瞬間、今まで以上に大きく茜が叫んだ。

「いやだね。茜ちゃんだってこんなに感じてるだろ。だったらいいじゃん。それとも

 孝之ともまだしてないのか? そんなわけないか、既に処女膜なかったし」

「孝之さん以外とは………。孝之さん以外は嫌なんですっ!!!」

 茜のその言葉を聞いた慎二は下劣な笑いを漏らす。 

「……ははっ。殊勝な心がけだね茜ちゃん。でも、そう思ってるのは君だけかもしれ

 ないなぁ。少なくとも孝之の奴は違う思うぜ」

「………!!」

 慎二の言葉に孝之は反応する。何度もやめようと思った。後悔もした。でも、やめる

ことは出来なかった。茜を失いたくなかったから………断れなかった出来事。

「……ど、どういう意味ですか!?」

 必死に抵抗しながらも、茜は慎二に返答を求めた。

「孝之の奴は君と付き合ってる間もずっと、涼宮と体を重ね愛し合ってたってことさ。

 茜ちゃんに黙って、毎日のようにね」

「………嘘っ! 嘘ですっ!!」

 茜は咄嗟にそう叫んでいた。そして、視線を孝之の方へ向ける。

 痛いぐらいに真っ直ぐな視線を受けた孝之は、ただ黙ってその視線を受けるしか

なかった。 ついに茜に知られてしまった………そのショックで呆然となる。

「孝之さん……答えてください。お願い……違うって答えて」

 今にも泣き出しそうな茜。今までの辛い行為の最中もけして涙は流さなかった。その

茜の孝之にすがるような言葉。

 これから先起こることを考えると、遙との事を認めるのは………茜にとって絶望を

意味するだろう。自分の姉によってこの様な行為を強要され、さらにはオレ自身に

よって裏切りの行為を受ける。猿轡のおかげで声は出さずに済む。ただ黙って、首を

横に振るだけで良いんだ。それだけで……一時かもしれないが、茜にこれ以上辛い

目を遭わせずに済む。茜の信じるものを奪わずに済む。

「孝之……、涼宮でもいいから答えてやれよ」

 慎二が答えを急かす。

 でも、遙……が認めたら!! 孝之は遙の方を向いて確認したかったが、茜の

真っ直ぐな視線からは目が離せない。

「孝之君、約束したじゃない。……絶対言わないから。……茜には言わないから」

 孝之だけに聞こえる小さな声で遙が言った。

 ………遙。茜に隠れて行為を重ねる間……遙が常に言っていた言葉。その約束は

まだいきているということか。首を横に振ろう。例えそれすら裏切りの行為と言われ

ても。後でなじられてもいいから……今は茜を自ら傷付ける様なこと……出来ない。

孝之は覚悟を決める。

「だから孝之君………言うなら自分でね」

 首を横に振ろうとしたその刹那、孝之の眼前に現れた遙の顔。そして、ただ冷酷に

言い放たれた言葉。

「………っ!!」

 遙の手が留め具に掛かかり、孝之の言葉を封じていた猿轡を外す。

 開放感よりもさらなる絶望感が孝之を襲う。自分の口で告げろというのか………。

オレに自ら……茜にとどめをさせと。孝之の顔は蒼白となった。

「それじゃ、頑張ってね……孝之君」

 遙はそう言って、また孝之の隣に座り直す。

 遙の顔が消え、孝之は再び茜のすがるような目線を受ける。ガタガタと体に震えが

走る。でもまだ……それでも茜に……違うと言いたい。茜に辛い思いをさせたくはない。

だから……言おう……違うと。孝之は自らの心を必死に取り繕おうとする。

「……………す…すまない」

 それでも孝之の口から漏れたのは謝罪の言葉。取り繕えなかった茜に対する罪悪感。

それが言葉となって溢れ出た。

「そんな……ひどいよ孝之さん。ひどいよ……ひどいよ……」

 茜の頬を涙が伝う。それでも瞬き一つせず……焦点を失ったような茜の瞳が孝之を

見つめていた。

「まぁ、そういうことだ。だから茜ちゃんも、遠慮せずにオレと楽しもうぜ」

 先端で入り口を探っていた慎二は、一気に奥まで達するよう激しく腰を打ち付けた。

そして、絡みつく茜の肉襞をまくりあげながら本格的な抽送にうつる。

 茜は何の反応も見せず、ただ孝之の方を光の消えた瞳で見つめていた。それは

まるで人形のようで……人としては壊れてしまった印象を与える。

 孝之の視界は流れる涙でぼやける。それでも茜の陵辱される姿を見るのは辛い。

いや茜の目を見るのが怖くて、辛くて目を背けた。

「茜ちゃん、流石に水泳で鍛えてるだけあって締まりがいいな。やっぱり速瀬とは

 現役とOBの差かな」

 なすがままの茜に様々な体位を取らせ、嬉しそうに慎二は言う。もう、抵抗を

押さえるための水月は必要ではなかった。

「孝之君」

「…………」

 遙の呼びかけに孝之は無言のままだった。

「あのね……孝之君は優しいよね。……とっても優しいよ。でもね、孝之君は優し

 すぎるんだよ。誰に対しても優しい人は……結局自分に対して一番優しいもの。

 そう、ある本に書いてあったよ」

 優しく諭すような遙の言葉。

 ………そうか。結局オレがしたことは……自分だけを考えたことだったんだな。

そして、それが全てを壊したんだ。水月を傷付け……、遙を狂わせ……、そして

この俺の手で茜を壊した。現に今だってオレは逃げている。茜の姿を見ること辛さ

から……逃げている。そうだ……逃げている!

 意を決して茜の方を見る。涙で視界がぼやけている。それでも現実から逃げない

ためにも見なくては。それはオレが犯した罪なのだから。激しく動いていた慎二の

動きがゆっくりとなり、そして茜の体から離れる。ドロドロとした白濁したものが、

茜の股の間からこぼれ落ちるのが見えた。

「くっ!」

 目を背けたくなった、茜の無惨な姿。心の痛みを感じつつも、それでも目を背ける

のを耐える。反応を見せない茜の傍により抱きしめたかった。それが茜のための

行為ではなく、自分の罪悪感をけすためのものかもしれない。それでもそうしたかった。

「孝之君。手錠外すね」

 そう言って、遙は懐から鍵を取り出し孝之を縛っていた手錠を外す。

「あかね……あかね……あか…ね」

 茜の名前を呼び続ける。しがみつく遙を振り解いて、孝之は茜の方へと近づく。

そして動かない茜を抱き起こす。辛い耐え難い罪悪感で涙がこぼれた。それでも

我慢しようと思った。けど………。

「………うらぎりもの」

 今まで何の反応も見せなかった茜の唇が微かに動き、そう孝之に告げた。

「……! うっ………うわぁぁぁ」

 もう、それ以上は孝之には耐えられなかった。そのまま孝之は部屋の外に走り出す。

この現実から……、いまの状態から逃げ出していた。

 何処をどう走ったのかわからない。ただただ孝之は靴も履かず街を走っていた。

そして曲がり角を曲がったとき、誰かとぶつかりそうになった。それは、孝之も知って

いる人の顔。

「あの……鳴海さん。その傷……どうしたんですか? それに……その格好は一体?

 ひどい傷……早く止血しないと!  病院に行きましょう。私も一緒に戻りますから」

 恐怖と絶望から逃れるため、何かにすがりたかった今の孝之とって、その姿はまさに

天使に見えた。

(おわり)

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