君が望む永遠SS

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 ひどいよ、孝之君。どうして、どうして、迎えに来てくれいないの。今日は

平君と3人で橘町での神社のお祭りに行こうって約束してたじゃない。花火も

無いからとっても楽しみにしてたのに。でも、あの優しい孝之君が連絡も無し

に約束を破るとは思えないよ。


 もしかして、もしかして、UFOにでもさらわれちゃったとか? それとも

交通事故にでも遭っちゃったのかな。孝之君、無事でいてね。お願いだから。


 ふと、茜から聞いた孝之君の台詞を思い出す。


「もし、デートの約束をしている恋人と、困っている友達がいたら、多分オレは

 友達を選ぶ。恋人も困っているときになって、初めてどうするか死ぬほど悩

 むんだ」


 どういういきさつで茜が、孝之君からこの言葉を聞いたのかはわからない。


「もし万が一、こんな事はないだろうけど、お兄ちゃんがお姉ちゃんとの約束を

 破ることがあったら……きっとお兄ちゃんの友達が、自分の手に負えない問題

 を抱えてるんだよ。


 そうじゃなかったら、ゲームで徹夜して寝過ごしてるかだよ。あ、こっちは

 とってもありそうだね。あははは。」


 茜はそう言って笑っていたっけ。そして、すぐに思う。きっと孝之君は、水

月と、水月と一緒だ。水月の自分の手に負えない問題を………。


でも、それは………。


 私は知っている。水月の孝之君への密かな思いを。私はそれを知りながら、孝

之君と付き合っている。孝之君を他の誰にも渡したくなかった。たとえそれが、

親友の水月であっても。


 私は向かった、あの丘へ。孝之君のとっても大切な場所。私にとっても、とっ

てもとっても大切になった場所。きっと二人はそこにいる。これは確信。


 あまりの遅さに連絡をくれた平君が一緒なのは心強い。平君は私に心配させま

いとして、気を遣ってくれている。そのおかげで、不安で潰されそうな心を何と

か保てた。


 少し息が切れた。でも一秒でも二人の元に行かないと。私は懸命に丘を登って

いった。そして、そして、丘の上に寄り添うように立つ二つの影を見つけた。

間違いない。孝之君と水月だ。でも、なんて声をかけよう。何て言って良いか分

からない。………怖い。


「孝之っ!! オマエ……何やってんだよ!!」


 平君がそう怒鳴って、凄い剣幕で孝之君に近づいていく。その声に驚いた孝之

君がふりかえる。そして、私と目があった。私は、心配で心配で泣きそうな顔に

なっていると思う。


 もし、水月が………孝之君へ思いを伝えていたら。私は、孝之君を守りきれる

自信は無かった。孝之君と水月は、私の目から見ても仲のいい二人だったから。

以前は、付き合っているんじゃないかという噂がたったほど。その時はショック

を受けちゃったけど、それはただの噂で終わった。水月が、本当の気持ちを孝之

君へ伝えなかったから……。


 語気を荒げて、孝之君へ迫る平君。その二人に水月が割って入った。


「ごめん……私が孝之を無理矢理引っ張り出したの。ホントごめん。

 ごめんなさい」


「おい」


 水月の言葉に、驚いたように孝之君が声をかけた。なんだろう………。不安が

体を駆けめぐった。背中にさっと冷たさがはしる。血の気が引くとはこんな感じ

だったんだ。


「遙、心配かけてごめんね……」


 そういって、水月は私に向かって謝った。


 水月の思いは知っている。でも水月が、私に遠慮してその思いを封じ込めてい

るということも知っている。水月は私との友情関係を壊したくないはず。こんな

事を考えている自分をズルいと思う。でも……でも…、もし水月が私よりも孝之

君の方を選んだら………。


「何が……あったの?」


 私は不安を振り払い、覚悟を決めて水月に聞いた。


「私ね……ある人と付き合おうとしたの」


「えっ!?」


 不意に声が出ちゃった。その声は慎二君とハモってた。孝之君は知っていたみ

たいで驚きの声はなかった。孝之君……私にも内緒にしてたんだ……。水月の言

葉に驚きつつも私は、そんなことを考えちゃった。


「孝之は、私がみんなに言わないのは理由があると思って……だから誰にも言

 わなかったの」 


「……私も……聞いていない」


 誰も気づかなかったけど、それは嫉妬の混じった言葉。でもその嫉妬の混じっ

た言葉を、孝之君に気づかれなくて良かったと思ってホッとちゃった。


「みんなに散々迷惑かけて、お祭りにも行けなくなっちゃって、本当にごめんな

 さい。でも……おかげで気持ちが固まったの。私には、まだ彼は早いみたい。

 遙や慎二君の方がずっと頼りになるし……好きだってわかったから」


 わざと……水月は孝之君の名前を出さない。それがどういう気持ちの表れか、

私にはすぐに分かっちゃった。きっと孝之君は、いつもの冗談のつもりで言って

いると思っている。でも、違うんだよ、孝之君。お願いだから、水月の、水月の

その気持ちに気づかないでいて……。


「みんな、私のためだけにこんなに迷惑かけちゃって……本当に……ごめん。

 遙……ごめんなさい」


「そんな………私だって……水月には凄く迷惑かけたし……」


 それは本当の気持ち。水月には迷惑かけたというより、これからもずっと迷惑

をかけ続けなければならない。水月が孝之君を好きで居続ける限り………。


 そして、しばらく沈黙が訪れた。孝之君はどう思ってるんだろう。水月の思い

に気づいちゃった? 直接聞くわけにはいかないし……。


 そうこう考えている内に、平君がバッグからカメラを取り出していた。そして、

孝之君と平君が、私と水月を押して、一つに固まったところでシャッターを押し

た。私と孝之君の間は水月に遮られていた。ちょっとショックだったなぁ。もう、

水月も、もう少し気を遣ってくれても……。


 まあ、今日だけはいいと思う。でも今度、4人で写真を撮るとき、私と孝之君は

並んで写真を撮れるような予感がしてる。それがいつになるかわからないけど。


「遙……ごめんな。心配しただろ?」


 帰り道、孝之君が私に対して謝ってきた。


「……うん」


 それは正直な気持ち。孝之君を水月に取られたらって心配で……心配で泣きそ

うになっちゃったよ。……孝之君は気づいてないけど。


 何度も何度も孝之君は謝っている。もうそろそろ許してあげてもいいかな……。


「もういいの。お祭りよりも水月の方が………大事だもん。私でも同じことした

 と思う。友達を大切にできない人は、誰も大切にできないんだって。そしてね、

 友達を大切にされたことを喜べない人は、何も喜べないんだって」


「そうなんだ……」


「あはは……絵本のね、受け売り。でも、絵本って……子供向けが多いから……

 純粋なんだよ」


「そうだろうな………」


 でも、私の言っていることは純粋じゃない。それは私が一番よく分かってる。

水月とは友達のままでいて欲しい。孝之君にそうあって欲しいということの顕れ。


「ねえ! 手だして!」


 私を真似て胸のあたりで手をかざしている孝之君の手に、私の手をそっと合わ

る。そして、指を絡めた。


「夜空に星が瞬くように 溶けたこころは離れない 例えこの手が離れても

 ふたりがそれを忘れぬ限り……」


 私はそっとささやいた。これはおまじない。


「一度かよいあった心は、夜空に星が瞬くのと同じくらい当然に離れることはな

 い……」


「オレたちがそのことを忘れてしまわない限り?」


「うん。私はそのことを忘れない」


 だから孝之君もわすれちゃ駄目だよ。このことは二人が忘れちゃわない限り、

永遠なんだからね。水月にも邪魔されたくない……二人にとっての永遠だよ。


そう、 ………私が望む永遠。



 絡めた指をそのままに、もう片手を取って指を絡めた。


 そしてそのまま 

 ………キスをした。


 (終わり)

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