「21世紀を駆け抜ける褐色の弾丸、ペドフィリア沢村の苦悩と悦楽」

戻る
 高屋敷司、自室で休養中。
 窓から見える外の景色が次第に闇を帯びてくる。
 いつもは何かと騒がしい高屋敷家だが、たまにはなにも起こらない
 平凡な日もある。
 ちょうど、今日のような日だ。
 こういう日は出来る事なら最後まで穏やかでいて欲しいのだが、
 そう上手くいくものかどうか。
 ……あ、そうそう、あらかじめ断っときます。
 俺はロリコンだ。
 俺はペドフィリアかもしれん。
 俺は変態と言われてもそれを否定する事は出来ない。
 何故なら、俺は高屋敷家の末っ子こと高屋敷末莉に、並々ならぬ
 劣情……いや、愛情を抱いているからである!
司「ぐああ」
 情けなくも認めざるを得ない現実に一人悶える。
 俺ってば、ロリータコンプレックスだったんだよ。
 世間が言う所の『真性』なんだよ。
 もう劉さんや寛を変態呼ばわりも出来ないんだよ。
 しかし。
 それでもなお、『変態』と言うレッテルを貼られてもなお、俺の
 末莉に対する欲ぼ……いやいや、想いは微塵たりとも変わらない。
 ……まあいいさ。
 一度認めちまえば楽なものよ。
 しょーがねーべさー、ええものはええんよ。
 たまらんのよ。
 あの不純物0%の白をさらに漂白したような、美しい肌。
 小動物並みの胆力で精一杯自己の存在を主張し、いらん子にならん
 よう努力するあの健気な姿。
 一時期鬱陶しいと思ってた自分にデンプシーロールでもお見舞い
 したいくらいだ。
 そして、何はなくともあの瞳。
 憂い、儚さ、尊さ、慈しみ、愛らしさ、思慕。
 様々な苦しみや悲しみを乗り越えは出来ずとも、必死で頑張ってきた
 からこそ宿る偽りなき魅力。
 何者をも惹き付ける、揺るぎ無き魔力。
 その瞳で見つめられたら、上目遣いで見つめられたら。
 ああっ、俺は、俺はあっ……!
末莉「おにーさん?」
司「うわああああああああああああああああ!?」
末莉「ひあああああああああああああああああっ!?」
 突然の、あまりに突然の末莉の声に断末魔の声かとさえ思われる声を
 上げた俺に驚いて断末魔の声かとさえ思われる声を上げる末莉の図。
青葉「やかましいわよ!」
 住民からの苦情。
 もっとも、声だけで姿はなかったが。
司「ま、末莉。部屋入る時はノック」
末莉「したのですが……」
司「え、マジ?」
 全然気付かなかった。
 やはり、自室とは言え、さらには妄想内とは言え暴走はよくないな。
 以後要注意だ。
 下手に思った事を口走ってしまい、家族の皆から既知外扱いされる
 のは勘弁願いたい所だし。

末莉「ところでですね」
司「あ、ああ。何だ?」
 秘めたる想いとは裏腹に、クールな態度。
 今はまだ、いろんな意味でこれが正解だと思う。
 今はまだ……な(←意味深な笑み、ただし表情には出さず)。
末莉「おにーさんは暇でいらっしゃいますか?」
司「ん、まあ暇といえば暇だが」
 妄想<実物。
末莉「でしたらその……御一緒して欲しいのですが」
司「ん? どこか行くのか?」
末莉「はっ、買い物に」
司「ふむ……」
 すでに答えは決まっているのだが、思案するかっこよさげな俺を
 見せる為にあえて悩むフリなどをしてみる。
末莉「……」
 不安と期待の入り混じった顔。
 ああっ、この不安定さがたまらん。
 父性の部分と淫靡な部分の両方をくすぐられたような気分になる。
司「ま、いいだろ」
 たっぷりとその気分を堪能した後、俺は快諾の意をクールに唱えた。

 買い物を終え、帰宅途中。
末莉「安く買えてよかったです」
司「そうだな」
 ニコニコと笑う末莉の斜め後ろ14.5°のポジション(←横顔及び
 全身が横目ではっきり見えるギリギリの角度)常にキープしつつ、
 足取りも軽やかに歩く。
末莉「あのー」
司「ん?」
 末莉が横目で俺を見る。
 その顔に少し赤みがさしているのをこの俺が見逃すはずもなかった。
末莉「公園に寄って行きませんか?」
司「え? あ、ああ」
 たまに、俺はある一つの仮定を限りなく事実に近いと実感する
 事がある。
 こういう時もそうだ。
 買い物による荷物を全部持つ俺を休ませようという心遣い。
 そして、一秒でも長く俺と二人っきりになりたいという健気な心。
 俺は、末莉に慕われている。
 つまり、俺たちは相思相愛なんだ!
 『妹よ 君の瞳に 恋してる』
 昔の月9ドラマのタイトルをを繋ぎ合わせて作った川柳を心で詠い
 つつ、俺は末莉と共に公園へと向かった。
 公園は夜になるとカップルの住処となるはずなのだが、
 人気は余りなかった。
末莉「今日は人が少ないですねー」
司「そうだな」
 まるで俺たちの為に席を空けてくれたかのようだ。
末莉「座りましょうか」
司「うむ」
 ベンチに腰掛ける。
司「……」
末莉「……」
 沈黙。
 しかし、気まずさは微塵もない。
 何故なら、俺は興奮しているからだ。
 意味不明?
 バカ言っちゃいけませんよ奥さん。
 夜。
 野外。
 二人っきり。
 そして、末莉。
 劣情を催すキーワードは幾らでも転がってる。
 だが、それを表面には出さない。
 最後に残った僅かな理性が必死で戦っているからだ。
 今はまだ我慢だ、司。
 いずれ然るべき時が来れば、一気に……そう、一気に爆発させるんだ。
 マグマのように煮えたぎるあの博諾駅(←倫理的圧力による矯正
 変換)を、末莉のあどけなさと端正さを兼ね備えた顔に、胸に、
 哀香便(←同上、ただし若干の卑猥さが残る)に……。
末莉「あ、さっき買ったバナナでも食べましょうか」
 バナ〜ナ!?
 食べるんですか?
 あれを、末莉があれを、まだぎこちない舌使いで舐めるんですか?
 (妄想による暴走)
司「よし食べよう今すぐにだ」
末莉「はい!」
 末莉は元気よく返事すると、俺の足元にある買い物袋に手を伸ばそう
 として、
末莉「うあっ」
 バランスを崩した。
 結果、俺の膝元に倒れこむ。
司「……おおうっ」
 鼻腔を揺さ振るフローラルな香りが、末莉の『女』を否が応でも
 意識させる。
末莉「あ、あの……」
 真っ赤な顔で俺を見つめる末莉。
 ゴクッ。
 思いがけず、いい雰囲気になった。
 末莉の目がみるみる内に潤んでくる。
 魔力に満ち溢れる。
司「な、何だイ?」
 もう思考が会話に入る余地がなくなってきた。
 本能がそのまま言葉になる。
末莉「わ、わたし、その、おにーさんが……」
司「……」
 言うのか?
 言っちゃうのか?
 俺の頭の中にある、理性の残兵どもが次々と敗走していく。
 よし!
 こうなったらもうなるようになれだ。
 俺は、お前の全てを受け止めて……。
景「さーわーむーらーくん!」
司「にょぴゃあっ!?」
景「うわ、なんつー珍妙な叫び声」
 声を掛けてきたのは久美だった。
 Shit!
 こんないい所で邪魔が入るとは!
 せっかく末莉が……。
末莉「おにーさんが、好きです!」
司「……」
景「……」
 なにーっ!?
 末莉は恥ずかしさのあまり目を瞑っていた。
 発する言葉に全てを集中させていたので耳も聞こえてなかった。
 結果、久美の登場に気付かなかったという訳だ。
末莉「おにーさんは……わ、わたたっ!?」
 末莉を無理やりひっ捕えて退散を試みる。
景「待ちな」
 ガシィッ!
司「うおおっ!?」
 ものすごい握力が俺の肩を掴んで離さない。
景「さ〜わ〜む〜ら〜く〜ん!?」
司「ま、待て! これは違うんだとにかく違うんだ」
景「ほほー、この恋する乙女の目を見てもまだそんな戯言を?」
 久美は末莉の目を指した。
 きらきらり〜ん。
司「おああっ」
 あまりの眩しさに目を覆う。
 まさに、恋する乙女の眼差しだった。
景「さあて、詳しい事は署で聞こうじゃないの。大人しくついて
  らっしゃい」
司「犯罪者っスか!? 俺って犯罪者なんスか!?」
景「来いやオラ#」
司「ノーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
 俺は久美に連行された。
末莉「ああっ、何がなにやら」
末莉「おにーさーん! 何処へ〜っ!?」
 末莉にはあたふたするだけしか出来なかった。

 ちょこっとだけ月日が流れ……。
 俺は家族と少数の知人から『ペドフィリア沢村(←すでに他人扱い)』
 などと呼ばれ、あまり口を利いてもらえなくなっていた。
 それでも、
末莉「私は……幸せですよ?」
 そう言ってくれる末莉の笑顔がある限り、俺はあえてその汚名を
 称号と呼ぼう。
 俺の名はペドフィリア沢村。
 褐色の弾丸となって、21世紀の荒波を裸一貫で駆け抜ける男。
戻る