「ピュアメール2〜冬のはじまりに〜」

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 1.緒方圭、高三の冬


俺の名前は緒方圭。県立大波良(おおはら)高校、三年生。

家族は三人だ。
オヤジは単身赴任で南米のどこかに行っていて、年に一度も帰って来やがらねえ。
同居しているのは母親と、妹の藍。藍は俺と同じ県立大波良の二年生だ。
ちょっとした訳ありで、同居してる家族と俺は、血が繋がっていない。
義理の関係ってやつだな。
小さい頃から俺にべったりで、何か俺にくっついて来たがっていた藍。
男の子みたいで何の色気もなかった中学校入学当時とは打って変わって、
長く伸ばした髪をお団子のように左右にふたつ結ってリボンで留め、
見た目もいくらかは女の子らしくなった。
県内トップレベルの今の学校に、成績も悪かったのに入れたのは、母曰く
「お兄ちゃんと一緒の学校に行きたくて、頑張ったのよ」とのこと。
もっとも、俺はそんな藍がとても煙たくて、学校でも
「おにいちゃん」ではなく「緒方先輩」と呼ばせている。
藍は、それでも最近はマシになった方だ。
中学時代は何をするにも引っ付いて来て、ウザいことこの上なしだった。
俺が女子と話でもしようもんなら「おにいちゃんはだまされてるんだよ!」と言って
邪魔して来る。最近は多少は口数も少なくなって、大人しくなったかな…という感じ。
学校の連中は「あんな可愛い妹がいていいよなあ」なんて言ってくるが、
はっきり言って、俺にとってはウザったく思っているだけの存在だった。
……本当だぞ。

「行ってきま〜す!」
口にパンを咥えて慌てて家を飛び出すと、玄関先で藍が待っていた。
「おにいちゃん、遅いよ。早くしないと、遅刻しちゃうよ?」
「うるさいな…。先に行っとけって言ったろ?」
遅刻しないように、冷え込む12月の通学路をふたりで走る。
そのうち、おなじみの顔が見えてきた。
「おはよう。緒方くん」
「おっす、おはよう、奈川」
中学の時から付き合いのある同級生、奈川碧だ。
成績優秀で美人。
高校に入ってから眼鏡をかけ始め、中学時代の大きなリボンも、ヘアバンドになった。
大人しい性格だが、俺とは付き合いが長いこともあって、気楽に話ができる間柄だ。
俺が県立大波良に入れたのも、奈川と一緒に勉強できたってのが非常に大きいだろうな。
「それにしても……」「何?」
「今更だけど、印象変わったよね……、緒方くん」「…そうかあ?」

確かに、中学時代を知ってる連中からは、変わったと言われることが多い。
人付き合いを避け、ネットの世界に引き篭もっていた中学時代の俺。
中学時代のある時期をきっかけに、俺は変わったような気がする。
奈川も関わっていた、ある時期、だ。
そして、奈川や、その他の女の子たちと親しくなったりするようにつれ、
次第にインドア系から外をうろつき回って遊ぶ方が好きになり、
いつの間にかひ弱なオタクからケンカとナンパ好きの、変な意味での校内の有名人に
なってしまった。一人称も「僕」から「俺」に変わったしな。
あれだけ入り浸っていたネットも、もうチャットにもほとんど行かず、
現実の知り合いとのメールに使うぐらい。
それ以外で今しているインドア的な行動と言えば、
これは重要なんだが、“ベッドに入る前には必ず日記を書く”ことぐらいだ。
「お前会社違うだろ……」と時々訳の分からないことを言われるな。

「おはよう。なんて幸運だ。
朝から美しい碧さんと藍さんのお顔を拝見できるとは……」
校門に入っていきなり、いけすかない奴に出会った。
「げ……結城……」
結城綾人。
大企業、結城物産の御曹司なのに物を言わせ、優男風のものごしで
女の子に手を出しまくっては泣かせている、キザでナンパな最低野郎だ。
「藍さん、当家のクリスマスパーティのご招待を受けていただいてありがとう。
ああ、碧さん。碧さんも、もちろん参加していただけますよね?」
「わ、わたしは予定があるから……」
「藍、こんな奴のパーティなんかに行くことないぞ」
「おに…緒方先輩も行こうよ。結城先輩の家のパーティって、
すごい人数が来て、お料理とかいっぱい出て豪華なんだよ」
「誰が行くかっ」
「……おにいちゃんが行かないなら、藍、つまんないな…」
結城の野郎は、入学してクラスが一緒になった時から自分の家柄を振りかざして
ブイブイ言わせていたが、俺が中学時代、同じ結城グループの結城証券のお嬢様と
知り合いだったと言ったら突然不機嫌になった。
結城グループの中でも破産なんかした身内のことを知られているのが、
自分の恥のように思えたらしい。
俺も、いまだにたまにメールしたりしている元同級生のことを悪く言われて
黙ってはいられなかった。取っ組み合いの大喧嘩になって、それ以来、
俺らの仲は最悪だというわけだ。

俺の教室に入ると、ダチのめきらが寄ってきた。
柔道部所属、教室でも街中でも24時間柔道着のおかしなヤツだ。
「どうした? 福引きで温泉旅行でも当てたのか?」
「……なんのことだ?唐突に。違うよ。藍ちゃんって相変わらず、可愛いよな」
なんてことを言ってるが、こいつは最近、
藍の親友、青葉衣里に熱をあげているのを俺は知っている。
衣里は高校に入ってから髪を腰の下まで長く伸ばし、
二輪の免許を取って、バイクに跨っているのをちょくちょく見かける。
周りからは不良みたいに言われ、実際口数少なく最近手も早いので近寄る者も少ない
が、そんな突っ張った様子に、いつの間にかこうしてファンがついていたってわけだ。
「ところで最近、碧ちゃんの様子がおかしいと思わないか…?」
「そうか……?」
そう言えば、俺の前の方に座っている奈川の様子が、どことなく暗いような気もする。
「やぁ、おっはようボンジュールなのさぁ……」
背中から、じっとり湿っぽい声が掛けられた。朝から聞きたくない声だ。
「柴………」
首からカメラをブラ下げた柴。コイツも、中学時代からの腐れ縁だ。
オタク化が進み、体重は中学時の三倍にも達している。髪も短く坊ちゃん刈りになった。
冬でも暑苦しい、イヤぁな笑顔をニヤリニヤリと纏いながら、
柴は曰くありげに奈川の方に一瞥をくれ、席についた。



2.クリスマスの風景


「予定があるから……」
奈川は、そう言って結城のクリスマス・パーティを断った。
去年は参加したパーティなのに。
ふっふっふ……。実は、奈川の約束ってのは、俺とのデートの約束なのだ。
「あ、緒方。今帰りなの?」
「澤永」
少々浮かれた気分で下校しようとする俺を、これも同級生の澤永美紀が呼び止めた。
高校に入って、…なぜか、熱心だったバスケをやめて、弓道部に入った澤永。
今も、部活の最中なのか、弓道着を身に付けている。
「緒方も結城のパーティ行かないんだってね。じゃ、クリスマスはどうすんの?」
「誰が行くかよ……って、ま、まあ、予定は、その、いろいろだ」
奈川は、親友の澤永にも、何も話していないらしい。
この二人がこういうところで牽制し合うのは、相変わらずだな……。
「あたしも、絶対嫌だよ。結城のパーティなんてさ」
澤永も、結城嫌いは俺と同じ。
けっこう気が合って気楽に話せるんだよな。澤永とは、昔から。

下校途中、駅前で、プレゼントと、ちょっと気張って新しいジャケットを買う。
奈川は、文句なく美人だ。
幼い頃は子役やモデルのような仕事をしていてちょっと知られた存在だった。
最近、また芸能活動を再開し、テレビ等の仕事で授業を休むこともある。
俺とは全然違った意味で学園の有名人だ。
奈川と親しく話せる俺を羨ましがる男子も多いが、本人はクラスのみんなが
遠慮して近付かないのを感じて、もっと話し掛けてくれてもいいのに…と
言っているのを俺は知っている。奈川は奈川で引っ込み思案な性格だしなあ。
そんな大人しい奈川だが、学業優秀、性格もいい。
知り合ってから五年間、親しい友達ではあったものの、
とくに仲が進展することもなくこれまで来たが、
ちょっと期待してないと言えば嘘になる。
家で着替えて、もう一度、待ち合わせ場所の駅に向かう。
少しばかり浮わついた気分で、俺は奈川を待った。

約束の時間。
まだ奈川は来ない。
携帯も繋がらない。
何かあったのかな?と思いつつ、俺は奈川を待った。

それから二時間。
……奈川は、来なかった。

何度も遊びに来たことのある奈川の自宅の前に立つと、
俺はベルを押した。
“…はい”
「あの、緒方ですけど」
“……緒方くん? ごめんなさい……”
奈川は、自宅にいた。
急に熱が出、外に出れず、連絡もできなかったと言うのだ。
“ほんとにごめんなさい。せっかく約束してたのに……”
「……いや、いいよ。じゃあ、身体に気を付けてな」

…いささか気分をダウンさせて奈川の家を離れると、なぜか柴とばったり出会った。
「やぁ緒方くん。奈川さんちに、なにか用があったのかぁい…?」
目障りな柴を親愛の情を込めていくらかしばくと少しは気が晴れたので、
俺は街をぶらついて持て余した時間を潰した。
街に一つしかないコンビニで美人の新人バイトを物色したり、
バイクに乗った衣里と出会って少し立ち話をしたり、
駅前でぶつかって来そうになったこおろぎをうまく躱したり、
病院の前を素通りしたりして時間を潰す。日が落ちた頃、家へ帰った。

「ただいま〜。……?」
リビングに入ると、キッチンのテーブルに誰かが突っ伏していた。
藍だ。
近寄ると、すうすうと寝息を立てて藍は眠っていた。
結城のパーティはまだまだこれからの時間だろうに、
“おにいちゃんがいないとつまんないよ”という言葉通り、
本当にもう帰って来てしまったらしい。
“おにいちゃん来ないなら、じゃあ藍、いっぱい食べ物をおみやげにもらって来るよ”
テーブルの上には、そのみやげらしい立派なクリスマスケーキが置かれていた。
ひょっとして、俺と一緒に食べようと思って待っているうちに、
眠ってしまったのかもしれない。
「……馬っ鹿なやつ。風邪ひくぞ」
そう言って俺は、買ったばかりの新しいジャケットを藍にかけてやり、
二階の自分の部屋に上がった。


3.藍 〜いもうと〜

冬休み。
その日は、ある事情で喫茶店で澤永にパフェをおごらされた後、
街で偶然奈川のロケに出くわしてしばらく見物した。
だが、その後、結城なんぞとばったり出くわしてしまう。
いつもの口論から、この日はなぜか「ぺ──っぺっぺっ!!!」と
互いに激しい唾の掛け合いとなり、汚くなった身体を洗おうと、
俺は家に急ぎ、駆け込むように風呂場に飛び込んだ。

そこに、……藍がいた。

白い裸体に熱いシャワーを掛けている真っ最中の藍。
「あ………」
お互い、完全に膠着状態。しばらく動けなくなってしまった。
藍は、隠すところもない、文字通りのすっぽんぽんだ。
「…………」
「…………」
湯気の中で沈黙とお見合いが続く緊張の空気のさ中、
俺はしっかりと藍の身体を観察してしまっていた。
中学時代、まだ互いに平気で部屋を行き来してた頃、
着替えの最中にドアを開けてしまったりしたこともある。
あの頃の小学生そのまんまな体型はもう面影もない。
二の腕も、太股も、ふっくらと肉が付き、完全に女の体になっている。
ごつごつと骨が浮き出したようなところはもうほとんど無い、
意外なほどの女性的ライン。
胸もすっかりたわわに実り、瑞々しい肌がシャワーの水滴を弾き返している。
小さくてピンク色の乳首まではっきり見てしまった。
お尻も白くて小さい。そして、股間にはしっかりと黒……
「きゃああああぁぁ──────っっ!!!!
おにいちゃんのバカ!! スケベ!! へんたいっ!!!」
風呂桶が飛んできた。
その直撃を食らい、俺はようやく我に返って風呂の戸を閉めた。
「すまんっ!! わ、わざとじゃないんだ、
お前が入ってるなんて思わなかったから……!」
しかし、数年ぶりに見る妹の身体の劇的な変化に、俺は確かに動揺していた。
いや、でも藍は単なる妹だ。それ以上でもそれ以下でもない。
そのはずだ……。

俺が結城が気に入らないもう一つの理由は、藍にまでちょっかいを出していることだ。
澤永だろうが奈川だろうが女と見れば誰にでも声をかける結城だが、
藍にはことのほか執心らしく、しつこくアプローチを繰り返している。
いくら口を酢っぱくして俺がアイツは駄目だ、ろくなもんじゃないと言っても、
女にはあの外面の良さに騙されて、ドス黒い中身までは見抜けないらしいな。
クリスマス・パーティの後、藍は結城とのデートをOKしてしまった。
藍が出掛けてる間、俺は非常にやきもきした気持ちで落ち着かなかった。
別に嫉妬してるわけじゃない。ふだんはうざったい存在とはいえ、
自分の妹、家族を、あんな奴が甘い言葉をかけてモノにしようとしている、
それが我慢できないのだ。……本当に、それだけだ。
もっとも、帰ってきた藍に聞いたら「結城先輩? あれは、デートのつもりはないよ」
とのことだったが……。
俺は、これまで何度繰り返したかわからない「結城だけはやめろ」という説得をし、
藍にもう結城からの電話は取らないと約束させた。当然だ。
万が一エンディングで藍とアイツのカップル成立なんて展開を見たら、
しばらくはムカツキが収まらないだろう。エンディングって何だ。

「おにいちゃん、お待たせ」
今日は、元旦。
俺は、いっしょに初詣に行こうという藍の誘いをなんとなくOKした。
しばらく待たせられた後、藍は、リビングに晴れ着姿で現れた。
「じゃぁ〜〜ん。どう?」
「……………」
俺は不覚にも、一瞬、藍に見とれてしまった。
「お母さんに着付けてもらったんだよ。どう、おにいちゃん。似合う?」
「……ああ、似合ってる……。…馬子にも衣装とはこのことだな」
「もう、いっつも一言多いんだから」
街に出ると、ひさびさの俺とふたりでの外出が嬉しいのか、
藍はニコニコしている。
そんな藍を見ていると、なぜだか俺まで気分が良くなってくる。
自宅前や境内で、やはり晴れ着姿の奈川や澤永に出会って、新年の挨拶をした。
社の前に着き、お賽銭を投げ柏手を打って、神前に祈る。
「おにいちゃん、何をお願いしたの?」
「お前こそ何をお願いしたんだよ」
藍はなぜか頬を赤くして慌てた。
「あ、藍のお願いは秘密だよっ。それより、おにいちゃんのを教えてよ」
「勝手な奴だなあ。……俺の願いは、聞かない方がいいかもしれんぞ?」
「そんなこと言われるとよけいに知りたくなるよ」
「じゃあ言うぞ」
「うん」
「“同級生3が発売されますように”ってさ」
「…………」
「…………」
「…………」                      キッドナップやロストエム モナ〜

ふたりとも変な顔((;´Д`)←こんな顔)しながら帰る途中、
またしてもアイツにばったりと出くわしてしまった。
……結城綾人。あのクソ野郎だ。
藍とふたりで歩いているところを見られただけでもなにか気まずい上に、
ヤツはここぞとばかりに藍を口説き倒し、俺を小馬鹿にしてきた。
当然、俺もさんざんに罵倒し返してやる。
男二人の罵り合いに挟まれて、藍の顔が困惑している。
「おにいちゃん、もう…、結城先輩のことそんな悪く言うのはやめてよ…」
俺は、結城との罵倒合戦で頭に血がのぼっていた。
だから、その言葉に簡単にカチンと来てしまった。
「なんでこんなヤツの味方をするんだ? 藍!」
「え……?」
「わかった。そんなに結城の方がいいならコイツといっしょにいればいい。
デートでもなんでも勝手にしろ! 俺はもう知らんからな!」
──言ってはいけない言葉を言ってしまったことに気付かされたのは、
藍の表情の変化に気付いてからだった。
藍が、目に涙を溜め、真っ赤な顔をして怒っていた。
両手で拳を握って震わせている。
本気で怒った時の、顔だ。
「……なんで、なんでそんなこと言うの? おにいちゃん……。
藍は、藍は、……おにいちゃんのことが……好きなのに!!!」
俺は、藍の剣幕にたじろいでしまった。
「そんな……馬鹿な。兄妹なんだぞ…」
結城の余計な横槍に、藍がキッと視線を向けた。
「藍とおにいちゃんは義理の兄妹だもん!! その気になれば結婚だってできるもん!
おにいちゃんズルいよ! 藍の気持ちはとっくにわかってるくせに!
知らないふりしてごまかして、ずっと藍に冷たくして!!」
藍は、もうぼろぼろと涙を零していた。
そのまま、晴れ着のまま、その場から走り去ってしまう。
俺は呆然と突っ立っていた。
なんだか、手のひらの汗の湿った感覚が、妙に生々しかった。
思ってもいなかったことを言われて驚いているのではなく、
ずっと互いに触れないようにしてきたことをずばりと言われてしまったことに
動揺しているんだと、自分でもはっきり自覚していた。
「この結城綾人がこのような恥辱を味あわされるとは…。
おのれ、緒方……。今日のことは忘れんぞ……」
すでに俺の視界からは消えていた結城が、そんなことをつぶやいていた。

翌日、校庭の片隅で結城が柴とヒソヒソ何やら密談しているのを、俺は見た。
胸クソ悪いからもちろん近寄りもしなかったが。


4.告白

翌日、藍の方から少し話し掛けて来てとりあえず和解はしたものの、
多少の気まずさとしこりは、やはり残った。
はっきりと気持ちを口に出されてしまった以上、
俺も、ちゃんと藍のことを考えてやらないといけないのかもしれない。
俺は、藍のことを、いったいどういう存在だと思ってるんだ……?

俺に電話が来たのは、ベッドに寝転がってそんなことを考えていた時だった。
誰かはわからなかったが、女性の声。
駅前のステーション・ホテルでお待ちしています……と言って電話は切れた。
誰だろう……?
俺はとりあえず指定された場所、時間に出向くことにした。
女がらみとなるとつい調子に乗ってしまうという、俺の悪い癖だったかもしれない…。

ホテルのロビーで待つこと一時間。
誰も現れない。
……なんだか、奈川とのクリスマスデートの時みたいだな……
などと思い出しながらも、誰かのいたずらだったか?と思い始めていた俺。
ホテルに来る途中、結城と……藍に似たような二人連れを見たような気がしたのが
ちょっとだけ気になっていたが、とりあえず、今日のところは帰ることに決めた。
その時……、
「あっ……」
俺は、思わず声をあげていた。
一階の部屋のひとつのドアが開き、出て来たのは……、
藍と、結城だったのだ。
「…………」
思わず、ごくりと唾を飲み込んでしまう俺。
藍は少し怒ったような顔でダッフルコートを着込みながら
部屋から出てロビーに歩いて来、そして、俺に気付いて……
驚きに目を見開いた。
「あ、藍………」
俺の口から出たらしい、間抜けな声が、聞こえる。
「おやおや、これはこれは藍のお兄ちゃんじゃないですか」
結城が嫌みったらしい声を掛けて来た。
……いつの間にか、藍を、呼び捨てにしてやがる。
「おにいちゃん違うんだよ、これは……!」
「うるさいっ!」
藍の身体がびくっと撥ねる。
「お、おにいちゃん何考えてるの? 違うよ、藍はなんにもしてないよ!」
「……本当か? 結城とたった今……」
「信じてくれないの!? 藍の気持ちはこの前言ったじゃない! それでも……」
俺が何か言葉をみつける前に、藍は、きびすを返してしまった。
「……お、おにいちゃんなんかもう嫌いだよっ! 大っ嫌い!!!」
藍は、ロビーを飛び出して行った。
「いやいや、お兄ちゃん? 藍とはふたりきり、
それはそれは楽しい時間を過ごさせてもらったよ」
「…うるさい」
結城が雑音を発している。
「藍は、バージンだったようだよ?
可憐な容姿に似合った美しい肉体……堪能させてもらったよ…」
「……黙れ」
「おや? 悔しいのかな? ふたりは兄妹だってのになあ〜」
真心こもった言葉での説得を聞いてもらえないようなので、
俺は、物理的な説得で結城に沈黙してもらうことにした。
げしっっ!!
「ぶわっ!!」
顔面にモロに拳骨を食らって、結城が吹っ飛ぶ。
「ぼ、僕の顔をぶったなあ!!」
「うん」
げしっっ!! がしっっ!! ずどっっ!!
中学時代の俺しか知らない奴が見ていたら目を疑っただろうが、
それなりに腕っ節に自信がある今の俺の暴力に、
結城はあっという間に目も当てられない惨めなありさまに変わった。
「た、助けて…。警備員さん! 誰かぁぁ!」
もちろん俺は、警備員なんかに捕まる前に、ロビーを飛び出していた……。

何十分も走り回って、藍をようやくみつけたのは、家の裏手の公園だった。
少し息をついて、ブランコに乗った藍に近付く。
「……藍」
ホテルのロビーでの出来事。あれから時間がたって、俺も少しは落ち着いていた。
「…………」
藍は俺と目線を合わせない。まだ、怒っているようだった。
「疑って悪かった……。謝る。ゴメン」
考えてみれば、あれほど嫌っていると俺が言ってた奴と、
俺に告白して二、三日で藍がそんな関係にまでなるはずがない。
冷静になった頭で、俺はそう藍を信用することに決めていた。
「……うん」
藍の話では、結城は、この前大喧嘩になってしまい申し訳なく思っていた藍の
気持ちに付け込んで、ホテルでの食事を強引に承諾させたらしい。
来てみて、レストランではなく部屋でふたりきりなのに藍は驚いた。
ほとんど口も付けずに藍は部屋を出て、そこで俺とバッタリ……
ということだったようだ。
そういえば、柴と結城が、昨日何やら密談していたのを思い出す。
俺をホテルに呼び出した女の声も、結城の依頼で柴あたりが仕組んだことなのだろう。
……アイツにも、後でちょっと面白い顔になってもらう必要があるかもな。
「じゃあ、もう暗くなってきたし、帰るぞ」
「……まだ、もうちょっと、こうしてるよ……」
誤解は解けたものの、俺に信じてもらず、結城との関係をあんなふうに
誤解をされたことに、藍はまだ傷ついているようだった。
…掛けてやる言葉が思い付かず、俺はとりあえずひとりで家に帰ることにした。

……遅い。
遅すぎる。
帰宅して晩飯を食べた後、日記を付けちょっと仮眠を取った俺は、
起きてみて藍がまだ家に帰っていないことに気付いた。
時計の針は、午後11時を過ぎている。
異常に気が焦り始め、俺は取るものもとりあえず、
ジャケットだけ羽織って裏の公園に向かった。

「藍!!」
公園のブランコのところでもつれ合う人影が街灯に照らされているのを見て、
俺は全速力で駆け出した。
「藍ぃっっ!!!」
「おにぃちゃああんっ!!」
藍が、酔っ払った男に羽交い締めにされている。
あれは……英郎(ヒデオ)! 衣里の兄貴の、この界隈では有名な不良、青葉英郎だ!
「ヘ〜ッ、ヘッ、ヘッ、ぴちぴちだぜぇ〜」
首筋に舌を伸ばす英郎から、藍は必死で顔を遠ざけている。
「や、やめてよおっ! 藍だよ、衣里の友達の……っ! ああっ!!」
英郎は泥酔しているようだった。
どうやら、顔見知りの藍も俺も誰だかわからないほど、へべれけらしい。
真っ赤な顔で、ふらふらとしながらも、大きな身体で藍を押さえつけている。
唯一の幸運としては、藍はまだ英郎に押し倒されもせず、
何の被害も受けていないらしいことだけだ。
「ひ、英郎っ! てめえっ! 藍を放せ!」
「だぁれだ、おめえは……? 手ぇ出しやがると、コイツは無事じゃ済まんぞ?」
「クッ……」
英郎は酔っ払いなりに藍に危害を加えるそぶりを見せ、俺を牽制している。
「おお、おお、いいねえ、このカンショク……」
「きゃあああああぁぁっっ!!!」
英郎が、藍の胸を揉みしだき始めた。
「て、てめえぇぇっ!!」
「あ、あ、嫌だ! 嫌だよ! おにいちゃぁぁんっ!!」
「ふへへ、やわらかぁい……けっこう大きいねえ、おねえちゃぁぁん」
まだ誰にもそんなことされたことのない藍の胸を、英郎が好き勝手に弄んでいる。
藍が泣き叫ぶのも構わず、コートの上からすら
形が歪むのがわかるほど、強くこねくりまわされている。
「いたい! いたいよぉっ!!」
「へへ、こっちはどうかな……?」
「………っ!」
スカートの上から、あろうことか英郎は藍の股間に手を伸ばした。
ぎゅっぎゅっと汚い指を押し付ける。
「嫌だよぅっ! 気持ち悪いよぅっっ!!」
「へへへ、ここも柔らかぁいぞぉ……イって良し! ん? げぶっ!!!」
俺の中で何かが切れ、気が付くと英郎の顔は、
勢いよく吹っ飛んで、肩の後ろの方に仰け反っていた。
最初の一発をほんの挨拶代わりに、俺は、拳を、蹴りを、
何発も何十発も英郎に浴びせ続けた。
結城の時はまだ手加減できていた俺も、コイツにはもう、なんの容赦もできなかった。
これほど切れたのはいつ以来だろう、と
怒りで真っ白になった頭のどこかで冷静に俺は考えていた。

……。
英郎は、ボロボロになって公園からよたよたと歩いて逃げ去った。
明日、今あったことを果たして覚えているだろうか…?
公園には、はぁはぁと息を切らした俺と、うずくまって泣いている藍が残された。
「おにいちゃぁん…!」
「この大馬鹿野郎! 心配かけやがって!」
藍はがばっと俺の胸に飛び込んで、抱き着いてきた。
そのまま泣き出す。よほど、恐かったんだろう。
温かい体温の塊が、俺の腕の中でぶるぶる震えていた。
そんなに、恐かったのか。……こんなに、小さかったのか。
もう、随分大きくなったと思ってたのにな……。
ふたりとも少し落ち着くと、藍の様子が、いささか、変わった。
小さなふたつの手でぎゅっと俺の背中を掴み、俺の目を見上げる。
体重すべてを俺に預けて。
「おにいちゃん……。藍、忘れてないよ。おにいちゃんとした約束。
ずっとずっと昔にした約束。……絶対結婚しようね、っていう、約束…」
大きな瞳が、涙で潤みながら一心に俺をみつめる。
藍の瞳から、手の指先一本一本から、胸から、全身から、
“好き”だっていう熱いエネルギーが俺に伝わってくる。
やばい。
やばい、と思った。
俺の腕の中で、必死にこちらにエネルギーを伝えようとするこの女の子の存在が。
そして、そんな彼女の様子に、
胸にどうしようもない熱を生じさせてしまっている、俺のことが。
どうする? どうするんだ、緒方圭。
藍が俺を見上げたまま、すっと目を閉じた。
……もう、他に何もできなかった。
俺は、藍の唇に、そっと俺の唇を重ねていた。

「恐かったんだ、きっと。いままでの関係が壊れるのが。
俺たちの気持ちがはっきりしちまうのが。
……だから、わざとお前を突き放して、意識しないようにしてたんだと思う」
「……おにいちゃん」
「臆病だったんだ、俺は。でも、今ならはっきり言える」
藍は、頬を染めながら俺を見つめ続けている。
「俺も、藍のことが好きだ」


5.そしてある夜、さらに、秘密のもう一夜

その日、俺は母さんから“話がある”と、なぜか深夜にリビングに呼び出された。
藍はとっくに寝ている。俺と母さんふたりきりだ。
「圭も今年で高校を卒業ね」
「……うん」
「それでね。進路が決まったら、家を出てはどうかしら?と思うの……」
「えっ」
意外な言葉だった。
まだろくすっぽ考えてはいなかったが、俺は、来年からは、
自分の食い扶持ぐらいは自分でなんとかしようと思っている。
…だが、まだ家は出たくなかった。
そう言うと、母さんは俺にその理由を尋ねる。
俺は、それに答えなけりゃならない。
一瞬言葉につまったが、でも、俺は、言わなきゃいけないと思った。
「……藍が、藍のことが……。好きなんだ。今はまだ、離れたくない」
母さんは、それを聞いてもさほど驚いた様子もなく、ただ、溜め息をひとつついた。
「やっぱりね……。そうじゃないかと思ってたのよ」
藍の気持ちは誰の目にもあからさまだ。
実の兄妹でないことも、俺、藍、両方が知っている。
そして、ふたりは共に男女を意識する思春期を迎えていた。
それを母さんは心配して、この話を持ち出したのだった。
俺は、懸命に母さんに訴えた。
ふたりともお互いの気持ちを確認したこと。そして、真剣なことを。
「じゃあ、ひとつだけ約束して。藍を、決して、傷つけないでちょうだい」
「……ああ。約束するよ」
「お父さんには私から話しておくわ。きっと驚くだろうけど、
圭と藍の真剣な気持ちは、わかってもらえると思うから……」
母さんのその言葉に、俺は心の底から感謝した。

翌日の、また夜。
コンコン、と俺の部屋にノックの音がした。
「おにいちゃん?」
「ああ」
「よかったら……藍の部屋で、いっしょに話さない?」

「おじゃま…します」
「ふふ。どうぞ」
藍の部屋なんか入ったのは、何年ぶりだろうな。
中学時代は、いっしょにゲームをやったり、ビデオを見たり
案外気楽に出入りしていたもんだが、いつ頃からそんなことがなくなったんだろう。
俺が藍を避けていたから。
寂しい思いさせてたんだろうな、と思う。
あの夜、公園で告白してから、藍とまともに話すのは初めてだ。
最初はぎこちなかったが、しだいに俺たちは打ち解けて話しはじめた。
話は弾んだ。
俺が避け出してから何年分かのブランクを、一晩で取り戻そうかとでもいうように。
ブランクの長さの分、話題も尽きなかった。
まるで、何年も前の、屈託ない兄妹時代に戻ったみたいだった。
その頃と違うのは、いまの俺たちが、互いに恋愛感情を認め合ってるってこと。
俺たちは話し合った。
俺の本当の気持ち、藍が思っていたこと、ふたりの思い出、これからのこと…。

そして、藍はいま、俺の腕の中にいる。
「キス……してもいいか?」
「うん……」
目を閉じた藍の口に、そっと俺の口を重ねる。
口に、熱い体温と、皮膚の接触した感覚、そしてほのかな湿り気を感じる。
藍の唇の感触だ。
熱い身体を、全身俺の腕に委ねきっている藍。
唇で繋がり合っている俺たち。
何分も、何分も、俺たちはそのまま口付けを続けた。
……口を離すと、はあぁ…、と藍は目を閉じたまま、熱っぽい息を吐いた。
キスだけで、身体全体が熱くなってしまったみたいだ。
ようやく開けた瞼の中も、潤んでいる。
ぼうっとしている藍に付け込むみたいな気もしたが、
我慢できずに、俺はもう一度その唇を奪った。
息を吐いて開いたままの唇の間に、そっと舌を差し入れる。
ほんの、2cmほど。藍は、まだ驚かない。
そのまましばらく動かして藍に舌の感触を慣れさせる。
俺も、藍の唇の感触を舌で優しく味わう。そして、一気にすべてを侵入させた。
藍が、身体をぴくっぴくっと撥ねさせた。
藍の舌を弄ぶ。俺の男の舌と、藍の女の舌の間で、唾液がひとつに交じり合う。
最初のキス以上の長い時間をかけて口の中を舌で蹂躪すると、ようやく口を離す。
ぷはぁっ、
と息を吐く藍の口と俺の口が、唾液の細い糸で繋がっているのが
すごくエロティックだ。
藍は、もう耳まで真っ赤で、目も、端から涙が滲むほどに潤んでいる。
はぁ、はぁ、と息も荒い。身体全体から、すっかり力が抜けてしまっている。
キスしかしていないのに、まるですでにたっぷり犯された後のようになってしまった
藍のしどけない姿が、さらに俺を興奮させる。
「藍……。いいのか……?」
「うン……」
セーターを胸までたくしあげ、
腕を頭の上に伸ばさせて、身体から引き抜く。
続いて、スカートのホックを探し、外す。
ジッパーを下ろすと、スカートも取り去った。
藍は下着だけになった。肌のほとんどが、丸見えの姿。
藍は、ベッドの上にうつぶせになって恥ずかしがった。
「いや……おにいちゃん、電気消して……」
藍には悪いと思ったが、俺はその願いを無視することにした。
俺が生まれから見たもので、一番って言えるほど奇麗なものを目の前にして、
それを暗闇に隠すなんてことは、興奮し過ぎてて、とても我慢できない。
恥ずかしがって俺に背中を向けた藍。俺は、背中のブラのホックも外す。
ブラの紐を腕に通して脱がす。まだ藍は抵抗しない。
ショーツにまで手を掛けて初めて、「ヤっ」と身を硬くした。
俺は、顔を寄せてふたたび藍に口付けを繰り返し、あらためて聞いた。
「……脱がす、ぞ」
しばらく無言の間があって、藍は、本当に小さく、こくっとうなずいた。
両手をショーツの左右に掛けて、静かに下げる。
藍の軽い腰を少し持ち上げるようにして下ろすと、
簡単に奇麗なお尻があらわになった。
これから風呂に入るわけでもない妹をベッドの上ですっぽんっぽんにして、
俺は、罪悪感と極度の興奮ではちきれそうだった。
そんな中、ふと、思い付いたことがあった。
「なあ、藍。リボンを解いたところ、見せてくれないか?」
「……いいよ……。リボン解いたところは、好きな人にしか見せないって、
ずっと決めてたんだ……」
──俺のために、ってことか。
胸が、グッと熱くなった。
俺の手で、藍の髪の毛をふたつのお団子状にまとめていたリボンを解く。
はらり、と美しい髪の毛が裸の背中にひろがった。
かつての短いくせっ毛は、ウェーブがかかったロングヘアへと成長を遂げていた。
見知らぬ長い髪の奇麗な女の子が、突然目の前に現れた、そんな感じだ。
「……奇麗だ……藍……」
「ほんと……?」
指で優しく髪をすいてやりながら、また、甘い口付けを繰り返す。
そのまま、生まれて初めて藍の裸の胸に手を触れさせた。
柔らかなふくらみ。柔らかな突起。
俺がそのすべすべとした肌触りを楽しんでいると、藍は我慢しきれないのか
小さく声をあげながら、何かに耐えるように目をぎゅっと閉じていた。
「感じるか?」
「わ、わかんない…あっ、んっ」
初めて触る藍の肌の感触を、隅々まで、味わいたい。
脇腹やおなかにも手を滑らせ、腕もさすりあげる。
どこもかしこも、男の肌なんかとは比べ物にならないきめ細やかさで、
俺はすごく感動した。
「く、くすぐったい、よ、おにいちゃん…」
腰やふとももにも手を這わせ、お尻をしばらく撫で……、
「藍……触るぞ……」
「ひゃんっ!」
藍のそこは……熱い蜜が溜まっていた。
「見てもいいか……?」
「あぅだ……駄目……」
抵抗しようとする藍の両足を広げて、俺はそこを見つめた。
「イヤ……おにいちゃん恥ずかしい……」
「……奇麗だぞ……」
「う、うそ……」
ネット上の画像でいくらでも女のその部分を見たことはあったが、
藍のそれは比べものにならないほど奇麗だった。
ほとんど肌色したその部分に、薄いピンク色のつつましやかな襞(ひだ)が見える。
だが、つつましい姿をしたそこも、
俺を、“男”を欲している証拠に、透明な蜜がいっぱいに湛えられている。
俺の目の前で、つー……、と一筋、蜜が太股を垂れ落ちた。
「いやあ……」
自分のそんな恥ずかしい状態を、藍も自覚しているってことに、興奮する。
藍は、恥ずかしさに耐え切れなくなったのか、しっかりと足を閉じた。
俺は、前から手を回すと、茂みの奥から
秘められたクレバスを探し出し、指を差し入れる。
「あっ……」
やさしく、擦る。
「駄目…あっ……あっ……いや怖い……」
藍が一際声を大きくする指の動きを発見し、同じリズムで擦り続ける。
「あ、あ、あっ! あ、あ…」
藍の両足から力が抜けたので、俺はもう少し藍の足を広げて、
両手の指を使って本格的に藍を責め始める。
「駄目……おにいちゃん……駄目……恐いよう……」
言葉では抵抗するものの、身体に力が入らないらしく、藍はもう無抵抗だ。
無抵抗のその部分に、思い付いたこと全部をほどこしていく。
襞をさすりあげ、クリトリスをくなくなと指先でなぶる。
襞をかき分ける。処女穴に、ゆっくりと指を挿入する。
さらに、最も激しい反応をしたクリトリスに、口を付けた。
「ああっ!!」
口で吸い、舌でもてあそぶ。
「ヤ! 駄目! やめてえおにいちゃんっ! だめだめっ!」
裸の全身を振り乱して、藍は抵抗した。
(あ……)
俺は、藍が本気で泣きはじめているのに気付いた。
「やめておにいちゃん……、そんなことしないで……。
藍は、初めてなんだよ? 感じるってこともまだよくわからないんだよ……?」
ちょっと、興奮に任せてやり過ぎてしまったみたいだ。素直に反省する。
「ご、ごめん……」
顔をあげて、髪をまた撫でてやり、おでこや頬に口付ける。
藍が落ち着くまで、そうして静かに撫でてやった。
少し、時間を置いてもう一度尋ねる。
「でも、藍とするためには、充分に…ほぐして、濡らしてやらないといけないから。
だから、もう一回触るぞ。……いいか?」
「……ウン……」
まだ少し目尻を濡らしながら、藍は、そっと、今度は、自分から足を開いた。
俺も服を脱ぎ捨て、指で、藍のそこをこするのを再開する。
「あっ…あっ…」
喘いでいる藍が、目を開き、閉じしながら、俺のものを注視しているのに気付いた。
「……気になるか?」
藍が慌てて目をそらす。
「触ってみろ」
「わっ……」
藍の細い指が、俺のものを握り締めた。
「どんな感じだ?」
「熱い……。それに、こんなに、か、硬いの……?」
「少し、握った手を上下に動かしてくれよ」
言うと同時に、そこに快感が生じた。
「うっ……」
「い、痛い?」
「違う……。つ、続けてくれ……」
藍の手に自分の肉の棒を委ねながら、
藍の股間のクレバスをこすりたてるのを再開する。
互いの手を使って、ふたりとも全裸のかっこうで
相手のオナニーを手伝ってやってるような感じだ。すごく、興奮する。
「あっあっあっ、あっ、あっ!」
「藍、い、イクのか?」
「わかんない変になる、変に……!」
藍の手が止まっていた。
子犬のような高い声をあげて、裸身を右、左に大きく撥ねさせ、仰け反る。
そして最後に、あ──────っっ、と大きな声をあげ、
藍は、白い肢体をぶるぶると震わせた。

「……おしっこ漏らしちゃうかと思った」
たった今、義理とはいえ兄弟に生まれて初めてイカされ、
余韻に身を痺れさせている藍。
俺の手は、まだ藍のあそこに置いてある。
イッた直後で過敏になっているようなので、
手のひらで優しくなでつけてやっている。
藍も、俺のものをいじる行為を、再び始めた。
亀頭を親指でこすったりするのは、無意識でやってるんだろうか。
「もう、慣れたか? 俺のそれ」
「あっ。……うん……おにいちゃんのなら、たぶんもう平気」
思い出したように、さっきまでしていた、
親指と人差し指で作った輪っかで竿を上下にしごく動きを再開させる。
「んんっ……」
体温の高い藍の指の輪がすごく気持ち良かったが、
なんだか妹にオナニーの代行をさせているようで申し訳ない。
「……もういいよ」
「え?」
「そろそろ、いいか」
「あ……」
藍は、俺の顔をみつめてこくんとうなずいた。

藍の身体をうつぶせから仰向けにさせて、足の間に俺の腰を入れる。
藍の裸体に腕を回すと、藍も俺の背中を抱き返す。
「おにいちゃん、あったかい……大好き……」
藍の形のいい乳房が、俺の胸板で潰れる。
そのまま、今までで一番ねっとりとディープキスをする。
「ん……」
「んん……。藍……。いいんだな?」
そそり立ったもの先端を藍の潤んだあわいに触れさせて、
胸を焼く興奮と同時に、人生最高の罪悪感もわいてきた。
妹の処女を破る。
仲の良い兄妹としてすくすく育って欲しいと願ってただろう
父さんと母さんの気持ちを裏切って、これから藍と
肉体的にも本当に男女の関係になるのだ。
妹じゃない、もう藍は恋人だ、と思っていても、
そして母さんにああ言ってもらっていても、俺の心に、まだ一点の重みは生まれる。
動物で言えば交尾を。
夫婦で言えば子供を作る行為を。
藍、妹と。今からするのだ。
俺の汚いものを妹の膣内(なか)に差し込んで。
するのも、やめるのも、どうするのももう、俺だけに委ねられている。
「公園で襲われた時、すっごい恐かった……」
藍が、言った。
「初めてを、おにいちゃんにあげられて良かった……幸せだよ……」
藍の目の端から涙が一滴零れ落ちた。
俺は、腰を送り出した。

「あぅっ! うゥん……!」
「痛いか?」
「ううん、だいじょぶだよおにいちゃん。続けて……」
性的興奮で火照った藍の身体の中でも、そこは特別に熱かった。
俺のものがその高温に包まれる。すごい圧迫感とともに。
狭い門を、腰に力を込めて押し開く……、と、
案外それは、するするとスムーズに侵入していった。
俺の腰の付け根の部分が、藍の肌にぴったりと触れる。
「全部、入ったぞ」
「ほんと?」
「ああ」
「嬉しい……。これが、一つになったってことなんだ」
「痛くないか? 本当に」
「うん。思ったより全然……」
少し、腰を動かしてみた。
大丈夫なようなので、少しずつ動きを大きくする。
出入りを繰り返す。
竿の部分に赤いものが付いていた。藍の、一生で一度の証しだ。
妹の、処女喪失した瞬間の膣孔という、この上ない貴重な場所を使って
こすり続けているのだ。俺は自分のものをますます硬くする。
キスも繰り返す。あまりにも何度もしたので、
藍と口と舌を付け合っている間の方が当たり前みたいな感じがしてきた。
年相応に実った胸も、右手で左、右と交互にやわやわと愛撫してやる。
乳首も指の間に挟んでこすって刺激する。
「あん、気持ちいい、気持ち、いいよ…おにいちゃぁあぁぁんん!」
もう、してしまったからには、できる限り多く快感を与えてやりたかった。
「あん、あん、あぁん、あんっ、ひゃんっっ!」
胸から股間に手を動かして、クリトリスをそっとこすった。それだけで、この反応だ。
「はぅあうっ、あ、あ……」
「藍、痛くないのか? 本当に気持ちいいのか?」
「うん…。あ、ちょっと、痛い、けど、それよりも…はんっ!」
痛みと出血ですごいことになる初体験もあるらしいから、藍は運が良かったみたいだ。
それに、俺の方も気持ちいいばっかりだった。
重ね合せた藍の肌は滑らかで、乳房も、どこも、最高の触り心地だ。
そして藍に付いている器官は、キツいけどもやわらかく俺のものを締め上げ、
自分の手でするのとは全然別種の快感で俺のものを熱く燃やす。
もう、会話は必要なかった。
愛撫と、キスと、股間の繋がった部分での抽送だけに、俺は集中する。
藍も、処女も肉体も心も、すべてを俺に明け渡して、
ただひたすら快感を与えられることだけに浸っている。
部屋に響くのは湿った音。抽送の音とキス。
そして荒い呼吸音。藍の可愛い声。
階下には母さんが寝ているのに、
この部屋では動物のように俺たち兄妹が荒々しく交わっているのだ……。
「藍っ! も、もうすぐイキそうだ……」
「うン! うン! イイよ、イイっ! あ、藍もヘンになりそうっ」
俺は腰の動きを激しくすることに集中した。藍の声も一際カン高くなりつつある。
繋がった場所が、血と、大量の恥ずかしい液で、ぐちゃぐちゃだ。
俺はもう、快感に負けて、処女だからっていう手加減もできない。
でも、藍も目を閉じてひたすら喘いでいる…。
「おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃぁんっ!」
「藍、出る、出るっ!」
「あああっっっ!!!」
藍の大声と同時に、俺はそれを藍の穴から引き抜くと、
精液を発射して藍の白いお腹の上を、汚した……。
はぁ、はぁ、としばらくふたりとも声も出せずに身体を重ねていた。
唾を飲み込むと、俺はティッシュを一枚取って、
汚れた藍のお腹と股間を、丁寧に丁寧に拭いてやる。
そして、もう一度、何ひとつ隠すところもない裸体をぴったり重ね合うと、
熱く熱く兄妹でディープキスを繰り返した。



 エピローグ


新学期が始まった。


「おにいちゃんもたまには早起きするんだね」
「うるさい。たまに寝坊するの間違いだろ?」
「いっつも藍が起こしてあげてるのに」
会話は例によって例のごとく他愛なかったが、
藍とひさしぶりに一緒に通学路を歩くのは嬉しかった。
表面上の態度は変わらない。
でも、俺たちの気持ちは、二学期までとはもう、違う。
「お、あれは……」
通学路の途中に、二人連れの男女が立っていた。
めきらと青葉衣里だ。
「衣里ー!」
藍が手を振る。俺たちを待っていたのか?
やっぱり今日も柔道着のめきらが、俺に向かって言った。
「圭……。実は、話すことがあるんだ。お前に一番に話そうと思ってな」
「なんだ? あらたまって。お前らしくもない」
「実は、俺たち、結婚することにした」
「な、何──────っ!!!!」
衣里も照れくさそうに俺たちを見ている。
「これからは家族を養っていかなきゃいかんしな。
柔道で大学に進むのもやめた。衣里の家のバイク屋を継ぐ」
「衣里んちは別にバイク屋なんかやってないぞ」
「細かいことを気にするなよ」
「衣里、おめでとうー。びっくりしたけど……」
藍がはしゃいで衣里に抱き着いた。

澤永とも挨拶して、二学期の終業式以来の俺たちの教室に入る。
と、結城の野郎が俺の後から教室に入って来た。
まだ少し顔を腫らしているようだ。
俺のことは、チラッと見て、ギロっと睨んで行っただけだった。
こいつはずっとあのままなんだろうな。俺は苦笑した。
自分の席に付くと、ふいに目の前を人間の大きな腹がふさぐ。
「やぁ緒方くん、グッモ〜ニンなのさぁ」
「……芝か。そう言えば、お前にもちょっと用があったんだよなあ」
俺は拳を鳴らして芝を見上げた。
「そんなことより、緒方くんに紹介したい人がいるんだよ」
「はぁ? 紹介?」
「お、おはようございます……。芝様の肉奴隷の、奈川碧です」
「へ……」
柴の巨体の後ろから、信じられない言葉を口にして、奈川が現れた。
「ほら、ちゃんとご挨拶をするのさぁ」
「碧は、芝様の奴隷にしていただいて、とっても幸せです……。
これからも、ご主人様に、碧のエッチな写真をたくさん撮ってもらいたいです……」
「よくできたねえ。今日はたぁっぷりご褒美をあげるのさぁ」
「いや……。お、緒方くんの前で恥ずかしいです、ご主人様……」
奈川はぽーっと頬を赤くして答えた。
「じゃ、そういうことで。シーユーなのさぁ」
芝は奈川の肩を抱いて去って行った。
……。
ふたりの間に何があったんだ?
俺、何か奈川の為にしてやらなきゃいけなかったんじゃないだろうか。
……しかし、すべては後の祭りらしかった……。

始業式が終わって、俺は屋上に向かった。
机の中に一通の手紙が入ってたからだ。
“放課後、屋上に来てください”
女の子の字。差出人の名前は書かれていない。
屋上のドアを開けると、そこに、冬の陽(ひ)の光を浴びて、一人の女の子が立っていた。
「藍──」
「来てくれたんだね、おにいちゃん」

藍は、俺の前に来ると、すうっと息を吸ってから一気に言った。
「藍は、おにいちゃんのことが好き! 一生好きで居続けるって約束する!
だから、あらためて言います。藍の、恋人になってください!」
俺は、藍の顔を正面からみつめて答えた。
「ああ。俺もおんなじ気持ちだよ」
「ほんと?」
「当たり前だろ」
「嬉しい……。おにいちゃん、ありがとう」
藍が、俺の首に腕を回してきた。
「藍、おにいちゃんの妹で、ほんとに良かったよ……」
冬の太陽の下、まだ幼いカップルが誕生した。
これからいろんなことがあるだろう。
でも、俺は一生藍を守り続ける。そう、心に誓った。

 * * * * *

そして、数年が過ぎた──。

藍は看護学校へ進学する道を進んだ。
卒業後、立派に看護婦としての第一歩を踏み出し、偶然だが、
看護婦をしている奈川のお姉さんと同じ職場で、新人ナースとして頑張っている。
今日は、俺と藍の結婚式だ。
めきらと衣里や、中学、高校時代の知り合いも何人も駆けつけてくれた。
その中に囲まれて、ウェディングドレス姿の藍は、この上なく幸せそうだ。
ひとつびっくりしたのは、帰国した親爺と、おふくろが、
突然俺たちと同時に結婚を決めたことだ。
だから今日は、式も親子合同。
……親爺とおふくろはもともと夫婦じゃねえか……、何故結婚……
とも思ったが、まあ──細かいことだ。
藍を、俺の手で一生幸せにする。
そう改めて心に決めた今日、俺は高校時代の、あの冬休みのことを思い出していた。
俺たちが結ばれた、あの、思い出の日々を。
時が過ぎても決して忘れない……。
俺たちが、生涯離れないと誓ったように──。


                        ピュアメール2〜冬のはじまりに〜 終わり


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