【二日目】
この日は朝から仕事。
昨日働いたんだから今日は休ませろという正論は全く通用しない。
それが社会であり世間であり、現実である。
「おっはよー」
劉さんは何故か棒読み口調で挨拶してきた。
酷い棒読みだ。いくら棒読みでも限度があるだろってぐらいに棒読みだ。
それに……。
「それ、何ですか?」
妙な物体をもっているのが気になった。
「これかい? ハンマー投げのハンマーだよ。陸上競技の」
「……」
劉さんはいつもより濃い顔をしてどっからか取り出した栄養ドリンクを飲み干した。
「君にもあげよう」
「はあ……」
《栄養ドリンクを手に入れた!》
「今私たちの間では密かな室○ブームなんだよ」
「まあ確かにホモ受けよさそうな顔と体格してますけど……って、
朝から気色悪い事言わせんでください」
「まあまあ。ところで司くん、末莉ちゃんともうやっちゃった? やっちゃった?」
「ぶっ!」
こ、この人は……。
「やったんだね」
「……」
1.人間素直が1番
2.黙秘権を行使。
《2を選択》
「……」
俺は露骨に目をそらした。
「そうか……これで司くんも晴れて私たちの仲間に」
「何故そうなる!?」
「ロリコン=変態=バイ」
「ぐっ……」
「それはともかく、ペドゴニア司くん」
「その不本意極まりない冠詞を即刻外せ」
「君にこれを進呈」
「え?」
受け取る。
それは手書きの地図だった。
『コスプレショップ DuetOcean』
「……」
劉さんは何も言わずに俺の方をポン、と叩いた。
俺も何も言わずに一礼し、それを大事にポケットにしまった。
《コスプレショップへの地図を手に入れた!》
仕事終了。
時間は午後五時。
さて、これからどうする?
1.真っ直ぐ家に帰る
2.早速例の場所へ
《2を選択》
……ま、折角だしな。
上司の行為を無にするのは資本主義に反する重罪だし。
「ママ、ママ、あのお兄ちゃん変だよ。笑いながらはーはー言ってるよ」
「めっ! 見ちゃだめよ!」
俺は至極冷静な面持ちで地図に従い歩いていった。
「いらっしゃいだにょ」
「……」
「何をお望みだにょ?」
店員らしき生き物は語尾が変な言葉を操る変な女性だった。
「……やっぱ帰るか」
ここはどうやら異次元の世界らしい。
俺には到底理解できない。する気もない。
「待つにょ」
引き止められたがめんどいのでシカトする。
「この店は冷やかしお断りだから手ぶらで帰ろうとすると……」
ヒュッ
ドスドスドス!
「のわっ!?」
天井から槍が振ってきて俺の眼前の床に突き刺さる。
「トラップが作動するにょ」
「そんな人名に関わる重要事項は見やすい所に注意書きしとけよ!」
「で、何をお望みだにょ?(超シカト)」
「ぐ……」
仕方ない。何か買えと言う神の思し召しなんだろう。
さて、何を買おうか……。
1.ア○ナミラ○ズ ピンク制服:¥17800
2.名札入り体操服&ブルマ(サイズS):¥13800
3.犬セット:¥21800
4.フリフリエプロン(サイズS):¥7800
5.ランドセル(赤):¥15800
「全部ください」
「毎度ありにょ」
散財したが悔いはなかった。
「おかえりなさいませー」
「ただいま」
帰宅すると、ちょうど晩飯が出来た頃だった。
美味しくいただく。
「今日買い物の途中でこいぬさんと会ったんですよー」
「ほお」
「あれはよいものです」
近い将来自分が犬にされるとは知らず、末莉はこいぬの魅力を語り尽くした。
「ごちそうさま」
食事終了。
俺は労働の疲れを癒すべく寝っ転がってテレビ鑑賞。
末莉は後片付けの為に台所へ。
エプロンを付けて念入りに皿を洗っている。
……エプロン、か。
1.フリフリエプロンをプレゼント
2.今日は疲れてるしめんどいから止めとく
《1を選択》
当然だな。
「末莉ー」
「なんですかー?」
ゴホン、と一息つく。
「実はな、お前の為にプレゼントを買ってきたのだが」
「え?」
「これだ」
さっき買ったフリフリエプロンを渡す。
「うわーっ! かわいいですねーっ!」
予想通り、末莉は諸手を挙げて喜んだ。
「おありがとうございます〜」
だーっと涙を滝の如く流し礼を言われる。この辺の大げさっぷりは
記憶を失っても変わらない奴だ。
……罪悪感が……。
「さっそく付けますね」
「あ、ああ」
さて、ここからが本番だ。
どうする俺。
1.フリフリエプロンを付けた可愛らしい末莉を鑑賞するだけに留まる
2.男の欲望は時として暴走する事があるという
《2を選択》
「末莉。実はこのエプロンには微弱な磁気作用が備わっているんだ」
「磁気作用……ですか?」
「ああ。体内の水分を活性化させて健康や美容にいい影響を及ぼすんだ」
「ふえ〜」
末莉は本気で感心しているようだが、勿論このエプロンにそんな効果はない。
Liar? No! This is O・YA・KU・SO・KU!
O・YA・KU・SO・KU is Justice! and Male's Romance!
「って訳で、これは直に肌と密接しなければ効果がないんだ」
「肌……ですか?」
「そう、肌。スキン」
「……」
末莉は考えこんでいる。
「あの……着替えてきます」
「ああ」
俺はハードボイルドの主人公でもOKな超ポーカーフェイスで頷いた。
「あの……鼻血が」
「これは精神疾患を抑える為の作用だからなんら問題ないのでとっとと着替えて来い」
「はあ」
てくてく。
「……」
俺は四年振りにガッツポーズをしつつ、刻を待った。
「こ、これでよろしいのでしょうか……」
永遠とも呼べる超密度の三分が過ぎ、末莉が出てきた。
……下着姿にエプロン。アンド靴下で。
「下着……」
「え?」
「あ、いや」
下着エプロンか……期待していたのとはちょっと違うが、これはこれで。
「それでは洗い物の続きをやりますんで」
「あ、ああ」
末莉はけろっとそう言い放ち、そのままの格好で皿を洗い始めた。
……なんか違う。
もっとこう、恥じらいとかそういうのが欲しい。
数年間の記憶が飛んでる今の末莉は幼女に近い思考なのかもしれない。
うむむ……これは忌々しき問題だ。
快楽にのみ目覚めた無垢な幼女……恥じらいを備えた少女……どっちがいいのか。
どうする?
1.幼女でいいからやりまくる
2.恥じらいを覚えるまで出来るだけ手を出さずに育てる
《2を選択》
恥じらいは大事だ。
例え暫くの間お預けとなろうとも、末莉を淫乱にするよかマシだ。
俺が愛の言葉を囁くたびに、顔を耳まで真っ赤にして口を手で覆ったり
少し泣きそうに微笑んで顔を両手でくしゃっと包んだりするのが末莉なんだ。
それが俺、というか全国(略)の理想であって、その為には目先の性欲など……
「ふんふんふーん♪」
ぷりぷりとお尻を揺らしながら洗い物をする末莉が目に入った。
まだ未発達ながら少しずつ丸みを帯びてきている身体が……。
いかあん! またトリップしちまう!
ダメだ、ここで手を出したら清純系に育てようという俺の計画が……。
「きゃん!」
「どうした!?」
悲鳴をあげた末莉に光の速さで近付く。
「包丁を洗ってたらちょっと指を……あはは、ドジりました」
軽く涙目で笑う末莉。
健気っ。
「あの……」
かと思えば、今度は頬を染めつつ下を向きながらモジモジしだした。
「ナンダイ?」
「えと……ゆび、ちゅーってしてくれませんか?」
B O N !
計画は破綻した。
「ああ、してやるさ」
俺は末莉の指を手に取り、口に含む。
ちゅー。
「ふぁ〜」
末莉は日和っている。
「あったかいですー……あっ」
指に舌を絡める。
「お、おにーさん?」
唾液を多分に使いながらねっとりと。
「あ……あっ」
舌の裏をザラっとした部分で愛撫。
「ひっ……」
ありとあらゆる舌技を駆使し、末莉を揺さ振った。
「……おにーさぁん」
「!」
その末莉の艶が見え隠れした言葉で、逆に理性が膨れ上がった。
破綻した計画に再びスポットライトが当たる。
「……」
俺はそっと末莉の指を解放した。
「あ……」
少し名残惜しげな末莉の顔。
「ちゃんと洗って絆創膏張っとくように」
「……はい」
俺がその後そそくさとトイレに向かったのは言うまでもない。
就寝時間が過ぎ、布団を並べて眠る末莉の顔をそっと眺めた。
幸せそうな寝顔……に見える。
と同時に、いろいろと苦労を背負ってきたであろうその顔にいろいろな
重圧も感じた。
「ちゃんと育てないとな……」
自分の欲望ばかりを優先していた最近の自分をちょっと反省。
これからは末莉の事をもっと大事に考えよう。
そう決心して、俺の一日は終わった。
……その決心は夢に出てきた裸エプロンの末莉によって半日ともたず崩壊した、
とだけは記しておく。
その日の深夜。
「……どうだい、順調……」
「……」
「ふむ……だが彼は……なるほど」
「……」
「そうか。ならば……殺……ないようだ」
「……!」
「それが、君のためだよ」
「……」
ピッ
電話が切れ、静寂が再来する。
「……」
窓の外には闇を背負った月が寂しそうに漂っていた……。
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