【一日目】


 朝。 
 太陽が微妙な角度にある時間に俺は目覚めた。
 今日は仕事は休み。意外と休日が多い職場なんだ。
 さて、朗らかな目覚めと共に今自分が置かれている立場とか
 状況をじっくり反芻するとしようか。
 俺は末莉を自分の色に染めるべく育成すると決意した。
 外見や性格などは変えようがない、と言うか変える気は毛頭ない。
 そんな事をしてどうする。末莉は末利だから末莉なんだ。
 末莉がショートカットになったり妙に肉付きがよくなったり
 ボーイッシュになったりしたら末莉じゃなくなるじゃないか!
 そんな末莉を誰が望むってんだ! ボケが!
 ……朝は弱いんだよな。顔洗ってくるか。
≪ザー≫
 うし、目が覚めた。
 で、続き。
 ……つまり、えろえろな方向でいろいろと開発、いやさ育成して
 いこうという訳じゃ。
 毎日Hしまくってただれた日々を送りえろえろなおなごにするもよし。
 無垢で恥じらいを忘れない、昼は淑女夜は娼婦という古くから
 日本に伝わる理想的女性に仕立てるもよし。
 コスプレやSMに興じて懐の深い女性に育てるもよし。
 ……やべっ、朝に起こる生理的なのとは若干違う現象が。
「……すーっ」
 布団に包まっておねむしている末莉を見る。
「……」

1.やっちゃう
2.朝っぱらからやってられっか
3.寝ている末莉の顔のすぐ前で自慰

《2を選択》

 だよな。朝だもんなあ。お天道様から覗かれ放題だもんなあ。
 ……この偽善者が。
「ん……」
 結局末莉はその後普通に目覚めた。

「あの、おにーさん」
 正午を少し回ったくらいの時間、末莉がきょとんとした顔で話し掛けてきた。
「なんだ?」
「お買い物など行きたいのですが」
「ああ、わかった」
 末莉はここ数年の記憶を失っている為この辺りの地理に詳しくない。
 昔住んでた時はあまり出歩かなかったらしい。
 と言うわけで、同行。


「……あの」
 買い物に行く途中の道で末莉が話し掛けて来る。
「なんじゃらホイ」
「?」
 若者には理解できない返しだったらしい。無念。
「なんだ?」
「わたし、本当にあなたの……妹なのでしょうか……?」
「え?」
 しまった……その辺フォローしとくの忘れた。
 やっちまったってのに妹じゃ、俺ってば親近○姦野郎ではないか。
 変態でも外道でもいいが親近○姦はいかん。
「えっとな、その件なんだが……」
「ああっ! あれは!」
 俺が重大な事実を打ち明けようとシリアスな顔をした途端、末莉はどこかへ走っていった。
『……司は、顔が怖い……』
 うう……それはそうかもしれないけどいきなり走って逃げる事は……
「これは素晴らしいダンボールですねー」
「ほお、お嬢ちゃんお目が高いね」
 …………。
 末莉はその後、ダンボールを住処にしている社会においてやや不適合とされる方々と三十分ほど談笑していた。

《積極性↑ 清潔性↓》
 
 結局言いそびれたまま買い物はつつがなく終了した。
 まあ夜にでも言えばいいか。
《ティッシュ1箱、明るい家族計画1箱購入》

 夜。
 携帯が鳴った。と同時に、嫌な予感が身体中を駆け巡る。
 どうする……?

1.電話に出る
2.ワン切り対策

《1を選択》

「仕方ないな……」
 なにか禍禍しい気配を感じつつ、通話ボタンをプッシュ。
「もしもし」
『やあ司くん』 
 予感的中。
『仕事。ヘルプ。お願い
「なんで俺が……」
『金さんたっての』
 切った。


「くそっ……」
 悪態を付きつつホスト業に勤しむ。
 あれから何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
 迷惑な勧誘を受けた俺は、仕方なく折れた。
 折れざるを得なかったと言うべきか。
「ローリー沢村ちゃぁん、3番テーブルおねがぁい」
「ヘルプ引き受けたらその源氏名は取り下げるっつったのは
 あんたでしょうがっっ!」
「冗談よぉ、そんなに怒っちゃソーバッド」
「ああバッドだ全く!」
 金にはなるが著しくプライドと精神力を削がれていく職業、それがホスト。
 こんなのを本職にする奴らの気持ちがわかる日がる事は未来永劫来あるまい。
「エキセントリック少年ボーイ歌いまぁす!」
 はぁ……。
 ため息は喧騒にかき消され、無秩序な空間を透明に彩る。
 末莉は今頃どうしてるかなあ……。早く帰って、あの事言わなきゃな
 そんな事を考えながら、俺は一生慣れる気はない仕事を一生懸命こなした。


 その頃の末莉は。
「くー」
 平和そうに寝ていた。

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