一時間ほど前のこと。

喫茶ロムレットは、静寂に包まれていた。

ロムレットは、郊外とはいえ、駅前の商店街にある喫茶店だ。

立地条件は決して悪くないロムレットが、今日に限っては夕方4時を半ばすぎているのにも関わらず、客がひとりもいないのだ。

否。マスターと、その妻を前に、にやにやと笑みを浮かべながら煙草を吹かしている男こそが、本日ただ一人の客だった。

男の名は、堂島薫。

代議士であり、汚れ仕事を請け負うことで政権政党の長老たちから重宝がられている男だった。

評判は決して良くはないし、周囲にいる男たちも企業舎弟まがいな、その筋の仕事の得意そうな者ばかりである。

「堂島先生」

マスターは意を決して、口を開いた。

「お願いします・・・この店だけは」

テーブルに額をつけんばかりに、頭を下げる。

合わせるように、不安そうな表情の妻も頭を下げた。

ロムレットの入り口には、堂島の手下たちが立ちはだかり、常連客すらも立ち寄ることはできなくなっている。

夫婦が頭を下げたまま、奇妙な沈黙がしばらく続いた。

煙草に火をつけて、ようやく堂島が口を開いた。

「私だって、こんな小さな喫茶店貰ったって困るんだよ。経営するのも、売り払うのも面倒だ」

「だったら!」

「・・・とっとと、店の保証書。持ってきなさい」

「お・・・お願いしますっ!利息だけ・・・利息だけなら、なんとか払いますからっ」

「あのねえ・・・」

堂島が畳みかけようとしたときだった。

からん と、カウベルが鳴った。

「ただいまー・・・」

白と青を基調にした制服。髪は右側に、大きな黄色のリボンでまとめられた内気そうな少女が、入ってきたのだった。

マスターの娘。乃絵美である。

「表の人たち誰?他のお客さんたちが入れないみたいなんだけど・・・」

「あ・・・ああ。貸し切りなんだ。今日は」

「へぇ・・・予約入ってたかな」

「き、急なことだったから・・・」

「そのお客さん?」

乃絵美は、初めてマスターの前に座る男の存在に気づいて言った。

「どうも・・・マスターの娘さんかな?」

「あっ。はい。ゆっくりしていってくださいね・・・じゃ、着替えてくるね」

最後は、母のほうに笑いかけて、乃絵美は店の奥へと消えていった。

「ほう・・・可愛い娘さんだ」

「ええ。今年高校に入ったばかりで・・・」

「そう」

男は、まだ殆ど吸っていない煙草を消して、再び口元に笑みを浮かべた。

「それで、その・・・先生」

嘆願を再開しようとしたマスターの機先を制する。

「伊藤さん」

「は、はい」

「利息だけなら、何とか払えるんですね」

「え?あ、は・・・はい!それじゃ先生!?」

夫妻は希望の光を見るように、顔を上げて堂島に向いた。

堂島は、夫妻の様子を気にもしないような素振りで、新しい煙草に火をつけ、ようやくゆっくりと口を開いた。

「条件次第では・・・待てないこともありません」

「ありがとうございますっ」

夫婦は、すがるように何度も頭を下げる。

堂島は、煙草を吹かしながらゆっくりと切り出した。

「それで、条件なんですがね・・・ヒヒ」

伊藤夫妻には、選択肢などなかった。

だが、それはあまりにも辛い条件だった。



「着替えたよ。何か手伝える?」

乃絵美が、ロムレットの制服に着替えて店内に戻ってきた頃には、両親はカウンターに戻っていた。

何事もなかったかのような静かな店内には、いつもの静かなクラシックが流れている。

客は、相変わらず店の隅の席に座っている先刻の男だけだ。

「じゃあ・・・これを、持っていって」

乃絵美の母が、カウンターにコーヒーカップを置く。

ウェッジウッドの洒落たコーヒーカップに、店独自のブレンドで入れた薫り高いコーヒー。その上には生クリームがのっていた。

「ウィンナーコーヒー?」

「そうよ・・・はい」

乃絵美は、ウィンナーコーヒーと伝票を載せて、歩き出そうとした。

「で・・・伝票はいいから」

「え?」

「後で集計することに・・・なってるから」

「そうなんだ」

乃絵美は、まだ気づいていない。

母の声が震えていたことを。

父が厨房の奥でで、悲痛な表情を浮かべていたことを。

微かに・・・何か訝しげなものを感じたものの、さして気にもせずに、乃絵美は男のほうへと向かった。

「おまたせしました」

乃絵美は、笑みを浮かべながら、ウィンナーコーヒーを堂島の前に置いた。

「お待ち合わせのお客さんたち、いつ来るんですか?」

「今日は、儂ひとりの貸し切りさ」

「へえ・・・」

ロムレットは決して広いとはいえないが、乃絵美には、ひとりで占有するにはこの店は広すぎるような気がした。

(お父さんの知り合い・・・?)

そうでなければ、こんなかきいれ時に予約など受けるわけがない。そんな気がした。

「乃絵美ちゃんだったかな」

「あ・・・はい」

「その服、可愛いね」

「このお店の制服なんですよ」

「実に似合ってる」

「あ、ありがとう・・・ございます」

「じゃ、また注文があったら呼んでくださいね」

そう言って乃絵美は踵を返した。

だが、カウンターのほうを向いた乃絵美の動きに合わせて僅かにはためいたフリルのついたフレアスカートが、その動きを止める間もなく、堂島は乃絵美の腕を掴んでいた。

「あの・・・お客さん」

「乃絵美ちゃん。お客さんを退屈させるものじゃないよ」

「えっ?」

「ほら。儂の膝の上に座りなさい」

そういうと、堂島は腕力に任せて乃絵美を引っ張る。

「きゃあっ」

途端にバランスを崩して乃絵美は堂島のほうに倒れかかった。

堂島は、倒れた乃絵美を強引に抱き寄せて、膝の上に載せた。

「こっ、困ります・・・」

「いいから、いいから・・・」

そういいながら、堂島の手は乳房とスカートの下へと延びていく。

「きゃぁっ。困りますっ・・・ダメっ・・・おっ、お父さんっ!お母さんっ!この人っ」

乃絵美は、必死に身をよじりながら、カウンターに立つ両親に助けを求めた。

「乃絵美・・・」

「助けてぇっ!お父さんっ!」

「・・・その人の言うとおりにしなさい」

「ええっ!?」

乃絵美は、全身の力が抜けていくような無力感に襲われた。

(どうして・・・!?)

悲痛な表情で顔を背けた両親の前に置かれた伝票には、堂島の無骨な字で、およそ喫茶店では書き込まれることのない金額と・・・乃絵美の名が記されていた。

「やっ・・・やめてくださいっ」

乃絵美は不意に我に返った。

小一時間ほど前のことが、まるで遠い昔のことのような感じだった。

気がつけば、ショーツは完全に下ろされ、右足首にかけられていた。。

湿ったショーツは、白いストッキングごしに乃絵美自身の分泌した淫液の滴りを感じさせている。

(やだ。こんなに・・・)

密かに慕う実兄を想い僅かに分泌したこともあったが、その何倍もの湿り気が、乃絵美の純白のショーツに染みを作っている。

長いスカートは、たくし上げられて、ウェストのリボンにかけて止められていた。

ぐい、と、堂島が乃絵美の頭をテーブルに押しつけると、乃絵美はテーブルに上半身を、堂島の膝に下半身を預けた状態で四つん這いになった。

「ヒヒ・・・いい尻だ」

「いやっ・・・」

スカートがたくし上げられているせいで、堂島からは臀部が丸見えだということに気がついて、さらに乃絵美は頬を染めた。

(お兄ちゃんにも、見られたことないのに・・・っ)

「そう急かさんでも、入れてやる・・・クク」

「ちっ・・・違います」

必死に抵抗を試みるが、元々病弱な乃絵美が屈強な堂島の腕力に敵うはずもなく、すぐに元の位置に組み敷かれるのだった。

堂島は、力強くそそり立った陰茎を、乃絵美のスリットに押し当てた。

堂島の熱い体温と感触が、大陰唇と小陰唇に擦り付けられる。

むず痒い感覚が、乃絵美の脊椎を焼くようなちりちりした快楽として襲いかかってきた。

「ひぁ・・・お願いです・・・それだけは・・・」

身体の奥から、ぬるぬるといやらしい液が溢れ出しているのを感じる。

腰をくねらせて、必死に堂島の陰茎から逃れようとする。

「くっ・・・」

しばらく無理に挿入を試みたが、まだ乃絵美の抵抗が収まらないことから、再び指を潜り込ませる。

堂島の指は、乃絵美の秘部を容赦なく責め立て、継続して乃絵美に快感を送り続ける。

「はぁ・・・あっ・・・」

それは、確実に、乃絵美を快楽の虜へと変えていく、堂島の魔技だった。

「いや・・・いや・・・」

乃絵美は、処女なのにこんなにも感じていることに戸惑い、もう訳も分からず、ただ拒絶の言葉だけを繰り返すしかなかった。

「ヒヒヒ・・・」

堂島は、初めての快楽に溺れかけて悶えている15歳の処女を前に、己のテクニックと少女の美しい姿態を堪能していた。

「いやぁ・・・はじめてなのに・・・こんな・・・」

「儂でなくば、誰に処女を奪われたい?」

(誰に?そんなの決まってる・・・)

「ふむ。心に決めた男がいるのか」

物わかりの良さそうなことをいいながら、なおも指は激しく乃絵美を責めていた。

乃絵美は、朦朧とした意識の中で、必死に頭を働かせようとする。

「あぁ・・・うぁ・・・んっ・・・」

「答えられんようだな」

「んんっ・・・好きな人とっ・・・」

必死で、それだけを答える。

堂島の指を伝う乃絵美の淫液は、滴となって、ソファーと堂島の膝を濡らしている。

間近で見れば、ぽたぽたと音が聞こえてきそうなほどの汁が、乃絵美の中から溢れている。

「好きな人とは・・・誰だ?」

「んっ・・・」

乃絵美のスリットは、気がつけば堂島の指を二本もくわえ込んでいる。

(好きな人は・・・)

二本の指が織りなす巧みな動きが、乃絵美を絶頂へと導き始めている。

(柴崎先輩・・・?)

「あぁ・・・あああっ・・・ああっ」

(違う・・・本当は・・・)

堂島の指で愛撫されながらも、目をつぶって想っているのは、決して口には出してはいけない・・・乃絵美のただ一人の想い人のことだった。

「本当は・・・本当に好きな人はっ・・・ああっ」

乃絵美は押し寄せてくる快感の波に、生まれて初めて昇り詰める快楽に身をゆだねながら、その思い人の名を口にしていた。

「ひっ・・・いっ・・・いっちゃうっ!お兄ちゃんっ・・・好きっ・・・大好きなのぉっ・・・お兄ちゃんっ・・・あっ・・・あああーーっ」

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