(そんな・・・)
乃絵美は、足下が崩れ落ちるかのような感覚に捕らわれた。
理事会に選ばれる立派な政治家の先生。
やさしくて信心深い穏和な老人。
そんな乃絵美の想像を完膚無きまでに崩してしまう現実がそこにあった。
「堂島・・・さん」
かすれる声で目の前に座る男の名を絞り出す。
あまりの衝撃的な再会に、呆然と立ちつくす乃絵美の姿を眺めながら、堂島は満足げに頷いた。
(どうして・・・)
乃絵美は、必死に考えてみる。
けれど、その問いの答えは決して見つからない。
(あの堂島さんが・・・フィアッセさんと同じ学園の賓客だなんて・・・)
それは、乃絵美にとって決して認めたくない現実だった。
「乃絵美。そんなところに突っ立ってないで、ソファーに座りなさい」
堂島は手を動かすのも物憂げに、上顎を突き上げて、堂島の隣を指した。
ばたん。
と乃絵美の背後で大きな音がする。
どうしていいかわからなくなって、固まっている乃絵美の退路を断つかのように、来客室の大きな扉が閉められる。
堂島の秘書は、こともなげに扉に鍵をかける。
もう、部屋から出ることはできない。
(ああ・・・)
更なる絶望感が、乃絵美の心中に深く暗い陰を落としていく。
そんなとき、心を閉ざそうとした乃絵美の耳に、衣擦れの音が聞こえたような気がした。
「えっ・・・」
驚いて、左右を見回す。
堂島と、その秘書。そして乃絵美。
三人だけと思われた来客室に、まだ来客がいる。
(誰?)
微かな期待が芽生える。
(助けを求められれば・・・全てから逃れることは出来なくても、この場からは逃げられるかも)
乃絵美の視線が衣擦れの主を捜す。
「ひっ・・・くぅっ・・・」
漏れ聞こえた吐息。
振り向いた乃絵美が見たのは、机の陰で四つん這いになって犬のような格好で犯されている一人の少女の姿だった。
(誰・・・!?)
半ば脱がされかけてはいるが、後ろから突き上げられ、苦しそうに吐息を漏らす少女が身にまとっているのは、紛れもなくSt.エルシア学園の制服。
顔には、兄と同じ2年生の証である黄色いスカーフが巻かれ、それが猿ぐつわの用をなしていた。
「んふっ・・・あくっ・・・んっ」
ややハスキーなソプラノで悶える少女は、日本人とは思えない色黒の肌に玉の汗を浮かべている。
(この人・・・日本人じゃないんだ)
乃絵美は猿ぐつわのされた顔を凝視した。
(でも・・・)
日本人のような気もする。
整った顔立ちはやや幼さを残した日本人のそれだった。
日本人には見られない浅黒い肌と、日本人らしい顔立ちが、不思議な魅力をもたらしている。
(混血・・・なのかな)
ハーフ、あるいはクオーターなのかもしれない。
「んふぅっ・・・んはぅ・・・ああんぅ・・・」
乃絵美が見知らぬ少女の素性に思いをはせているうちに、少女は昇り詰めようとしているようだった。
(やだ・・・こんなに近くで)
堂島に思う様陵辱され尽くされている乃絵美ではあったが、他人の情事をこんなに間近で見るのは初めての体験だった。
「んはっ・・・んんっ・・・んっ・・・」
少女の息が徐々にペースを上げる。
気がつくと、腰に回していた男の手が回り込んで、スカートの中、恥丘のあたりをまさぐっている。
(えっ・・・何?)
少女の結合部にしては随分と前のあたりで前後している。
腰の動きに合わせて動く、男の手の動きに、乃絵美はまたも兄のビデオを思い出していた。
(ビデオで見た・・・オチンチンの形をした玩具・・・あれが入ってるの?)
そう思えば、納得のいく動きでもあった。
「ひふんっ」
少女は激しく反り返った。
(あっ・・・いっちゃうっ)
「ひぐっ・・・ひっ・・・ひんんんんっーーっ」
乃絵美は思わず、ミニスカートごしに自分の秘部を押さえてしまう。
じゅんっ、と濡れたような感覚。
(濡れちゃっ・・・た?)
微かに頬を染める乃絵美から数メートルも離れない場所で、少女は痙攣しながら果てた。
(私も・・・あんな風に見えるのかな)
荒い息をしながら来客室の絨毯に頽れる少女の姿を見ながら、自分が果てたときの姿を思い浮かべる。
それと同時に、一昨日堂島に何度もいかされた行為を思い出してしまう。
(いや・・・)
心が拒絶しているのに、乃絵美の秘裂は潤い初めていた。
「乃絵美」
いつの間にか乃絵美の横に立っていた堂島が、乃絵美の華奢な肩に手を回す。
「きゃっ」
思わず身をすくめる。
「いつまで眺めてるんだね」
見透かすように、耳元で囁く。
「いえ・・・」
それは、乃絵美の心を覗かれるような、いつもの行為の始まり。
また、堂島は乃絵美を抱きすくめる。
(いやなのに・・・)
拒めない。
それどころか、身体は堂島の臭いだけで感じようとしている。
自分自身に嫌悪しながら、頬を染めて顔を背けるのを、褐色の少女は無表情で眺めていた。
「おい」
褐色の少女の視線に気づいた堂島は、面倒そうに少女に声をかける。
「ハイ」
微かな異国のイントネーション。
「お前は、早く教室に行きなさい」
堂島は、乃絵美を抱き寄せたままソファーへ座る。
そして、身を起こして立ち上がる少女を左手で追い払う。
「今日から転入なんだ。さっさと挨拶してきなさい」
少女は、心なしか急くように、乱れた衣服を整える。
「準備はできたか?」
堂島の問いに、少女は無言で頷く。
「よし、行ってこい。チャムナ」
(チャムナ・・・?)
褐色の少女は堂島の腕の中の乃絵美に険しく一瞥して、退室した。
チャムナ・フォン。
ミャンマーから来た留学生の秘密は、堂島の腕の中で、僅かでも愛撫から逃れようと無駄な抵抗をすることぐらいしかない乃絵美には知る由もない。
けれど、止もうとしない得も言われぬ胸騒ぎが、チャムナと乃絵美自身がこれからされようとしていることへの不安をかき立てるのだった。
「寂しかったかね。ヒヒ」
堂島は、いやらしい笑みを浮かべて、スカートごしに、乃絵美の股間をまさぐる。
「あの・・・その・・・」
中年というよりも、壮年というほうがふさわしい堂島の男性的な臭いが乃絵美を包む。
(いや・・・っ)
なのに、両親やロムレットが脳裏に浮かんで、堂島の行為をはっきりと拒絶できない。
弱々しく困った顔に笑みを貼り付けて、か細い両手が堂島の愛撫をとどめようと僅かな抵抗を試みるだけ。
(こんな人にされるなんて・・・いやっ)
普段、どんな人に対しても、穏和で優しい心を持つ乃絵美だが、堂島だけは決して好きになれそうにないと思うようになっている。
「それとも、儂がいない間は兄のことを考えて一人慰めておったかな」
堂島の他愛のない冗談。
見たわけはない。
判っていても、心臓が止まるほどに、動揺する。
そして、その動揺は、両腕で抱き寄せている堂島にはっきりと伝わっていた。 「そうか。儂がやり方を教えてやったというのに、乃絵美はまだ兄でオナニーをしているか」
そう良いながら、更に胸をまさぐる。
「ちっ、違いますっ」
けれど、それは無駄な抗弁。
真っ赤に染まった乃絵美の頬と、堂島の掌中で自在に形を歪めながら乃絵美の芯に快楽を送り続けている乳房を通して伝わる激しい胸の高鳴りが、全てを肯定していた。
「ヒヒヒ」
笑い声を上げながら、堂島の愛撫は続く。
(心の中の兄など・・・)
いずれ、消してみせる。
そして、兄への想いが消えて虚ろとなった心を自分が満たすのだ。
そう思いながら、堂島は制服のスカーフに手をかけた。
「きゃっ」
乃絵美の、驚いた反応。
1年生を意味する新緑色のスカーフが襟元から抜かれようとすると、乃絵美は途端に拒絶した。
「だ、だめです」
堂島の愛撫をとめようと力無く抵抗していた手が、明確な拒絶の意志でスカーフを押しとどめる。
(スカーフをとられたら・・・)
脳裏に、先刻のチャムナの姿が蘇る。
スカーフを猿ぐつわ代わりに巻かれて、口をきけなくされたまま犯されていたチャムナ。
自分もそうされてしまう、という恐怖が乃絵美に咄嗟の力を与えていた。
「どうしたのかな。スカーフぐらいで・・・」
前で開くセーラーであるSt.エルシア学園の制服にあって、スカーフの存在は愛撫になんら支障をもたらさない。
何に過剰な反応をしたのか気づかない堂島は、苦笑いしながらスカーフから手を離した。
「あの・・・ごめんなさい・・・で、でも・・・」
不本意な状態で抱きすくめられて犯されようとしているときに、スカーフひとつで詫びるのは滑稽な姿だったが、乃絵美にはどうしてもいけないことのような気がして、思わず詫びていた。
本来、人から言われるままに、受動的な行き方をしてきた少女である。
拒否という行為自体、生まれてこの方殆どしたことのない乃絵美にとっては、酷く罪悪感を感じることなのだった。
「いいんだよ。ヒヒ」
そういいながら、堂島はセーラー服の前を開けて、薄いグリーンのブラを乳房の上にたくし上げる。
乃絵美の自己申告でBカップのブラジャーは、Aカップ以上ではあっても若干Bカップに足りない程度の乃絵美の乳房には少し緩めのサイズだ。
それだけに、容易にたくし上げられてしまうのだが、それがいっそう乃絵美の羞恥を煽っていた。
「やっ・・・その・・・っ」
友達を行ったバーゲンで、見栄を張ってかった少し大きめのブラが、堂島を前にすると死んでしまいたいほどに恥ずかしい。
「小振りで可愛いよ」
乳房を揉む堂島も、乃絵美の羞恥がどこから発しているかを理解している。
それが余計に、乃絵美を辱めている。
「いやぁ・・・あっ・・・」
それでも、赤く染まった頬は、羞恥だけでなく、徐々に愛撫による火照りも加わってきていた。
(やだ・・・)
今までにもまして、粘着質な愛撫を続ける堂島に、乃絵美は初めて犯された3日前よりも強い嫌悪感を感じている。
それなのに、乃絵美の身体の今日まで開発されてきた快楽を受け止める部分は、もうしっかりと感じているのだった。
「はぁ・・・あっ・・・んん・・・」
胸一杯に広がる嫌悪感にも関わらず、もう乃絵美の可憐な唇は悶える身体の状況を伝える吐息が漏れるだけになっている。
(胸だけで、こんなになっちゃうなんて・・・)
スカートの奥で乃絵美の秘部を覆っている薄布のショーツは、秘裂に沿って染みを作っていた。
(どうして・・・)
堅く閉じられた乃絵美の瞳から涙が溢れる。
(こんな人に触られてるのに・・・)
くやしくて、悲しくて。
けれど、快楽だけは止まらなくて、どうしようもない。
「どれ、下のほうはどうかな・・・」
堂島の手がスカートの奥へ伸びたときだった。
「もう・・・やめてください・・・」
肩が震えていた。
双瞳から溢れた涙は、化粧っけのない頬を伝い、顎の方まで濡らしていた。
「どうして・・・私に、こんなことするんですか・・・」
しゃくりあげながら、何とか声を出そうとする。
「こんなこと・・・したくないのに・・・」
これ以上言ったら、両親やロムレットがどうなるか。
「堂島さんに・・・こんなことされたく・・・ないです」
だけど、口を閉ざしてしまったら、このまま泣き崩れてしまう。
「もう・・・こんなこと・・・やめてください・・・」
ぽろぽろと大粒の涙が流れ続ける。
「お願い・・・ですから」
乃絵美は、そこまで喋り終わると、俯いてしまった。
肩をふるわせ、しゃくりあげながら、涙を流す。
「乃絵美・・・」
堂島は、膝の上で頑なに涙を流す乃絵美の様子に、愛撫を止めていた。
「そんなに、嫌かね」
幼子をあやすように、大きな手が乃絵美の頭を撫でる。
乃絵美の首がぎこちなく震えながらも、頷いた。
「そうか・・・」
堂島は、何度もそうか、とつぶやきながら、乃絵美の頭を撫でた。
それは、幼い日に両親や兄がしてくれたように。
「ひっ・・・ひんっ・・・ひんっ・・・」
乃絵美は、溢れる涙を止める術もなく、泣き続けた。
いつしか、俯いた乃絵美の頭は、堂島の胸に埋められ、それを抱き寄せるように、堂島は乃絵美の頭を撫でていた。
重厚なつくりで、静寂を由とする来客室に、ただ乃絵美の嗚咽だけが響いていた。
それから、しばらくの時が流れ、チャイムが鳴った。
1時間目の授業が終わったということなのだろう。
多少防音効果のある厚い壁で覆われた来客室でも、廊下に生徒が満ちてきたことがわかった。
乃絵美は、堂島から手渡されたハンカチで涙を拭いて、立ち上がる。
「あの・・・すみませんでした」
気恥ずかしい。
思い切り泣いたことで、どこか堂島に甘えてしまったような気がしていた。
「いいんだよ」
堂島は、変わらぬ笑みを返す。
(もしかして・・・堂島さんって、いい人なのかも)
処女を奪い、陵辱しつくした筈の男が、何故かいい人に思えてしまう。
「それじゃ・・・教室に戻りますから」
まだ少し腫れぼったい目を気にしながら、乃絵美は扉に向いた。
「あの・・・」
扉の前には、体格の良い大男。
堂島の秘書のひとりだろうか。
それは、チャムナと呼ばれた褐色の少女を犯していた男だった。
「じゅ・・・授業が、ありますから・・・通して下さい」
男は動かない。
変わりに、部屋にいたもう2人の男が乃絵美を両脇から押さえ込む。
「きゃっ!な・・・何するんですか!?」
けれど、屈強な男たちに抱えられた両腕は微動だにしない。
「どっ、堂島さんっ」
救いを求めるように、乃絵美は振り返る。
「乃絵美」
堂島は、ソファーから身を起こしたところだった。
「そんなに嫌なら・・・代わりにこれをあげるよ」
乃絵美に貸したハンカチの代わりに、別のものが堂島の掌に握られていた。
「ひっ」
それが何であるか、乃絵美にもわかった。
それは、男の生殖器を模した玩具。
バイブレーターだった。
「い、いやぁっ」
乃絵美は、動かない両腕をふりほどこうと必死に身をよじりながら、首を振る。
両脇の男たちにとっては造作もないことなのか、無表情のまま乃絵美の動きを力で押さえ込んでしまう。
「さあ。これを入れて、授業を受けなさい」
ピンクのシリコン塊が乃絵美の鼻先につきつけられる。
20センチ弱のバイブレーターは、魚肉ソーセージの大きなものより一回り大きな印象を受けた。
それを、乃絵美の中に納めようというのだ。
「そんなの・・・入り・・・ません」
これまでにない恐怖に、言葉もうまく出てこない。
堂島が左手に持ったリモコンのスイッチを入れるとバイブレーターがうねりをつけて蠢いた。
「そんな・・・堂島さん・・・わかってくれたんじゃ・・・」
乃絵美は、すがるように堂島を見た。
「儂にされるのがそんなの嫌なのなら・・・これと比べてみなさい」
信じられない。
堂島は、乃絵美の気持ちを判ってくれたのではなかったのだった。
堂島の目には、自分を拒絶された怒りと苛立ちが籠もっている。
「ヒヒヒ・・・これで満足できないのであれば、儂が改めて填めてやろう。イヒヒヒヒ・・・」
乃絵美には、狂気としか思えない。
(でも・・・)
それは、目の前にある確かな現実。
堂島は両股を押さえると、まだ湿り気の残っている秘裂へバイブレーターを埋めていく。
「いやぁ・・・っ!」