シーン1
(駅の改札口に乞食。喋っている。相手はいない)
「感動ってのはある種の中毒を引き起こす。脳が次第にそ
れだけを求めるようになる。次第に耐性がついてくっから、
前と同じだけの刺激じゃ満足できなくなる。やれやれ、人
間の脳ってのはうまくできてるな。さて、兄弟、俺がなに
をいわんとしているか、わかるか?おまえに、わかるか?
つまりはこういう話だ。俺は別にくだらねえヴィジュアル
アーツ系のゲームに関して今更何かを言うつもりはない。
俺が言おうとしているのは、もっと別だ。兄弟、お前も読
んだことあるだろう?うまいたとえが見つからないんだが、
あえて言うなら、救われる物語しかも脈絡はちゃんとある、
みてえなもんか。気をつけた方がいいぜ、それこそが落と
し穴。でっかい罠だ。いいかい兄弟、十分気をつけな、気
をつけるんだぜ。そいつは、罠なんだからよ・・・」
(暗転)
シーン2
(四畳半の汚い部屋。そこかしこに散らばったカップラーメン。
PCの前に座り、画面を食い入るように見つめる俺)
「現実音に耳を塞ぎつつ、
(クリック)
切り離された空間を冷めた目で見つめながら、
(クリック)
必死で衝動を隠し、
(クリック)
屈折した憧憬を持ち続け、
(クリック)
絶望の中で生きる」
(クリック)
(暗転)
シーン3
(誰もいない学校の屋上。この前の野郎が血だらけで立っている)
非常に残念ながらこれは現実だ。メッセージは飛ばせない。
(悲しげに言う。背中をこちらに向け、顔は見えない)
我々のコントロールキーは既に外され、どこかで静かに眠っているのだろう。
(どこかで叫び声)
我々に残された手段は頼りないマウスと使えないリターンキー。
(振り向く)
右クリックは使用不可だ。メニューバーすらもない。
(悪意のこもった笑顔)
メッセージの速度はまるでリビドーのゲームのように遅く、そして不変。
(口が開く。中から太った方のやつの顔がのぞく)
もちろんフルボイス。
(両手を広げる)
大根役者があぶく銭のため、必死になって演技してくれるだろう。
(天を仰いで深呼吸)
しかし驚いたことに、このゲーム
(眉間を手で押さえ、うつむく)
バグだらけでまともなプレイはできない!
(学校とともに崩れ落ちる)
悪夢から目覚めるとき、俺は自分がこの世界に生きていることを感謝する。
「・・・姉、聞いてください。最近僕がはまっている・・・」
相も変わらず五月蠅くがなり立てているラジオ。気休めにはなるのでつけっぱなし。
笑えるな。俺はこの場所に負けた青年、まったく、笑いがでちまうぜ。
冬の静寂は容赦なく俺を打ちのめし、俺についてのある一つの事実を実感させる。
孤独であるということ。
“おいおい、チャットルームにでも行くかぁ?ひゃっひゃっひゃっひゃ”
俺は何を間違えたんだ?
いつからかするようになった自分への問い。答えは出そうにない。きっと永遠に出ないのだろう。
カーテンを開ける。間の悪いことに、今まさに夜が明けていく時間帯のようだ。
布団から這い出る。机の上をまさぐってライターと煙草を手の中に。
棚の花瓶をじっと見つめる。頭は空っぽ。何も考えてやしない。
煙草と花瓶はあるゲームでの一シーンを思い出させる。
“ひゃっひゃっひゃっひゃ、おめえさんが女のマンコを拝める日なんざ、いったいいつになったら来るんだろうなぁ?”
思考の隙間に滑り込んできた声。
火をつけた煙草から天井へのぼっていく煙をじっと見つめる。暗い部屋をぼんやりと照らす朝日は、俺をさらに打ちのめす。
This is LIFE,You just live.
どこかのバカの台詞がなぜだか思い出され、俺の頭の中を占領する。
“おいおい、難しいこと考えてれば救われたような気分になるってかぁ?ひゃっひゃっひゃっひゃ、
どう転んだってお前はただのエロゲオタなんだからよぅ、らしく行こうぜぇ、らしく”
煙草を灰皿で押しつぶし、布団を蹴飛ばして、ジーンズをはく。
“ひゃっひゃっひゃ、そうそう、体力がなけりゃぁ女も犯せねぇからなぁ?”
スウェットシャツに袖を通し、ジャンパーを羽織る。
“まあ何にせよ、固いのはチンポだけにしようや、なぁ兄弟?”
玄関のドアを開けた。
ありがとうございます・・・・こんな暗い話が受け入れられるとは夢にも思っていま
せんでしたので、まことにありがたいです。
一応全部続いてます。“俺”は最初から同じ人です。タイトルは“固いのはチンポだけにしようや”、
リーフねたSSといったように、エロゲオタねたSSと言った感じです。