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はぴねす『準・日記』

はぴねす『準・日記』投稿日:2006/08/01(火) 02:00:47 ID:175czAj30
 フッと一息ついて私は椅子に座った。
自分の部屋。いまここには私しかいない。
机の引き出しを開いた。
そこには――
「日記つけなきゃね」
 たくさんの日記帳が丁寧に並べられていた。全部で七冊。
おもむろにそのひとつを手にとって開く。

 5/6 今日は学校帰りに、雄真と一緒に買い物に行った。とくに欲しいものは
     なかったけれど、すごく楽しかった

 6/12 最近の雄真は結構モテモテだ。嬉しいことだけど、ちょっと寂しい

 他愛もない日記。毎日の出来事が書いてあるだけの。
でも、とても大切な想い出の詰まった日記――

「なんて書けばいいのかな……」
 今日あったことを思い出す。

 けじめのつもりだった。口付け。初めて雄真の口に。
すごい勇気が必要だった。でも、私の為にしてくるている雄真がたまらなく愛おしかった。
 でも雄真が口にした台詞は嫌悪の言葉じゃなくて、
http://www.uploda.org/uporg465057.jpg
 私自身も気付かなかった思いを雄真が口にした。もう私は満足したはずだったから、
それなのに――
「あ、あれ?」
 日記が濡れた。いつのまにか目から涙が零れ落ちていた。

 それは私が創った夢の世界だった。雄真の幸せだけを望んだ世界。
そのはずなのに、雄真が苦しんでいた。私のせいで――

はぴねす『準・日記』投稿日:2006/08/01(火) 02:26:47 ID:175czAj30
「ね、ねえ、なんて書けばいいのかな……?」
 震える声が一人の部屋に響く。
それは夢に観る事さえ許されない出来事だった。絶対に越えてはいけない境界線。
その思いに自分が気付くことさえも許されなくて、雄真の幸せを願う世界で、
私は雄真と――
結ばれた
http://www.uploda.org/uporg465090.jpg
境界を越えて、雄真のほうから

 下半身にまだ残っている雄真の体温を感じる。
性別は変えられなくて、私はそれを越えられなくて、ずっと胸に抱き続けていた

「ありがとう……雄真」
 震える指先が、日記帳を文字で埋めようとするも、どんな風に書いていいのかわからない。
いつもはあっと言う間に書けるはずなのに……

 思い出す。あの世界は雄真の望みを叶える世界。たくさんの女の子達が雄真に好意を
持っていた。でも雄真は私を選んでくれて、学校に来てくれた。それがただ私を連れて帰るためだけだったとしても
私は凄く嬉しいかった。

 一緒の教室を夕日が照らしていた。懐かしい想い出。三人で学校が終ってからも遅くまで
残って話をしていた。そんな情景――
今ではそんな機会もなくなっていたから――

 
はぴねす『準・日記』投稿日:2006/08/01(火) 02:47:13 ID:175czAj30
 どうやら雄真はちゃんと私のことを見ていてくれていたらしい。
デートの時の光景。いつもより少しだけ強引な雄真に、胸が締め付けられた。

 あの時、私は雄真が望めば女の子になることだって出来た。
でも、それを選ばないでいたくれた。そこにはどんな想いがあったのだろう?
私にはわからない。

 窓を開ける。髪をなびかせる夜風が気持ちよかった。
http://www.uploda.org/uporg465106.jpg.html

「ねえ、雄真?好きって言ってくれた言葉……信じていいのかな?」
 星空に向かって問いかける。
その言葉が、仮にあの世界だけのものだとしても構わない。

でも――
もし少しでも――
私にもチャンスがあるなら――
「私も好きって言っていい?」
 それは辛いかもしれない。困難かもしれない。
それでも、あの時のことを忘れたくないから。
後悔したくないから。もし、私のことも見ていてくれるのならば、私は――

 パタンと日記を閉じた。
明日は学校だ。心配をかけたみんなに謝らなくちゃ。勿論、雄真にも。
日記の最後に一言付け加えた。

 7/28 今までのわたしはここで終わり
 7/29 新しい私 始めまして

はぴねす『準・日記』投稿日:2006/08/01(火) 08:11:20 ID:175czAj30
幸せになったいま書ける「ことなんてもうないです

ありがとう
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