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須美ルート俺妄想

須美ルート俺妄想(1/27)投稿日:2006/07/24(月) 15:47:41 ID:NoUlPvri0
「またキミかね!! 御影くん!!」
音楽室に響き渡る、辛辣な一声。
平穏な校舎の片隅で、そこだけが、ひんやりと冷たい空気に晒されている。
「何度言えばわかるのかい? ここは楽曲全体の導入部として、
 キミが団員全体の士気を引っ張ってゆかねばならんと……」
「ご、ごめんなさい……先生」
「まったく……謝ることにかけては天下一品だね、キミは。
 そのくせ演奏内容に反省の色が全く伺えんのだから、なお始末が悪い」
「……すみません……先生……私……」
なおも続く先生の執拗な口撃に、自分の中の何かがいじけてゆくのがわかる。
何て……何て自分は無力なんだろう……
しんと静まり返る音楽室の中、思わず泣き出しそうになるのを必死で堪える。
「大体近頃のガキ共は皆そうだ……声高に権利ばかり主張して、
 肝心の実がなってない輩があまりにも多すぎる。
 ゆとり教育の影響だか何だか知らんがね……全くもって気に喰わんな。
 そうやってガキ共を甘やかしておるから、こういった甘えた子供が」
「……今は教育論の講釈を垂れる時間ではないのではなくて? 先生」
更に自分語りに入った先生を、ひとりの少女がきっぱりと止める。
軽やかなウェーブヘアにきれいな瑠璃色の瞳を湛える、高貴な気品を携えた少女。
彼女こそ、私たち円山学園ブラスバンド部の学生指揮にして部長、雲雀丘由貴先輩その人であった。
須美ルート俺妄想(2/27)投稿日:2006/07/24(月) 15:48:40 ID:NoUlPvri0
「フン。キミも同罪だよ、雲雀丘くん。
 そういった皮肉は、学生指揮としての責務をきちんと果たしてから言いたまえ。
 全く、どんな指導を行えばここまで落ちこぼれた演奏を行えるのか……」
「あら。お言葉ですが」
先生の口撃に身じろぐことなく、なお肩をすくめ反駁に徹する雲雀丘先輩。
「先生のお言葉を借りるなら、たまにしか部室にお越しにならないくせに、
 実のないご高説ばかりいただける先生の態度こそ、責められるべきではなくて?」
「フン……相変わらず口だけは達者だよ、キミは」
先輩の言葉に、先生は頭の生え際を掻きながら言葉をこぼした。
「何度も言うようだが、今回の勝負は我が円山の威信をかけた勝負だ!!
 赤城山の落ちこぼれどもを前に無様な姿を見せ、円山の名に泥を塗ることは許さん!!」
バン!!!
そのまま先生は、すこぶる不機嫌な様子で音楽室を後にして行った。
後に残された部員たちが、ほっと安堵のため息をつく。
「全く……結局守りたいのは自分自身の下らぬ威信でしょうに……」
先輩は頭を掻くと、こちらを振り返り、そっと笑顔を浮かべた。
「すまなかったわね、御影さん。もう一度、出だしからやり直しましょうか」
「……先輩……でも、私……」
「貴方は気にしなくてもよいのよ? あの男の言葉は、話半分に聞いていれば」
未だに練習を止めてしまった罪悪感から抜けきれない私に、先輩が更に励ましの言葉をくれる。
須美ルート俺妄想(3/27)投稿日:2006/07/24(月) 15:59:55 ID:NoUlPvri0
「部長……もうそんなのほっといて練習しましょうよ」
「そうですよ! 大体御影さんのおかげで、どれだけ練習が滞ってると思ってるんですか?」
「口を慎みなさい、あなた達!! 円山の貴重な仲間に対して、何たる態度です!!」
部員の中から沸き起こる不平の声を、きっぱりとした態度で諌める先輩。
そんな先輩の態度を見ているうち……私の中に、とある疑問が沸き起こるのがわかった。
先生から、仲間から……私のことをかばって下さる先輩の態度は、すごく嬉しい。
しかし、それも全ては……私が、きっちり演奏できないから。
出だしのティンパニを、私がうまく後へつなげてやれないから……
だから……本来一番責められるべきは、私であるべきなのに……
「……御影さん」
雲雀丘先輩はそっと身をかがめ、うつむく私に目線を合わせてくる。
「自分のミスで、周り全ての士気を奪ってしまう恐怖……
 それがどれほどのものか、わたくしには到底、理解できるものではないのでしょう」
「……」
「それほどのプレッシャーの中、なおも戦い続ける貴方を、わたくしは心から尊敬しますわ。
 だから……自信を持ちなさい、御影さん。
 貴方のその恵まれたリズム感は、その大役を果たすにふさわしいものと、わたくしは信じております」
「……先輩……」
度重なる先輩の優しさ、そして自らのふがいなさに……
私の心は、逆に深く悲しく、沈み込んでゆくのだった。

そんな私を変えたのは、とある人の存在。
本来私が元気をいただく立場にないはずの、あの人の存在……

須美ルート俺妄想(4/27)投稿日:2006/07/24(月) 16:01:21 ID:NoUlPvri0
「……あれ? 御影さん?」
「え、えと……香住……先輩?」
その人とは、昼休みや放課後など、こうやって声を掛け合うのが日課となっていた。
初めてお会いしたのは、放課後の川の土手。
練習が終わり一人黄昏にくれていた私に、香住先輩がそっと、声をかけてくれたのだ。
(あれ? キミ……確か……)
(ご、ごめんなさい!! こんな所に座ってたら、お邪魔でしたね……)
(ちょ、ちょっと待って! キミ確か、円山のブラスバンドの……)
(あ……)
(紹介が遅れてごめん。俺は香住純。赤城山の方の部長やってるんだけど……)
それから先輩は、私にいろんな話をしてくれた。
合併後急に、赤城山の部長に任命されちゃったこと。
大河原先生が赤城山の部室でやった、いろんな悪口の数々……
そうやって、いろんなお話を聞いてるうちに……
私はいつしか、先輩との間に安らぎのようなものを感じていることに気づいていた。
「どうしたんだ? 今日は随分と落ち込んでるみたいだけど」
「い、いえ!! そんなこと、ないです……」
先輩の言葉に、思わずその場を取り繕ってしまう私。
「……何もないわけねーだろ。んなとこでひとり座ってたら、嫌でも気になるって」
「……先輩……」
「また何か言われたのか? 大河原のヤツに」
笑顔をそっと浮かべ、私に優しく問いかけてくる先輩。
……甘えちゃダメだって、わかっているのに。
私の口は図らずも、先輩の優しさを求め言葉を紡いでしまう。
須美ルート俺妄想(5/27)投稿日:2006/07/24(月) 16:02:04 ID:NoUlPvri0
「……ティンパニの導入部が、うまく打てなくて……
 他のパートの人へ……演奏を……うまくつなげられないんです」
「ティンパニの導入部か……確かに、すごく大変そうだよな……」
「それで私……また皆さんの士気を下げてしまいまして……
 今日もまた……先生に……叱られてしまいました……」
「……」
怒るでも同情するでもなく、ただ黙って私の話に耳を傾ける先輩。
そんな先輩に話を聞いてもらうだけで、心が少しずつ楽になってゆくのがわかる。
「……私って、昔から不器用で……おっちょこちょいで……
 ブラスバンドに入ってからも……ずっと、みんなの足……引っ張りっ放しで……」
「……」
「何で私……こんななんでしょうか……
 皆さんにこれ以上……迷惑かけるつもりなんてないのに……」
「……御影さん……」
「あ……」
ひとしきり言葉を言い切った後、私はふと我に帰った。
私……また香住先輩に……いろいろ変なことを……
こんなこと先輩に言ったって……何とかなるわけないのに……
「ご、ごめんなさい、先輩……
 仮にも勝負相手の私に、こんなこと言われたって……ご迷惑なだけですよね……」
「……」
しばらく黙って私の話を聞いていた先輩が、ふと沈黙を破った。
「あんまり……迷惑なんて思う必要ないだろ」
「え? だけど……」
「俺は単純に御影さんのことが心配だから、相談に乗ってるだけだよ。
 だから……迷惑なんて思わないし、むしろ御影さんの悩みが聞けて、嬉しく思ってる」
「……先輩……」
須美ルート俺妄想(6/27)投稿日:2006/07/24(月) 16:09:30 ID:NoUlPvri0
……ダメ……
甘えちゃ、ダメ……
自らの胸をやるせなく締め付ける喜びに、私は思わずおのが体をぐっと抱え込む。
「……まぁ、俺にできることなんて、こうやって話聞いてやるくらいだけどさ。
 これからも何かあったら、遠慮なく何でも相談してくれよ。
 俺もできる限り、御影さんのために時間作っておくようにするから」
「……先輩……っ……ごめんなさいっ!!!」
先輩のふもとが、切ないくらい居心地がよくて。
私は思わず、甘い誘惑を振り切らんとその場を駆け出していた。
……甘えちゃ、いけない……
だって、先輩は……忌むべき赤城山の部長さんなんだから……
「はぁっ、はぁっ、はぁ……」
校門の近くまで駆け寄り、はぁはぁと肩で息をする私。
頭は既に、先輩のことでいっぱいだった。
いつも優しい笑顔で、私に微笑みかけてくれる先輩。
私の悩みに、何時間でも付き合ってくれる先輩……
「かすみ……せんぱいぃ……っ、んふっ、ふぇぇっ……」
ひとりでは抑えきれない、先輩への溢れんばかりの想いに。
私はひとり、胸を抱え、ひたすら泣きじゃくるのだった。

結局その後も、なかなか満足のゆく演奏こそできなかったものの……
先輩に話を聞いてもらうことで、少しずつ心が楽になってゆく私がいた。
そして……相変わらず居心地の悪い部活の雰囲気にも、少しずつ立ち向かえるようになっていった。

……しかし……
私たちの運命は、着実にその牙を剥く準備を整えていたのである。

須美ルート俺妄想(7/27)投稿日:2006/07/24(月) 16:11:10 ID:NoUlPvri0
「……どこへ行くの? 香住くん」
練習場所として割り当てられた屋上の一角を抜け出そうとした俺を、委員長が目ざとく制止する。
「いや、ちょっとその……食材の買い出しに」
「お買い物なら昨日いっしょに行ったじゃない、ジュン君……
 ほら、今日こそみなせちゃんの特訓に、ちゃんと付き合ってあげなきゃ……」
……妙の言うとおりだった。
俺はここんところずっと、みなせの特訓を無視して、
よりにもよって対戦相手の一員である御影さんに、こっそり会いに行っていたのだ。
……赤城山の部長として、忌むべき行為である。
「妙……悪ぃ、俺……」
「……今日はもう、逃がさないからね。ジュン君」
「あぁ……」
「せ〜んぱ〜いっ!! 早く来て下さいよ〜〜っ!!!」
「へぇへぇ、わーったよ。今行くから待ってろって」
向こうで大きく手を振るみなせのもと目がけ、俺はとぼとぼと歩み出した。
ぐいっ。
その手が、ふと押さえつけられた。
「……妙? 何やってんだよ……これじゃ、みなせんトコ行けねーだろ?」
「………対……」
「?」
「絶対……離さないから……」
見ると妙はうつむきながら、何やらぶつぶつと言葉をこぼしている。
「……おい、聞いてんのかよ妙」
「え? あ……ごめんねジュン君!! みなせちゃんの練習、邪魔しちゃ悪いもんね」
「……あぁ……」
何やら挙動不審な態度で、俺の袖から手を離す妙。
(どうしたっていうんだ……妙の奴……)
妙の妙な行動に戸惑いつつ、俺はみなせの練習に付き合うことになったのだった。

須美ルート俺妄想(8/27)投稿日:2006/07/24(月) 16:12:37 ID:NoUlPvri0
(先輩……今日も来なかった……)
もうすっかり日の落ちた教室の窓辺を眺め、深々とため息をつく私。
……何やってるんだろう、私……
先輩に頼りっきりじゃいけないって、わかってるはずなのに……
「……もう、帰らなきゃ……」
よろよろと立ち上がり、重くのしかかるバッグを手にする私。
……と。
「こんな時間まで、何をしていたのかね……? 御影くん」
「あ……」
声の正体は……大河原先生だった。
「いえ……少しその……考え事をしておりまして……」
「フン。こんな時間までひとり考え事とは……全く、けしからんな」
「……すみません……先生……」
先生の言葉に、思わず泣き出しそうになるのを必死で堪える。
……しかし、次に発せられた先生の言葉に、私は思わず驚愕していた。
「本当は考え事と称して、あの男を待っていたのであろう? 御影くん」
「!!!!」
その言葉に、思わず全身を硬直させる私。
須美ルート俺妄想(9/27)投稿日:2006/07/24(月) 16:18:42 ID:NoUlPvri0
「まぁったく……かよわそうな目つきをして、しっかりやるべき事はやっておったわけだ。
 それもよりによって、あんな知能の程度が知れた男に」
「ち……違います!! 先輩は……」
「大方ティンパニの奏法と称して、あの男に尺八の吹き方でも学んでおったのだろう?
 ガッハハハハハハ!! こりゃあ傑作だ!!!
 どおりでいつまで経っても、ティンパニの正しき奏法など身につかんわけだ!!!」
「ち……ちがうんです……わたし……ぁたし……」
自分の言葉に、どんどん涙が混じってゆくのがわかった。
これはきっと、先輩に多くのものを望んだ私への罰……
先生に何を言われても、仕方のないことをやってきた、私への当然の罰……
「……フン。全く、泣けばコトが済むと思っておるのか……
 最近のガキ共は、色気ばかり無駄に発達して、本当にどうしようもない」
「……すみません……すみません……」
廊下に崩れ落ち、うわ言のように謝罪を繰り返す私。
もはや……誰に向かって詫びてるのか、自分でもわからなかった。
自分が何をやっているのかすら……もう、理解できなかった。
「……これ以上、私を失望させないでくれたまえ、御影くん」
「ふぅ……ぅぅ……っ」
遠く、先生の足音が遠ざかるのが聞こえた。
だけど……私にはもう、何も考えられなかった。
自分は一体、何を信じてゆけばいいのか……もう、わかんなくなってしまっていた。

須美ルート俺妄想(10/27)投稿日:2006/07/24(月) 16:25:51 ID:NoUlPvri0
そして……
学内コンクールを1週間前に控えた、ある日のこと……

「いやぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁああぁぁっ!!!!!」

講堂中に響き渡る、私の悲鳴。
その声に無残に引き裂かれる、円山の美しき演奏。
そして……
私の手から虚しくこぼれ落ちる、1対のマレット……

「ったく……正直ひくよな……あんな悲鳴あげられたら」
「もうすっかりやる気なくしちゃったわよ……誰かさんのせいで」
「もう1週間前だってのに……あんたのせいでうちが廃部になったら、どうしてくれるのよ」

せっかくのリハーサルを無残に打ち砕かれ、部員たちは口々に、私のことを罵ってゆく。

自分で、自分がわからなかった。
自分のことを、ここまで抑えることができないなんて、初めてのことだった。
ただ……演奏を前にして……今まで抑えつけていた想いが……一気に爆発して……
いつしか私の心は、耐えることを忘れてしまっていたのだった。

「………ごめんなさい………みんな………ごめんなさい……………」

ひとり残された講堂で、私は壊れた時計の如く、謝罪を繰り返すのだった。


――それからだった。
俺が学校で、須美の姿を見なくなったのは。


須美ルート俺妄想(11/27)投稿日:2006/07/24(月) 16:26:57 ID:NoUlPvri0
(あいつが学校に来なくなって……もう2日か……)
屋上の練習場で、俺はぼんやりと、須美のことを考えていた。
運命の学内コンクールまで、あとわずか5日。
それまでに何とかして、曲を完成させなければならないのに……
みなせの指導をしつつも、俺の頭からは、須美のことがずっと離れないでいる。
「……どーしたんですかセンパイ? 目がずーっと泳ぎっ放しですよ」
「あ……ごめん、みなせ」
「もぉ、しっかりして下さいよセンパイ!
 あたしたちみんな、センパイのこと頼りにしてるんですから」
みなせが頬をぷくっとふくらませながら、俺に抗議する。
だけど……正直、練習なんてしてる場合じゃない。
須美の身に何かあったのだとしたら……それこそ、勝負なんてしどきじゃないだろ?
がばっ
「!? センパイ?」
「ゴメンみなせ……ちょっと俺……出かけてくる」
「……」
おもむろにその場を立ち去ろうとする俺を、みなせがふと抗議の目で見つめだした。
いや……みなせだけじゃない。
そこにいる赤城山の部員たちが皆……俺のことを、じっと含みのある目で見つめている。
「また……あの人のトコ行くんですね、センパイ」
「……」
「センパイにとって、あの人とあたし達と、どっちが大事なんですか?」
「……みなせ……」
みなせの言うことは、至極もっともだった。
俺は赤城山の部長として……部員のみんなを、しっかり引っ張ってゆく責務がある。
今更俺の私情だけで、部員のみんなを見捨てることは、決して許されない……
須美ルート俺妄想(12/27)投稿日:2006/07/24(月) 16:27:29 ID:NoUlPvri0
「……ジュン君……」
折りしも妙が練習を中断し、俺の目の前へと歩いてくる。
「妙……悪ぃ、俺……」
「行かせないよ」
「妙……?」
むぎゅっ
俺がそれに気づいたのは、一瞬の後であった。
「ジュン君は……絶対……誰にも渡さないんだから……」
俺に抱きつきながら、懸命におのが想いを吐露する妙。
とてもやわらかくて温かな、妙の体温、そして匂い……
それら全てが俺の情動を突き動かし、どうしようもない官能を俺に与えてゆく。
「やめてくれよ、妙……俺は……」
「わかってる……こんなことしたって、どうにもならないって……
 だけど……嫌なの!! ジュン君がこのまま、わたしだけのものじゃなくなっちゃうなんて……」
「……妙……俺……俺は……」
「……何かと思えば、日も高いうちから堂々とラブロマンスか? 香住」
「!!!!」
後ろから響くその声に、俺たちは思わずくっついてた体を離す。
「……先生……」
「相変わらずいいご身分だな、香住」
俺たちの顧問……新開地和音先生が、呆れた顔でこちらに近づいてくる。
「先生……俺は……」
「気になるんだろ? 向こうのパーカッションの子のことが」
「……っ」
先生に的確に図星を刺され、思わず沈黙する俺。
須美ルート俺妄想(13/27)投稿日:2006/07/24(月) 16:35:27 ID:NoUlPvri0
「いいねいいねぇ♪ 敵と味方との叶わぬ恋! まさに最高なシチュエーションじゃないか」
「……からかうのはやめてください先生!! 俺は」
「アタシの方から言わせてもらえば、お前こそ笑わせるのはやめにしてくれって感じだがな」
「先生……」
先生の厳しい言葉に一喝され、俺はもはやぐぅの音も出ない。
「お前……あの子のことを護りたいっていうの、一体どのくらいの覚悟で言ってる?」
「そ、それは……」
「大方知らないんだろう? あの子が、大河原のハゲにどんなこと言われてるか……」
「……」
為す術もなく黙りこくる俺に、先生は肩をすくめながら淡々と事実を語ってゆく。
「ひどいもんだぜ? お前と数度いっしょにいたのを目撃しただけで、
 練習と称してお前に尺八かましたなど、好き放題言ってやがる」
「尺八って、先生……俺は」
「真実がどうだろうが、周囲がお前らをそういった目で見ているのは事実だ!!
 少し頭を冷やせ……香住……
 ひとりの女を護り通すっていうのは、つまりそういうことなんだ。
 お前はそういった周囲の目から……あの子を……護り通すことができるのか?」
「……」
俺は黙って、自らの想いをひととおり反芻していた。
俺は須美のことを、どの程度の気持ちで護ってやりたいと思ってたんだろうか……
少し頭を働かせれば、わかるようなことだった。
俺たちの関係が、周囲によからぬ印象を与えているってこと……
「今……お前の前には、ふたつの道が広がっている。
 ひとつはこのまま彼女のことを諦め、赤城山の部存続に命を賭けること。
 ひとつは赤城山の部長という立場を捨て、荒波の中あえて彼女といっしょにいること」
「ふたつに……ひとつ……」
「お前は……一体どうしたい?」
須美ルート俺妄想(14/27)投稿日:2006/07/24(月) 16:36:46 ID:NoUlPvri0
「……俺は……」
俺は拳を握りしめながら、きゅっと唇を噛みしめていた。
赤城山の部のことも、須美のことも……どちらも俺にとっては大事な存在なわけで……
どっちかと言われても……そんなの、俺には選びようがないわけで……
「ひとつだけ言っておくぞ……香住。
 お前がどっちを選ぼうが……選ばれなかった方は、必ず失意の憂き目に遭うことになる」
「……」
「よく考えて決めろ……これは、お前の人生なんだからな」
先生の言葉に、改めて俺は考えを巡らせていた。
よく考えたら……答えはもう、ひとつしかなかった。
俺は、部のことも……須美のことも……どちらも、失いたくない!!!
「先生……」
「ん? 何だ?」
「俺、今から……須美のところへ行ってきます。
 部の存続のことは……それから、精一杯考えたいと思います」
「ほほぅ……お前はこの部活よりも、大事な女のことを選ぶと」
「いいえ……俺は……須美のことも……部活のことも……決して、諦めるつもりはありません」
「ふっ……甘いな、香住」
先生がそっと、吐き捨てるように言葉を投げかける。
「どっちも失いたくないなんて……そんな戯言が、本気で通用するとでも思ってんのか?」
「通してみせますよ……俺の……香住純の名にかけて……!!!」
須美ルート俺妄想(15/27)投稿日:2006/07/24(月) 16:37:22 ID:NoUlPvri0
「……フッ」
それまで辛辣な表情を浮かべていた先生が、この時初めて、心からの笑顔を浮かべたのだった。
「よく言った香住。この期に及んで、どちらかひとつでも見捨てるような発言しようものなら、
 お前のその左の頬に、二度と消えんもみじ模様でも描いてやったところだ」
「……先生……」
「だがせめて……最後にけじめだけはつけてもらうからな」
「?」
「香住純……お前は今日この時をもって、赤城山ブラスバンドの部長職を解任する」
「!!?」
先生の意外な言葉に、妙が思わず目を見開いてこちらへ向かってきた。
「解任って、先生……そこまでしなくったって……」
「当然だろ? よりにもよって本番5日前というこの時期に、部より女を優先する男を、
 お前は部長と呼び慕うことができるのか?」
「そ……それは……その……」
先生の無情な一言に思わず黙りこくる妙の頭を、俺は励ますようにそっと撫でてやる。
「……大丈夫だよ妙。俺は……必ず戻ってくるから」
「でも……ジュン君……」
「それにな……これは……俺自身の問題でもあるんだ。
 ここで俺が須美のことを見捨てたら……俺はこれからずっと、それを引きずって生きてくことになる。
 だからここで……俺はちゃんと、自分の気持ちに決着をつけなきゃならない」
「ジュン君……やだよ……ジュン君……」
「だから、さ……ごめん!! 妙!!!」
ダッ……!!!
妙の悲痛な表情を見ていられなくなり、俺は思わずその場を駆け出して行ってしまった。
須美の顔に、笑顔を取り戻すために。
そして何より……俺自身が、笑顔でこの場へ戻って来るために。

須美ルート俺妄想(16/27)投稿日:2006/07/24(月) 16:43:26 ID:NoUlPvri0
「……ジュン君……」
屋上のドアの前で、ぽつんと立ち尽くすわたし。
そんなわたしのところに、馴染んだ顔の仲間が2人、そっと歩み寄ってくる。
「……いつまでそうしてるのよ。ほら妙、いっしょに練習始めよ?」
「そうだぜ妙。俺たちがヘマして部なくしちまったら、きっとあいつすげぇ悲しむぜ?」
とても優しくて温かな、ふたりの友達の声。
その声に、わたしは自分の気持ちを抑えきれなくなり……
「ん……んんっっ、うぇぇぇ……っっ……」
わたしは紀子ちゃんの胸の中で、ひたすら泣きじゃくった。
いつか来るとわかっていた、ジュン君とのお別れの時……
覚悟は決めてたはずなのに……それは想像以上に辛く、切なく……わたしの心を締め付けて……
「……大丈夫よ妙。あいつは……必ず戻って来るって」
「う……ぅうっ……ぃぐ……っ」
「だから今は……いっぱい……練習してさ……
 戻ってきたあいつが……わっと驚くくらい……うまくなってやろうじゃん」
「のりこ……ちゃぁん……んんっ、ふぇぇぇ……っ」
紀子ちゃんの制服が、涙でびしょびしょになるのも構わず。
わたしはずっと、ジュン君のことを想い……ひたすら、泣き続けていた。

こうして、円山の暮れなずむ屋上で、ひとつの恋が密かに終わったこと……
当時の俺はまだ、知る由もなかった。

須美ルート俺妄想(17/27)投稿日:2006/07/24(月) 16:44:04 ID:NoUlPvri0
――果たして須美は、自宅の部屋の奥に閉じこもっていた。
両親から聞くところによると……もうここんところずっと、居間にも顔を出さずにいるらしい。
コンコンコン
「須美……いるか? 俺……香住純だけど」
「……」
度重なる俺のノックにも、全く反応らしい反応を返さない須美。
……これは思ったより重症だな……
こんな状態の須美を、果たして俺が、ちゃんと救ってやることができるんだろうか?
(……いいや!!)
たった今、誓ったばかりだろ? 須美のことも部活のことも、どっちも護り通すって……
こうなったら、須美がうるさいと耳塞ぐまで、とことん声かけてやる!!!
ドンドンドン!!
「出て来いって、須美……ご両親もみんなも、お前のこと心配してるぞ」
「……」
「あくまでだんまり決め込むか……こうなったら、無理やりにでも」
「……先輩……」
須美が小一時間後にしてやっと、反応らしい反応を返してくれた。
「来てくれたんですね……先輩……」
「あぁ……来てやったぞ、須美」
「鍵……開けてますから……先輩だけ、そっと入って来て下さい……」
「……あぁ」
形はどうあれ……ようやく須美が、俺に機会を与えてくれたんだ。
この機会を……俺は無駄にするわけにはいかない……!!
カチャッ……
俺はそっと、その開かずの扉を開き……

須美ルート俺妄想(18/27)投稿日:2006/07/24(月) 16:44:56 ID:NoUlPvri0
「!!!?」

眼前のあまりの光景に、俺は思わず絶句していた。
制服姿のまま、肩を大きくはだけ、胸元に光る下着を見せびらかす須美。
その場に無造作に敷かれた布団とティッシュの箱が、俺に更なる劣情を掻き立てる。
「……どういうつもりなんだ……須美……」
「男の人は……こういったものが……お好きなんですよね……
 先輩も……やっぱり……ひとりの、男の人ですから……」
そう言いつつも、しきりに足を動かし、スカートの裾を艶めかしくひらめかせてみせる須美。
そのあまりに扇情的な光景に、俺の心が激しく高鳴ってゆくのがわかる。
「……須美……」
「あれからしばらく考えて……私……ちゃんと覚悟を決めました。
 先輩が望むことでしたら……私……何でも……」
「!!!!!!」

バシッ……!!!

乾いた音と共に、俺の指先がじりじりと熱く痺れるのがわかった。
自分の身に起こったことが把握できないまま、呆然とした表情で自らの頬を押さえる須美。
「見損なったよ……須美……お前が……そんなことする人間だったなんて」
「……先輩……」
「……お前が大河原の奴に何言われたか、知ったこっちゃねーけどな……
 そうやって自暴自棄になって、何かいいことがあんのかよ!!!」
「先輩……でも……私……」
「悔しくないのかよ……お前……見事に、大河原の思うがままになってんじゃねーか……」
須美ルート俺妄想(19/27)投稿日:2006/07/24(月) 16:52:20 ID:NoUlPvri0
腹のムカムカが、治まらない。
ひどく胸焼けがして、食ったもの全部、胃液ごとひっくり返りそうだ。
……何もわからない。須美のことが……
須美のヤツ……一体何のつもりで……こんなこと……
「……もう、見ていられねーよ……お前の、そんな姿……」
「……先輩……」
「頼むからもう……やめてくれよ……そうやって……自分のこと傷つけるの……」
「……」
俺の言葉に、胸元で手を握りしめ、そっとうつむく須美。
……やがて須美の声が、蚊の羽音よりも小さく響くのがわかった。
「……ごめんなさい、先輩……」
「須美……?」
シーツを固く握りしめながら、なおも必死に言葉をひねり出す須美。
「……先生に……先輩とのこと……指摘されたとき……
 私……すごく嫌で……我慢、できなくって……」
「須美……」
「でも……こうやって家の中で……じっとしてても……
 ずっとずっと……先輩のことばかり……頭に浮かんできて……」
「……」
「……罵られて……当然ですよね……こんなに、醜くて……猥らで……汚い私……」
……もう、限界だった。
目の前にたたずむ少女の姿が、あまりに小さく、頼りなく見えて……
このまま俺が捕まえてなきゃ、いつかふっとかき消えてしまいそうで……
須美ルート俺妄想(20/27)投稿日:2006/07/24(月) 16:54:50 ID:NoUlPvri0
「……須美……」
「先輩……? え……」
……考えるより先に、体が動いていた。
須美の細い体を、そっと抱きしめ……二度と離さぬよう、その腕を強く押さえ込む。
「……ごめんな……須美……俺、お前のこと……何もわかってなかった……」
「先輩……私……ぁたし……」
「辛かったよな……須美……大河原に……みんなに……いろいろ言われて……
 それなのに……俺……そんなこと……全然、気づいてやれなくて……」
「先輩……違う……違うのぉ……あたし……」
俺の腕の中で、須美がしきりに泣き咽ぶのも構わず。
俺はひたすら、自分に言い聞かせるかのように呟いていた。
「だけど……これからはもう……須美に……こんな想いはさせない……
 俺がずっと……お前のこと……護り続けてやる……!!!」
「……先輩……」
「好きだ……須美……他の誰よりも……ずっと……!!」
「ふぅぅ……っ、せんぱい……ぅ、ぇぐ……っ」
俺はそのまま、須美が泣きやむまでずっと、求愛の言葉を夢中で囁き続けていた。
お互いずっと埋められずにいた気持ちを、互いに、補い合うかのように……

須美ルート俺妄想(21/27)投稿日:2006/07/24(月) 16:55:51 ID:NoUlPvri0
「先輩……」
やがて須美は泣き止むと、涙で赤く腫れた目元を俺に向けた。
とても綺麗でまっすぐな、須美の琥珀色の瞳……
その目が俺に、何を求めているか……言わずとも、理解できた。
「本当に……いいのか? 須美……」
「はい……今度は……先生に言われたからとか……そんなんじゃなく……
 ちゃんと……先輩に……抱きしめてほしいです……」
「須美……」
「ください……先輩……先輩の勇気を、私に……」
「あぁ……」
もはや俺に、迷う理由はひとつもなかった。
そっと須美を抱き寄せ……須美の小さな唇に、熱い口づけを与える……


そして……
月明かり照らす小さな部屋で、俺と須美は結ばれた。

初めて抱く須美の体は、とろけるほどに甘く、温かくて……
狂おしく須美を求める俺に、須美もまた、優しい鳴き声で返すのだった。

まるで……夕山に澄み渡る、円山の金管の音色のように……


須美ルート俺妄想(22/27)投稿日:2006/07/24(月) 17:00:30 ID:NoUlPvri0
「……落ち着いたか? 須美……」
「……まだ……少しだけ……ドキドキしてます……」
わずかにすすけた布団の中で、裸のままそっと寄り添う俺たち。
須美の安らかな微笑みに、俺の心がとくとくとほぐれてゆくのがわかる。
「これで、ホントに……結ばれたんですね……私たち……」
「あぁ……何だか、あんま実感わかないけど」
「うぅ……先輩は……そうかも知れませんけど……」
あ……そうか。
須美……初めて挿れた時……すごく痛がってたもんな……
「……ごめん、須美。何か……全然無神経だよな……俺」
「フフ……ダメですよ先輩。
 ちゃんと気遣いのできる男にならなきゃ、大物にはなれないんですから」
「す……須美って……意外と、言いたいことズバッと言っちゃうタイプなんだな……ι」
「先輩のおかげですよ。先輩が、私を変えてくれたから……」
「……///」
全身何だか妙なむず痒さに襲われ、思わずうつむく俺。
須美ルート俺妄想(23/27)投稿日:2006/07/24(月) 17:01:20 ID:NoUlPvri0
「……先輩……」
やがて須美はむっくりと起き上がり、女の子座りの体勢でこっちを見下ろした。
月明かりに照らされる、須美の美しい裸身。
その姿に、俺は日本に伝わる暁の女神の艶姿を連想させる。
「私……今までずっと……自分に嘘をつき続けてました……
 私はどうせ不器用だから……何もできないから……そう言って、自分の可能性を閉ざして……
「須美……」
「だけどそれじゃ、いつまで経っても、何も変わらないから……」
「……」
「だから……先輩に甘えるのは、もう今日で終わり」
須美がふわっと、やわらかな笑顔を俺にくれた。
「見守っててくださいね……先輩……これから、私の歩む先を……」
「あぁ……」
須美がその細い体に、溢れんばかりの決意を秘めているのがわかった。
だとすれば……俺のやることは、もう決まっていた。
「学内コンクール……楽しみにしてるぜ、須美」
「えぇ……例え先輩が相手でも、私は一切手加減するつもりはありませんよ」
「あぁ……須美こそ、俺たちの演奏聞いて度肝抜くなよ」
俺と須美は、互いに微笑み合い……そして改めて、互いの闘志を確かめ合うのだった。

須美ルート俺妄想(24/27)投稿日:2006/07/24(月) 17:05:29 ID:NoUlPvri0
「フン。何を言い出すかと思えば……」
「……」
私の提案を鼻先で笑う先生と、それを毅然とした態度で受け止める私。
「何度言えばわかるのかね? キミのような落ちこぼれなど、我が部には必要ないと」
「その台詞は……私の演奏を、少しでも聴いてからおっしゃってください」
「ハッ……下らんな。全くもって下らん!!
 第一練習もそこそこに赤城山の生徒と下らん情事に溺れてた者に、今更何が出来ると」
「……もし私の演奏が、聴くに堪えないものでしたら……遠慮なく、私を退部にしてください。
 その時は、二度と吹奏楽の表舞台にも立たないと……そう、約束します」
「ほほう……大きく出たな、御影くん」
先生の口元が、にやりと嫌らしく曲がるのがわかる。
「特別措置だ……キミの演奏が見事私を満足させたら、円山のパーカッションの座は約束しよう。
 だが……キミの演奏に少しでも粗が見えたら、その時は……もう、わかっておるな」
「……はい」
確かな決意を胸に、私は先生に宣言した。
そっとマレットを取り……ぴんと張り詰めるティンパニのヘッドに、その先端部を触れさせる。
そして……すっと息を吸い……全身の感性を、そっと研ぎ澄ませ……

須美ルート俺妄想(25/27)投稿日:2006/07/24(月) 17:12:00 ID:NoUlPvri0
ドルル………ー……ドンッ!!!

楽器と私が、一体と化したのを感じた。
私の手は澱むことなく、すらすらと音の波を奏で続ける。
「……すげぇ……」
遠く響く、誰かの感心に満ちた声。
だが私は……それすらも流れに乗せ、ただ無心にマレットを振るい続ける。
「……ふぅ」
やがて私は演奏を終え、心に残った緊張をそっと吐き出した。
ワァ……!!!
音楽室全体が、歓声と拍手の渦に包まれていた。
私の演奏が、音楽室全体を……感動の虜にしていた証であった。
「よくやりましたわ、御影さん」
未だ鳴り止まぬ拍手の中、雲雀丘先輩が手を鳴らしながら、私の元へそっと歩み寄ってきた。
「やはり、円山のパーカッションを任せられるのは、御影さん……貴方しかおりませんわ」
「先輩……ありがとうございます!」
その後先輩は、そっと先生の方を振り向き、ふわりとしなを作ってみせた。
「これで文句はありませんわね……円山のパーカッションは、彼女に一任します」
「……フン!!! 勝手にしたまえ!!!」
すこぶる不機嫌な様子で、その場を去って行ってしまう大河原先生。
よかった……
私は今、自分の手で、自分の居場所を掴んだんだ……!!
胸の奥底からこみ上げる喜びに、私はそっと目尻を潤ませていた。

須美ルート俺妄想(26/27)投稿日:2006/07/24(月) 17:12:38 ID:NoUlPvri0
それからはもう、波乱の日々だった。

「やぁ、お帰り新部長!! じゃあさっそく、パート練習の指導よろしく!!!」
部に戻ってきた俺を出迎える先生の第一声がこれだった。
「ぶ、部長って……俺確か、ここの部長職クビになったはずじゃ……」
「いやーそれがさ……お前が去った後、まともに全体まとめられるヤツがいなくなっちゃってさ……
 大変だったんだぞ? 香住はまだか、香住はいつ戻るのかって……」
「……みんな……」
こうしてうやむやのうちに、俺は赤城山の部長の座に返り咲き……
そして部員の皆との2人3脚で、俺たち赤城山の音楽を懸命に作り上げていった。
そして、円山に戻った須美もまた……
その類稀なマレット捌きで、円山の美しき音色を、縁の下から支えてゆくのだった。

そして、俺たちは遂に、学内コンクールの日を迎え……

「……」
意外な結果に、俺たちは驚愕していた。
円山と赤城山、双方に与えられた票数は、いずれも同じ……
いや、それだけでなかった。
集まった票の殆どが……双方の部の存続を、心から望む声であったのだ。

(……認めん!! このような横暴、私は認めるわけにはいかん!!!)
結局最後まで、その結果に異議申し立てていた大河原先生だったが。
(それより大河原先生、少しお耳に入れたいことがあるのですが……)
新開地先生の鮮やかな切り返しにより、先生は沈黙することとなったのだった。
以前須美にはたらいたセクハラ発言の数々が、どうやら決め手となったようだ。
近々、大河原先生の処遇を巡り、学園内で大がかりな会合が開かれるらしい。
願わくば、あのハゲに厳格な処分が下されることを祈るばかりだ。

そして……
俺たち赤城山と円山のブラスバンドは、晴れてひとつの部として再結成することとなったのだ。

須美ルート俺妄想(27/27)投稿日:2006/07/24(月) 17:13:31 ID:NoUlPvri0
「今日からいよいよ、円山のみんなと練習ですね! センパイ」
「あぁ……みなせちゃん……それは嬉しいんだけど……」
みなせの一声に、健太郎が嫌そうな目を指揮台の方に向ける。
「そこ!! 演奏が止まってますわよ!! きっちり練習に励みなさい!!!」
視線の向こうには、円山から部長職を引き継いだ雲雀丘さんが、鋭い目で睨みを利かせている。
「はぁ……これだったら……純が部長だった時のがマシだったよ……」
「文句言うなって、健太郎。俺のアイアンクロー、食らうよりはマシだろ」
「だからアイアンクローはフリッツ・フォン・エリックの技であって、他の場合は」
「だったら代わりにそのブレーンクローとやらを食らわせてやってもいいけど」
「ひぃっ!! 嘘!! ごめんっ、純!!!!」
俺が指をぽきぽき鳴らすのを見て、健太郎がとっさに平謝りモードに入る。
ったく……そんなにオシオキされるのが嫌なら、素直に練習に励んでりゃいいのに……
「ほらみんな!! まだまだ目に真剣さが足りませんわ!!
 この調子では、夏の地区大会に間に合いませんわよ!!」
……そう。
俺たちは学内コンクールを終え、またひとつ大きな目標を得たのだ。
夏に開かれる県大会で見事金を勝ち取り、全国制覇を狙うこと。
その大きな目標に向け、俺たちは皆、懸命に練習に励んでいるのだ。
「……」
俺は汗を拭いながら、新緑芽吹く窓辺の木々を見つめていた。
暑い夏が、もうすぐやってくる。
去年よりもずっと熱い、俺たちの夏が……
「須美……」
俺はそっと、隣でマレットを握る大事な人の名を呼んでいた。
「先輩……」
「いっぱい……頑張って、いっしょに……全国へ行こうな!」
「はいっ! 先輩!!」
互いの決意を、確かめ合うように。
俺たちは互いに微笑み合い、また自分たちの練習に戻るのだった。

(終わり)

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