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しあわせの意味

しあわせの意味(1/11)2006/05/27(土) 18:49:10 ID:S62BQb+c0
「……まったく、聞いておりますの御薙さん?」
……また、あの時の夢だ。
思い返すたびに俺の胸をぎゅっと縛りつける、嫌な夢。
「子供に向かって魔法を撃たせるだなんて、
 お宅は子供にどんな教育をしているんですか!?」
「そうですよ!! うちの子なんかあれ以来、
 怖がってあの公園に近づこうともしなくなったんですよ!?」
「ふぇぇん、怖かったよぉママ……」
「あーら大丈夫よたーくん……ママが今悪い子をこらしめてあげまちゅからねー♪」
いじめっ子たちの甘えた声が、ものすごく勘に障る。
ひとりじゃ何にもできないくせに、こんな時だけ自分のママを頼って、
俺のかーさんをいじめに来るんだ。
大体、悪いのはそっちじゃないか!
女の子をいじめて喜ぶだなんて、悪い子のすることに決まってる……
「ほら……うちの子も一歩間違えば、
 ああなってた可能性もあるってわけじゃありませんか!!」
「まぁ魔法使いの家ですからね……おおかた情操教育と銘打って、
 子供にテロリズムの勉強でもさせてるんじゃないかしら?」
「本当に怖いわね……こういった子供が、将来恐喝だの強姦だのやって、世間を騒がせるんだわ」
難しい言葉ばかり言って、俺のかーさんを更にいじめまくる2人。
そして、何より自分をむかつかせたのは。
「申し訳ありません……息子にはもう、重々言い聞かせておりますので」
あいつらの言うことに全く言い返さず、ずーっとあいつらにあやまりっぱなしのかーさん。
かーさんはもう、あやまる必要ないだろ!?
悪いのはあいつらで、かーさんじゃないのに……
かーさんは、何も悪くないのに……
それなのに……何で……
しあわせの意味(2/11)2006/05/27(土) 18:50:05 ID:S62BQb+c0
「何であいつらに言い返さなかったんだよ!! かーさん!!」
「……」
「悪いのは……悪いのはあいつらなんだぞ!?
 小さな女の子をいじめて楽しんでいたあいつらが悪いんだぞ!?」
「……」
「なのに……何でなんだよ、かーさん……」
「……雄真」
ずっと黙っていたかーさんが、やっとこちらを向いた。
「雄真は……優しい子なのね……」
「そりゃまー……かーさんの子供だかんね」
「うん、雄真は優しい。そして、女の子をいじめっ子から護りたいと思った気持ち、
 それってすごく大事だと思う」
「だったら、何で……」
「あなたが……『魔法』を使ったからよ」
「まほう……」
しあわせの意味(3/11)2006/05/27(土) 18:50:49 ID:S62BQb+c0
かーさんから教わった、大事な力。
その気になれば、悪者を誰でも追い返せてしまう、すっごくステキな力。
俺はこの力を使えることが、すっごく自慢だったし、
そんなすっごい力を教えてくれたかーさんのことが、とっても大好きだった。
「魔法……確かに便利なもの。
 その気になれば、世界をいくらでも自分の好きに変えられてしまう、とても強い力。
 だけど、それ故に危うい……人を思いのまま傷つけてしまえる、とても危険な諸刃の剣」
かーさんの言うことは、むずかしすぎて、俺にはちっともわかんなかった。
「私は……この力で誰かが苦しむ様を、もう嫌という程見てきたわ……
 この上あなたにまで、あんな辛い思いはさせたくない……
 だから、約束して、雄真。この力は、誰かを幸せにするためだけに使いなさい。
 決して、誰かを傷つけるためなんかに使わないで……母さんからの、一番のお願い」
「誰かを……しあわせに……」
よかれと思って使ったつもりだった。
俺の魔法で、誰かが笑ってくれるなら、それが最高だと思っていた。
でも……わかんない。
かーさんの言うことが、全然わかんないよ……

しあわせの意味(4/11)2006/05/27(土) 18:56:08 ID:S62BQb+c0
次の日。

「おはよー、みんな……」
「!!!!」
軽くあいさつして教室に入った俺を、クラスのみんなが驚いたような目で迎えた。
しゅんと、これまでにぎやかだった教室が凍りつく瞬間。
直後、先ほどと毛色がまったく違うざわめきが、教室内を覆った。
「お、おい、ゆーまだぞ、あれ……」
「2組のタケヒトをまほーでふっとばした、あいつ……?」
「やだ……こわいよ……あんなのがいっしょのクラスにいたなんて……」
世界で俺だけが、拒絶される感覚。
昨日まで仲の良かった友達までもが、手のひらを返したかのように怯えて近づいて来ようとしない。
「みんな……」
昨日まで、みんなあんなに仲良かったのに。
どうしちゃったんだよ、みんな……

授業を受けるのも、ひとり。
休み時間に遊ぶのも、ひとり。
給食を食べるのも、ひとり。
こちらから近づこうとすれば、一気に逃げ出していってしまうクラスのみんな。
担任の先生は、口では雄真くんと仲良くしろとみんなに言ってくれるが、
ひとりとして耳を貸す奴はいない。
まるで空気になってしまったかのような自分の存在感に、俺は軽い吐き気を覚えていた。

しあわせの意味(5/11)2006/05/27(土) 18:58:04 ID:S62BQb+c0
そんな孤独な学校生活が、5日ほど続いたある日の休み時間。
いつものように友達と一緒に遊ぶのを断られた俺は、
手持ち無沙汰に学校の校庭をぶらぶら歩いていた。
ふと、校庭の一角を見つめる。
「みんなーー!! 聞いたかーー!? 1組の○○は、△△と付き合ってるんだってー!!」
「や、やめてよ、お願い」
「アツイですねー、○○さぁん……ケッコン式はいつ挙げるんですかー?」
「聞ーいちゃった、聞いちゃった♪ せーんせーに言うてやろー♪ ひゅーひゅー」
「ふ、ふぇぇぇぇん」
あの時と同じだった。
複数の男の子が、よってたかってひとりの女の子をいじめている図。
(……もしかしたら)
俺の中に、よくない考えがひしひしと浮かんでくるのがわかった。
ここでまた、俺が彼女を助けてあげたら、またみんな褒めてくれるかもしれない。
俺の魔法で、また誰かをしあわせにできるかも知れない……
思えばすごく独善的で、反吐を催すくらい下卑た考え方だった。
「エル・アムダルト・リ・エルス・ディ・ルテ……」
集中し、言葉を紡ぐ。
かーさんが、俺に教えてくれた魔法の言葉……
誰かをしあわせにするために、必死で覚えた大事な言葉……
その力は白き魔法の輝きとなって、俺の手のひらに集結する。

「……エル・アダファルス!!!」

しあわせの意味(6/11)2006/05/27(土) 18:58:49 ID:S62BQb+c0
ゴォォォォォォォ!!!!

俺の紡いだ言葉は巨大な魔力の奔流となって、いじめっ子たちに襲い掛かった。
「え……これって……」
「まさか……雄真のやつの……」
「「うわぁぁぁぁあぁぁぁああぁぁああああっ!!!!」」

ドゴォォォォォォォ!!!!

その魔法が見事いじめっ子たちに命中するのを見て、俺は思わずガッツポーズをとった。
やった……俺はやったんだ……
また……俺の魔法で……誰かをしあわせにできたんだ……!!
きっとその時の俺は、ものすごく醜い顔をしていたんだと思う。
「大丈夫? キミ……ケガとかない?」
息を切らしながら、女の子のもとへと駆け寄ってゆく俺。
しかし。
「あ、あ……ああああ……」
「? もう大丈夫だよ? いじめっ子たちはみんないなくなったから」
「あ、ああああ、い、い……」
何をおびえているのか、歯をがちがち鳴らし、青ざめた表情でこちらを見る彼女。
俺が近づくにつれ、彼女の震えはどんどん強くなってゆく。
「ね、もうだいじょ」
「いやあああああああああああああああっ!!!!」
ものすごい勢いで、その場を去ってゆく少女。
一瞬、理解できなかった。
俺は確かに、彼女を助けたはずなのだ。
それなのに、なぜ……

………………

しあわせの意味(7/11)2006/05/27(土) 19:01:25 ID:S62BQb+c0
「!!!!!」

やっと俺は、事態を把握した。

めり込んだ床。
砕け散った校舎の壁。
そして……
かつて「加害者」だったはずの、男の子たちの傷つき倒れている姿。

「あ、あぁ……」

唐突に、俺の全身を拭いようのない後悔が襲った。

俺の放った魔法の、その強大さに気づき……
俺がしでかしたことの、その意味を知り……

……俺は、きっと叫んでいたんだと思う。



「うああああああああああああああああああ!!!!」



しあわせの意味(8/11)2006/05/27(土) 19:04:19 ID:S62BQb+c0
──全治1週間──
それが、医師が彼らに与えた診断だった。

あの後、俺はどうしたか覚えてない。
母さんがやって来て、泣きながらその男の子たちに謝って……
まだ授業が残っているにも関わらず、俺は無理矢理家に連れ戻され……

そして俺は……学校に行くのをやめた。

今思えば……この事件のせいで、
俺たちはこの街に住む権利を失ってしまったと言う方が正しいのかも知れない。

そして……それから後、俺は鈴莉母さんと共に暮らした記憶がない。

俺に残っているのは……音羽かーさんが、嬉しそうに俺を迎えてくれたこと。
音羽かーさんとすももと、新しい家族になったこと。

新しい家族との生活は、とても平和で、とても慌ただしくて……
いつしか俺は、鈴莉母さんと過ごしていた日々を、すっかり忘れ去っていた。

そして……

俺はそれから二度と、魔法の言葉を口にすることはなくなっていた。

しあわせの意味(9/11)2006/05/27(土) 19:05:33 ID:S62BQb+c0
「デート中に考え事……かな?」
「え? あ……」
春姫の言葉に、我を取り戻す俺。
「フフ……雄真くん。何だか今日は、ずっと上の空だね」
「た、確かにそうだな……悪ぃ……」
春姫はそんな俺のことを気遣いながら、俺にそっと声をかける。
「まだ……迷ってるんでしょ? 御薙先生から言われたこと」
「……」
御薙先生が、俺に提案したこと。
魔法科へ編入し、今よりもっと本格的に魔法を勉強すること。
本気で魔法を学びたいのなら、それくらいの覚悟は最低限持って挑んでほしい。
中途半端な気持ちだったら、あの時の想いをもう一度繰り返すことになる……
そう、御薙先生は俺に言った。
でも、俺は……一度は魔法を捨てた身……
今更俺なんかがのこのこ入ってきていい世界ではないことは、
この数日間で嫌という程思い知らされてきたはずだ。
なのに……
まだ、迷っている自分がいる。
一般人としての自分と、魔法使いとしての自分との間で、揺れ動いている自分がいる。
俺は……本当に魔法を学びたいのか……それとも、ただ春姫といっしょにいたいだけなのか……
しあわせの意味(10/11)2006/05/27(土) 19:08:42 ID:S62BQb+c0
「雄真くん……私はね……」
ゆっくりと、口を開く春姫。
「私は……雄真くんに、もう一度魔法を目指してほしい」
「……」
春姫は俺の手を取り、かつて共に魔法を使ったときと同じように、それを空にすかしてみせる。
「雄真くんの手……私が魔法を目指すきっかけをくれた、大切な手……
 その手が……今、魔法の道を失って、宙ぶらりんになってる……
 それが……すごく嫌なんだ。私」
春姫の気持ちが、俺に痛いほど伝わってくる。
「私は……もう一度この手といっしょに魔法を目指してみたい。
 雄真くんといっしょに、同じ夢を見続けていたいんだ……」
切なそうに響く、春姫の声。
──魔法を捨てる道を選んだ俺。
──魔法を志す道を選んだ春姫。
俺たちの運命は、一体どこですれ違っちまったんだろうな?
「やっぱり……ダメなのかな……
 雄真くんといっしょに、魔法を勉強したい。ただ、それだけなのに……」
「……っ」
耐え切れなくなり、春姫から目を逸らす俺。
しあわせの意味(11/11)2006/05/27(土) 19:10:59 ID:S62BQb+c0
……と。
目の前を駆けてゆく、ひと組の小さなカップル。
「あ……」
春姫があの時、想いを伝える手助けをした女の子。
「よかった……あの時の想いは、ちゃんと伝えたい人に伝わってたんだね」
「……」
ふと俺は、あの時の春姫の優しさに満ち溢れた魔法のことを思い出していた。
誰かを幸せにするために、春姫が使ったただひとつの魔法。
(……春姫……)
今までずっと理解できずにいた、しあわせという言葉の意味。
あの時の春姫の魔法が、俺にその意味の欠片を教えてくれたのは、間違いなかった。
ちょうど……俺の魔法が、かつて春姫にそうしたのと同じように。
『この力は、誰かを幸せにするためだけに使いなさい』
あの時は理解できなかった、母さんの言葉。
でも……今なら。
人の痛みと、胸いっぱいのしあわせを知った、今なら。
「春姫……」
俺の意志に、もう曇りはなかった。
「俺、もう一度魔法を目指してみるよ。春姫といっしょに」
「雄真くん……」
俺はその決意を揺るがせぬべく、春姫の手を堅く握りしめていた。

(終わり)
はぴねす!温泉の人2006/05/27(土) 19:12:57 ID:S62BQb+c0
はぁはぁ・・・ギコナビでカキコできんのがこんなキツイとは・・・orz

とりあえず以上です>>361-371
・・・とまぁ、本編でもこのくらいのことはしっかり書いてくれと。
春姫ルートなんか、まさに本作のメインヒロインルートと言っても差し支えないのに、
肝心のイベントの中身薄すぎ・・・

あと最後のアレは春姫ルート最終日のつもりなんですが、
自分の中でいろいろ考えがあって、中身ごっそり書き換えちゃいました。
正直言って、今でもその判断が正しかったのかどうか、ちょっと迷ってます。
何かご意見ありましたら、遠慮なく言っていただけたら幸いです。

ではまたノシ

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