■戻る■
メインヒロインやみんなと温泉に行くお話@はぴねす!
370
名前: 第1章「ようやく到着!温泉宿」(1/5) 2006/03/12(日) 16:16:51 ID:OUteywxc0
「うわぁ、すごいお宿!」
「ホントだ、こりゃ思ってた以上だな……」
春姫とともに見上げる、宿舎の立派さ。
柱などに使われている木の色から、確かな年代を感じさせるものの、
そのどっしりとした構えは、現在も決して揺るぐことはない。
「……来てよかったな、春姫」
「うん、そうだね。雄真くん」
向かい合い、互いに笑顔を交わす俺たち。
「……どーでもいーけど」
と、後ろから何やら不満げな声が聞こえてきた。
「いちゃついてるヒマがあったら、とっととこの荷物、持ってってくれない?」
「あ……ゴメンね杏璃ちゃんι」
……そう。今回は残念ながら、春姫と2人っきりというわけじゃないのだ。はぁ。
俺が魔法科に転入して、はや数ヶ月。
魔法科の能力検定でしばらく忙しい日々を送っていた俺たちだったが、
その日々もちょうど昨日で終わりを告げた。
そこへ小雪さんが、俺たちの労をねぎらってくれる目的で、
俺たちを実家の温泉宿へと招待してくれた次第である。
「しかし、姫ちゃん達と温泉宿か……
魔法科の女の子たちとめくるめくラブロマンスの予感……ぶつぶつ」
「はいはい。ボケてる暇があったら、これも運んでよね」
「準さーん! この荷物は、どこに置いたらいいんですかー?」
……何故か約3名ほど、魔法科でない奴が含まれてるのはともかくとして。
「ほらほら雄真も! かよわい乙女にこんな重いもの運ばせるつもり?」
「……あえてツッコむのはやめておくぞ、準」
愚痴をたれつつも、俺は車から積み荷を運び出す作業に戻った。
371
名前: 第1章「ようやく到着!温泉宿」(2/5) 2006/03/12(日) 16:17:22 ID:OUteywxc0
「……おい、信哉よ……」
「いかがなさいましたか、伊吹様」
雪の敷き積もる山道を通る、3人の人影。
その内訳は、私……式守伊吹と、道案内役の信哉、そしてその妹沙耶である。
「どうもこうもない!! 小雪の言っていた宿とやらは、いつになったら到着するのだ!!」
「それは……おそらくこちら側へ向かえばよろしいかと」
「先刻も通ったばかりではないか、そちらは!! もうよい!!
そなたに道を聞いた私が愚かであった!!」
「……兄様に道案内を任せたのが、最大の失敗だったようですね」
「……ぐぅ」
最愛の妹にまで呆れた顔をされて、さすがの信哉も黙り込む他ない。
「むむ!! どうやらあちらの道が妖しいようだ!!
沙耶!! 伊吹様!! さっそく参るぞ!!」
「……勝手にお一人で彷徨われて下さい、兄様ι」
こんな状況でも未だ覇気を損なわぬ信哉に、打つ手なしとばかりに諸手を上げる私と沙耶であった。
まったく……出だしからこれでは、先が思いやられるぞ……
372
名前: 第1章「ようやく到着!温泉宿」(3/5) 2006/03/12(日) 16:26:25 ID:OUteywxc0
「それでは、こちらが露天風呂になりますね」
小雪さんの案内に従い、大浴場の前までやって来た俺たち。
「当高峰の湯は、遥か天保の時代より温泉宿として栄えてきた名湯であり、
かの名だたる文豪たちもその湯を嗜んだと言われております。泉質は……」
「……説明は嬉しいけどさ。さっそくみんなで入らないか?
俺たちもう長いことあの雪道にいたせいで、すっかり体冷えちゃったよ」
「さんせーい。さっさと入りましょうよ、小雪先輩」
俺の提案に、みんなも乗り気のようだ。
「……そうですね。ではさっそく、皆で楽しむことにしましょう」
となれば善は急げ。俺たちは男女に分かれて、更衣室へと向かうこととした。
……って、ちょっと待て。
ぐいっ。
俺はあわてて、女子更衣室へ向かおうとした準の襟首をつかんだ。
「あれぇ? どうしたの、雄真?」
「……どうもこうもない。お前何でナチュラルに女子更衣室へ向かおうとしてるんだよ」
「女の子が女子更衣室に入るのは、当然でしょ?」
「……おんなのこならば、な」
何かコイツと話してると、こっちまで勘が狂ってしまいそうになる。
「と・に・か・く!! お前はれっきとした男なんだから、さっさとこっちへ来い!!!」
「やん、雄真のスケベ! かよわい乙女を男子更衣室に連れ込んで何をするつもりなのよ!」
「どーもせんわ!! いいからとっとと来る!!」
やたら騒がしい準をハチと2人で押さえつけ、俺たちも男子更衣室へと入っていった。
373
名前: 第1章「ようやく到着!温泉宿」(4/5) 2006/03/12(日) 16:31:11 ID:OUteywxc0
「……狭いな、ここ」
「……文句言うな、ハチ」
こっちこそ何が嬉しくて、ハチと密着状態で服など脱がねばならんのだ。
それもこれも、準のヤツが更衣室内に男性禁止領域などを勝手に取りやがったせいだ。
俺たちに着替えを見られたくないって気持ちはわからんでもないが、
それにしても半径3mはさすがに取り過ぎだぞ、準……
「おっしゃ! これで準備万端!!」
タオル一丁になったハチが、相撲の力士みたく自分の体をパンと叩く。
「準備も何も、ただ脱ぐだけだろ? 何そんなに意気込む必要があるんだよ」
「チッチッチ。甘いな、雄真クン」
早くも呆れ顔になってる俺に、ハチが舌打ちしながら指を振る。
「冬の温泉宿。女の子たちと一緒に風呂に入ってやるコトはひとつだろ?」
「……悪いハチ。話が全然見えない」
そもそも何で女の子と一緒なのが前提になってるのか、理解できないんだが。
「かーーーーっ!!! これだから雄真はダメなんだ!!!
いいか? 冬の露天風呂!! これは一種の楽園だ!!! いわばパラダイス!!!」
「いや、それ訳しただけだし」
「湯船で近づく男と女!!! 生まれたままの姿で向き合う2人!!!
やがて2人の間には愛が芽生え……」
「……アホらし。先に行くぞ、ハチ」
「コラ雄真!! 抜け駆けは許さんぞ!! 一番ノリはこの俺だぁぁぁ!!!!」
あーあ。元気そうに駆けて行っちゃったよ、ハチの奴。
そもそもそんな都合よく混浴なんて……
「……グ!! グギャアアアアアアアアア!!!!!」
な、何だ!? 今の悲鳴は!!
ハチが勢い込んで入っていったその扉の向こうから聞こえてきたみたいだが……
「……!!」
俺は反射的に御薙先生からもらった指輪をはめ、扉の向こうへと走って行った。
374
名前: 第1章「ようやく到着!温泉宿」(1/5) 2006/03/12(日) 16:31:42 ID:OUteywxc0
「……準?」
「あら、雄真じゃない」
そこには、全身にバスタオルを巻いた準が立っていた。
そして、その足元に倒れているのは……
「……ハチ? ハチか!?」
俺が声をかけても、ぴくりとも反応しないハチ。
妙に顔が嬉しそうににやけてるのが、すごく気がかりなのだが。
「くそっ……一体誰がこんなことを……」
と俺は、準の右手に何やら妙なものが握られていることに気づいた。
「……まさか、準?」
「……ゴメンね雄真。さすがにこの先は、ハチには目の毒だしね」
……間違いない。準は右手に持ったそのスタンガンで、ハチを気絶せしめたのだ。
しかし、一体何の目的で……
ん? 目の毒?
目の毒って一体何なんだよ!?
「さ、さっそく行きましょ、雄真♪」
「うわっ、手を引っ張るな準!!」
考える暇もなく準に連れられて、俺は浴場へと入っていった。
381
名前: 第2章「お風呂でバッタリ大騒動」(1/3) 2006/03/12(日) 22:25:21 ID:slqYFoqa0
そこは普通に趣のある岩風呂であった。
俺と準以外、入浴客の姿は見当たらない。
「……ったく、驚かせやがって。別に何てことない普通の温泉じゃねーか」
「……フフフ」
気になると言えば、さっきからこの調子でニヤけまくってる準である。
「何か妙に嬉しそうだな、準」
「だぁってぇ、雄真といっしょにお風呂に入れるんだもん♪」
「……頼むから、春姫たちの前ではその手の発言謹んでくれよ」
「えー、どうしよっかなー?」
この場に春姫たちがいなくて、本当に助かった。
もし春姫たちにこんな状況見られたら、一体どんな噂立てられることか……
「……あれ? 雄真くん?」
そうそう、きっとこんな感じで……
「……って、えぇっ!!??」
突然の出来事に、俺は思わず振り向いていた。
「あ、兄さんだー♪」
「げ。何で雄真がここにいんのよ」
「クス。お待たせしました」
……それはまさにデインジャラスと言わざるを得ない光景だった。
春姫他女子ご一行様が、あられもない姿でこちらを見つめてる図。
「あ……あ……あがが…………」
対する俺は、あまりに突発的な事態に思考がまとまらなくなっている。
「うふふ。そういうことよ、雄真♪」
準のからかうような口調にも、反応する余裕がない。
382
名前: 第2章「お風呂でバッタリ大騒動」(2/3) 2006/03/12(日) 22:26:14 ID:slqYFoqa0
「わが高峰の湯は、古くから男女問わない裸の社交場として、多くの方々を楽しませて参りました」
「男女問わず……ですか?」
「はい。男女問わず……です」
笑顔で具体的な状況説明ありがとうございます、小雪さん。
って、そーじゃなくて!!!
「お、お、お前らは平気なのかよ!! その……俺たちと一緒に風呂入るの!!」
途端にきょとんとした表情になる一行。
「わ、私は……雄真くんとなら……いいよ」
「兄さんといっしょにお風呂に入れるなら、わたし、大歓迎です♪」
「……ま、ハチじゃないだけマシよね」
柊さんだけ妙に言葉にトゲがありませんか?
「そういうことです。皆さん、雄真さんとなら大歓迎ですよ」
「そ、それは光栄なんだけど……」
改めて見ると、皆これがまたとんでもない格好で来ているのだ。
普通女の子がこの手の混浴に入るときは、大体バスタオル等で体をぐるぐる巻きにして、
万全の状態で入ってくるものだろう。
現に今、隣の準がそんな格好でいるし。
しかし、彼女たちは違った。
大きめだが薄めの生地のタオルを、あろうことか巻かずに胸元で端っこを押さえつけ、
かろうじて前面の危険な部位を隠してるに過ぎないのだ。
……つまり、後ろから見れば……丸見え。
383
名前: 第2章「お風呂でバッタリ大騒動」(3/3) 2006/03/12(日) 22:28:51 ID:slqYFoqa0
「この格好に、興味をお持ちですか?」
「ぎくっ!!!」
さすが小雪さん。俺の思っていることをあっさり当ててのける。そこに(ry
「あたしも納得いってないんだけどさ……小雪先輩がこのカッコで入れって言うのよね。
湯船を汚さないための工夫だーとか言って」
……素直に信じちゃうあなたもどうかと思います。柊さん。
「つか……これって……」
普段は目に付かないレベルの細かい体型の差までわかって、ムチャクチャえっちくないですか?
ほら、現に今目の前にいる春姫とか……
「……///」
うわ……タオルじゃ隠しきれない春姫の胸の大きさが際立って……
正直、すごく刺激的だ。
「雄真くん……えっちな目になってるよ」
「うぁ……」
……いかん。我を忘れるところだった。
「くすん……姫ちゃん胸おっきすぎです……ずるすぎます」
「泣かないのよすももちゃん! いい? あれはあたしたち人類の敵よ!!
雄真を色香で惑わす、あたしたちの敵!!!」
「いいんです、柊さん……きっと兄さんは胸の小さなわたしのことなんか」
「だぁぁぁっ!!! お前ら、そこで漫才するなぁぁ!!!」
これから数十分間、この調子でこいつらと関わることになるのだ。
身が持つかな、俺……
387
名前: 第3章「ちょっとえっちな入浴タイム」(1/8) 2006/03/13(月) 11:09:29 ID:OI/v7fyo0
で。
どういう状況ですか? コレは。
「……」
湯船につかる俺の隣には、左手に春姫、右手に準。
そして向かい合ったところには、左からすもも、小雪さん、柊。
この男女6名のそうそうたる面子が、この狭い円形の湯船にところ狭しとつかっているのだ。
……この情景、ハチにでも見られたら殺されるぞ、俺。
「……それにしても」
口を開いたのは柊。
「やっぱその胸は大人気ないわ……そう思わない? みんな」
「お、大人気ない……ってι」
「……春姫が困ってるから、変な言いがかりはやめた方がいいんじゃねーか?」
「よくないわよ!! 大体春姫、何食べたらそんなにおっきくなるのよ!!」
……ダメだ。この状態になったら誰も柊を止めることはできない。
「私は別に、何かこだわって食べたりとかしてないんだけどな……ι」
「んむぅ。春姫はいつもそーやってごまかすんだから。
何か秘密の特訓とかやってるんでしょ? 言いなさいよ、春姫!!!」
「わ、私は別にそんな……」
柊がマジで春姫に詰め寄りだしたところで、小雪さんがすかさずフォローを入れた。
「でも、柊さんも神坂さんに負けず劣らず、いいものをお持ちですよね」
「か、からかわないでくださいよ先輩……春姫のに比べたら、あたしのなんて……」
「いいえ、本当に羨ましいです。柊さんのそのツンと上向きで、きれいなお椀型の胸」
「ちょ、ちょっと先輩!! 雄真もここにいるってのに///」
小雪さんの言葉に、思わず顔を真っ赤にし、両腕で胸を抱え込む柊。
しかし、急に抱え込んでしまったせいで、柊の胸元にくっきりと魅力的な谷間が……
388
名前: 第3章「ちょっとえっちな入浴タイム」(2/8) 2006/03/13(月) 11:10:29 ID:OI/v7fyo0
「あ……///」
その光景に、思わず息を呑む俺。
「ちょっと雄真ぁ……人の胸じろじろ見ないでよ……///」
「いや、その……」
やば。少し見惚れてしまった。
そうだよな……柊だって、自分で言う程胸が小さいわけじゃなくで……
「……コホン!!」
「!!!!」
い、今……背中を何か寒いものが……
「は、ははははは春姫!!?? いや、これはその……」
「じーーーっ……」
うぐ……すっげぇ見つめられてる、俺……
「はは、やだなぁ春姫……俺はいつだって、春姫の胸が一番に決まってるじゃないか」
「私、まだ何も言ってないけど?」
乾いた笑いで場を取り繕う俺を、春姫の言葉が容赦なく突き刺す。
「……ゴメンナサイ、春姫さん。もう二度と他の人に見惚れたりしません」
「フフ。よろしい」
ひたすら平謝りする俺と、それに笑顔で答える春姫。
こういう時、春姫の満面の笑顔がかえってすごく恐ろしい。
「あーはいはい……春姫のその規格外の胸は、そこのスケベのおかげってことね」
「神坂さんにだけ許された、雄真さんの魔法の手……といったところでしょうか」
「……もうそういうことでいいっすよ……」
何やら妙な結論で、この話題はお開きとなってしまった。
389
名前: 第3章「ちょっとえっちな入浴タイム」(3/8) 2006/03/13(月) 11:20:23 ID:OI/v7fyo0
「ところで……このお湯には、肌の美容効果もあるんですよ。
肌のキレイな皆さんのために、誠心誠意ご用意させていただきました」
「ふーん……言われてみれば、心なしか肌がすべすべになったかも」
「皆さんもたっぷりつかって、美肌に磨きをかけてくださいね」
「「はーいっ♪」」
何故お前まで普通に返事してるんだ、準……
「そう言えば……準さんも男の子なのに、とても肌キレイですよね」
「ふふ……ありがと、すももちゃん」
こうやって会話聞いてると、準がマジで女に見えてくるから不思議だ。
「とっても羨ましいです……準さん。
わたし……女の子なのに、肌にはあんまり自信がなくて……」
「あら、そんな事ないわよ、すももちゃん」
「でも、わたし……そんなに胸もありませんし……これじゃ、兄さんに喜んでもらえません」
「……待て、すもも。妹が兄を喜ばさなければならないなんて法は、この国にはないぞ」
大体、妹の胸が大きくて喜ぶ兄なんているのか?
「……すももさん。男の人には胸の大きな人を好むタイプと、
胸の小さな人を好むタイプと、2種類に分かれるそうです」
「……小雪さん。何故それをすももに吹き込むんですかι」
「いいじゃありませんか、たまには」
小雪さん……たまにはって……ι
つか俺的に、もう胸の話題は勘弁なんですけど……
390
名前: 第3章「ちょっとえっちな入浴タイム」(4/8) 2006/03/13(月) 11:21:02 ID:OI/v7fyo0
「……兄さんは、どっちのタイプなんでしょうか……」
すももが不安げな表情で、小雪さんに尋ねる。
「さぁ……こればかりは、雄真さんに直接聞いてみませんと……」
そう言うと、小雪さんは俺に意味ありげな視線を送った。
口元が妙ににやついているのが、すごく気にかかる。
「雄真さんは、どちらのタイプなのでしょうか?」
「え……えええっ!?」
いきなりそんなこと聞かれましても、回答に困りますって!!
「あ、それ興味あるわね! 雄真、どっちなのよ!!」
準のヤツまですごく興味しんしんに尋ねてくるし!!
「兄さん、わたしどんな答えでも受け入れてみせます!!
わたしの目を見てしっかり答えてください!! 兄さん!!!」
「い……いいから詰め寄って来るな!! すもも!!」
「ゆ……雄真くんはさっき言ってくれたよね! 私の胸が、誰より一番好きだって……」
「は、春姫……それは、その……」
「はっきりしてください、兄さん!!」「はっきりして、雄真くん!!」
2人の気迫に押され、思わず沈黙する俺。
「フフフ……若いっていいですね、雄真さん」
「火付け役が何他人事みたいに言ってるんですか!? あーもう、お前ら少し落ち着けって!!!」
それからしばらく、俺は自分の胸の好みについて、さんざん問い詰められることとなったのだった。
うぅ……恨みますよ、小雪さん。
391
名前: 第3章「ちょっとえっちな入浴タイム」(5/8) 2006/03/13(月) 11:22:02 ID:OI/v7fyo0
その後。
「あ、そうだ。姫ちゃん……」
「ん? 何、すももちゃん」
すももがにわかに、春姫に切りだした。
「姫ちゃんと、お話したいことがあるんです……ちょっと、向こうの湯船まで来てもらえますか?」
「向こう……?」
すももの指差した先には、ここよりも更に一回り小さいサイズの湯船があった。
ちょうど、すももと春姫がいっしょにつかってちょうどよいくらいの。
「うん。いいわよ、すももちゃん」
「やったぁ☆ じゃ、先に行って待ってますね」
そう言うと、すももは湯船を上がり、こちらに背を向けた。
すもものまだ発展途上なかわいいお尻が顔をのぞかせる。
「ぬがっ☆」
その光景に、俺は思わず頭がくらくらするような衝撃を受けていた。
すももはそのまま、向こうの湯船へとてとてと走ってゆく。
「「かーわーいーいー☆」」
柊と準が、声をハモらせながら感嘆の声を漏らした。
「やっぱすももちゃんはいつ見てもカワイイわねー……妬けてきちゃうわ、あたし」
「あんなカワイイ妹に慕われちゃって、雄真も罪作りよねー♪」
終始ニヤニヤしながら、俺の方を見つめる2人。
くそ……言わせておけば好き放題言いやがって。
……と、問題はそこではない。
今、すももがこちらにお尻を向けたように、春姫も……
「……///」
きっと春姫も、同じ事を考えていたのだろう。
戸惑いながら、俺の顔と向こうにいるすももの姿と、かわりばんこに眺める春姫。
392
名前: 第3章「ちょっとえっちな入浴タイム」(6/8) 2006/03/13(月) 11:25:22 ID:OI/v7fyo0
「……行って来いよ、春姫」
俺は小さく、春姫の後押しをしてやった。
春姫はしばらくこちらを困ったような表情で見つめていたが、
やがて意を決したかのように立ち上がった。
「……じゃ、行ってくるね。雄真くん」
そう言い残し、こちらに背を向け、湯船を立ち去る春姫。
……
お、おしりだ。
俺もいつも拝ませてもらってる、春姫の丸くてつやつやなお尻。
それが、あろうことか……みんなの目の前にあられもなく晒されてしまっている……
「…………」
俺は口をぱくぱくさせながら、その情景をただ見守るしかなかった。
後に残されたのは、気まずい沈黙。
「……やっぱ違うわ……」
先に沈黙を破ったのは、準の方だった。
「あの肌のハリといい、曲線のなめらかさといい……
やっぱ、ホンモノの女の子にはかなわないわねー……」
「てゆーか、あれはもはや詐欺よ!!
天は二物を与えずって、あれは絶対に嘘だわ!! 信じられない!!!」
準の横で何やらマジギレしている柊。
……確かに、春姫の体はすごく魅力的だ。
もう随分長いこと春姫と付き合ってる俺ですら、思わず惹きつけられたくらいだから。
だが、それだけに……こいつらにだけは見られたくなかった……!!
393
名前: 第3章「ちょっとえっちな入浴タイム」(7/8) 2006/03/13(月) 11:26:20 ID:OI/v7fyo0
「それにしても、アレを毎晩拝んでるなんて、雄真も結構ススんでるのねー♪」
「本当に羨ましいわ……あたしも一晩代わりたいくらい」
好機が訪れたとばかりに、俺のことをはやしたてる2人。
「からかうんじゃねぇ!!! それに毎晩は言い過ぎだ!! せいぜい1週間に1度」
「あーら聞きました奥さん? 小日向さんちは今でも週に1度はいたしてるんですってー♪」
「本当にお盛んよねー♪ もう付き合って半年は経つというのに」
「お前ら……言わせておけば……」
だからこいつらには、見られたくなかったんだよ!!
絶対こうやってからかわれるの目に見えてるんだから!!
「フフフ……」
柊と準が目配せしながら、妙な笑みを交わしている。
「な、何だよお前ら……気持ち悪いぞ」
その声を合図に、柊がいきなりこちらに背を向け、準と寸劇を始めた。
「『春姫……ここじゃ少し騒がしいだろ? 俺と2人で、どこか静かな所に行かないかい?』」
「『うん、雄真くん……ここじゃいろいろと不便だから……ね』(チラッ)」
「ごふっ!!!!」
じゅ……準のヤツ、何つーもん見せつけやがんだ!!!!
「以上、春姫ちゃんと雄真の日常生活」
「……本気でぶん殴るぞお前ら」
「あははー☆ 雄真が図星指されてテレてるー♪」
394
名前: 第3章「ちょっとえっちな入浴タイム」(8/8) 2006/03/13(月) 11:34:09 ID:OI/v7fyo0
マジでお前らに殺意沸いたんだが、俺……。
つか、今バッチリ見えちまったぞ……
柊の……控えめだが形のいい……お尻が……
(って、何考えてんだ俺は!!!!)
「……ちらっ」
「あぁっ、小雪さんまでぇ!!!!」
小雪さんまで今し方2人がしてみせたようにこちらにお尻を見せてのけるし!!!
「あははっ、小雪先輩何ソレー!!」
「雄真さんを、喜ばせてみるテスト」
何ですかそのテストってのは……ι
「わーい、先輩もっとやれー!!」
「お前もはやしたてるなっつの!!」
「でも雄真さんは、神坂さんのでないと、なかなか喜んではくれないのです……
悲しいです……寂しいです……心が張り裂けそうです……」
いやに恨みがましそうな目で、こちらに訴えかける小雪さん。
うぅ……絶対からかわれてる、俺。
「うわ、雄真が小雪先輩泣かしてる!!」
「よっ! 雄真! この女泣かせっ!!」
「お前らいい加減にしろーーーーーー!!!!」
この調子で俺は、残された3人に散々おもちゃにされる羽目にあったのだった。
うぅ……恨むぞ、妹よ。
399
名前: 第4章「恋人として、妹として」(1/7) 2006/03/13(月) 20:33:00 ID:OI/v7fyo0
「何だか向こう、ちょっと騒がしくなっちゃいましたね」
「うん……そうだねι」
さっきより随分活気づいてしまった、向こうの湯船。
きっと私とのことで、みんなが雄真くんのことをからかってるんだろう。
「……ごめんなさい。きっと……わたしのせいですよね」
「うぅん、気にしないで。私も、すももちゃんとお話したかったから」
普通科と校舎が離れ離れになってから、なかなかすももちゃんと
お話する機会って得られなかったからね。
「それで……お話って何? すももちゃん」
「えっと……ですね……」
少し気恥ずかしそうに、言葉を紡ぎだすすももちゃん。
「兄さん……魔法科で……元気にしてますか……?」
「……うん。元気にしてるよ。時々あまりのレポートの多さに、
普通科に戻してくれーって愚痴こぼしたりしちゃってるけど」
「そうですか……少し安心しました」
ほっとしたように、笑顔をほころばせるすももちゃん。
しかしその笑顔も、束の間に消えてしまう。
「でも兄さん……少し心配です。最近も毎日帰りが遅いようでしたし」
「……まぁ、最近は検定とかいろいろ忙しかったから。
それももう終わったから、しばらくはそこそこ早く帰れるんじゃないかな」
「だったら……いいんですけど……」
すももちゃんが物憂げな表情で私を見つめる。
400
名前: 第4章「恋人として、妹として」(2/7) 2006/03/13(月) 20:33:54 ID:OI/v7fyo0
「……姫ちゃん……わたし……すごく怖いんです」
やがてすももちゃんは、自分の中にずっと秘めていた想いを、訥々と私に語り始めた。
「一度は魔法を諦めた兄さんが、もう一度魔法を目指すと聞いたとき……
わたしは何だか、ひどく嫌な気持ちになったんです。
兄さんの新しい門出を、わたしは妹として、歓迎してあげなきゃいけない……
そう、頭ではわかってるはずなのに……」
「すももちゃん……」
「そして……兄さんの魔法科編入が決まったとき……
わたしは初めて、その想いの正体に気づいたんです」
ひとつひとつ、噛みしめるように言葉をつなげるすももちゃん。
その姿に、私も少し、胸がしめつけられるような想いを感じる。
「わたし……怖かったんです。魔法を知った兄さんが、
いつかわたしの手の届かないところへ行ってしまうような気がして……」
ここまで語った後、すももちゃんは込み上げる想いにひとしきり身を震わせた。
「そして……もし兄さんが選んだのが、姫ちゃんじゃなかったら……
きっとわたしは、兄さんの夢を壊してでも、
わたしのもとに、兄さんを縛りつけていたかも知れない……!!
そう思うと、自分で自分が、何よりも一番……怖くて、仕方がないんです……」
雄真くんの夢を捨てさせてでも、雄真くんに自分のもとにいてほしい……
そう願うすももちゃんの気持ちは、私にも痛いほど理解できた。
だってもし、私がすももちゃんの立場だったら……
私もきっと、同じ事を願ったに違いないから。
401
名前: 第4章「恋人として、妹として」(3/7) 2006/03/13(月) 20:38:53 ID:OI/v7fyo0
「……お願いします、姫ちゃん」
「……」
「兄さんのこと、ずっと……支えていてあげてください」
「……」
「姫ちゃんじゃなきゃ、ダメなんです……
兄さんの夢を、誰よりも理解してあげられる……姫ちゃんじゃなきゃ……」
「……すももちゃん……」
私にしがみつくすももちゃんの想いが、すごく伝わってきて……
あぁ、雄真くんはこんなにも大きな想いを、その身に背負っているんだな……
そう思うと、私は少しだけ誇らしさを感じた。
小日向雄真というひとりの人間と、人生を共に歩んで行けることに。
「……何だか、すももちゃんに、私の言いたいこと全部言われちゃったな」
「……姫ちゃん?」
笑顔で、私はすももちゃんに語りかける。
「私も……同じなんだ。すももちゃん」
「同じ……なんですか?」
「うん。おんなじ」
きょとんとした表情で、私の顔を見つめるすももちゃん。
「確かに私は、魔法というひとつの道を、雄真くんといっしょに歩んでゆける。
雄真くんの夢を、いっしょに追いかけてゆくことができる。
だけどすももちゃんは、雄真くんのたったひとりの妹として、
私よりも遥かに長い時間を、雄真くんと共に過ごしてきた……
それが……すごく、羨ましいんだ」
「……」
すももちゃんは少し顔を赤らめ、水面に視線を落とす。
「私は……魔法という接点を使わなければ、こうして雄真くんとはいっしょにいられないから……」
402
名前: 第4章「恋人として、妹として」(4/7) 2006/03/13(月) 20:39:40 ID:OI/v7fyo0
私はふと、すももちゃんの小さな手を取っていた。
その手を自らの掌と共に、月明かりに透かしてみる。
「支える手が、何本あったって、いいじゃない」
「姫ちゃん……」
「雄真くんの夢を、いっしょに追いかけていたい。
そう願う気持ちは、きっと、同じだから……」
「……」
とても眩しそうに、その手を見つめるすももちゃん。
その顔に、本当の意味での笑顔が戻ってくるのがわかった。
「ふふ……わたし、姫ちゃんとお友達で、本当によかったです」
「私もだよ……すももちゃん」
向かい合い、互いに微笑みを交わす私たち。
「兄さんのこと、いっしょに応援しましょうね。姫ちゃん」
「うん。私も……すももちゃんといっしょなら、すごく心強いな」
「うふふ……何たって、たったひとりの妹ですからね」
支えあう気持ちは、きっとひとつだから。
その想いを確かめ合うように、私たちはその手を堅く握りしめあっていた。
403
名前: 第4章「恋人として、妹として」(5/7) 2006/03/13(月) 20:40:38 ID:OI/v7fyo0
……よろっ……
ふらつく足に鞭打って、気絶から立ち直ったハチが立ち上がっていた。
「……くそぉ……まだ体がシビれてやがる……
だが!! この俺の情熱は、これしきのことで消し去れはしない!!!」
起き上がったばかりというのに、妙に元気なハチ。
「ひーめちゃーん、すももちゃーん!! 今行きまーーす!!!」
勢い込んで、浴場へと飛び込んだはいいが。
がらーん……
「……あれ?」
「……みんななら、もうとっくに上がっちゃったわよ」
「がーーーーん!!!!」
準の非情な一言に、一気にうなだれるハチ。
……何だか、少し気の毒な気もしないでもないな。
「そんな……俺と姫ちゃんとのラブロマンスが……うぅ……」
……前言撤回。一生のたうち回ってろ、こいつは。
ハチはそのまま、力のない足取りで脱衣場へと戻ってゆく。
「……あらぁ、どこへ行くの? ハチ」
「ほっといてくれ……夢破れた俺には、もはや行く道など」
「あらぁ、そんなこと言っていいのかな? お楽しみは、まだまだこれからじゃない」
「……ぁ?」
準の声に、ふらっと顔を向けるハチ。
404
名前: 第4章「恋人として、妹として」(6/7) 2006/03/13(月) 20:45:16 ID:OI/v7fyo0
「春姫ちゃんが、たった今までそのしなやかな肢体をあずけていた、
入りたてホヤホヤの、お・ゆ♪」
「入ります!!!!」
先ほどの覇気のなさはどこへやら、目をらんらんに輝かせて湯船にダイビングをかますハチ。
この立ち直りの早さこそ、ハチのハチたる所以だ。
「他にも、杏璃ちゃんにすももちゃん、小雪さんにあ・た・し。
まさにもう、よりどりみどりじゃない♪」
約1名ほど、余計なものが混じっていた気がしたが、ツッコんだら負けだ。
つか、ハチの奴もう聞いちゃいないし。
「姫ちゃんのエキスがしみ込んだこのお湯……この高溝八輔、
ハラがちぎれるまで飲み尽くす所存!!!!」
さっそくおいしそうに、そのお湯を吸い込みだすハチ。
「……一応そこ、俺も入っていたんだが……」
「まぁいいじゃないの。ハチが幸せそうなら」
「……まぁ、それもそっか」
405
名前: 第4章「恋人として、妹として」(7/7) 2006/03/13(月) 20:46:00 ID:OI/v7fyo0
……ん? ハチが幸せなら……?
俺は胸に言い知れぬ違和感を抱き、思わずハチの姿を見やった。
「んぐっ、んぐっ、んぐ……」
実においしそうに、春姫の入った浴槽の湯を飲み尽くすハチ。
春姫の。お湯を。おいしそうに。
…………
「エル・アムダルト・リ・エルス・ディ・ルテ……」
「浴槽壊さない程度にねー♪」
俺が怒りの呪文詠唱に入るのを、準は実に愉快そうに笑い、そのまま脱衣場へと引っ込んで行った。
「エル……アダファルス!!!!」
ドォォォォォォン!!!!
「ぐぎゃああああああああ!!!!」
俺の魔法が、ハチに華麗にヒットした。
一応フィールドは展開しておいたから、浴槽が壊れる心配はないはずだ。
バタッ……
「くっ……さすが姫ちゃん……効き目も刺激的だぜ……ぐふっ」
「お前はもう二度と目を覚ますな」
無様な姿でぶっ倒れるハチを無視し、俺も浴場を引き上げた。
410
名前: 第5章「伊吹、温泉でのひととき」(1/5) 2006/03/14(火) 09:21:44 ID:c/0PvjNZ0
「……ようやく到着か……信哉よ……」
私たちが宿に到着したのは、あれから2時間近く経った後であった。
「全く……もっと早くあの方法に気づいておれば、もう少し早く着けたのではないのか?」
「むむ。かたじけない……伊吹様」
「地元の警察の方に、詳しい道をうかがってから、約10分。
兄様と彷徨われた時間の、約10分の1でしたね」
「ぐっ……」
沙耶に鋭い指摘を受け、沈黙する信哉。
まったく……沈黙したいのはこちらであると言うに。
「それよりも、そなたのせいですっかり体が冷え切ってしまった。
早く暖かな湯船に身をあずけたいものだが……」
「では、僭越ながらこの私が……」
「兄様はもう下がっていてくださいι」
信哉に任せておっては、風呂に辿りつく前に夜が明けてしまうわι
そこへ。
「……あれ? 伊吹か?」
「……雄真? 小日向雄真か!」
浴衣姿でこちらへ向かってくる小日向雄真と目が合った。
体から立ちのぼる湯気から、入浴直後であることが見てとれる。
「信哉に……沙耶まで! お前らも小雪さんの誘いか?」
「あぁ……奇遇であるな、小日向雄真よ」
「そっか……今日は随分にぎやかな夜になりそうだな」
「……///」
小日向の笑顔に、自分の顔が赤らんでゆくのがわかる。
うぅ……どうしたというのだ私。
小日向ごときに情を乱されるなど、私の本意ではなかろうに……
411
名前: 第5章「伊吹、温泉でのひととき」(2/5) 2006/03/14(火) 09:22:56 ID:c/0PvjNZ0
「……伊吹様」
「あひっ!!!」
沙耶の急な一言に、私は思わず奇声を発してしまった。
「さ……沙耶よ!! 後ろから急に声をかけるでない!!」
「いえ……ちょうどよい機会です。
小日向さん、浴場へはどちらへ向かえばよろしいのですか?」
「あ……」
そうだ。考えてみればよい機会ではないか。
ここで小日向に風呂場の位置を聞いておれば、探す手間が省ける。
「あぁ、風呂場なら、この廊下をまっすぐ行った突き当たりだな。
大きな暖簾がかかってるから、すぐ分かると思うぞ」
「廊下の突き当たりですね……ありがとうございます、小日向さん」
「今ちょうどみんな上がったところだから、お前らもゆっくりしていけよ」
「はい……では、失礼致します」
「……ふん」
とりあえず、沙耶のおかげで、風呂場の位置は把握できた。
しかし、いまいち釈然とせぬ……
本来なら、小日向に道を尋ねるのは、この私の役目であったろうに……
「伊吹様?」
「あふぅ!!!」
うぐっ、1度ならず2度までも……///
「わ、私は……そなたが小日向雄真と特別親しいからと言うて、別に咎めるつもりなど」
「いえ……浴場へと参りませんか、伊吹様」
「……そ、そうであったな」
その言葉を機に、私たちは風呂場へと向かうこととなった。
しかし、何だか……小日向と沙耶に見事に調子を崩されておるようで、どうにも気分が悪い。
どうしたというのだ、私は……
412
名前: 第5章「伊吹、温泉でのひととき」(3/5) 2006/03/14(火) 09:30:28 ID:c/0PvjNZ0
「おおっ、これは……!」
「これはまた、非常に美しい岩風呂ですね」
沙耶と共に、感嘆の言葉を漏らす私。
「……小雪の奴も、たまにはよきはからいをしてくれるものだな」
「そうですね。ふふ」
これほどの美しい湯船ならば、日頃の疲れも十分癒せるというものだ。
小雪には、後で礼を言っておかねばならんな……
チャプ……
さっそく、湯船へと身を沈める私と沙耶。
「ふぅ……体が芯からあったまるようだ」
先ほどまであんまり長いこと雪道の中におったものだから、この湯の温かさが余計に身にしみる。
「……」
しかし……唯一気になるとすれば……
あちらの湯船につかっている、あの黒髪の青年……
ん? 青年!?
なぜ青年が、こちらの湯につかっておるのだ!!?
「……兄様!?」
その姿に、沙耶も気づいたらしい。
思わず発せられた言葉に、何故か先に入っていた信哉がこちらを振り向く。
「……沙耶? そして、伊吹様も!?」
向き合ったまま、硬直する私たち。
「どういうことだ? 俺は確かに、男風呂に入ったはずであるが……」
「それはこちらの台詞だ!! そなたこそ、何故女風呂であるはずのここに」
「……伊吹様。大体、見当はつきました」
頭をかかえるように、沙耶がつぶやく。
413
名前: 第5章「伊吹、温泉でのひととき」(4/5) 2006/03/14(火) 09:31:58 ID:c/0PvjNZ0
「おそらくこれは、小雪様のはからいのひとつではないかと……」
「はからい? 男と女が風呂を共にするのが、はからいと申すのか!?」
「小雪様なら、それくらい考えられてもおかしくはありません……」
……まいった。してやられたようだ。
第一あの小雪が誘った湯だ。何も起こらないはずがないのは、重々承知の上ではなかったか。
「伊吹様……それより……」
まだも話しづらそうに、私に声をかける信哉。
「ま……まだ何かあるのか! 信哉よ!!」
「いえ……淑女たるもの、みだりに人の前で体を晒すのは……」
「!!!!」
がばっ!!!!
私は反射的に、体を抱え込んでいた。
み……見られたぞ……
信哉の奴に……全て……
小日向の奴にも……見せたことは……ないと言うに……
「……えぇい信哉よ!!! そなたは私の半径五尺以内に近寄るでない!! わかったか!!」
「……承知致しました、伊吹様」
そのまますごすごと、退散してゆく信哉。
まったく……小雪のはからいとやらで、もう散々だ……
「……///」
ふと気づくと、沙耶が何やら顔を赤くしてうつむいている。
「どうしたのだ、沙耶よ……」
「いえ……」
少しだけ顔を上げ、沙耶が気恥ずかしそうに答える。
「小日向さんも……この湯を、お使いになられたということで……そう考えると、つい……」
「……!!」
ふ、不覚であった……
私は今し方、小日向の使ったばかりの湯を、こうして使っておるわけで……
私はふと、自らのつかっている湯に目を落とす。
……
414
名前: 第5章「伊吹、温泉でのひととき」(5/5) 2006/03/14(火) 09:33:14 ID:c/0PvjNZ0
(小日向のあの体が……この湯の中に……)
って、何を破廉恥なことを考えておるのだ、私は!!!
「お湯加減はいかがですか? 伊吹さん」
「ぬあっ!!!!」
背後から唐突に声をかけられ、私は本日3度目ともなる悲鳴を上げてしまった。
「こここここここ小雪!!! そなた、いつからそこにおった!!!」
「ついさっきから、です」
「つ、ついさっきと……」
その割に、全く気配を感じなかったのだが……
「……それよりもそなた!!! 今し方、小日向と共に上がったのではなかったのか!?」
「えぇ……ですが、またここの湯が恋しくなってきまして……
たった今、戻ってきてしまいました」
「そ、そうであったか……」
確かにここの湯は、とても居心地がよい。
小雪の奴が、またここの湯を恋しく思ったのも、無理からぬ話であろう。
「ですから伊吹さんも、ゆっくり楽しんでいってくださいね。
雄真さんも、ここの湯にそれは満足しておいででしたよ」
「そ……そうか……小日向の奴が……///」
うぐ……これだから小雪の奴は苦手だ。
こちらの心中を、手当たり次第まさぐられておるような気がして……
「それよりも……伊吹さんも、一杯いかがですか?」
小雪はそう言うと、何やら白く濁った湯が入った湯飲みを私に差し出した。
「? 何だ、この面妖な湯は」
「ここの温泉の源泉です。体内浄化作用があって、体も芯からあったまりますよ」
「……そうか……かたじけないな、小雪よ」
私はゆっくりと、その源泉に口をつける。
「……何やら妙な味がするな……血の味に近いと言うか……」
「ふふ。おかわりはいっぱいありますからね」
小雪のすすめで、私はしばし体の内外からその温泉を味わうこととなった。
427
名前: 第6章「湯船で触れ合うふたりの気持ち」(1/13) 2006/03/15(水) 15:26:22 ID:j6BYQr3Q0
「……もう終わったか? 春姫」
「うん……あともうちょっとだけ待ってね」
扉の前で、対侵入者用のトラップ魔法を詠唱する春姫。
「……くれぐれも、電気ショックとかはナシで頼むぞ」
「ふふ、わかってるって」
湯船から念を押す俺に、春姫が笑顔で答える。
……本当にわかってるのか? 春姫……
「しかし、まさかこんな便利なお風呂があったとはな……」
俺たちは今、大浴場とは別に用意された小さな家族湯に、2人で入っている。
風呂場の中にいるのは、俺と春姫の2人だけ。
それ以外に、俺たちを邪魔するものは、何もない。
「どうせなら、始めっから2人でこっちに入ればよかったかな? なんて」
「ふふ。そうしたら、またみんなにからかわれちゃうね」
「ははは……そうだなι」
大浴場でのドタバタコントを思い出し、苦笑する俺。
やがて、トラップを仕掛け終えた春姫が、俺の隣へゆっくりと入ってきた。
湯船の中で密着する、俺と春姫。
「あったかいね……雄真くん」
「あぁ……何だか、やっとまともに温泉につかれたような気がするよ」
「そうだね……もう、みんなよってたかって、雄真くんのこといじめるんだもん」
「あはは……ι 聞こえてたんだ、アレ」
あの会話を春姫に聞かれるのは、さすがにちょっと恥ずかしいぞ。
428
名前: 第6章「湯船で触れ合うふたりの気持ち」(2/13) 2006/03/15(水) 15:27:25 ID:j6BYQr3Q0
「……そう言えば」
「ん? 何?」
「あの時、お前……すももと2人で、一体何を話してたんだ?」
大浴場のすみでこっそり行われた、女同士の秘密の会話。
やっぱり男としては、気にならないと言えば嘘になるわけで……
「ふふ……知りたい? 雄真くん」
「そりゃあ、まぁ……一応、恋人だからな」
「ダーメ。これは私とすももちゃんだけの秘密」
春姫は人差し指を口元に当て、いたずらっぽく微笑んでみせた。
「えー? いいじゃんかよ、俺と春姫の仲じゃねーか」
「いくら雄真くんでも、こればっかりは言えないよ。
もしムリヤリ詮索したら、馬に蹴られちゃうんだから」
「はは……それは是非とも勘弁願いたいとこだな」
「ふふ。何たってすももちゃんと私は、切っても切れない赤い糸で結ばれてるからね」
「それはさすがに、男の俺が無断で割り込んじゃいけないってことか?」
「ふふ。そういうコト」
すももと春姫の会話……気になるけど、今度ばかりは我慢するか。
429
名前: 第6章「湯船で触れ合うふたりの気持ち」(3/13) 2006/03/15(水) 15:39:50 ID:j6BYQr3Q0
「空が、とってもキレイだね……」
「あぁ、そうだな……」
眼前に広がる、無限の星空。
俺たちの言葉以外、全ての音を飲み込んでいってしまうような、そんな幻想的な空間。
「何だか……私たちだけ、この世界から切り離されたみたい……」
「そうだな……春姫」
広い世界に、取り残されたのは俺たちだけ……
何だかとても、ロマンチックな雰囲気だ。
「……」
俺はふと、春姫の体を見つめた。
春姫の肌が温められて、ほんのりバラ色に色づいている。
その吸い込まれそうな滑らかな肌に、俺はふつふつと抑えきれぬ想いを抱いていた。
「……あのさ、春姫……」
「……何? 雄真くん」
「……そんなキレイな春姫を見つめてたら……その……
俺……我慢できなくなってきたって言うか……」
「あ……///」
俺の言葉に、春姫が顔を赤らめさせる。
「雄真くん……///」
「あ……ゴメンな春姫!! せっかくいい感じでロマンチック入ってたのに」
「うぅん。気にしないで、雄真くん」
あわてて春姫が、俺に笑顔を作ってみせる。
「それに……私も、その……少し、期待してたから……」
「……そっか」
湯船の中で触れ合う、俺と春姫。
そのゆったりとしたお湯が、俺と春姫との距離をも近づけてくれるような気がして……
俺はそっと、春姫を抱き寄せていた。
「春姫……」
「雄真くん……」
月明かりの照らし出す浴槽で、俺は春姫と静かに口づけを交わしていた。
430
名前: 第6章「湯船で触れ合うふたりの気持ち」(4/13) 2006/03/15(水) 15:41:02 ID:j6BYQr3Q0
「……ぇろ……ん……」
春姫と口づけしながら、ゆっくりとその舌を春姫の口内に侵入させる俺。
彼女の唇、歯列、そして舌の両面……
それら全てを味わってみたくて、夢中で舌を動かす。
「……ぁは……あ……雄真……くん……」
春姫もまた、俺の舌の動きに同調して、懸命に舌を絡ませてくる。
徐々に春姫の目が、とろんと潤んでくるのがわかった。
お口いっぱいに広がる、春姫の甘ずっぱい匂い……そして、春姫の恍惚とした表情……
それらが今後の期待感を増長させる。
「春姫……もしかして、感じて……くれてる……?」
少し口を離し、春姫の反応をうかがってみる俺。
「……うん……雄真くんのキス……とても優しくて……痺れちゃいそう……」
「春姫……」
俺に優しく微笑みかける春姫の表情が、とてもいとおしくて……
俺はもう一度春姫と、熱くて甘いキスを交わした。
「……久しぶりだから、かな……? 私……雄真くんに……いっぱい甘えたい気分……」
「久しぶりったって……まだあれから1ヶ月も経ってないぞ?」
「それでも……いいでしょ? 私、検定の間ずっと我慢してたんだから……」
からかい混じりの俺の言葉に、春姫がかわいらしく拗ねてみせる。
正直、我慢できないのは俺も同じだった。
……きっと、温泉というこの場の魔力のせいだ。
いつもの春姫が、今日はことさら綺麗に見えて仕方がない。
「……春姫……」
「あ……」
俺は春姫を抱き寄せたまま、俺と春姫との間を隔ててる邪魔なタオルをそっと取り外した。
春姫の豊かな乳房が、ふるっと揺れて湯船に浮かぶ。
431
名前: 第6章「湯船で触れ合うふたりの気持ち」(5/13) 2006/03/15(水) 15:42:22 ID:j6BYQr3Q0
「……うゎ……」
大きな胸って、本当に湯船に浮かぶんだな……
春姫の胸なんていつも見慣れてるはずなのに、それでもまだ新しい感動があるなんて。
「触るよ? 春姫……」
「うん……」
春姫が照れ臭そうに頷くのを合図に、俺は春姫の乳房にそっと手をかけた。
「あ……」
胸に伝わる感触に、思わず甘い声を出す春姫。
温泉の湯でじっとり湿った春姫の胸は、驚くほど吸いつきがよく、そして柔らかい。
何より温泉の浮力のおかげで、片手でもいとも簡単に持ち上げることができる。
(以前に比べても……何だか、すごく揉み心地がよくなってきたような……)
何度も俺としてきたせいで、春姫の乳房も俺好みに開発されてきたってことなのか?
そんなことが実際にあるのかどうか、俺にはよくわかんないけど……
この感触のいい胸を、俺の好き放題こね回してもいいんだって思うと、すごく嬉しくなる。
俺は夢中になって、両手で春姫の胸をこね始めた。
「あはっ……ぁん……はぁ……あぁ……」
乳房がぐいっと持ち上げられるたび、春姫がかすかに声を上げる。
「やぁ……ぁっ、はぁっ……あっ、ぁは……っ」
次第に春姫の表情が、ぽわーっとくだけてくるのがわかった。
気持ちいいけど、あとひとつで昇りつめられないでいる、もどかしげな表情。
その顔に、俺はどうしようもない欲情を感じる。
俺は自分の手の中で踊っている春姫の乳首を、そっと口に含んだ。
「あ……やだ、雄真くん……」
唇がそこに触れた瞬間、春姫が全身をぴくりと震わせる。
俺は口内で春姫の乳首をいじめながら、同時に空いた右の手で、春姫の秘裂にそっと触れた。
432
名前: 第6章「湯船で触れ合うふたりの気持ち」(6/13) 2006/03/15(水) 15:45:37 ID:j6BYQr3Q0
「やっ……だめ、そこは……」
温かな湯に覆われた春姫のそこは、既にじっとりと蜜が溢れ出していた。
さらっとした湯の感触とは明らかに違う、春姫の粘液の感触。
それらのおかげで、俺の指はいとも簡単に内部へと飲み込まれていく。
「ひゃ……ぁん、はぁん、あん……あぁっ、はぁ……っ」
膣口からクリトリスまで、割れ目に沿って指をスライドさせる俺。
同時に口の中で、春姫の乳首を愛撫するのも忘れない。
「はぁ……ぁ……あん、あ、あぁっ……」
乳首と秘裂……2つの地点の相乗効果で、春姫の感度も徐々に上がってきてるのだろう。
口内で暴れる春姫のそこは、既にはち切れんばかりに膨張してた。
「ん……あ……春姫……」
春姫が俺の愛撫で、すごく気持ちよさそうにしてくれている……
それがすごく嬉しくて、俺はより強く春姫の乳首にむしゃぶりついた。
「ひゃあああ……っ、ぁあっ……あぁ……だめ……雄真くん……」
春姫が俺の頭上で、声にならない声を上げている。
「はぁんっ、あっ、あぁ……気持ちいいの……雄真くん……」
迫り来る快楽に、呼吸を忘れひたすら喘ぐ春姫。
とても甘くて官能的な、春姫の喘ぎ声。
その声を聞くだけで、俺のあそこは抑えきれないくらいびんびんに反応していた。
「……!?」
ふと俺は、その下半身に違和感を感じた。
温泉の湯が意志を持った粘液と化して、俺の肉棒に絡みついてくる感覚。
……言うまでもなく、春姫が俺のものを握りしめているのだ。
「は……春姫……?」
「いつも……されっ放しじゃ……悔しいから……ね? いいでしょ?」
そう言うと、春姫は握りしめたその手をこしゅこしゅと上下させ始めた。
433
名前: 第6章「湯船で触れ合うふたりの気持ち」(7/13) 2006/03/15(水) 15:48:22 ID:j6BYQr3Q0
「っく……は……春姫……」
いつも自分でするのとは全然違う、春姫の滑らかな手の感触。
お湯の潤滑も手伝って、どうしようもない快楽が下半身に伝わってくるのがわかる。
「あふ……雄真くんの、もう、こんなになってる……凄いね……」
「ぅぁ……っ……はる……ひ……っ」
顔を上気させながら、必死に俺のそこをいじめぬく春姫。
その口から、次第に喘ぎ声にもよく似た吐息が発せられるのがわかった。
見ると春姫は、空いた方の手で、しきりに自分の乳房をいじっている。
(……まさか……)
俺のをしながら、春姫が……感じている……?
あの春姫に……まさか、こんなにえっちな一面があったなんて……
いつもの彼女からは到底想像もつかないその状況に、
俺は夢とも現(うつつ)とも知れぬ曖昧な感覚を抱いていた。
「んく……ん、ねぇ、雄真くん……」
「? 何だ……春姫……」
「……舐めてもいいかな? 雄真くんの、これ……」
「……あぁ……」
春姫が、自分からフェラチオを求めてきている……
俺の方に、そのありがたい申し出を断る理由などない。
俺が頷くと、春姫は俺の両足を肩にかけ、俺の腰を水面まで持ち上げた。
「……重くないか? 春姫……」
「うぅん、全然。お湯のおかげで、ずいぶん楽……」
「春姫……」
春姫はうつむくと、水面にぽっかり顔を出した俺のものに顔を近づけた。
434
名前: 第6章「湯船で触れ合うふたりの気持ち」(8/13) 2006/03/15(水) 15:49:27 ID:j6BYQr3Q0
「雄真くん……私が……いっぱいしてあげる……」
そう言うと、春姫はおずおずと俺のものを口に含んだ。
ふわっと、亀頭の先が温かな感触に包まれる。
「ぅあ……」
まるでこの世の極楽とも見紛うような、強い快楽。
春姫にしてもらうのは別に初めてでもないのに、
何故だか初めてしてもらった時のような新鮮な感動がある。
春姫はくわえこんだその口を、唾液といっしょに上下運動させ始めた。
じゅぼじゅぼと、淫靡な響きが浴場中に響き渡る。
「うぁ……っ……ぁ、っく……っ」
あんまり久しぶりだったせいで、感度がいつもの数割増くらいになっているようだ。
俺の下半身はおろか、脳内までとろけていってしまいそうな感覚に、俺はしきりに喘いだ。
「ああっ……ダメだ、春姫……もう……」
腰を浮かせ、限界が近いことを知らせる俺。
「ゆうま……くん……」
春姫は頷くと、さらに激しいストロークを俺のあそこに加えた。
俺の精液はおろか、ペニスごと持っていかれそうな感覚。
俺は春姫の頭を、がしっと押さえつけ……
435
名前: 第6章「湯船で触れ合うふたりの気持ち」(9/13) 2006/03/15(水) 15:55:22 ID:j6BYQr3Q0
びくん!!びくんっ!!!
俺は春姫の喉元目がけて、一気に精を放っていた。
「っ……ぁ……ゆぅま……くん……っ」
あまりに多くの量がほとばしったのだろう。
ひとしきり出した後、春姫は思わず咳き込み、手の中に俺の精液を吐き出していた。
「んもぉ……雄真くん……出しすぎ……」
苦笑しながらも、春姫の方に別段嫌悪感を抱く様子はない。
「……悪い……こっちも……久しぶりだったから……それに……」
「雄真くん……?」
一度出したばかりだというのに、未だ激しく自己主張している俺の息子。
これはもう、春姫の中で果てないと収まりがつきそうになかった。
「……なぁ……春姫……いいかな……? そろそろ……」
俺の問いかけに、春姫がこくっと頷く。
「うん……来て……雄真くん……」
俺は春姫を抱き起こし、湯船のへりにその体を横たわらせた。
月明かりに照らされた、春姫のよく濡れた肢体。
見てるだけで思わず射精してしまいそうなその情欲に耐え、
俺はゆっくりと春姫の足を開いていった。
436
名前: 第6章「湯船で触れ合うふたりの気持ち」(10/13) 2006/03/15(水) 15:56:37 ID:j6BYQr3Q0
「……優しくしてね、雄真くん……」
春姫がかすかに笑顔を浮かべ、俺に懇願した。
ここで期待に答えずして、男を名乗る資格なし!
激しく膨張する己が肉棒に手を添え、俺はその先端を春姫の秘裂にあてがった。
じわりじわりと、亀頭の先が粘液の泉に飲み込まれてゆく感覚。
そして、俺は一気に腰を前にスライドさせ……
「!!! ひゃ、ああっ!!!!」
俺のペニスは、一気に春姫の奥底まで貫いていた。
一気に膣底を攻められる感覚に、思わず全身をピクリと震わせる春姫。
「ぁっ……もぉ……慌てすぎだよ、雄真くん……」
「ご、ゴメン……春姫」
思わず苦笑いする春姫に、情けなく平謝りする俺。
久しぶりで興奮してたのは、どうやら俺の方だったようだ。
「約束だよ、雄真くん……今度はちゃんと、優しくして……」
「あぁ……わかったよ、春姫」
春姫の言葉に従い、俺はゆっくりとピストンを開始した。
亀頭の先をじらすように、春姫の膣壁にこすりつける俺。
「ん……ぁっ……はぁ……っ」
春姫の膣内は、相変わらずとてもきつく、それでいてとても滑りがよい。
何よりペニスに絡みつく襞(ひだ)の感触が、何とも言えぬ快感を俺に与えてくれる。
(きっとこれが、名器ってやつなんだろうな……)
春姫以外の女の人の感触を、俺は知っているわけじゃないけど。
気を抜けばすぐにでも逝ってしまいそうな感覚に耐え、俺はぼんやりとそんなことを考えていた。
437
名前: 第6章「湯船で触れ合うふたりの気持ち」(11/13) 2006/03/15(水) 15:58:11 ID:j6BYQr3Q0
「んぁ、ぁぅ……うん……っ、あ、あん……」
すぐに達してしまうことのないよう、じっくりと前後運動を繰り返す俺。
……本当は今すぐにでも、春姫の膣内をかき回したい衝動でいっぱいだった。
だけど、それじゃきっと、春姫は満足できないだろう。
せっかく数週間ぶりに春姫を愛してやれるのだから、
俺だけが満足して終わってしまうのだけは、絶対に避けたいところだ。
フラッ……
(……え?)
一瞬だけ俺は、気が遠くなるような感覚を覚えていた。
と言っても、気持ちよさのあまり気が遠く……とか、ありがちな話ではない。
何というか……ちょうど朝の集会で脳貧血を起こすような、そんな感覚に似ていた。
(……当たっちまったかな、俺……)
確かにここに来てから、湯船にずっとつかりっ放しだったからな……
こりゃ俺が気を失うか、春姫といっしょに絶頂を迎えられるか、勝負といったところだな……
「春姫……そろそろ、動いていいか……?」
朦朧とする意識を何とか繋ぎ止めつつ、俺は春姫に問い掛けた。
「もう、逝きたいの……? クス、せっかちなんだね、雄真くん……
でも、いいよ……私の中に、いっぱい、ちょうだい……」
「あぁ……春姫」
晴れて春姫の許可も得たことだし、もう俺の方に遠慮する理由はない。
俺は春姫の腰に手をかけ、一気にラストスパートを仕掛けた。
438
名前: 第6章「湯船で触れ合うふたりの気持ち」(12/13) 2006/03/15(水) 16:01:46 ID:j6BYQr3Q0
「!!? ひっ、ぃやっ、あっ、はぁっ……」
俺の腰の動きに合わせて、春姫の喘ぎ声がリズミカルに響く。
振動に合わせ揺れ動く、春姫の大きな乳房。
それが視覚的な刺激となって、俺に更なる興奮を呼び起こした。
「あぁっ、はっ、あっ、うぅっ、あ……ああああっ……!!」
快楽に喘ぐ春姫の目が、徐々に焦点を失ってゆくのがわかった。
と同時に、春姫の子宮が、これまでよりも更に強烈に俺のものを締め上げる。
(感じてるんだ……春姫……!!)
春姫と共に昇りつめられる歓びに打ち震えつつ、俺は更に春姫の奥底を攻め続けた。
先ほどの大きなピストンとは違う、奥底のみを攻める微弱な動き。
ただそれだけでも、春姫の身体はまるで電流を流されたかのようにびくびくと反応する。
「っく……あ……春姫……っ!!!」
「雄真……くん……っ、ひゃ、あああああっ……!!!」
春姫が、にわかに全身をびくっと仰け反らせた。
その瞬間、俺のペニスを、これまでにない強烈な圧迫感が襲い掛かる。
その締めつけに耐え切れず、俺は……
439
名前: 第6章「湯船で触れ合うふたりの気持ち」(13/13) 2006/03/15(水) 16:05:01 ID:j6BYQr3Q0
びゅくっ、びゅくっ……!!!
股間に溜まった俺の気持ちを、存分に春姫の中へと注ぎ込んでいた。
「はっ、あぁっ……ゆぅま……くん……」
びくっ、びくっ、びくっ……
絶頂を迎え、脱力する春姫の中で、俺はなおも射精の快感を味わい続ける。
「はぁっ、はぁっ……春姫……俺……」
……やがて全てを出し切った俺は、力尽きて春姫の上へと覆い被さった。
「あっ……もう、雄真くんったら……」
春姫もまた、絶頂後の心地よい虚脱感からか、俺の体に腕を回し余韻に浸る。
……フラッ……
……あれ? 俺今どうなっちゃったんだ?
今下で組み敷いてるはずの春姫の感触が、微塵も感じられない……
あるのは、ただ一面の白。
春姫の存在も俺の存在も、全てどこかへ消え去ってしまった、一面の混沌。
(……雄真くん?)
あぁ、俺きっとやっちゃったんだな……
湯あたり寸前であんな激しくやっちゃったら、そりゃ気絶しちゃうのも当然かー……
でもま、いっか。
久しぶりに、春姫のかわいらしい喘ぎ声が聞けたんだもんな……
ガクッ
(雄真くん!? しっかりして、雄真くん!!)
446
名前: 第7章「伊吹と杏璃、宿命の対決!?」(1/3) 2006/03/16(木) 08:06:19 ID:9LAGN7Nd0
「……まぁ、よい湯であったな」
風呂を上がり、廊下をしばし歩き回る私。
信哉と沙耶の奴は、早々に部屋へと引き上げてしまったからな……
私ひとり、手持ち無沙汰で少しまいる。
「さて、私も部屋に戻るとするか……」
あてもなくなり、あてがわれた部屋へと引き返そうとする私。
そこへ。
「いえーい!! これで杏璃ちゃんの10連勝っ☆」
「また負けちゃいました……強いです、柊さん」
「ふっふーん☆ この柊夫人に勝とうだなんて、千と10年早くてよ♪」
妙に聞き慣れた声が、廊下の向こうからこだまする。
(……何事か……?)
半ば引きつけられる形で、私はその声のする方へ向かった。
と、そこにいたのは。
「あ、伊吹ちゃん♪」
「……すもも……!?」
私がその正体に気づくよりも前に、すももが私に抱きついてきた。
「わーい、伊吹ちゃんだー☆ こんな所で会えるなんて、とっても嬉しいです♪」
「すもも……そなたも来ておったのか」
「はい! わたしたちみんな、小雪さんのお誘いです!」
そうか……すももも来ておったのか……
まぁ冷静に考えれば、小日向の兄が来ておる地点で、何となく察しがつくものであるが。
447
名前: 第7章「伊吹と杏璃、宿命の対決!?」(2/3) 2006/03/16(木) 08:07:35 ID:9LAGN7Nd0
「そうか……しかし残念であるな……
もしそなたが来ておることを知っておれば、何よりも先にそなたを風呂に誘っていたのに」
「そんな、伊吹ちゃんは気にしなくてもいいですよ?」
「だが……」
私が心底残念がるのを見て、すももは笑顔で提案した。
「そうだ! 明日朝起きたら、いっしょにお風呂に入りましょうね!!」
「明朝か……そうだな。たまには、朝風呂も悪くないかも知れぬ」
「じゃ、約束ですね! 伊吹ちゃんとお風呂、今からとっても楽しみです♪」
この、時折しつこいまでの気配りのよさ。
私がすももに心を開くことができたのも、すもものこの気配りのおかげかも知れぬな。
「それよりも……すもも達は今、何をしておったのだ?」
「卓球ですよ。温泉に来たら、これは基本ですよね」
「たっ……きゅう?」
見たところそれは、網をはさんだ卓の上で行う遊びのようだ。
他に見当たるのは、すももたちの手にしておる面妖な板と、橙色の小さな球。
「それは一体、どのような遊びなのだ?」
「じゃ、今から準さんとやってみますね。とっても楽しいですよ♪」
「あら、あたしがご指名? それじゃ、行ってくるかな」
そう言うと、すももと準の奴が、互いに卓をはさんで向かい合った。
「では、よろしくお願いします! 準さん!」
「ふふ……お手柔らかに頼むわね、すももちゃん」
互いに挨拶を交わした後、すももの手から橙色の球が放たれる。
カン……コン……カン……
卓上で跳ねる橙色の球を、手にした板で跳ね返しあう2人。
やがて、球はすももの目の前で弾け飛び、そのまま後ろへと飛んで行った。
448
名前: 第7章「伊吹と杏璃、宿命の対決!?」(3/3) 2006/03/16(木) 08:14:36 ID:9LAGN7Nd0
「あはは……さっそく一本取られちゃいました」
「でも、何気にラリーは続いてたよね。結構いい感じじゃなかった? 今の」
「そうですか? 準さんにそう言ってもらえると、わたし、嬉しいです」
なるほど……見たところ、羽根つきや毬つきと同じ類の遊びであるのだな。
その後、すももはこちらに振り返って言った。
「……とまぁ、こんな感じの遊びです! 伊吹ちゃんもやってみますか?」
「わ、私がか?」
唐突な提案に、思わず固まる私。
「しかし……かような遊びは、私も少々苦手な方で……」
「そんなことありませんよ! 伊吹ちゃんなら、きっと大丈夫です!」
「……しかしだな……すももよ……」
「はっはーん♪ 伊吹はさしずめ、この杏璃ちゃんに負けるのが嫌ってことかしら?」
「!!!!」
ひどく挑発的なその台詞に、思わず私は後ろの人影を睨みつけた。
「その声は……柊杏璃か!?」
「だったらなぁに? まさか式守の当主様ともあろうお方が、
たかだか一般人上がりのこのあたしの相手すら出来ないなんて言わないわよね?」
カチン!!!
私の中で、何かがキレるのがわかった。
「……言わせておけば柊杏璃!!! 誰がそなたなど怖がる必要があるか!!!」
「ほっほー……負け犬ほどよく吠えるって言うけど、
この程度の挑発にまんまと引っかかるなんて、やっぱお子ちゃまはお子ちゃまよねー♪」
「言うたな柊杏璃よ……前々から貴様のその高慢な態度は腹に据えかねていたところだ!!!
今宵こそ、貴様のその生意気な鼻っ柱を叩き折ってくれるわ!!!!」
「望むところだわ。やれるもんならやってみなさいよ、この三流魔法使い!!!!」
「わーい、伊吹ちゃん頑張れー!!」
眼前の女と今生の決着をつけるべく、私はすももからもらった羽子板を手に卓へと向かっていた。
450
名前: 第8章「シスコン兄貴と妹の想い」(1/2) 2006/03/16(木) 08:20:01 ID:9LAGN7Nd0
「……沙耶」
「いかがなさいましたか? 兄様」
「どうした? そこにいては寒いであろう。早く布団の中に入らぬか」
兄様と2人きりで入れられた寝室。
その中に用意されたただひとつの布団の中で、兄様が私に手招きをする。
「いえ……そう言われましても……私……」
「何を遠慮してる。俺と沙耶、知らぬ仲でもあるまいに」
「……」
……兄様はきっと、わかってません。
年頃の兄妹を1つの部屋に入れて、用意された布団はたったの1組。
これはどう考えても、小雪様の「粋なはからい」のひとつではありませんか……
「さぁ、入りたまえ沙耶。子供の時分はよくこうして共に寝ておったではないか」
「……あの頃と今とは、話が違います。兄様と、布団を共にするなど……」
「むむ……実にけしからぬ考え方だ、沙耶」
……年頃の男女が床を共にする方が、けしからんと思うのですが。
「大体人というものは、昔から座って半畳寝て一畳と言うではないか。
布団がこうしてひとつ用意されておるだけでも、ありがたいとは思わぬのか、沙耶よ」
「……」
だったら、兄様が外で寝たらいいんです……
そう思っていたところで、兄様がにわかに床を立った。
「……仕方ない。寝床はお前にくれてやろう」
「……え?」
突然の兄様の行動に、思わず面食らう私。
451
名前: 第8章「シスコン兄貴と妹の想い」(2/2) 2006/03/16(木) 08:26:43 ID:9LAGN7Nd0
「でも兄様は、いかがなさるおつもりですか?」
「俺は外で寝る」
「え!?」
兄様、それはあまりに極端なやり方では……!?
そう思う私の思いとは裏腹に、兄様はにわかに扉を開け、外気に身を晒しだした。
外は一面の銀化粧。
幸いにして吹雪いてこそないけれど、この時分、浴衣姿では相当身に堪えるはず……
「ぬぅ……今宵の風は少々身にしみるな……
だが!! これしきの寒さなど、心頭滅却すれば火とまた同じ……!!!」
さすがの兄様でも、これは止めないと、大変なことになってしまいます……
……まったく、仕方のない兄様ですね……
「……兄様」
「……何だ? 沙耶」
私は布団を上げ、ちょうど兄様が入れるくらいの領域を作ってみせた。
「久しぶりに……一緒に、寝ませんか?」
「何を言う沙耶よ。お前は……」
「いいんです。兄様が一緒でないと、また怖い夢を見てしまいそうですから……」
本当はもう、ひとりでもちゃんと寝られるんですけど……ね。
「……そうか。仕方のない妹だ……どれ、共に寝てやるとするか」
そう言いつつ、布団に潜る兄様は、本当に嬉しそうで……
「……仕方のないのは、兄様の方です」
「ん? 何か申したか? 沙耶」
「何でもありません。クス」
久しぶりに感じる兄様の温もりを胸に、私はゆっくりと夢の世界へと入って行った。
456
名前: 第9章「友達ということ、傷つけるということ」(1/7) 2006/03/16(木) 21:45:24 ID:NW5WOiY80
「いえーい☆ 杏璃様の11連勝〜っ♪」
「ぐっ……こんなはずでは……」
歓声をあげる柊杏璃のもとで、敗北感にうなだれる私。
試合結果は、11対0。
この私が、柊の奴に1点も返せずに、敗北を喫してしまったのだ……!!
「やーっぱり、伊吹は魔法以外のことは大したことないのねー♪」
「……」
柊の言葉に、一言も返すことができない。
『秘宝』の継承を望んだあの時でさえ、かような屈辱に身を焼いたことはなかった……
「……もう気が済んだであろう? 私は部屋に戻らせてもらうぞ」
「伊吹ちゃん……」
すももの腫れ物に触れるような言葉が、余計に私の胸を締めつける。
「がたい無理な話であったのだ! この私が、かような高等な遊びを嗜もうなど」
「……伊吹ちゃん……」
すももはしばらく悩むように顔をうつむけていたが、やがて何かを思いついたように顔を上げた。
「そうだ!! 伊吹ちゃん、わたしとダブルス組んでみませんか?」
「……だぶるす……?」
また、私の聞きなれぬ言葉だ……
その言葉に、私は否が応にもすももとの間に抗えぬ壁を感じてしまう。
そんな私の様子を察してか、すももが私に笑顔で説明する。
「えっと……つまり、わたしと伊吹ちゃんの2人で、準さんたちと勝負するってことです!」
「な、何だと……!!」
それはつまり、私の失策が、そのまますももの失策となるということではないか!!
457
名前: 第9章「友達ということ、傷つけるということ」(2/7) 2006/03/16(木) 21:46:34 ID:NW5WOiY80
「そ……そのような案、私が承諾できるわけがなかろう!?」
「え? 何でですか? 伊吹ちゃんとなら、きっと楽しい試合になりますよ」
「……そなた、今の試合見ておったろう?
私などがそなたと組んだところで、何が変わるというのだ」
「そんなことないですよ! 伊吹ちゃんがいっしょに戦ってくれるだけで、わたし」
「……理解できぬ。私のような素人の手を借りたところで、あやつらに勝てるわけがなかろう?
むしろ私が、すももの足を引っ張るやも知れぬに……」
「……怖いですか? 伊吹ちゃん……」
すももがそっと、私にささやきかける。
「……そなたこそ、怖くはないのか……? 私などと組んで、無様に醜態を晒すこと……」
「いいえ。怖くなんてありません!
むしろ、伊吹ちゃんといっしょに戦えるって考えると、わたし、わくわくしてきます!」
「……」
すももの言葉が理解できず、うなだれる私。
何故そんなに明るく、返事ができるのだ……?
「伊吹ちゃん……」
そんな私の顔を、すももの手が優しく触れる。
「自分のせいで、大切な何かを傷つけてしまうかもしれない……
その不安は、わたしにもよくわかります」
「すもも……」
「わたしも……同じでしたから」
出逢った時から、常に私から逃げずに向き合ってくれたすもも。
そのすももが……今、私にも決して見せたことのない悲痛な表情を見せている。
458
名前: 第9章「友達ということ、傷つけるということ」(3/7) 2006/03/16(木) 21:47:32 ID:NW5WOiY80
「伊吹ちゃんが、『秘宝』をつけ狙う悪い人だって知ったあの時……
わたしは、一度だけ……伊吹ちゃんから逃げてしまいそうになりました。
伊吹ちゃんの中にある、『秘宝』に対する強い想いを知って……
もうわたしの声は、二度と伊吹ちゃんには届かないんだ……そう思って」
私がかつて瑞穂坂で犯した、最大の禁忌。
『秘宝』を手に入れ、名実ともに式守の後継者たらんことを願ったあの日。
そして結果的に、那津音姉様の、すももの……皆の想いを踏みにじったあの日……
思い出す度に私は、身を焼かれるような後悔にさいなまれる。
「……でも、そこでわたしは思ったんです。
ここでわたしが逃げ出してしまったら、伊吹ちゃんは一体どうなってしまうんだろうって……」
「……」
「あの時、わたしが傷つき傷つけることを恐れていたら……
きっとわたしは二度と、伊吹ちゃんとこうして笑いあうことはできなかったと思います」
「すもも……」
かような醜い欲望に駆られた私のことを、なおも見捨てず想い続けてくれたすもも。
そのおかげで今の私があることは、疑いようのない真実だ。
「……傷つけ合うことを、恐れないでください。伊吹ちゃん」
「……」
「わたしは伊吹ちゃんの、たったひとりのお友達じゃないですか……」
「……すもも……」
すももの私に対する強烈な想いを、ひしひしと感じ……
私は、すももの顔を見ていられなくなり、思わず顔をそらした。
459
名前: 第9章「友達ということ、傷つけるということ」(4/7) 2006/03/16(木) 21:50:48 ID:NW5WOiY80
「……ホントにいい娘じゃない、すももちゃん」
遠くで私たちのやりとりと見ていた柊杏璃が、静かに口を開いた。
「あんたみたいなのを、ここまで真剣に想ってくれるヤツなんて、そうそういないわよ?
大事にしてやんなさいよ、伊吹……」
「……柊……杏璃……」
柊の切なそうな声が、私の心にじんわりと影を落とす。
まったくだ。私のようなくだらない人間など、捨て置いてくれてもよいはずであろうに……
何故ここまで、私などに心を砕ける?
何故ここまで、たくさんの想いを私にくれる……?
「……そんな顔しちゃ、ダメですよ? 伊吹ちゃん」
「すもも……」
「女の子はいつでも笑顔でいなきゃ! って、お母さんがいつも言ってますよ」
「……ふっ」
……思えば私は、何を下らないことを考えておったのだ。
人間たるもの、傷つき傷つけ合うのは、当然の理ではあるまいか。
「まったく……お前のその強さは、一体どこから来ておるのだろうな」
「え? わたしは強くなんてありませんよ? さっきから準さんや柊さんには負けっ放しで……」
「そういうことではないのだが……まぁ、よしとするか」
今ならば、すももに本当の笑顔で向き合うことができる。
確たる自信を胸に、私はすももに笑顔で言葉をかけた。
「参るぞすもも!! 今度こそ、あの女狐めに一泡吹かせてやらん!!!」
「はい!! 頑張りましょうね、伊吹ちゃん!!」
「やっとその気になったようね……あたしも手加減しないから、全力で来なさい!!!」
「ふふ。よろしく頼むわね。すももちゃん、伊吹ちゃん」
羽子板を握る手に確たる想いを込め、私はすももと卓へと臨んだのだった。
460
名前: 第9章「友達ということ、傷つけるということ」(5/7) 2006/03/16(木) 21:51:49 ID:NW5WOiY80
それから十数分後……
試合を終え、卓球台の近くの長椅子で、くつろいでる私たちがいた。
「また……負けちゃいましたね、伊吹ちゃん」
「あぁ……負けてしまったな」
すももの心地の良い笑顔が、私に安らぎをくれる。
11対3。それが、試合結果であった。
結果だけ見れば、確かに私たちの圧倒的敗北である。
だが……心の中には不思議と、ある充実感が芽生えていた。
「すまぬなすももよ……あそこで私がうまく返せておれば」
「そんなことありませんよ! むしろ伊吹ちゃんがいてくれたおかげで、
あの準さんと柊さんから、3点も取ることができたんですから!」
「そ……そうか、すもも///」
うぅ……何やら妙に照れ臭いな。
「全くよねー……得に最後の伊吹のスマッシュ! あれは完全にしてやられたわー」
「ひょっとして、瑞穂坂最強のコンビだったりして! すももちゃんと伊吹ちゃん」
かつては敵だった柊と準も、私たちの健闘を笑顔で褒め称える。
お互いの事を、心から認め合える、そんな関係。
いつしか私は、この場に居心地のよさすら感じていた。
「……友達とは、本当にいいものだな。すももよ……」
「はい。本当に……ステキな関係ですよね」
「数ヶ月前の私であったら……このような素晴らしいものにも、気づかずにいたのであろうな。
我ながら、実に愚かしいことだ」
自嘲気味に、それでいて穏やかに微笑む私。
いつしかその微笑みは、私たち4人全員を包み込んで、穏やかな笑いの渦を形作っていた。
461
名前: 第9章「友達ということ、傷つけるということ」(6/7) 2006/03/16(木) 21:53:00 ID:NW5WOiY80
「ねぇみんな、次どーする?」
やがて柊が、皆に話を切り出した。
「そうねぇ……卓球もそろそろ飽きてきた頃だし、みんなでカードゲームでもやらない?」
「そうですね! この人数ならば、きっと楽しくなりそうです!」
かぁどげーむ……あぁ、小日向雄真が時折準たちと嗜んでいたアレであるな。
「ふむ……頭を使う遊びであらば、私も心得がある。次は負けはせぬぞ!」
「じゃ、それで決まり!! さっそく部屋で準備しようよ」
「「はーい!!」」
満場一致で、次の遊びはカードゲームに決まった。
そこへ。
「ふっふっふ……キミタチ!! カードゲームと言えばこの俺!!
瑞穂坂一の勝負師、この高溝八輔を忘れてもらっちゃあ困るぜ!!!」
まぁたうるさいのがやってきたぞ、おい……
というか自ら勝負師などと名乗っておる地点で、その実力もたかが知れたものであろうが。
「で勝負の内容だけど……無難に大富豪とかでどうかな?」
「ナポレオンとかも面白そうですよね! 準さん」
「あたし、ポーカーやりたいな! ポーカー」
「って俺完全無視ぃ!!?」
……この種の手合いは、いちいち相手をしないに限る。
462
名前: 第9章「友達ということ、傷つけるということ」(7/7) 2006/03/16(木) 21:57:43 ID:NW5WOiY80
「……何だかうるさいのが吠えてるけど、すももちゃん、相手にしちゃダメよ」
「そうよ。あの手の獣をつけ上がらせると、大変なことになっちゃうんだから」
「はいっ、わかりました! 準さん、柊さん」
「そんな……すももちゃんまで……しどい……」
無様に泣き崩れる八溝に、すももが情けをかける。
「ふふっ、冗談ですよハチさん♪ それより、ハチさんもいっしょにどうですか?
人数は多い方が、きっと楽しいですよ♪」
「うぅ……すももちゃん優しい……やっぱすももちゃんは俺の天使だ……」
まったくこやつは……仕方のない輩だな。
「はいはい。すももちゃんに変な気を起こさないようにね」
「同感だな八溝とやら。すももに狼藉をはたらく事あらば、そなたの命はないものと思え」
「高溝っす……」
ビサイムを鼻先に突きつけられ、沈黙する八溝。
こうやって先手を打っておかねば、何をしでかすかわかったものではないからな……
「じゃあ改めて、みんなでお部屋に向かいましょう!!」
「「はーいっ!!」」
男女5人の大所帯で、私たちはあてがわれた部屋へと向かうこととなった。
469
名前: 第10章「お疲れ気味の雄真くん」(1/8) 2006/03/17(金) 09:02:59 ID:/t9fqMmE0
「ふぅ……ありがと、ソプラノ」
「いいえ。他でもない春姫の頼みですもの」
私はソプラノの力を借りて、雄真くんを脱衣場まで運んでいった。
雄真くんの反応がなくなった時は、一瞬どうしちゃったんだろうと思ったけど……
脈も体温も、今のところちゃんと安定してる。
……多分、検定の時の疲れが、今になってどっと押し寄せてきたのだろう。
「……ごめんね、雄真くん」
こんなに疲れてたのに、なお私のためにいっぱい頑張ってくれた雄真くん。
その姿に、私はちょっとだけ申し訳ない気分になる。
「……さて、服着せてあげないと……」
棚に入ってる男物の下着を手に取った後、雄真くんの方へ向き直り……
「……あ……」
私は思わず、胸がどきどきとときめくのを感じた。
私の体とは、どこもかしこも全然違う、雄真くんの肢体。
そんなにムキムキってわけじゃないけど、男の子なんだと主張するくらいには強張った、
雄真くんのきれいな肉体……
「……」
私はいつも、この体にどんな風にいじめられてるんだろう……
想像するだけで、私の頭はぽわーっとして、正常な判断を失いそうになる。
470
名前: 第10章「お疲れ気味の雄真くん」(2/8) 2006/03/17(金) 09:05:01 ID:/t9fqMmE0
「……雄真くん……」
私は朦朧とする意識の中、そっと雄真くんの体に口づけしていた。
雄真くんの胸板、脇腹、そしておへその辺り……
それら全てに口づけするだけでは飽き足らず、更に舌も使って雄真くんの体を愛撫する。
しょっぱくて少しだけほろ苦い、雄真くんの味、そして匂い……
それらが寄り集まって、私をどんどんえっちな娘に変えてゆく。
「……雄真……くん……っ」
我慢できなくなった私は、そっと自らの秘密の場所に手を伸ばし……
「……春姫?」
後ろから聞こえた、私をたしなめるような声に、思わず我に返った。
「そ、そそっ、ソプラノ!? ひょっとして、今の、見てた……?」
「えぇ、バッチリ。春姫がまさか、そんな大胆なことをする娘だったなんて」
「……ぁぅ……///」
改めて自分のやった行為を思い返し、耳までまで真っ赤になる私。
「……お願い、ソプラノ……このことは、雄真くんには言わないでね……」
「えぇ、もちろん。それよりも、早く雄真様に服を着せて差し上げたら?」
「あ……そ……そうだったね……アハハι」
ソプラノにたしなめられつつ、私は雄真くんに服を着せる作業に戻った。
471
名前: 第10章「お疲れ気味の雄真くん」(3/8) 2006/03/17(金) 09:10:52 ID:/t9fqMmE0
「うぅ……まだ頭クラクラする……」
「……もぉ。ハリキリすぎだよ、雄真くん」
春姫に肩を貸してもらいながら、千鳥足で廊下を歩く俺。
あの後、俺が目を覚ますと、そこは家族湯備え付けの脱衣場だった。
しかも俺はご丁寧にも、下着や浴衣まで着せつけてもらっている始末。
どうやらあの後、俺が目を覚ますまで春姫がつきっきりで看病してくれたらしいんだけど……
……思い出すと、自分のすっげぇ情けなさに涙が出てくる。
「……」
体のあちこちに、覚えのないキスの跡が残ってるのが、微妙に気になるけど。
「……何か、せっかく久しぶりだったのに、満足に愛してやれなくて、ゴメンな」
「うぅん。雄真くんこそ、今日はもうムリしないでね」
「あぁ……ゴメン、春姫」
うぅ……春姫っていつも優しい。
こういう時、春姫の優しさがかえって胸にズンとくる。
ともあれ、これ以上春姫に心配かけるわけにはいかない。今日はもう寝るとするか……
ガラガラガラ……
俺は部屋の扉を開け……
「……フッ。八溝とやら、これで私の3連勝のようだな」
「がーーーーーん!!!」
「ふふ。ハチったら、カードゲームになるとからっきし弱いんだから」
……パタッ。
俺はそれを見なかったことにした。
472
名前: 第10章「お疲れ気味の雄真くん」(4/8) 2006/03/17(金) 09:12:29 ID:/t9fqMmE0
「……雄真くん?」
「……春姫。俺と少し、散歩にでも出かけないか?」
「え!? でももう夜も遅いし、それに……」
「いいんだ。ちょっと外の空気を吸いたい気分だから……」
春姫が制止するのも聞かず、俺はよろよろと玄関の方へと歩き出した。
そこへ。
「あら雄真さん……先ほどのお風呂の時ぶりです」
つい今し方お風呂から上がったばかりらしい小雪さんと目が合った。
「こ、小雪さん……こんばんは」
やば……そういや俺、あれからずっと春姫と2人っきりだ……
……小雪さんにいろいろ詮索される前に、何とか話を反らさないと……
「こんばんは。今宵もよい月夜ですよ」
「そうっすねー……瑞穂坂じゃ、こんなキレイな夜空はなかなか見れないっすから」
おっしゃ! 我ながらキレイな返しだ!! 今日の俺は少し冴えてるぜ!!
「雄真さんは今まで、どなたとこの月を眺めておられたのですか?」
「ぐほぉ!!!!」
痛い、痛すぎるよ小雪さん……
その返しは、今の俺には身を裂かれるくらい痛いです……
「ふふ……これ以上、お若いお2人の邪魔をするわけにはいきませんね。私は、お先に失礼致します」
そのまま小雪さんは、妙な笑顔を浮かべながらその場を去ってしまった。
……スミマセン、春姫さん。俺やっぱ、この人には生涯勝てそうにありません。
「んもぉ……高峰先輩ったら……///」
春姫は春姫で、顔を真っ赤にさせてうつむいてしまってるし……
しかも俺たちの受難は、このくらいでは終わらなくて……
473
名前: 第10章「お疲れ気味の雄真くん」(5/8) 2006/03/17(金) 09:14:11 ID:/t9fqMmE0
「こっ、ここにいたか雄真ーーーーーー!!!!」
「げっ、ハチ!?」
「あたしもいるわよ、雄真♪」
運悪く、今部屋から出てきたばかりの準とハチにつかまってしまった。
「さぁ吐け雄真!!! 雪の降りしきる家族風呂で姫ちゃんと2人でナニしてやがったぁ!!!!」
「それをお前に教える義理はない!!!」
「へーぇ……春姫ちゃんの魔法で扉閉め切って、2人で人に言えないようなことしてたんだぁ♪」
「何で魔法の事知ってんだよ準!!!」
見ると横で春姫も、俺と同じように柊に絡まれている。
「それにしても、やるじゃん春姫♪
あたしたちの目を盗んでちゃっかり雄真とよろしくやっちゃうなんてさ♪」
「あのね杏璃ちゃん……雄真くんとは」
「はいはい。言わなくてもわかってるって!
あたしは春姫と雄真の一番の味方だから、安心して2人でらぶらぶしてきてちょうだい」
「だ、だから……杏璃ちゃん……ι」
「だぁぁっ!!!! お前はお前でいらん事するんじゃねーーっ!!!!」
ったくこいつらは、人をからかうことしか頭にないのか?
「フッ。全く……飽きぬ連中よの」
あ……忘れてた。伊吹がいたか……
「さてすももよ。私は先に休ませてもらうとするぞ」
踵を返し、部屋へと戻ろうとする伊吹。
ひょっとして、ここの雰囲気に未だ馴染めてないのか?
「え? 伊吹ちゃん、もう寝ちゃうんですか?」
「せっかくなんだし、もうちょっとすもも達と遊んでったらどうだ?」
「そういう訳にはいかぬ。私は式守の家で培った生活の流れがあるからな。
遅寝は私の最も不徳とするところだ」
「あ、なるほど」
考えてみれば、いかにも規律にはうるさそうな式守の家だ。
早寝早起きは、もはや日常的な習慣として、伊吹の身に染み付いてしまっているんだろう。
474
名前: 第10章「お疲れ気味の雄真くん」(6/8) 2006/03/17(金) 09:29:03 ID:/t9fqMmE0
「うんうん。寝る子は育つって言うもんな。偉いぞ、伊吹」
俺は小さな子供をあやすがごとく、伊吹の頭を撫でてやった。
「……小日向雄真。そなた、私のことを馬鹿にしておろう」
伊吹があからさまに、不快感をあらわにしてみせる。
「そんなことないぞ。俺はただ、純粋に偉いなって思っただけで」
「そなたの生活態度がふしだらなだけであろう!! それに、子供扱いはやめいと何度」
「いいえ、伊吹ちゃんはホントにいい子ですよ。ほら、いいこいいこ」
「うぅ……兄妹して私をからかいおってからに……///」
すももにまで子供扱いされ、わなわなと体を震わせる伊吹。
「……ともかく!! 明朝6時半に風呂場で待っておるぞ!! 約束だ、すもも!!」
「6時半ですね。わかりました! おやすみなさい、伊吹ちゃん」
「……フン」
そのまま伊吹は、ふてくされたように鼻を鳴らし、自分の部屋へと引き上げて行った。
「じゃ、明日に備えて、わたしも少し寝ますね……ふぁぁ」
伊吹が去ったことで、抑えていた眠気が一気に襲ってきたのだろう。
寝ぼけ眼をこすりながら、すももが生あくびをしてみせる。
「そうだな……明日うっかり寝坊して、伊吹との約束すっぽかすわけにはいかないしな」
「むぅ……わたしと兄さんとをいっしょにしないでください」
からかい混じりの俺の言葉に、すももがかわいらしくふくれてみせる。
「ハハハ……じゃ、また明日な。すもも」
「はい。おやすみなさい、兄さん」
伊吹に続き、すもももまた寝床へと戻って行った。
さて……ちびっ子2人も退場しちゃったことだし、俺もそろそろ休むとするかな……
2人の後を追うがごとく、俺も部屋へと戻ろうとした。
が。
「あーら、どこへ行くのかな? 雄真♪」
歩き出した俺の背中に、準が目ざとくしがみついてきた。
……しまった……俺はまだ、こいつらに絡まれてる最中だった……
475
名前: 第10章「お疲れ気味の雄真くん」(7/8) 2006/03/17(金) 09:31:45 ID:/t9fqMmE0
「ひどいわ雄真ったら!! わたしというものがありながら、
あろうことか姫ちゃんとしっぽり入浴タイムだなんて!!!」
「だからしっぽり言うなハチ!!!」
「ふふふ……今夜は寝かさないわよ、雄真」
「いいから離してくれーーーーーー!!!!」
俺も自分の身をもっといたわってくれる友達が欲しいです……(泣)
「……あのね、準さん、高溝くん」
あまりに悲惨な俺の状況を憂えてか、春姫がフォローに入ってきた。
「雄真くんは、その……ホントに疲れてるの。
ここんところ毎日検定のお勉強で、慣れない生活送ってたから……」
「騙されちゃあいけませんよ姫ちゃん!!
コイツはこうやって弱い顔して、女の子に取り入るのがうまいんですから!!!」
「だがらぐびじめんなはぢ……」
俺の首をホールドするハチの腕を、横にいた準が取り払う。
「ちょっとアンタは黙ってて。雄真……それホントなの?」
「あぁ……でももう大丈夫だぞ。小雪さんの温泉のおかげで、疲れもこのとおり」
そうやって背伸びをしようとした俺を、ふたたび目まいが襲い掛かった。
「ゆ……雄真くん!!」
あわてて支えに入った春姫にもたれかかる俺を見て、準が呆れ顔でため息を漏らす。
「何が大丈夫よ……春姫ちゃんにこんなに心配かけておいて。
男の子だったら、自分の体調管理くらい自分でちゃんとやんなさいよ?」
「あぁ……面目ない、準」
「あたしに謝るのはいいから、もう今日は寝なさい。いい?」
476
名前: 第10章「お疲れ気味の雄真くん」(8/8) 2006/03/17(金) 09:32:39 ID:/t9fqMmE0
そう言い残すと、準は振り返り、ハチの腕をとった。
「というわけで予定変更! 今からハチを存分にいたぶる会に変更でーす♪」
「な、何ぃ!? 聞いてないぞ、準!!!」
「はいはーい♪ いじられ役に発言権はありませーん♪」
「あぁっ、助けて姫ちゃーーーーーん!!!!」
準に無理矢理腕を引っ張られ、哀れハチは暗闇の中へと消えて行った。
合掌。
「……ひょっとして、準さんなりに気を遣ってくれたのかな?」
後に残された春姫が、俺にそっと問い掛ける。
「だと思うぞ。アイツ……ああ見えて、いざという時の気配りは俺たちの比じゃないからな」
「うん……ホントにいいお友達だね、準さん」
「あぁ……情けないけど、アイツには毎度ホントに頭上がんないよ」
準のさり気ない思いやりが、こういう時胸にとてもじんわりくる。
「じゃあ、準の親切に甘えて、今日は早めに休ませてもらうとするか」
「うん。お休みなさい、雄真くん」
春姫と軽くおやすみのキスを交わし、俺はゆっくりと自分の部屋へ戻って行った。
「……あーあ。雄真までいなくなっちゃったわ。張り合いないわねー……
こうなったらアンタでいいわ。春姫、いっしょに部屋に行きましょ」
残された柊が、心底つまらなそうに春姫を誘う。
「え? 杏璃ちゃん?」
「たまには女同士でパジャマトークと洒落こむのもいいでしょ。さ、早く行くわよ」
「あっ、待ってよ杏璃ちゃん……」
柊になかば強引に誘われ、春姫も部屋へと戻って行った。
483
名前: 第11章「春姫と杏璃、夜の語らい」(1/4) 2006/03/18(土) 10:56:44 ID:IfkkEiZr0
「……で、実際どうなのよ、雄真」
部屋の布団の中で、杏璃ちゃんが私に問い掛ける。
「どうって……どういうこと?」
「とぼけないの! アイツ、いつになく覇気のない顔してたじゃない……
まぁ大方、原因は予想つくけど」
「あ……」
そういうことか。
杏璃ちゃんも、雄真くんのこと、心配してくれてるんだ……
「まぁアイツのことだから、どうせ必要以上に気合入れて、検定の特訓に励んでたんでしょ。
アンタに少しでもいいトコ見せてやりたくて」
「う、うん……そう……かも」
「それでアンタのことだから、どうせ雄真が何か成功させるたんびに、
わーすごいすごいって言いながら、無神経にはやし立ててたんじゃないの?」
「す、すごーい杏璃ちゃん! 何でわかっちゃうの?」
「わからいでか!!!」
妙に怒りっぽい口調で答える杏璃ちゃん。
そんなに、私たちのことってわかりやすいのかな……?
「はぁ……何のための恋人なのよ、アンタ。
雄真が少しでも無理しそうだったら、アンタが止めてやんなきゃダメじゃない」
「そ……そう……だね」
「アイツああ見えて、あたし以上に思い込んだら周り見えなくなっちゃうんだから。
それくらい、見ててわかるでしょ?」
「……うん……」
484
名前: 第11章「春姫と杏璃、夜の語らい」(2/4) 2006/03/18(土) 10:57:52 ID:IfkkEiZr0
確かに……雄真くんはいつもまっすぐだ。
今回の検定の時も、とても一生懸命に、合格目指して頑張ってたし。
たまにその一生懸命さがたたって、今日みたいに精力を使い果たしちゃうこともあるから、
そこを私がセーブしてあげなきゃっていう杏璃ちゃんの言葉も、理解できなくはない。
でも……私は知っている。
雄真くんの、魔法に対するひたむきな想いを……
その想いを前にして、私に一体、どんな言葉がかけられると言うんだろう……
「はぁ……つくづくあたしってお人よしだわ。
人の心配する前に、まずは自分の心配しろって話よね」
「杏璃ちゃん……」
そう言えば……杏璃ちゃんの浮いた話って、あんまり聞かないよね。
「……杏璃ちゃんは、誰か好きな人っていないの?」
「うーん……恋人同士って関係に憧れがないわけじゃないけど……
いざ自分が誰かと付き合うって考えてみると……正直あんまりピンと来ないのよね。
今は男の子と仲良くするより、魔法の練習とかしてた方が楽しいし」
何だか……すごくもったいないな。
杏璃ちゃんってとってもかわいいから、すぐに恋人って作れそうな気がするんだけど。
「……そうだ、杏璃ちゃん。高溝くんなんてどうかな?」
「は、ハチぃ!?」
私の提案に、露骨に嫌そうな顔をする杏璃ちゃん。
「ほら……高溝くんってとってもにぎやかで、何だか楽しそうじゃない?」
「あーダメダメ!! ハチだけはマジ勘弁!!!」
「そうかなぁ……高溝くんとだったら、結構お似合いな気がするけど」
「……何気に心にサクッとくること言うわね春姫……」
杏璃ちゃんがジトーッとした目で、私を見つめる。
「と・に・か・く、ハチだけは絶対にないわ!!
あんなロマンもデリカシーのかけらもない男、こっちから願い下げよ!!!
大体あんなのと付き合ってやろうもんなら、アイツ絶対つけ上がるに決まってるし」
「うーん……ι」
言われてみれば、それは……あんまり擁護できないかも。
485
名前: 第11章「春姫と杏璃、夜の語らい」(3/4) 2006/03/18(土) 11:05:21 ID:IfkkEiZr0
「はぁ……つくづくアンタが羨ましいわ……
ずーっと想い続けた初恋の君とめでたくゴールインなんて、今時純愛映画でも流行んないわよ」
「……うん……そうだね」
杏璃ちゃんのその言葉が、私の心に影を落とす。
「……何か興醒めしちゃったわ。あたしはもう寝るわね。おやすみ、春姫」
「うん……おやすみ、杏璃ちゃん」
そのまま私に背を向け、すーすーと安らかな寝息をたて始める杏璃ちゃん。
「……」
ひとり残された寝室で、私はひとり、考えを巡らせていた。
……確かに、恵まれてるんだ、私。
絶対に会えないと諦めてた憧れの男の子と、この瑞穂坂学園で偶然めぐり逢えて。
私の気持ちを、精一杯受け入れてくれて……
それが、どのくらい幸せなことかってくらい、私にもわかっている。
……でも……
雄真くんは、どうなんだろう。
雄真くんはあの時、自分はあの時の男の子である確証がないと言った。
そして……私と付き合いたいという安易な気持ちだけで、答えたくはないとも言ってくれた。
でも……結果的に私がわがままを押し通した形で、私たちは付き合うこととなってしまった。
その事実が、今……私の心に妙なしこりを残している。
「雄真くんは……私のこと……どう思ってくれてるのかな……」
その問いに、自分ひとりでは答えが出せそうになかった。
今はせめて……私を好きだと言ってくれる雄真くんの気持ちを信じるだけ……
それが……恋人として、私にできる精一杯のこと……
486
名前: 第11章「春姫と杏璃、夜の語らい」(4/4) 2006/03/18(土) 11:06:07 ID:IfkkEiZr0
「さーて、一緒に寝ましょうか、ハチ」
「い……嫌だぁぁぁぁ!!! 俺の操は、姫ちゃんに捧げると決めてるんだぁぁぁ!!!」
「あたしだって、ハチとなんかより雄真といっしょに寝たいわよ。
それを今日は仕方なく、ハチといっしょに寝てあげるって言ってるんじゃない……
ほーらハチ……今日だけあたしが春姫ちゃんになってあ・げ・る♪」
「あぁっ……神様……仏様……」
「(がばっ)何奴!!?」
「兄様……今のは風の音です……いい加減慣れて下さい」
「ぬぅ……そうか。しかし安心しろ沙耶……お前を狙う不貞の輩は、必ずやこの俺が」
「いいからもうお眠り下さい……ι」
「……いよいよ明日やな、姉さん」
「そうですね……ここまで、本当に長かったです。
ですが……明日ついに、雄真さんの……」
「くーっ、今から腕が鳴るでぇ!!」
それぞれの想いを秘めつつ、夜は静かに更けてゆく……
494
名前: 第12章「目覚めの朝、忍び寄る影」(1/3) 2006/03/18(土) 20:59:29 ID:D5lcKvSK0
「オン・エルメサス・ルク・アルサス……」
まだ薄暗い早朝の森の中、あたしの声だけが静かに響く。
あたしの手元に浮かぶのは、集中力養成用のキューブ。
その中央に緑色の穏やかな光を湛え、キューブは静かに揺れ動いている。
「アスターシア・ルース・エウローサス・メテア……!!」
光は拡散しては収束し、徐々にその光量を増してゆく。
「……ふぅ」
やがてあたしは魔法の発動を止め、深く息を吐き出した。
ただの棒きれと化したキューブが、雪積もる地面へと散らばってゆく。
「まぁ、最初はこんなものかな」
あたしが魔法科に入ってから欠かさず続けている、秘密の特訓。
いくら旅行中だからって欠かしたりしたら、いつになっても春姫には追いつけないからね。
「しかし……いつまでも集中力の特訓だけじゃダメよね……
ここはそろそろ、次のステップへと進む時だと思うんだ。そう思わない? パエリア」
「くれぐれも焦りは禁物ですぞ、杏璃様。
自分にできることを地道に続けることこそが、自らを高める最善の道です」
「そうは言うけど……このまんまじゃ、春姫にずっと負けっ放しじゃない。
もう二度と春姫の背中は追わないって決めたけど……やっぱ、納得行かないし」
495
名前: 第12章「目覚めの朝、忍び寄る影」(2/3) 2006/03/18(土) 21:00:38 ID:D5lcKvSK0
そう……何よりも納得しないのは、あたし自身。
ともすれば、春姫の幻影にいとも簡単に負けてしまいそうになる、あたしの弱い心。
儚い虚栄心から高みを目指そうとしたって、何にもならないってわかってるのに……
……そこまで考えて、あたしは首を横に振った。
「……うぅん。やっぱり、パエリアの言うとおりだわ。
地道に今、あたしのやれることをやってかないと……
ね、もう一番付き合ってくれる? パエリア」
「承知致しました、杏璃様」
散らばったシャフトを集め、キューブを再構成するあたし。
「……?」
ふとあたしは、森の一角にある違和感を感じた。
開け放たれた蛇口の如く、高位の魔力がだだ漏れになっているような、そんな感覚。
「……」
間違いない。この森には、誰か、いる……!
「……予定変更。行くわよ、パエリア」
あたしはパエリアを手にし、違和感の感じる方へと駆けて行った。
496
名前: 第12章「目覚めの朝、忍び寄る影」(3/3) 2006/03/18(土) 21:03:27 ID:D5lcKvSK0
そこにあったのは、禍々しい瘴気。
岩陰から覗いていてもわかる程の、強烈な魔力の波動……
「……何なのよ……これは……」
岩肌に隠れて、それの正体は判別できない。
ただ、それの発する魔力だけで……それがとんでもない化け物であることはわかった。
「ちょっと……本気でマズくない? これ……」
パエリアを握る手に、じわりと汗が滲んでくるのがわかる。
こんなの……どう足掻いたって……あたしひとりの力じゃ……!!
ガサッ……
「!!!!」
急に発せられたそれの足音に、あたしは思わず身を隠した。
……まさか、気づかれた……!?
ドクッ、ドクッ、ドクッ……
静寂の中、あたしの心音だけがやけに高く響いている。
「あーあ……姉さん、こりゃ絶対気づかれとるで?」
「……そうみたいですね、タマちゃん」
ふと向こうから、何やら会話らしき音が聞こえてきた。
「まーったく、姉さんも短慮もえーとこや!
誰もおらん森でこないなモン引き連れよったら、嫌でも気づかれるに決まっとるやんか」
「そうですね……少し、油断してしまいました」
「大体こない大層なモン使うてまで知りたいもんか? 兄さんの」
「タマちゃん、ごー!!」
「い、今のは失言や!! 姉さん堪忍ーー……」
ヒューー……ドォォォォン……
「また貴重な残機が失われてしまいました……残念です」
その会話の雰囲気に、あたしは嫌という程心当たりがあった。
(……一体、この森で何が起こってるっていうのよ……!!)
503
名前: 第13章「いきなり乱入?2人のかーさん」(1/3) 2006/03/19(日) 11:17:28 ID:cAEHs8fe0
「あれ? お母さん?」
伊吹ちゃんと一緒に入ったお風呂で、わたしは意外な人と出会っていた。
「あらぁ、すももちゃん。かーさんもついて来ちゃったー♪」
「……すももの母か? 相変わらずえらく若いな……」
お母さんと久しぶりに会った伊吹ちゃんが、目をぱちくりさせている。
「んもぉ、若いだなんて! 相変わらずお上手なんだからっ♪」
「えへへっ! 何たって、わたしの自慢のお母さんですからね!」
「そうか……それより、何故そなたまで来ておるのだ、御薙鈴莉よ」
そう。来ていたのはお母さんだけではない。
お母さんの古くからのお友達にして、兄さんの本当のお母さん……
御薙鈴莉さんも、お母さんといっしょにお風呂に入っていた。
「何故って……音羽に泣きつかれたのよ。
『雄真くんやすももちゃんばっかりずるーい! わたしも行く』ってね」
「うー……だってぇ、主婦業やってるとたまーに休みが恋しくなるんだもん!」
「とは言え、大の大人が実の子供相手に本気で嫉妬するほどのものか? 理解できぬぞ……私には」
「うーん……そんなに理解できませんかね?」
お母さんはいつでも、自分のやりたいことに正直なだけなんだけど。
それが、そんなに変なことなのかなぁ?
「それより、御薙さんは今、お母さんと何のお話をしてたんですか?」
わたしたちが生まれるずっと前から、お母さんと仲良しだった御薙さん。
その2人の会話、娘としてはすっごく気になります!
「ふふ……音羽と出会ったあの時のことを、少しね」
御薙さんの言葉に、わたしは思わず目を輝かせた。
「お母さんと御薙さんとの出会いですか? うわぁ、すっごく興味あります!!」
「教えてほしいのね。ふふ。じゃあ、始めから……」
504
名前: 第13章「いきなり乱入?2人のかーさん」(2/3) 2006/03/19(日) 11:18:22 ID:cAEHs8fe0
しかし、御薙さんがちょうど口を開きかけたところで、お母さんが慌てて止めに入ってきた。
「ちょ、ちょっと鈴莉! あの話はもう忘れてよ!!」
「お、お母さん?」
お母さんがこんなに慌てるなんて、一体何があったんだろ?
「ふふ……思い出すわ……20年前のあの日」
「キャ〜〜、鈴莉ぃ!! さすがに娘の前ではやめてーーー!!!」
すごい……あの無敵のお母さんが見たことない勢いで暴れてる……ι
お母さんのこんな姿、初めて見ました……
「すももちゃんはどう? お母さんの昔の話、聞きたくはないかしら?」
「それは……聞きたい……ですけど」
「すももちゃん! 大人になれば知らなくてもいいこと、いっぱい出てくるの!!
いい子なら、お母さんの言う事聞いて!! ね? お願い」
「お、お母さん……えっと……ι」
2人の大人の女の人の間で、どうしてよいかわからず戸惑うわたし。
「まったく……いい大人がこぞって娘を板ばさみにするか? すももも気の毒にな……」
横で伊吹ちゃんも、呆れた表情でお母さん達を見ている。
「御薙さん……せっかくですけど、遠慮しますね。お母さんが、本当に嫌がってますから……」
「そう……残念ね。じゃあ、今度音羽がいない時にでも」
「うぅ……鈴莉がわたしのこといぢめるぅ……」
本当はいろいろ聞きたいけど、さすがにこれ以上、お母さんを困らせたらいけませんから。
505
名前: 第13章「いきなり乱入?2人のかーさん」(3/3) 2006/03/19(日) 11:25:18 ID:cAEHs8fe0
「……?」
ふと、伊吹ちゃんが顔を上げる。
その反応と、御薙さんが顔をしかめだすのと、ほぼ同時だった。
「……御薙鈴莉よ……そなたも気づいておるか……」
「えぇ……これは間違いなく、あれから発せられる魔力……」
顔を合わせ、わたしにはわからない次元の会話を繰り広げる伊吹ちゃん。
やがて伊吹ちゃんが、湯船から立ち上がり、わたしにすまなさそうな顔を向けた。
「……すまぬ。すももよ、私はどうしても行かねばならぬ用ができた。
今日の埋め合わせは、後日また必ず」
「そんな……気にしなくてもいいですよ、伊吹ちゃん。
それより伊吹ちゃんこそ、あんまり無理はしないでくださいね」
「わかっておる。心配するな、すもも」
わたしに軽く笑顔を見せ、伊吹ちゃんは浴場を駆け出して行った。
「それじゃ、私もそろそろ行かないと……この話はまた後でね、音羽」
伊吹ちゃんに続いて御薙さんも、浴場を離れてゆく。
「行ってらっしゃーい……はぁ、やっと解放されたわ」
「お疲れ様です、お母さん」
御薙さんのお話からようやく逃れられたお母さんが、ほっと安堵のため息をつく。
「しかし、鈴莉も相変わらずよねー……
旅行の時くらい、仕事のことなんか忘れてパーッと遊べばいいのに」
「……そう、ですね……」
お母さんの言葉に、わたしは曖昧な返事を返す。
険しい顔をしてこの場を去ってしまった御薙さんのことも、もちろん気になるけど……
一番気になるのは、伊吹ちゃんの存在。
旅行先に来てまで為さなければならなくなった、伊吹ちゃんの大切な用事。
それが、どんなに大変なことなのか、わたしには見当もつかないけれど……
(せめて、無事に帰ってきてくださいね……伊吹ちゃん……)
朝もやかかる外の景色を眺めつつ、わたしはひとり、伊吹ちゃんの無事を祈るのだった。
511
名前: 第14章「迫る凶兆、明かされる真実」(1/5) 2006/03/20(月) 12:09:35 ID:Ftw0LD/+0
「あ、雄真くん。おはよう」
「……春姫? それに、柊もいるのか?」
旅館の玄関では、既に春姫と柊の2人が魔法服姿で待ち構えていた。
柊の方は大体見当がつくとして……何で春姫まで?
「随分遅い出勤ね、雄真」
「出勤って……ι そもそも、こんな朝早くから急に俺なんか呼び出したりして、
いきなりどうしたって言うんだよ?」
俺の問いに、2人は互いに顔を合わせ、うなずき合った。
春姫がゆっくりと、口を開く。
「たった今、ここから東の森に、とても強大な魔力の流れが感知されたの。
私たちは今から、その正体を探りに行くっていうわけ」
「強大な魔力か……せっかくの旅行だってのに、何だか物騒だな」
「文句言わないの! そのためのあたしたち魔法科生徒じゃない。
それに……アレはちょっと、あたし1人じゃ手に負えないシロモノだからね」
「……? 見てきたのか、柊……」
俺が柊に問い返すと、柊はより険しい表情で実情を語り始めた。
「うん……遠くから見ただけだから、詳しい姿形まではわかんないけど。
とにかく、パッと見でとてつもなくヤバイシロモノだってことはわかったわ」
「……そっか」
あの柊ですら怖れるほどの物だから、きっと相当なものに違いない。
512
名前: 第14章「迫る凶兆、明かされる真実」(2/5) 2006/03/20(月) 12:10:32 ID:Ftw0LD/+0
しかし、それにしても。
「前から思ってたんだけどさ……この時期、そんな格好してて寒くはないのか?」
2人がその身にまとう魔法服は、いずれもひらひらスカートに生肩丸出し。
春先とかに着る分にはちょうどよいかも知れないが、この時期さすがに堪えるのでは?
「うぅん。案外ちょうどいいんだよ、これ」
春姫は、そんな俺の疑問を事も無げに否定する。
「……そうなのか? 俺としては、見てるだけで寒くなってくるんだけど……」
未だ納得できずにいる俺に、春姫が笑顔で解説した。
「この魔法服は、通常の服よりもはるかに魔法伝導率の高い素材で織られていて、
術者の持つ魔力に従って、簡単な防寒フィールドを自動で形成する性質があるの。
慣れれば、普通の防寒具よりもずっと快適で動きやすいんだよ」
「へぇ……便利なんだな、魔法服って」
あの魔法服に、そんな仕掛けがあったとは……俺もまだまだ勉強不足だ。
「ま、雄真クラスの人間が着ちゃったら、たちまち寒さで凍えちゃうところだけどね」
「う……確かに」
そうかも知れないけど、いちいち一言多すぎだっての、柊……
「それより……約束して、雄真くん」
ふと春姫が、真剣な目つきで俺に切り出した。
「何だ? 春姫」
「ここから先……もし戦いになるようなことがあったら、
雄真くんは攻撃よりも、まず先に抵抗(レジスト)を優先して。
雄真くんはまだ、実戦経験もあまり豊富な方じゃないから……」
「……あぁ、わかってる」
ここから先、確たる力も策もなしに強大な敵へと向かってゆくことの愚かさ……
それは俺が、誰よりもよく理解している。
513
名前: 第14章「迫る凶兆、明かされる真実」(3/5) 2006/03/20(月) 12:11:45 ID:Ftw0LD/+0
「春姫の言う通りね。くれぐれもムチャなことして、
春姫の足引っ張っちゃったー、なんてことのないようにしてよね」
「わかってるって。お前こそ、春姫相手に変な意地張ったりするなよ」
「任せといて! あんたとの格の違い、きっちり見せてあげるから」
決して一時の虚栄心からではない、柊の芯のこもった一言。
柊のヤツ、いつからこんなに強くなったんだろうな……
「……じゃあ、行こっか。みんな」
春姫の号令で、俺たちは行動を開始しようとした。
そこへ。
「待たれよ、小日向雄真! そしてその連れ一行!!」
「つ……連れぇ!?」
後ろから聞こえたやけに尊大な口調に、柊が真っ先に反応する。
「今のはちょっと聞き捨てならないわね。誰が、誰の連れだって?」
「……すまない、柊殿。伊吹様が過ぎた事を申したようで」
「敵地に赴かれるのでしたら、私たちも是非同行させてください」
そこにいたのは、伊吹に信哉、沙耶のお馴染み3人組と……
「これでちょうど、役者は揃ったようね。
さて……出発の前に少しだけ、私の話、聞いて行ってはくれないかしら?」
俺たちの直接の師であり、俺の実の母親でもある人、御薙鈴莉先生だった。
「……先生も、ここにいらしてたんですね」
「私も少し、この地に個人的な用があってね」
御薙先生は軽く微笑むと、すぐに表情を強張らせ言った。
「あなたたちに是非知っておいてほしいの。これから、あなたたちが戦うこととなる相手……
その、正体について……」
「……これから戦う敵の、正体……?」
「是非教えてください、先生」
敵の情報は、多いに越した事はない。
俺たちはまず、御薙先生から精一杯の情報提供を受けることにした。
514
名前: 第14章「迫る凶兆、明かされる真実」(4/5) 2006/03/20(月) 12:17:03 ID:Ftw0LD/+0
「……高峰の、秘宝……?」
先生から発せられたその言葉に、目を丸くする俺たち。
「正確には、この地に祭られている高峰のご神体、いわば守り神といったところだけど」
「それって……式守の家にもあったあのすっごいのが、高峰にもあるってこと!?」
「まぁ……魔力キャパシティからすれば、ほぼ同等のものとみていいでしょうね」
あまりに唐突に告げられた、衝撃の真実。
驚き戸惑う俺たちに、御薙先生は淡々と事実を語ってゆく。
「式守の秘宝……それがどのようなものであるかは、もはや語るまでもないわね」
「あぁ……」
二度と忘れるものか、あの忌まわしき出来事……
「式守の秘宝は、もとは森に巣食う使鬼たちを鎮守の杜へと誘う装置……
その力が代々の当主の手で強められ、結果的に禍々しき力を得た経緯こそあれ、
それ自身が動いて人に危害を加えることは、原則あり得ない」
「……っ」
後ろで聞いていた信哉が、唇を噛みながら手にした風神雷神を堅く握り締める。
無理もない。自分の父が、主君から大切な人を奪うきっかけとなった宝の話だ。
「だが高峰の秘宝は、その生まれからして違う。
仮にも私は今『守り神』って表現を使ったけど、まさにその通りなの。
高峰の人間が、自らの信仰の拠り所として作り上げた偶像……それが、秘宝の正体」
「偶像……高峰の守り神……」
春姫はうつむいて、先生の言葉を噛み砕くように復唱している。
「そして最大の特徴として……それ自身が確固たる自我を持っているということ。
自分の意志で考え、動き、暴れ回る……そんな危険な生命体」
「……」
よくはわからないけど、これはとても大変な代物なんじゃないか……?
明確な自我を持たない式守の秘宝ですら、みんなあんなに手を焼いたのだ。
それがあまつさえ、自我を持って動き出したとあらば……
これはもはや、俺たちでどうこうできる次元を超えてしまってるんじゃ……!?
515
名前: 第14章「迫る凶兆、明かされる真実」(5/5) 2006/03/20(月) 12:22:36 ID:Ftw0LD/+0
「まぁ今回のケースは、そこまで心配する必要はないと思うわ」
「でも……先生……!」
「高峰の秘宝がその力を最大限発揮するのは、あくまで極レアなケース。
私たちはただ、力を発揮される前に、それをなだめて帰せばいいだけ」
「だけど……」
更に口を濁す俺の前に、信哉が躍り出た。
「俺は参ります。御薙殿」
「信哉……!!」
「俺はかつて、式守から賜った恩義に報いることができなかった……
しからばせめて、他の家にまでこの悲しみを広げぬべく、尽力する所存!!」
「私も……兄様と同意見です」
先生の前に立つ2人の意志は、とても固かった。
例え秘宝の前にその身を擲(なげう)とうとも、秘宝の暴走を止めてみせる……
そんな確固たる決意が、2人の身からひしひしと伝わってくるのがわかった。
「……わかりました。俺も……できることをやってみます」
俺もまた、先生にその決意を伝える。
信哉たちにこんないいカッコされちゃ、俺も黙ってる訳にはいかないからな。
「他のみんなも、決意はよろしいかしら?」
先生の問いかけに、みんなが次々と回答を返してゆく。
「覚悟はできてます、先生。私にできることがあれば、何でも」
「春姫が行くって言うなら、あたしだって行くわよ!」
「フッ……そなたにはまだ借りが残っておるからな。ここで存分に返させてもらうぞ」
とても心強い、仲間たちの言葉。
この仲間たちと一緒ならば、きっと何だってできるような気がするぞ。
「……あなた達なら、きっとそう言うと思っていたわ」
俺たちの言葉に、先生も安心したかのように微笑む。
「くれぐれも、気をつけてね。あなた達ならば、できると信じているわ」
「それじゃ、行って来ます! 先生!」
先生に出発の言葉を告げ、俺たちは意気揚々と森の中へ入って行った。
523
名前: 第15章「仕掛けられた罠」(1/3) 2006/03/21(火) 16:04:52 ID:D8avtBvW0
それから十数分ほど森の中を彷徨った後……
俺たちは、柊が森の中でヤツと出会ったという地点までたどり着いた。
「それで、どの辺にいたんだ? そいつは」
「んと……確か、このあたりだったと思うんだけど……」
柊がおずおずと、向こうの岩陰を指差す。
そこは見たところ、これまでと何の変わりもない森が続いているだけ。
……少なくとも、素人目に見れば。
「……確かに……感じるわね」
柊の指差す方向に、春姫が鋭い目線を向ける。
「……」
春姫の言う通り、その方角から、やけに忌々しい気配が伝わってくる。
魔法科に入って間もない俺ですら、これだけ鋭敏に感じられる程の気だ。
その気配だけで……それがどのくらいヤバイものなのかは容易に想像がつく。
「……」
春姫が静かに、こちらに目を向ける。
雄真くんは約束どおり、安全なところに下がっていて……
春姫の、無言の意思表示だった。
(……わかってる、春姫)
ここで俺が下手にでしゃばれば、皆の連携を崩すことになってしまう……
真っ先に敵の標的になることのないよう、俺は位置取りにも細心の注意を払い歩いてゆく。
524
名前: 第15章「仕掛けられた罠」(2/3) 2006/03/21(火) 16:06:02 ID:D8avtBvW0
「……!?」
ふと俺は脳裏に、あるイメージが浮かぶのがわかった。
強力なエネルギーが、ものすごい速度でこちらに向かってくるイメージ。
そして、その標的は……
「……春姫!!!!」
「え」
俺が叫ぶよりも早く、その一撃は襲いかかってきた。
ぎらぎらと黄色に輝く、高密度に集束された魔法の矢。
春姫が障壁を張るのはおろか、自分の状況を判断する余裕すら、与えられない……!!!
「ぬぅっ!!!!」
ガキィン……
だが間一髪で、信哉の太刀が間に合った。
打ち砕かれた魔力が、金色の光の粉となって霧散する。
「……無事か!? 神坂殿!!」
「ありがとう、上条くん……おかげで、戦闘態勢バッチリ整ったわ!!」
たった今起こった状況にもうろたえることなく、春姫は低い姿勢でソプラノを構える。
美女の魔法使いをかばって立つ、精悍な野武士の図。
……悔しいけど、絵になってるぜ、信哉。
「今だ沙耶!! 向こうの方角だ!!」
信哉の合図で、沙耶がサンバッハを静かに奏でる。
「幻想詩・第三楽章……天命の矢!!」
詠唱が終わると共に、幾筋もの光の矢が、敵のいる方角目がけて降り注いだ。
ちょうと、初弾のエネルギーが発射されたとおぼしき場所に。
「今のでわかりました……敵は、あそこにいます!」
「わかったわ! 行きましょう、みんな!!」
春姫の合図で、俺たちは敵の方へと駆け出していった。
525
名前: 第15章「仕掛けられた罠」(3/3) 2006/03/21(火) 16:09:12 ID:D8avtBvW0
迫ってくる、幾人もの人の気配。
私もよく知っている、馴染み深い魔力の流れ。
間違いない。彼らは今、私の仕掛けた罠に向かって来ている。
「………レ……ん……様……」
慈しむべきその『ご神体』に触れ、私はひとり、想いを巡らせていた。
検定直後というこの慌ただしい時期に、あえて雄真さんたちをここに招待した、本当の理由。
「雄真さんは、きっと……お怒りになりますよね」
ぐぉぉんと、その『ご神体』が私に応えかける。
数年ぶりに目覚めたばかりの、その『ご神体』。
ともすれば、あの式守の秘宝よりも強大な魔力を、その身に秘めし存在。
目覚めさせたのは、この私。
「……」
迷いはあった。
ともすれば私は、自ら友と信じるものたちの気持ちを、裏切りかねないことをしている……
だけど……それでも私は、確かめておきたかった。
ずっと前から感じていた、雄真さんと私との間に立ち塞がる妙な違和感の正体を……
タッタッタッタッ……
……やがて彼らの足音が、はっきりとした形で耳に飛び込んできた。
あと数分もしないうちに、彼らはここまでたどり着くであろう……
もう、迷う事は許されない。私はまっすぐ、雄真さんと向き合って来なければ……!!
「……それでは、行って参りますね」
ガシッ……
杖を握る手に力を込め、私は皆さんのもとへと向かって行った。
529
名前: 第16章「小雪の想い、雄真の運命」(1/4) 2006/03/22(水) 18:14:11 ID:KgX5vdlg0
そこには、魔法服姿の小雪さんがひとり立っていた。
柊が目にしたという化け物の姿は、微塵も見当たらない。
「……高峰先輩? どうしてここに……」
「皆さんこそ、朝早くからみんなでお散歩ですか?」
「……質問に質問で返すなんてフェアじゃないわ。何してんのよ、こんな所で!!!」
柊の敵意むき出しの発言にも全く動ずることなく、静かに微笑みを湛えている小雪さん。
「さぁ、何をしていたのでしょうか? 忘れてしまいました」
「とぼけてもムダよ!! だいたい怪しいと思ってたのよ……
小雪先輩があんな朝早くから1人で森の中にいるなんて、どう考えたっておかしいじゃない!!」
「でもあの時、柊さんもおひとりでしたよね。一体何をしてたんですか?」
「そっ……そんなの、先輩にはどうだっていいでしょう!?」
柊……お前の秘密特訓のこと、多分小雪さんにはバレバレだと思うぞ。
「……高峰先輩。私たちは、この森の中から発生している魔力の源について、
みんなで調査しているところなんです」
「……」
あくまで冷静な態度で、小雪さんに問い掛ける春姫。
小雪さんが静かに、春姫に目を向ける。
「疑いたくはありません……高峰先輩は、私たちにとっても大切な先輩ですから……
ですから……私の質問に、正直に答えてください」
「……わかりました」
小雪さんの返答を受け、春姫が一歩前に歩み出る。
530
名前: 第16章「小雪の想い、雄真の運命」(2/4) 2006/03/22(水) 18:15:09 ID:KgX5vdlg0
「杏璃ちゃんの質問の繰り返しになります。先輩はこの森で、何をなさっていたんですか?」
「……あるものを、目覚めさせて参りました」
「あるもの……?」
「はい……私にとっても、一番の親友のひとりです」
「……」
春姫はにわかに考え込んだが、やがてもう一度小雪さんに問い掛けた。
「もうひとつ質問です。高峰先輩が、私たちを温泉に招待して下さった本当の理由。
是非……お聞かせ願えませんか?」
「……」
今度は小雪さんが黙り込む番だった。
あたり一面に、気まずい空気が漂いだす。
「やはり……神坂さん相手では、隠し通せそうにありませんね」
小雪さんはふと、顔に笑みを浮かべた。
まるで、俺たちがここまでたどり着けたのを、楽しんでいるかのように。
「神坂さんが今、考えている通りです。私はいわば、皆さんを試すためにここに招待しました」
「試すため……だって?」
「はい。それと……もっと個人的な理由もあるんです」
ここで小雪さんはふっと一息つき、俺の方へ視線を投げかけた。
「それは……私が、雄真さんとの間に抱いている疑問」
「……俺への……疑問?」
「はい。雄真さんと出会ってから1年以上もの間、ずっと……抱えてきた疑問」
小雪さんが俺に……一体どんな疑問を抱いてるって言うんだ?
そんな俺の疑問をよそに、小雪さんは訥々と自らの心中を語り始める。
531
名前: 第16章「小雪の想い、雄真の運命」(3/4) 2006/03/22(水) 18:19:13 ID:KgX5vdlg0
「最初は……そうですね。雄真さんから見える数奇な運命に惹かれたのが、全ての始まりでした」
「……」
『あなた、とても不幸な相をお持ちですね』
入学早々小雪さんから告げられたあの言葉が、ふと頭をよぎる。
「その後、お母様が予言していたとおり、雄真さんの周りにはいろんな事件が巻き起こりました。
まるで、雄真さんが特別な星のもとに生まれていることを、象徴するかのように……」
「……」
思い返される、半年前の事件の記憶。
式守の秘宝を巡るお家騒動、そして明かされる俺の出生の秘密……
どれもこれも、普通に生きてたらまず遭遇しないような事件ばっかりだ。
「……そして事件が全て終わった時……私は、少し安心していたんです。
これで私は、雄真さんの運命を全て見届けることができたんだって……ですが……」
少しだけ言葉を止め、視線を斜め下に落とす小雪さん。
「私の、雄真さんへの興味は……決して、消えることはありませんでした」
「それって、どういう……」
「……見えるんです。雄真さんの歩む先に待ち構える、今までよりも更に波乱万丈な運命が……
それが具体的に、どのようなものなのか……私にも、わかりません」
「……」
「私はただ、その正体を知りたいだけなのかも知れません」
パチン!
小雪さんが指を鳴らすと、森の奥から何やら巨大なものが近づいてきた。
「私にはもう、この方法しか思いつかないのです……
雄真さんの中に眠る、その大きな力……そして、それを取り巻く皆さんとの強い絆……
そこにきっと、ヒントは隠されているはずですから」
「!!!」
突如として迫ってくる強大な魔力の持ち主に、思わず杖を構える俺たち。
そして現れた、そいつの姿に……
532
名前: 第16章「小雪の想い、雄真の運命」(4/4) 2006/03/22(水) 18:20:09 ID:KgX5vdlg0
「……!?」
場にいる皆が皆、言葉を失っていた。
背丈は、普通の人間の数倍ほど。
横向きになだらかな楕円を描くその体と、薄黄色のふかふかな表皮が、妙に目を引く。
っていうか……これって……
「カレーまんっすか!!??」
「ご名答。我が高峰家に伝わる伝統的アイドル、カレーまん様です」
「え……えっと……ι」
先ほどまでのシリアスな空気はどこへやら、呆気に取られやる気を失う一行。
「言い伝えによると、カレーまん様の体内に詰まったルーで作ったカレーは、
この世のものとも思えない極上のコクと旨みを醸し出すそうです。
私も一度、食べてみたいものです」
「……マジで?」
側にいる巨大カレーまんを見つめ、うっとりとした表情を浮かべる小雪さん……
何かそこだけ、俺たちの入り込めない別世界と化している。
「……はぁ。どーせこんなオチだと思ってたわよ」
「解せぬ……高峰の人間の考えることは、私には一生理解できぬわ」
俺の横で、柊と伊吹が本気で頭を抱えている。
しかし……なりはこんなでも、こいつは立派な『秘宝』のひとつだ。
油断してかかれば、命はない……!
「さぁ、見せてください。雄真さんの、皆さんの、力を……!!」
小雪さんの合図で、その『秘宝』が甲高い雄叫びをあげた。
「……来るぞ!!!」
俺が言葉を発するよりも早く、皆が一斉に動きだした。
539
名前: 第17章「決着〜それぞれの力〜」(1/11) 2006/03/23(木) 20:28:32 ID:vaINr0ol0
「エル・アムダルト・リ・エルス……」
春姫の詠唱に呼応して、ソプラノの先端が紅い輝きに包まれる。
「ディ・ルテ・エル……アダファルス!!!!」
ゴォォォォォォ!!!
杖の先端から、まばゆい帯状の炎が放たれた。
春姫の十八番、炎属性の直接射撃だ。
……だが、その分厚い表皮は、春姫の直接攻撃をものともせず受け流す。
直撃を受けた部分に、焦げ目ひとつ残されていない。
「……やっぱりね。この程度の攻撃じゃ、通用しないか……」
春姫が感心する暇もなく、『秘宝』は口を大きく開け、攻撃の構えを見せる。
シュウウウウ……ドォン!!!
その口から、強力な魔法弾が発射された。
先ほど春姫を狙ったものと同じ、高密度に集束された黄金色のエネルギー弾だ。
「散っ!!!!」
前衛に構えた信哉が、正確にその魔法弾を叩いてゆく。
しかしそれに臆する様子も見せず、敵は2手目、3手目を打ち込んでくる。
「やっ!! はぁっ!!! でぁぁっ!!!」
息つく暇もなく、その魔法弾を叩き落としてゆく信哉。
次第に風神雷神を握るその手が、ふるふると震えだすのがわかった。
……無理もない。あれほどまでに強力な魔法弾だ。
ただの一撃を返すだけでも、相当な精神力を消耗することだろう。
それが、あれ程まで立て続けに放たれたら、さすがの信哉でも……!!
540
名前: 第17章「決着〜それぞれの力〜」(2/11) 2006/03/23(木) 20:29:24 ID:vaINr0ol0
「……兄様。しばし下がっていてください」
「……頼んだぞ、沙耶」
信哉は魔法弾を弾くその手を止め、一歩後ろへと下がった。
たちまち襲いかかってくる魔法弾の雨を、沙耶の防御魔法が迎え撃つ。
「幻想詩・第二楽章……明鏡の宮殿」
キィィン……
張り巡らされた光の鏡が、敵の魔法弾を受け止める。
「これでしばらくは大丈夫です……ですが……」
沙耶の魔法障壁を狙って、更に多くの魔法弾が襲いかかってくる。
このままでは、障壁を抜かれるのは時間の問題……!!
「……ここは一気にカタつけないとね……春姫、アレ試してみない?」
「アレ? 実戦じゃ使ったことないけど、大丈夫?」
「あたしを誰だと思ってんのよ! いいから、行くわよ春姫!!」
「うん……杏璃ちゃん、しっかりタイミング合わせてね」
春姫と柊は互いにうなずき合い、フォーメーションを組んだ。
「エル・アムダルト・リ・エルス・ディ・ルテ……」
春姫が静かに、詠唱を始める。
その様子を、後列から隙のない目で見つめる柊。
「エル・アダファルス!!」
先程放ったのと同じ帯状の炎が、杖の先から放たれ……
「アデムント・アス・ルーエント!!!」
バッ!!!
炎は唐突に、いくつもの炎弾へと分かれた!!
炎弾の突然の変化に、思わずひるむ様子を見せる『秘宝』。
「ディ……アストゥム!!!」
春姫の巧みなコントロールで、炎弾が『秘宝』の全身を取り巻き……爆発する!!
541
名前: 第17章「決着〜それぞれの力〜」(3/11) 2006/03/23(木) 20:32:52 ID:vaINr0ol0
グァァァァ!!!
その衝撃で、『秘宝』がわずかに隙を見せる。
その隙を、柊は見逃さない!!
「こっちが本命よ……ウォルク・ラ・アウル・フォーラスト・フェイム・エフス!!!!」
ギュオオオオオオオ!!!!
敵の魔法弾の数十発分の魔力が、『秘宝』目がけて発射される!!!
ズドォン……
それは『秘宝』の体を見事貫き、空の彼方へと飛んでいった。
「いぇいっ、決まったぁ!!!」
自分の魔法の成功を確認し、思わずガッツポーズをとる柊。
「す、すげぇ……」
春姫の手数重視の魔法弾で敵の動きを封じ、その隙に柊の威力重視の魔法で刺す……
まさに理想のコンビネーションだ。
こいつら……俺の知らない間に、どこでこんな完璧な連携プレーを……?
「ふっ……私のことも忘れてもろうては困るぞ」
『秘宝』の頭上には、早くも伊吹が展開した紅き魔法陣が広がっている。
かつて瑞穂坂を絶望の淵へと陥れたそれが、今や俺たちの希望の象徴だ。
「ラ・ディーエ!!!!」
伊吹の一声で、ものすごい量の光の雨が『秘宝』目がけて降り注いだ。
それらは確実に『秘宝』の姿を捕らえ、打ち据える!!
グルルルル……
後に残されたのは、こちらの波状攻撃で満身創痍となった『秘宝』の姿だった。
「……やっぱすげぇわ、みんな」
たった1人でも心強いClass Bの使い手が、何と3人も……!!
こいつらの手にかかれば、きっと倒せない敵なんていないんじゃないか?
542
名前: 第17章「決着〜それぞれの力〜」(4/11) 2006/03/23(木) 20:34:04 ID:vaINr0ol0
……だが。
グ……グォォォォ!!!
「!!?」
あれ程の攻撃を受けていながら、なおも変わらぬ叫びをあげる『秘宝』。
「まさか……嘘だろ……?」
しかもまずいことに、今の攻撃で『秘宝』はすっかり機嫌を損ねてしまったらしい。
『秘宝』から発せられる気の量が半端でなく増えているのが、何よりの証拠だ。
こんなの……一体どうしろって言うんだよ……!?
ガッ……!!!
「……来るわ!! みんな下がって!!!」
春姫が叫ぶと同時に、『秘宝』の口から超強力な魔法弾が発射された。
先ほどのものとは比べ物にならないほど、太くて強力なエネルギー……!!
「ディ・ラティル・アムレスト!!!」
春姫の前方に、幾重にも重ねられた魔法障壁が展開される。
その障壁は、『秘宝』の放った魔法弾をがっちり受け止め……
「……!?」
にわかに春姫の表情に、翳(かげ)りが見えるのがわかった。
ぐいぐいと押し込められてゆく、春姫の魔法障壁。
その衝撃は、坂道を転がるダンプカーを片手で押し上げる苦行にも似て……
「……ぐっ……あふ……っ」
衝撃に耐えかね、ひとつ、またひとつと消えてゆく春姫の障壁。
その数に比例して、春姫の表情が、どんどん険しくなってゆく……
「ぃやっ……あああああ……っっ!!!!」
耳を劈(つんざ)くほどの、春姫の悲鳴。
その声は、俺にあるひとつの決意を迫っているように思えた。
543
名前: 第17章「決着〜それぞれの力〜」(5/11) 2006/03/23(木) 20:35:35 ID:vaINr0ol0
(もう、これ以上……)
指輪をはめた右手で、がしっと汗を握りしめる俺。
(春姫だけに……負担をかけるわけには……いかないっ……!!!)
気がつけば、俺は地面を蹴って、春姫のもとへと駆け出していた。
がくがくと震える春姫の腕に手を添え、腕の震えを抑え込む俺。
「雄真……くん……!?」
「俺の魔力を……春姫に……だから、春姫はそのまま……」
「……うん……いくよ、雄真くん……!!」
それ以上の言葉は、もはや俺たちには不要だった。
目を閉じ、右手に触れる春姫の温かさにのみ、気を集中させる……
「「エル・アムダルト・リ・エルス……」」
じわじわと、俺の中にある熱が春姫の中へと流れ込んでゆく感覚。
それはまるで、俺の心を満たす春姫への熱い想いにも似ていて……
「「レイテ・ウィオール・テラ・ヴィストゥム……カル・ア・ラト・リアラ・カルティエ……」」
まばゆい光の中に溶け込んでゆく感覚の中、俺たちは静かに、言葉を紡いだ……!!
「「ディ・エル・クォーナ!!!!」」
544
名前: 第17章「決着〜それぞれの力〜」(6/11) 2006/03/23(木) 20:37:28 ID:vaINr0ol0
「……あれ?」
気がつけば俺たちは、雪降り積もる冬の大地に、2人してぺたりと座り込んでいた。
春姫が俺の肩に寄り添い、はぁはぁと肩で息をする。
「……どうなったんだ? ヤツは……」
「……わかんない……雄真くんの魔力を、『秘宝』の魔力に干渉させたところまでは、
何とか覚えてるけど……」
あれ程俺たちを苦しめた『秘宝』の姿が、微塵も見当たらない。
ちょうど俺の魔力と『秘宝』の魔力が拮抗していた地点に、何やら妙な茶色の液溜まりが生じ、
カレーのいい匂いをふわふわと漂わせている。
「……『秘宝』のヤツなら、さっき向こうに行っちゃったわよ」
柊が俺たちのもとへ駆け寄り、状況を説明する。
「ホンット、アンタってバカよね……
今のはたまたま春姫が魔力をうまくコントロールしてくれたからよかったけど、
一歩間違えたら、アンタも春姫も、無事じゃ済まなかったんだから……」
呆れたように、それでいてどこかホッとしたように、柊がつぶやく。
「あはは……ホントにバカだよな、俺」
柊や春姫にあれだけ前には出てくるなって、釘さされたばっかだったってのに……
思い返すと、自分のカッコ悪さに思わず笑みが浮かんでくる。
「……全くだ、小日向雄真よ。そなたとの決着はまだ着いておらんのだから、
勝手に死に急ぐような真似は、金輪際やめにしてもらおうか」
「あぁ……悪かったよ、伊吹」
「ともかく、無事でよかったです……小日向さん、神坂さん」
心の底から、俺たちのことを本気で心配してくれる仲間たち。
俺は心底、この仲間たちと一緒で本当によかったと感じていた。
545
名前: 第17章「決着〜それぞれの力〜」(7/11) 2006/03/23(木) 20:39:10 ID:vaINr0ol0
「お疲れ様です、雄真さん……そして皆さん」
やがて森の奥から、コトの元凶である小雪さんが姿を現した。
「さすがです……あのカレーまん様を、見事撃退してしまわれるとは……
やはり、私が見込んだだけのことはありますね」
「……アハハ……ι」
確かに褒められてるはずなのに、何だか釈然としないのはどうしてだろうか。
そして、小雪さんの横からもうひとり……
「ハイ! みんな、どうもお疲れ様」
意外な人物が、ひょっこり顔を出してきた。
「み、みっ……御薙先生!!?」
それは確かに……御薙先生だった。
「まさか……今回の元凶は……」
「えぇ。今回の事件は、私と高峰さん、2人で考えたものだったの」
呆れ返る俺たちをよそに、御薙先生は真実を語ってゆく。
「始めに話があったのは、高峰さんの方からだったわね。
高峰の家に伝わる秘宝の力を、数年に一度、解放するときが近づいている……
その解放の儀に、是非私も参加して欲しいと……」
「はい……ですが、ただ解放するだけでは面白くありませんから……
御薙さんとお話して、今回の計画を思いついたんです」
「……えーと、それは……」
つまり何ですか? 俺たちは先生や小雪さんの一時の楽しみのために、
散々おもちゃにされてきたってことですか?
「あ! ですが……雄真さんの未来のことが気になるっていうのは本当ですよ?
雄真さんの未来は、いつ見ても波乱万丈で見てて飽きませんから」
「あぁ……そりゃ……どうもι」
小雪さんに自分の未来のこと褒められても、あんまり嬉しくないんですが。
546
名前: 第17章「決着〜それぞれの力〜」(8/11) 2006/03/23(木) 20:43:33 ID:vaINr0ol0
「それにしても……みんなも本当に、随分成長したわね」
御薙先生がふと、嬉しそうに頷きはじめた。
「まずは上条くん兄妹……お兄さんの退魔の力を、妹の沙耶さんがうまくフォローできてたわね。
相変わらず、素晴らしいコンビネーションだったわ。是非今後とも、兄妹仲良くね」
「……いや、俺はまだまだ未熟だ……
沙耶を、そして伊吹様をお護りするためにも、俺はますます精進せねば……」
「せめて褒め言葉くらいは素直に受け取っても、バチは当たりませんよ。兄様」
「そうか……そうであったな。御薙殿、お褒めにあずかり感謝する」
何だか相変わらずだよな……この2人も。
「伊吹さんも……周りに反発することなく、しっかりと自分の務めを果たしていたわね。
那津音様も、きっと側で喜んでいるわよ」
「……勘違いするな!! 私はそなたへの借りを返しただけのこと!!
それ以上でも以下でもないわ!!」
「フフ。そういうことにしておくわね」
思えば……あの伊吹と共に戦う日が来るなんて、あの時は全く想像もできなかったよな。
「で、柊さんだけど……もう少ししっかりと、周りを見つめる余裕ができるといいわね。
神坂さんとのコンビネーション攻撃は、なかなかよかったと思うけど」
「うぅ……相変わらずキビシイ……」
御薙先生にしっかり釘をさされ、さすがの柊も少々ヘコみ気味だ。
「そして、何より……」
そう言うと、御薙先生は何やら含みのある目線をこちらへ向けた。
「……な、何すか? 先生……ι」
「まさかあのタイミングで、神坂さんを助けに向かうなんて……お母さん、少し見直したわ」
「へ、変なこと言うなよ母さん!! あれは、その……」
「フフ。照れなくてもいいのよ。まさかあの雄真が、もう一度魔法で誰かを救う日が来るとはね」
「あ……」
思えばこうやって、誰かのために本気になったのって、一体どれくらいぶりのことだろうか……
547
名前: 第17章「決着〜それぞれの力〜」(9/11) 2006/03/23(木) 20:44:23 ID:vaINr0ol0
「春姫……」
俺はふと、俺の肩に寄り添っている彼女のもとへと振り返った。
「ふふ……また、雄真くんに助けられちゃったね」
「春姫……ゴメンな。あの時は、俺も無我夢中で……」
「うぅん、いいんだよ。雄真くんがまた、あの時と同じように私を助けてくれた……
それだけで、私……」
「春姫……」
俺は胸に込み上げる想いに耐え切れず、そっと春姫の体に手を回し……
「あらあら。おアツいのね、お2人とも」
「!!!!」
御薙先生の声に、俺たちはふと我に帰った。
「あ、いやっ、これは、その……」
「フフフ。おあつい、おあついです」
小雪さんまで先生に同意するかのように口元をニヤニヤさせ始めるし!!
「さてと、お邪魔虫は早々に退散しなきゃね。じゃねー、春姫!」
「あ、杏璃ちゃん!! 私は、ただ……///」
「お疲れ気味の皆さんのために、カレーライスを用意させて頂きました。
先程採取したカレーまん様のルーで作った、高峰家特製の味です」
「ほう……南蛮渡来の米料理か。俺も少し、興味を持っていたところだ。
では、小日向殿、神坂殿! 俺たちはしばし失礼致す!!」
「フフ。末永くお幸せに、小日向さん」
「お前らいー加減にしろーーーーーーーーー!!!!」
何だかいつもの調子で、この場はお開きになってしまった。
548
名前: 第17章「決着〜それぞれの力〜」(10/11) 2006/03/23(木) 20:49:51 ID:vaINr0ol0
「ったく、あいつらときたら……ほら春姫、もう立てるか?」
遅れて俺もゆっくり立ち上がり、春姫に手を差し延べた。
しかし春姫は、俺の手をつかんだまま、そこから立ち上がろうとしない。
「……? どうした、春姫……」
「あの……私……カレーライスは、あんまり好きじゃないし……
それに……今はあの、その……」
「俺といっしょにいたいから……ってか?」
「……もぉ。雄真くんったら……///」
ま、かわいい彼女のせっかくの頼みだしな……
俺は小雪さんのカレーライスを我慢し、しばらく春姫とふたりっきりの時間を楽しむことにした。
その後、遅れて入ったカレーパーティで、小雪さんたちに散々からかわれたのは、言うまでもない。
549
名前: 第17章「決着〜それぞれの力〜」(11/11) 2006/03/23(木) 20:53:02 ID:vaINr0ol0
「……何だか、あっという間の2日間だったよな」
「そぉ? いろんなことがありすぎて、あたしはすっかり疲れちゃったわよ……」
夕日差し込むワゴンの中で、柊が不貞腐れるように言葉を漏らす。
「でも、わたしはすっごく楽しかったですよ!
久しぶりに、姫ちゃんや伊吹ちゃんたちといっぱい遊ぶことができましたし」
「うぅ……結局姫ちゃんとあんまりお近づきになれなかった……しくしく」
「何か約1名ほど、楽しみの方向性を間違っちゃってるヤツもいるけどね」
「あはは……ι」
帰り際でもまだにぎやかな車内で、俺もふと笑みをこぼしていた。
いつもの日常とは少し違うけど、いつもと変わらないメンバーで過ごした、とても貴重な2日間。
きっと大人になっても、この2日間のことはずっと忘れないだろう。
「楽しかったか? 春姫」
「うん……ちょっと慌ただしかったけど……高峰先輩に、ちょっと感謝……かな?」
「あぁ……そうだな」
向かい合い、互いに微笑みを交わす俺たち。
「またいつか、このメンバーで温泉に行きましょうね……小雪さん」
「えぇ……カレーまん様もきっと、皆さんの再来を心待ちにしてますよ」
「うぇ……それはさすがに勘弁ι」
きっと待っているであろう、瑞穂坂の騒がしい日常へ向け。
俺たちを乗せた車は、どこまでも高らかに唸り声を上げていた。
「……ところでこの車、一体誰が運転してるんすか?」
「フフフ……それは秘密、です」
「ほなここでいっちょとばすでー!! きばりや兄さん!!!」
「え゙☆」
(終わり)
■戻る■