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七瀬と香月

361 :七瀬と香月 :04/10/14 00:35:07 ID:p4zC+KZy
19:30 BOOKSHOP 蔵の中 18禁書籍コーナー
(これと・・・・この本も使えそうかしらね?・・・後は・・・)
蔵の中の18禁コーナーで女性雑誌を物色する高遠七瀬の姿があった。
(私、どんどん悪い子になっちゃうわ・・・でも浪馬君のためだもの)
先日生まれて初めて男に、浪馬に抱かれた七瀬は浪馬への想いをますます
強くしていた。
(この前は痛くて気絶しちゃったけど、次からは・・・・・・・・)
(エッチなこともちゃんと勉強して、浪馬君を喜ばせてあげたいの)

七瀬は、要するにどうしようもなく真面目な少女だった。たとえそれが
不慣れな性行為であろうとも、満点を取ろうと考える性格だった。
『18歳未満及び高校生への販売は禁止されています』の張り紙にチクチクと
良心を痛めつつ、それでも七瀬は中身を確認しながら雑誌を選んでゆく。
(これだけあれば・・もう十分ね・・・・でも問題はこれからよ)
七瀬は顔をあげ、遠くに見えるレジを凝視する。
(だ、大丈夫よね? バ、バレないわよね?)

362 :七瀬と香月 :04/10/14 00:37:28 ID:p4zC+KZy
私服に着替えた七瀬は、元々大人びた顔立ちのせいもあり、知らない者が見れ
ば十分女子大生で通じるだろう。しかし人一倍モラルを重んじる彼女は、哀れ
なほどに緊張していた。

(じょ、条例違反よ、条例違反、私条例違反するのよ)
(でも行かなくっちゃ。浪馬君との未来のために!)
(ルビコン川を渡るの!)

大きく一つ深呼吸すると、七瀬はレジへ向かって足を踏み出した。
そこへ

 「あれ? 高遠さん・・・・だよね?」

背後から声をかける者がいた。

363 :七瀬と香月 :04/10/14 00:38:45 ID:p4zC+KZy
七瀬「ひゃ!?」
突然名前を呼ばれて七瀬は思わず硬直する。慌てて振り向くとそこにまだ
中学生とおぼしき少女がニコニコしながら立っていた。

七瀬「・・あ、あなた誰? ど、どこかで合ったかしら?」
少女「うぅ・・ヒドイなあ、高遠さん。忘れちゃった? 香月、沢村香月だよぉ!」
七瀬「あ、さ、沢村先生? お、お久しぶりです・・・」
今年の初夏、頼津学園にやってきた実習生を七瀬は思い出した。
香月「実習も終わったし、今はもう先生じゃないけどね」
七瀬「す、すいません気が付かなくて」
香月「短い付き合いだったから、仕方ないよね。
そういや、高遠さんはまだ自治会頑張ってるの?」
七瀬「はい」
香月「エライエライ。ところで何の本持ってるのかな?」
七瀬「え?」
七瀬が胸に抱えている雑誌を香月は興味しんしんで指差した。

364 :名無しさん@初回限定 :04/10/14 00:42:40 ID:t8cezoWI
七瀬「あの、こ、これは・・・」
(ど、どうしよう? まさか先生に見つかるなんて)
香月「隙あり! とりゃ!」
七瀬「あっ」
香月は素早く雑誌を一冊七瀬の手から奪い取ると、パラパラとめくりだす。
子供っぽい外見どおり、やることも子供っぽいのが香月だった。
香月「特集・・彼が貴女から離れられなくなる口技ぃ?・・高遠さん?」
七瀬「は、はいっ?」
七瀬の声が裏返った。
香月「むふふふふふふ、高遠さんもこんなの読むんだ?」
七瀬「あぅぅぅぅぅ・・・」

365 :七瀬と香月 :04/10/14 00:44:08 ID:t8cezoWI
香月「意外だなあ・・・でもいくら何でももこれは刺激強すぎない?」
ちょっぴりどぎつい性技指南のページを開いて七瀬に見せると、
香月が苦笑した。
七瀬「・・・・・・・・・」
七瀬は羞恥のあまり身がすくんだ。
香月「興味あるのはわかるけど、高遠さんが買っちゃいけない本だよ?」
七瀬「・・・・・・はい」
香月「実習は終わったけど、さすがにちょっとこれは放置できないよ」
七瀬「・・・・・・はい」
香月「ほら雑誌を本棚に返しなさい。それで見なかったことにしてあげるから」

366 :七瀬と香月 :04/10/14 00:45:41 ID:t8cezoWI
七瀬「せ、先生・・・・」
香月「ん? なに?」
香月が正しく、間違っているのは自分。そんなことは百も承知だった。
しかし七瀬には今、是が非でも本を手に入れたい切実な理由があった。
(ろ、浪馬君のためなら)

七瀬「お、お願いです! 見逃してくださいっ!」
香月「え?」
七瀬「悪い事なのはわかってます。でも、でもどうしても必要なんです!」
香月「こ、こんな雑誌が?」
七瀬「そうですっ!」
香月「高遠さん・・・」
七瀬「先生・・お願い・・・お願い・・・お願いします・・・・」
七瀬は自分の胸ほどの背丈の香月に何度も頭を下げた。
周囲に他の客がいなかったのが幸いといえば幸いだった。

367 :七瀬と香月 :04/10/14 00:46:39 ID:t8cezoWI
七瀬の必死の嘆願にあっけに取られていた香月は、
それでも年上らしい気配りを見せた。
香月「そんなに頭下げないでよ。うーん・・・何かワケがあるのね?」
七瀬「は、はい・・・」
香月「でもこんなモノいったい・・・あ・・・ああ、そっか」
七瀬「先生?」
困惑顔の香月の表情がニヤニヤ笑いへと急変する。
香月「えへへへへへへへ、高遠さん?」
七瀬「な、なんでしょうか?」
香月「いい人できたんでしょ?」
七瀬「・・・・・・!」
香月「それでこんな雑誌が欲しくなったんだ?」
七瀬「あ、あの、あの、あの、あの・・・」
香月「むふふふ、自治会の副会長さんもなかなかやるじゃないの」
香月は満面の笑みを浮かべ、肘で七瀬のお腹をツンツンと突いた。
七瀬「あうぅ」七瀬は顔をあげられなくなった。

368 :七瀬と香月 :04/10/14 00:50:34 ID:t8cezoWI
香月「ね、高遠さん」
うつむいたままの七瀬の顔を覗き込むと、香月は優しく言った。 
  「教師を目指す者として見過ごすわけにはいかない事だけど、
   女としては貴女の気持ちもよくわかる。今日ここで合ったのも
   何かの縁かもね。だから協力してあげるよ」
七瀬「先生・・?」
香月「ほら高遠さん、残りの本も貸しなさい」
七瀬「え?」
香月「あなたが買っちゃいけない本だって言ったでしょ?」
七瀬「は、はい」
香月「私が代わりに買ってあなたに渡すから」
七瀬「え?」
香月は有無を言わせず雑誌を奪い取ると、さっさとレジに向かう。
七瀬「あ・・・先生・・・」
香月「あなたはそこに居なさい。後でお金だけ返してねー」

369 :七瀬と香月 :04/10/14 00:52:10 ID:t8cezoWI
(先生・・・・・・・)
七瀬は意外な香月の行動に驚きながら、感謝の気持ちでいっぱいになった。
(外見は子供みたいな人だけど、私なんかよりずっと大人なんだわ・・・・)

(え?・・・外見が子供・・・・?)
七瀬は、ふと恐ろしい現実を思い出し、慌てて香月の後を追いかけた。
「せ、先生! 待ってください」
しかし既に遅かった。レジの方から香月のお子チャマなキンキン声が
声が響いてくる。

「なんですって?! わ、私はもう大人だってば!」

370 :七瀬と香月 :04/10/14 00:53:30 ID:t8cezoWI
七瀬が駆けつけると、既にレジの前で香月と店員の珍問答が繰り
広げられていた。

香月「だから、私はもう大学生で・・・」
店員「そんな嘘言っちゃダメだよ、お嬢ちゃん。ママはどこかな?」
香月「マ、ママ?」
店員「この本はね、もっと大きくなってからにしようね」
香月「し、失礼ね。大学生の私に向かって何てこと言うの!」
だがレジの前でブンブンと腕を振り回す香月は、大学生どころか小学生
にしか見えない。
店員「大学生? 難しい言葉を知ってるんだね?」
香月「あ、あのねえ」

371 :七瀬と香月 :04/10/14 00:55:13 ID:t8cezoWI
七瀬「先生っ!」
香月「あ、高遠さん。言ってやって言ってやって、私が大学生だって」
七瀬「えーっと・・・」
(い、言ったって無駄よ。私から見ても小学生だもん・・あ、そうだ)
七瀬「先生、免許か何かお持ちじゃないですか?」
香月「あ、そうそう。ほらこの学生証を見なさい!」
香月がバッグから学生証を取り出す。
店員「顔写真のところに犬の写真が張ってあるけど・・よくできたオモチャだなあ」
香月「だからそれは私の友達が張ったの! ちゃんと下には私の写真が!」


372 :七瀬と香月 :04/10/14 00:57:03 ID:t8cezoWI
20分後 BOOKSHOP前
七瀬「はぁ・・・」
香月「ひぃ・・・」
散々すったもんだした挙句、なんとか店員に納得してもらった二人は、
ようやく雑誌を手に入れて、店の外に出た。
七瀬(大騒動になってしまったわ。し、しばらくはこの店に来れないかも)
香月「ったく・・・いつもこうなんだから。私の何が悪いっていうの?」
七瀬「・・・・・・・」
その外見では仕方ないと思いつつ、香月が気分を悪くするだろうと考え、
七瀬はコメントを控えた。
香月「このレディを捕まえて中学生だ、小学生だなんて、ホント失礼
   しちゃうでしょ?」
七瀬「・・・・・・・・・」
七瀬は、やはり何もいえなかった。嘘が言えない性格なのだ。
香月「高遠さん、ほら早く行こうよ。店員のヤツ、まだこっち見てるよ」
七瀬「あ、はい」

373 :七瀬と香月 :04/10/14 00:59:08 ID:t8cezoWI
駅前広場
二人はとりあえず近くの駅前広場まで移動した。

七瀬「先生、お代金です」
香月「ありがと。じゃあこれがあたなの本だから」
七瀬「すいません。ご迷惑かけてしまって」
香月「え? うん、平気平気いつものことだから」
七瀬「でも・・・」
香月「気にしない気にしない・・あ、そうだ、お礼といっちゃなんだけど」
七瀬「はい」
香月「高遠さんの彼氏の名前、教えてよ、えへへへへ」
七瀬「あ、あの・・あ・・それは・・・」
香月「むふふふふ、やっぱ恥しい? じゃあ・・・私が当ててみようかな」
七瀬「え・・・」
(実習でほんの少し学園にいただけ、そんなことがわかるのかしら?)

374 :七瀬と香月 :04/10/14 01:00:29 ID:t8cezoWI
香月「ほらバスケ部に格好イイ子がいたよね。えーっと、雨堂クンだっけ?」
七瀬「え? ち、違います」
香月「外れたか。美男美女でお似合いかと思ったんだけど・・・じゃあ・・」
七瀬「せ、先生、もう止めてください」
香月「そうそう、本命を忘れてたわね」
七瀬「え? 本命?」
香月「織屋浪馬クン」
七瀬「えっ・・・・・・!?」
香月「えへへへへへ、当たった?」
七瀬「・・・いえ、あ、あんないい加減な人なんて私は・・・」
(ど、どうして? どうしてわかったの?)
香月「これもダメか。私の勘は結構あたるんだけどなぁ」
七瀬は驚きながらも、香月が浪馬と思った理由を尋ねたくなった。
七瀬「あの・・・せ、先生・・どうして織屋君だと思ったんですか?」

375 :七瀬と香月 :04/10/14 01:01:47 ID:t8cezoWI
香月「そうね、あなた達二人は縁がありそうだったから」
七瀬「縁・・・・・?」
香月「短い実習期間だったけど、二人の噂は沢山聞かせて貰ったよ?」
七瀬「・・・・・・・」
香月「いつも衝突してたみたいね。でもそれも縁なんだよ」
七瀬「縁・・・・・・私と浪馬君の・・・・・」
香月「そ、今日偶然私と高遠さんが再会したのも何かの縁。あなたが
   織屋君の天敵になったのも縁。何か繋がりがりがあるのね」
七瀬「・・・・・・・縁・・・・・」
香月「どうしたの? 急に考え込んじゃって?」
七瀬「い、いえ・・・何でもありません」
香月「ふーん。ま、いいや。これ以上聞かない方がいいみたいだし、むふふ」

376 :七瀬と香月 :04/10/14 01:03:27 ID:t8cezoWI
夜の頼津町 交差点

七瀬「先生、今日はありがとうございました」
香月「いいの、いいの。このくらい」
七瀬「では失礼します」
香月「えへへへ、彼のために頑張ってお勉強するんだよ?」
七瀬「あ・・・・・はい・・・・」
香月「じゃあ行くから。バイバイ高遠さん。またどこかで会えるといいね」
七瀬「縁があったら・・・ですか?」
香月「うん、そうだね!」
香月は手をヒラヒラと振ると、トテトテといかにも
子供っぽい走り方で去ってゆく。

377 :七瀬と香月 :04/10/14 01:04:44 ID:t8cezoWI
(本当に子供にしか見えない人よね。でも浪馬君を私の相手に連想する
なんて凄い観察力だわ。ひょっとして良い先生になれる人なのかもしれない)
七瀬は香月見送りながら、ふとそう思った。

(そうね、第一印象で決め付けちゃいけないのよね。そもそも浪馬君だって)
七瀬はクスリと一人笑った。
入学以来ずっと目の仇にしてきた浪馬を、今は愛しくてならない自分なのだ。
(不思議な話・・先生の言うとおり浪馬君と私には縁があったのかも知れない)
(・・・・先生のお蔭で、私何か大切なことを知った気がする)

七瀬は香月が消えた方角に、もう一度ぺこりと頭を下げた。
そして家路へとついた。
七瀬と香月 END

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