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説教される中年二人

さて、どうしたものか。
九鬼耀鋼は難しい顔をして考え込む。
場所は神沢高等学校の廊下、時刻は恐らく12時半前後。
「大体、あなたがた大人が率先して分別を示すのが筋というものでしょうに、何を子供みたいに――」
頭の上から降ってくる叱責を意識から遮断。
ちらと隣に目をやると、ひょろりとした眼鏡の中年がうつらうつらと舟を漕いでいた。
この野郎、何をのうのうと――!
思わず腰を浮かしかけた瞬間、冷ややかな声。
「聞いていますか、九鬼さん」
「ああ、聞いている」
腰を落として、脚を組みなおす。
鍛え上げた肉体は正座程度でどうこうなるほどやわではないが、周囲の学生たちから向けられる好奇の視線はいかにも痛い。
「放課後ならまだしも、昼休みに大人二人で双七さんを取り合って喧嘩とは……。それが分別のある大人のやることですか」
煙突から跳躍して高速道路上の車を叩き斬る女に言われたくはない。
「それはルートが違います」
ぴしゃりと。
取り付くしまも無かった。
溜め息を一つ。

この女がいっそ敵なり何なりならば話は簡単なのだが。
こと殺し合いにおいてであれば、一乃谷の化け物女が相手でも遅れをとることはないだろう。
だがしかし、この説教というのは宜しくない。
なまじこちらに非があるだけに強くも出にくい。
せめて第三者からの取り成しでもあれば……とそこまで考えてふと気付く。
「……双七はどこいった」
「双七さんは授業開始が近いので教室に戻られました」
ばっくれやがった。
覚えてろ、あの馬鹿弟子。
だが、今の一言には希望も含まれていた。
「お前も、そろそろ教室に行った方が良いんじゃないのか」
「自習です。加藤先生の授業ですので」
そこまで言って、ようやくその視線が加藤に向かった。
一人居眠りでやり過ごそうとした罰だ、今度はお前が矢面に立ってみろ。
嘲笑の混じった安堵の溜め息。
瞬間。
風をまいて文壱の鞘が走った。
ごっ、という鈍い音。
一撃で綺麗に意識を刈り取られて、壁に激突する加藤。
骨は折れていないな、などと冷静に分析する俺。
一切表情を変えないままで化け物女は視線を俺に戻す。
「そもそも、ついこの間の日曜日も双七さんは私との先約があったにも関わらず加藤先生に拉致されて麻雀に――」
何故俺が加藤の分まで説教されなくてはならないのか。
「聞いていますか」
「……ああ」
あと一時間。
絶望の長さだった。
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