『レベルジャスティス』から

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「それでは、これより会議を始めたいと思います」
 青空荘地下の会議室。悪の組織『ヴァルキル』のアジトの一画で定例会議が開かれようと
していた。
 私のこの組織での仕事は、怪人の作成と研究である。
 悪の組織といえば怪人。怪人なくして悪の組織なし。つまり、この悪の組織『ヴァルキル』の
存在意義の一翼を担っているのが、どちらかと言えば天才である私、柳川千夜といえよう。
 だがどちらかと言えば天才であるこの私は慢心はしない。組織あってこその私であり、
ヴァルキルの為に、私こと『Dr.ヘルナイト』が存在するのである。どちらかと言えば天才は、
謙虚さも忘れない。それが明日への高感度UPへとつながるのだ。
 だから、私の作成した怪人が大活躍をして多大な成果を上げたとしても、戦闘隊長に
恩着せがましくしてお腹に三日消えない痣をもらったりなんかしないし、満を持して調整した
怪人が作戦の不備により敗北して帰ってきたとしても、戦闘隊長に嫌味を言ったりして
頬の腫れが一日引かなかったなんてこともない。決してない。
「――ですから、先の戦闘では、怪人とコゾーンたちとの連携不足により、部隊が
 分断されてしまったことが敗因だと思われます」
 会議では、作戦部部長であり、戦闘隊長である魔将キリッサが先の作戦における失敗の
言い訳をしていた。しかもなぜか殊更こちらに強調するように。まるで私が悪いと
言わんばかりに。失敬な奴だ。
「責任の押しつけはみっともないぞ。実行部隊長」
「なっ、あんたも少しは責任を感じなさいよ! 怪人と直接コミュニケーション取れないん
 だから、どうしても不測の事態に対処が遅くなるのよ!」
「そのためにウーリンとアーネウスを作ってやったろう」
 冥獣ウーリンと冥獣アーネウスは、私が作戦部の要望にしたがって開発した人との対話による
コミュニケーションが可能な画期的怪人だ。本人たちは、他の怪人たちとの意思疎通が
可能なため、その通訳に成り得る。

「ウーリンはあのとき別部隊を展開していたし、アーネウスは緊急事態にさっさと
 あんたのところに行っちゃったじゃないっ!」
「非常事態においては、御主人様の安全の確保が、私の最優先事項ですので」 
 私の背後に控えるアーネウスが、済ました顔でしれっと応える。
 うむ。作成した私が言うのもなんだが、主思いのいい怪人だ。
「こらっ! にやけ顔でなに頷いてるのよ!」
「キリッサ、落ち着いて。いまは、責任の追及より、今後どうすべきかの方が重要です」
 真っ赤な顔で机を叩いて、こちらを指さすキリッサをなだめる冥将シアシア。
実質この組織の運営の切り盛りをしているNo.2だ。
「は、はっ! すみません。シアシア様」
「それで問題は、いまの戦力と状況だと、不測の事態が起きやすく人員も必要な、
 大規模な作戦は難しいということかしら」
「はっ、はい。駒だけ揃っていても、それを巧く動かせないことには……」
「ドクター、なにかよい案はないのか?」
 いままで上座で黙って聞いていた冥界真帝ヘルオー様が、私に問いかける。ヘルオー様は、
見かけは子供っぽい……、いや、中身も子供っぽいが我々のボス、この組織のリーダーである。
そのボスに全幅の信頼をおいて訪ねられている立場の私としては、そこで、否、と答えよう
はずもない。
「ひとつ。宜しいですか」
「うむ。許す。なんだ」
 静かに手を上げ、ヘルオー様に伺いを立てる私を急かすように、ヘルオー様が頷く

「この問題は、単純に、人との対話によるコミュニケーションが取れる怪人が増えれば、
 解決するでしょう」
「うん。そうだな」
「ただし、このような怪人を生成するのは、膨大な予算と時間がかかります。いままでの
 怪人を作成するよりもずっと。それに、そのような怪人を一度作成できるようになったから
 あとは量産、というわけにもいきません」
「つまり、それは現実的な解決案ではないということか?」
「いえ。私だから可能だ、と言うことを知っておいていただきたいための前振りです。
 簡単にぽんぽん作り上げてるように思われては心外ですから」
「ほんとかしら?」
 疑惑の目を向けるキリッサを尻目に、シアが質問してくる。
「それは、ほかにも人との会話ができる怪人を作れる、ということかしら?」
「ええ、というより、すでに作り上げています」
「なに? でかしたぞ、ドクター! あれだな? 『こんなこともあろうかと』という
 やつだな? やはり技術者たるものこの台詞が言えなくてはな!」
 なぜか手足をばたばたさせて興奮するヘルオー様に、悪役らしくにやりと笑みを浮かべると、
指を鳴らす。
 その合図とともに、背後に控えるアーネウスが会議室の扉を開くと、その怪人が姿をあらわす。
「ね、ねこ……?」
 ぽてぽてという擬音が似合いそうな歩みで入ってきた怪人を見たキリッサの第一声が
それだった。たしかに、この怪人の形態はねこっぽい。それにサイズも他の怪人に比べて
二回りほど小さい。

「おお、なんか可愛らしいな」
「しかし、これで戦闘に出しても問題ないのですか?」
 疑問を呈するシア。
 まあ、たしかにこの外見を見ると、その心配もわからないではない。もっとも、私の心配は
また別のところなのだが。
「いえ、この怪人は、いまはこんな態(なり)をしてますが、人と対話できるという特徴を
 最大限生かせるよう変態能力を備えています」
「な、なに? そいつは変態なのか? それは流石に放映上まずいのではないか?」
「ヘルオー様、おそらく、その意味の変態ではございません。トランスフォームの意味では
 ないかと」
 顔をやや赤らめながら「ねこ」怪人を指さすヘルオー様に、こちらもまた、やや顔を赤らめ
静かにつっこみを入れるシア。
 そんなつもりはないが、セクハラでもしてるような気分。
「トランスフォーム? どのような意味だ?」
「ヘルオー様、英語の勉強をしっかりしてしておいてください」
「英語? 変態は、英語でもHENTAIではないのか?」
「ですから、その意味ではありません! なんでそのような知識だけあるのですか!」
 辞書の猥語だけに赤線を引っ張っていたずらした生徒を叱る教師のようなシア。
ヘルオー様もそういうお年頃なのだろう。しかし、このままではHENTAIだけで会議が
終わってしまうので、話を進めることにする。

「ヘルオー様、「なりかたち」を変えることができるという意味です。つまり、誰かに
 成りすまして、その人間の振りをすることができるということです」
「な、なんと! それは素晴らしいではないか! シアも意地悪な奴だな。最初から
 そう言ってくれればよいではないか」
「へ、ヘルオー様が、常日頃からしっかりと勉学をなさっていれば、このようなことには! 
 ですから、私はいつも組織の上に立つものとしての自覚と鍛錬を、
 とあれほど口を酸っぱく――」
「ま、まあまあ、シアシア様」
 会議そっちのけで、すっかり母親モードになってヘルオー様に説教を始めたシアを
なだめるキリッサ。先程と立場が逆転している。シアは、常に冷静沈着だが、ヘルオー様の
こととなると人が変わったようになってしまう。
「とりあえず、怪人の紹介をしてもらいましょう」
「う、うむ。そうだな。それがよい」
 怪人を紹介するように促すふたり。ヘルオー様はシアの気をそらせればなんでもいいようだ。
「ええ。ただ、ちょっと、この怪人の学習環境に少し問題があったようで……」
「ん? なんだ?」
「まさか、アーネウス以上の変な性格に育ってないでしょうね?」
「失礼なことをおっしゃらないでください。年中ほとんど裸でうろうろしているような方に
 『変』だなどと言われたくありません」
「なっ! こ、これは衣装なのっ! 制服なのっ!」

「その割には随分嬉々として、着用していらっしゃるようですけど? 嫁入り前の肌を
 顕に露出させるような『 制 服 』を。 ご自身に素直になったところで、いまさら
 失墜するような尊厳など存在しないのでは?」
「いっ、言ったわねっ! あんただってねえっ――」
 鼻で笑うアーネウスに、キリッサが言い返そうとしたそのとき。


「藻舞いら、もちつけ。 煽りもスルーできない香具師は厨房w」


 しゃべった。
 「ねこ」が。

「は?」
 一瞬で静まり返る会議室。おそらく言われた言葉を理解できなかったのだろう。
 頭を抱える私に、おそるおそるシアが当然の疑問を呈する。
「あ、あの? ドクター? この怪人は、日本語による意思疎通は不可能なのですか?」
「いや、このどちらかと言えば天才の私が、そんな欠陥品を作ったりしない。日本語、広東語、
 北京語、ハングル、ベトナム、ヒンズーはおろか、英語、フランス、ロシア、イタリア、
 ドイツまで理解できる。そして、喋ることもできる」
「では……?」
「↑(゚Д゚)ハァ? 藻舞いDQN? 一度で理解しる!」
「…………」
 うあ。シアの握った拳が震えてるよ。初めて見たよ。言葉の意味はほとんど理解できてない
はずなのに。あのシアをたった一言でここまで追い込むとは、ある意味恐ろしい怪人だ。


 背筋に流れる冷や汗を感じとっていると、我に返ったキリッサが捲し立てる。
「ちょ、ちょっとちょっと! なんなのよ! この怪人は! 片言の日本語しか話せない
 じゃないっ! それもほとんど意味の判らないような!」
「DQNのすくつになってるスレはここですか? 悪の組織って(プゲラ」 
「っ! 意味は判らないけど、無性に腹のたつ言いかたね!」
「……いや、だから、先刻も言ったが、この怪人の学習環境として、幅広い知識と
 情報検索能力、収集能力、取捨判断能力を養うために、ネット環境を提供してみたのだが」
「それが、なんでこんなになってるのよ!」
「いや、それが、そのうちある特定のサイトに入り浸るようになってだな――」
「巨乳(;´Д`)ハァハァ」
「きゃーっ! な、なんなのよっ! ちょ、ちょっと抱きつかないでってばっ! 
 こらっ! ドクター! こいつやっぱり変態じゃないっ!」
「いや、テストの結果こいつの知能はかなり高い。ま、環境次第で天才でもどうとでもなる
 という見本だな。その点、私なんかは、正常に育った天才といえよう」
「正常に育った天才が、こんな変態つくるわけないでしょっ! こいつをなんとかしなさい
 ってば!」
 胸に顔をうずめている「ねこ」怪人をなんとか引き剥がそうとするキリッサ。
テストの結果では、運動能力、身体能力も高いので、そう簡単には引き剥がせないだろう。
「し、しかし、これでは、使い物にはならないのでは?」
「う、うむ。しかし、街に混乱を引き起こすためには、使えそうであるが」
 そりゃそうだろう。ここでさえ、この有様なのだから。敵を引っ掻き回すのにはいいかも
しれんが。その前に味方が全滅しそうだ。
「藻舞いら、安心汁! そこのょぅι゙ょの言うとおり、漏れは、敵にするとこれ以上
 怖いものはない存在だが、味方にするとこれ以上頼りないものはない存在でつ」
「全然ダメじゃないっ!」
 抱きつきから解放されたキリッサが、大きな溜息とともにつっこむ。少し会話に慣れて
きたらしい。


「うむ。だから、はじめに言ったであろう。人と対話できる怪人を作り上げるのは、
 私の才能をもってしても奇跡的に近いものだということを。しかも、こいつは能力的には
 最高クラスの怪人なんだ」
「いくら能力が高くても、性格が破綻してたらどうしようもないでしょ!」
「↑粘着Uzeeeee!! 空気嫁!」
「あんたは黙ってなさいっ!」
「自治厨晒しage」
「だいたい、こいつなんでこんなねこみたいな格好してるのよ!」
「どうも、本人のお気に入りらしい。宜しく頼む」
「(=゚ω゚)ノぃょぅ」
「じょ、冗談じゃないわよ! と、とにかく、私は自分の下にこいつを置くつもりないからね!」
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| | | |     ┃─┃|  < 正直、スマンカッタ。
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「きゃっ! び、びっくりした! いきなり姿変えないでよ。そ、それに、いまさら
 謝ったってダメだかんね!」

「(´・ω・`)ショボーン」
「な、なによ。そんな顔したって……」
「ヽ(`Д´)ノウワァァン!!」
 泣き叫び(?)ながら、ヘルオー様のもとに走りより、すがりつく「ねこ」怪人。
「キリッサ、これはちょっと可哀想ではないか? この怪人も生まれたてで、
 精神的に幼いのかもしれんし」
「し、しかし、ヘルオー様」
「このヴァルキルは、他者から虐げられたもの、疎まれたもの、不必要と烙印を押された
 ものたちで構成しているんだ。その我々が、他者をこうも邪険に扱ってもよいのだろうか」
 意外にしっかりした意見を述べるヘルオー様。シアも、目を見開いて「へ、ヘルオー様……」
と、まるで娘の意外な成長ぶりに驚く親のように感動しているようだ。
「わ、判りました……」
 しぶしぶ頷くキリッサに、ヘルオー様に抱きついていた「ねこ」怪人が、振り返る。
「( ´,_ゝ`)プッ 」
 ヘルオー様と、シアに見えない角度で。
「ああああ! いま、こいつ鼻で笑いましたよ! 私のこと! やっぱりこんな奴おいたら、
 組織の規律の維持に差障りがでます!」
「キリッサ、なにを言っておる。おまえが因縁をつけるから、よけいしょぼくれておるでは
 ないか」
「(´・ω・`)ショボーン」
「キリッサ、たしかに私も不安だけれど、試験的に作戦部へこの怪人を配属させては、
 どうかしら?」
 ヘルオー様に支持する形で、キリッサに提案するシア。
 ただ、これは意外だった。組織とヘルオー様のことを第一に考えるシアが「こいつ」を
容認するような発言をするとは。

 先刻この「ねこ」怪人は、シアから見えない角度で嘲笑したはずだが、あれでヘルオー様は
ともかく、シアまで騙されるとは思えない。
 そのあざとさからこの怪人の知能を感じ取ったか?
「ょぅι゙ょ(;´Д`)ハァハァ」
「シ、シア様! い、いまの見ましたか! こいつ!」
「(´・ω・`)ショボーン」
「どうした、キリッサ。先刻から変だぞ。こいつはずっとしょぼくれておるではないか」
「キリッサ。お願い」
 そうキリッサに頼み込むシアは、すでに怪人の様子を気にしていない。やはり、感づいた
らしい。シアがなにを考えているかまではわからんが、私も純粋に研究対象として、
こいつがどこまでやれるのかには興味がある。反対する理由はない。
「う……わ、判りました。私はなにがあっても知りませんからね」
 そうしてこの「ねこ」怪人の配属が決まった。
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