6人一家、嫁5人

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 本城家のリビングでは、今日も今日とて6人の男女が夕食をとっていた。
 優柔不断気味ではあるが優しく、皆のまとめ役である 本城 理人。
 理人の幼馴染で、公私にわたり理人のサポート役でもある 嘉島 聖。
 幼い感じで、甘え上手の 姫史 愛生。
 いつも元気いっぱい、良くも悪くもムードメーカーでトラブルメーカーの 葛城 佳央。
 のんびり屋だが、葛城のツッコミ役で抑え役でもある 逢坂 遥奈。
 一見物静かではあるが、実は人一倍感情が豊かな 櫻見 枝絵留。
 数ヶ月前から変わらぬ面子での食事は、まるで絵に描いたかのように和気藹々…
「嘉島先輩、今日のお味噌汁、少し塩辛くないですか?」
「あら、ごめんなさいね、逢坂さん。はい、お酢」
 …とは正反対の雰囲気であった。

 そもそも、事の発端は理人の決意であった。
 5人の少女から1枚づつカードを受け取った後、彼は『5人の中から一人を選び、その人以外からは
 カードを受け取らない』と固く心に誓った。
 それは、彼の培ってきた倫理観からすれば当然の事であり、何より『断る』事によって、少女たち
を傷付け、自分自身も傷付く事に対しての覚悟の証でもあった。
 問題は、その『一人』がなかなか決まらなかった事にある。元々優柔不断気味な彼の性格に加えて、
5人の姫君たちはみな美少女ぞろい、しかも理人のことを愛している。誰一人選べずに、ただカードを
断るだけの日々が続く。
 少女たちは焦った。このゲームにおいて選択肢はただ一つ、オンリーワンかつナンバーワン。自分たち
の心に秘めた想いを諦めることなどできない。…だが、カードは受け取ってもらえない。それは、魔女の
いない灰被りにも等しい、プリンセスへの不渡り手形。
 ある時、一人の少女が気付く。自分のカードが受け取ってもらえないなら、せめて他人のカードを理人が
受け取らないようにすればいい。むしろ、しなければならない。
 そしてそれは、他の4人についても同じであった。
 …かくして、夢への階段を登るシンデレラストーリーは、他人を蹴落とし自分のみが生き延びるという
バトルロワイアルへと変貌を遂げたのであった。

 …夕食は続く。
 聖から渡された酢を、遥奈は景気良く味噌汁に注ぐ。
 そして、匂いだけで酸っぱくなるようなそれを一口すすって、
「うん…、さっきよりは、だいぶ良くなりました」
と、完璧な笑みで聖にいう。聖もまた、完璧な笑みでもって、
「そう? 逢坂さんにはその位でちょうど良いんだね」
と返す。この程度は序の口であり、この家の人間にとっては日常茶飯事である。
 …だが、この空気に耐えられない者が一人だけ居た。
「あの…」
 理人は何とかこの空気を変えようと口を開き、そして即座に後悔した。
 少女たちの視線が突き刺さる。みんな顔は笑っているが、理人に向ける視線は獲物を観察する肉食獣の
それと比べてもなんら変わりない。
「どうしたの、理人?」
「言いかけたこと途中でやめたりしたら、ごっつ気になるやんなぁ」
少女たちの圧力に負けるような形で、理人は言葉を続ける。
「櫻身さんのお弁当箱が、まだ出てないんだけど…」
 言ってから、しまったと思う。このままでは、彼女が新たな標的となってしまう。
「あ、いや、その…。別に急ぐとかそんなんじゃないんだけど、明日のお弁当当番は僕だから、なんて
 いうか、ええと…」
話題を変えようと言葉を続けるものの、うまくいかない。
気持ちばかり焦る理人に、枝絵留はすまなそうな顔で
「ゴメン。後で部屋に持って行くから」
 空気が変わる。少女たちの視線は、獲物を観察する肉食獣から、仇を狙う復讐者の物へと昇華される。
「いや、洗い物をする時にキッチンの方へ持ってきてくれるとうれしいんだけど…」
 理人の呟きが少女たちに届く事はなかった。

 …時は夜。
 理人は自室のベッドに倒れこみ、ため息をついた。
 ドアの外には5人の少女。彼女たちは木の周りを回るトラの如くにらみ合い、ドアの中には入ってこない。
 もし、いま誰かからカードを受け取ったら殺人が起きるんじゃないかと半ば本気で心配しながら、理人に
できるのは、ただ眠ることのみであった。
 …心の中で、ベアトリクスへの呪詛をつぶやきながら。

蛇足:嘘予告


 ── 20年前の惨劇 ──
「わたしはこれと共に生きこれと共に死す。その事に、いまさら何の躊躇いがあろうか!」
「止めろー! 逢坂を、止めろー!!」
 ── それが今、再び繰り返されようとしている ──

「本城君…、キミがプリンセスゲームに参加したような勇気が、ボクには無いんだよ…」
 ── 明かされぬ真実 ──

「わたしのコードネームは、遥かなる奈落と書いて遥奈。」
「みとれよ、遥奈姉ちゃん。うちらプリンセスが束んなれば、育葉学園の一つや二つ!」
「「「「「「直系の佳央様、まずは我らにお任せを!」」」」」」
 ── 次々と襲い掛かる刺客 ──

「恭ちゃん…。恭ちゃんは、そうやって黙っているだけですか」
 ── そして、少年の苦悩 ──

 PRINCESS BRIDE Episode5
  罪と罰 ── 全てはベアトリクスの為に ──
                      
                               ── 近日公開 ──
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