そこ海支援

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 ある昼下がり。
 某島内のファーストフード店内の二階。
 四人掛のテーブルにつき、どこかギスギスとした雰囲気を醸し出す三人の少女の姿が
あった。
 その中の一人、眼鏡をかけた少女が片手を挙げる。
「三ヒロインかいぎ〜」
 少女――鮎川美奈萌の、ひどくやる気の感じられない声が店内に響いた。
 美奈萌の横に座っていた鰍山碧唯は、口の中のポテトを慌てて飲み込み、親友の顔を
見る。
「はぁ? 何よ、いきなり」
 先刻の声の調子に反して、碧唯が見た美奈萌の瞳は酷く切実な色を示していた。
「碧唯ちゃん。私たちは駄目なの。このままじゃ敗者になってしまうの」
 それまで、じっとハンバーガーの紙包みを見つめていた緒方夕凪が、正面の二人を無
表情に見ると、無感情に口を開いた。
「……歯医者?」
「緒方さんは、だまってて」
 そんな、夕凪を睨みつける美奈萌。憎しみで人を殺すことが出来る、そんな視線。夕
凪は、そんな美奈萌の瞳を十数秒見詰め返し、急に興味を失ったかのように視線をハン
バーガーの包みへと戻す。
「一体どうしたのよ、美奈萌」
 死合のような空気に慌てて、碧唯は話題を戻すように美奈萌に話しかける。
「今の私たちはひどく無力なの。このままでは、有象無象の塵の如く消え去ってしまう
の。そんなの、私は嫌なの。だから考えるの。私たちに足りないのが何かを、幸一君と
幸せになるために足りない何かを」
「で、何かって……何?」
「碧唯ちゃん。それを考える為に、こうして集まってるのよ」
 微妙な笑顔の美奈萌に、碧唯は、少しは自分で考えろよと言いそうになるのを必死に
我慢した。

「いきなりそんなこと言われてもねぇ……そうだ、夕凪は何かないかな?」
「……幸一を喜ばせれば良い」
「喜ばせるってどうするのよ。あんたなんかに人間を喜ばせること出来るわけないじゃ
ない!」
 ヒステリックな声で叫ぶ美奈萌。
 碧唯は、美奈萌の横に座ったことを後悔しつつ、この時間を少しでも早く終わらせる
ために夕凪に先を促がした。
「えーと、具体的にどうするの夕凪?」
「前に私の歌を喜んでくれた……だから『夕凪の唄』というタイトルにして、全てを始
めからやり直すの」
 そんな、夕凪の言葉に美奈萌はビクリと身体を硬直させる。
「私と幸一の愛を邪魔する役に美奈萌。その親友に碧唯。ちょうど女医もいるし、私の
父と呼べないことも無い人は教授職くらいなら余裕でなれる」
 いつもの無表情のまま、その瞳だけを濁らせて淡々と話し続ける夕凪。
「それに、幸一の両親も交通事故で亡くなってる。なによりも、邪魔なものは私が全て
排除できる」
「ちょっと夕凪……」
 隣りでピクピクと痙攣を始めた美奈萌に焦りながら、夕凪の話を止めようとする碧唯。
「そうして、物理的接触を繰り返し、私は、幸一の唯一の存在になる。そして、幸一は
幸せに包まれるの」
 夕凪は、少し頬を紅く染めながら言い切る。
「……だったら、私は女医役をやる」
 なんだか、とても冷たい声で呟く。その視線は冷たすぎる故にとても熱く、−196゚C
くらいはありそうな勢い。
「なぜ? 美奈萌は胸だけは大きいから、幸一に片思いくらいはさせてあげる」
「バケモノのくせに。幸一君は正常だからあんたなんか見向きもしないわ」
 睨みあったまま、すくりと立ち上がり外へと出て行く二人。
 パインシェークを啜りながら碧唯は脱力する。
「……駄目じゃん」
 店の外からは、破壊音と悲鳴。そんな昼下がりの、なんでもない出来事。
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