嘘予告「Blood on the Edge」

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眼前に屹立するそれは、見まごう筈のない鋼の巨体。
たなびく光の鬣、鋭く輝く瞳、巨大な二基の脚部シールド。
悪趣味な装飾にまみれていても、それは確かに彼らの信じたデモンベインだった。
対するは大十字九郎、そして衛宮士郎。

ただふたりの魔術師で、鬼械神に立ち向かう無謀―――
彼らを識らぬ者が見れば自殺行為と咎める者も居るだろう。
だが彼らはただの魔術師ではない。
更に、彼らには秘策があった。

―――撃鉄のイメージ。
二十七つの撃鉄が、
ガギン、と音を立てて、火花を上げて、一斉に叩きつけられる。
回路に魔力を流し、脳裏にはその雄姿。
鋼の神の姿を、寸分の狂いもなく映し出すために。

「―――投影、開始」

その名、デモンベイン。

「憑依、経験開始」

その名、魔を断つ剣。

「経験、共感開始」

その名、無垢なる刃。

「憑依経験、共感終了」

その名、デモンベイン。

「―――全工程、投影終了」

彼の心象風景から一振りの剣が引き抜かれ、この世へと現れた。
その剣はあまりにも巨きく、そして力強い。
大十字九郎が搭乗し、いまや相対する本物すら圧倒する剣気を放つ巨体。

―――その名、デモンベイン。

そう、この世に
衛宮士郎の投影れぬ剣など、有りはしない―――!
―――圧倒的な力の波が、シエルを襲う。
予期せぬ方向からの不意を打つ一撃に、彼女の身体は一瞬硬直する。
だがその一瞬の結果に死が待つなら、それは永遠と同義―――!

シエルは動けず、
志貴の四肢は動かず。
力の限りに伸ばしたアルクェイドの手は届かなかった。

それでも。
ただひとり、シエルの前に立つ者が居た。

光の奔流が激突する。

「セブン―――!!」
叫びは、光の中にかき消えた。

「ふはははははははは、見るのであるエクスキューター・シエル!
 これぞ正に芸術! 美術! 美学の極致である!!」
ガレージに鎮座するその形に、大十字九郎には見覚えがあった。
超の付く大型のバイク。ハンティング・ホラーという銘すら、その姿のまま。
しかしその核があの深淵の闇をインクに書き上げられた忌むべき魔導書ではなく、
柔らかな光に包まれて眠る一角獣の精霊である事が、この機械の本質を変えていた。



三台のバイクが轟音を立て疾走する。
デスモドゥスが、サイドバッシャーが、ハンティングホラーが。
伊藤惣太の、草加雅人の、シエルの、それぞれの思惑と共に。
立ちふさがる全てを薙ぎ倒しひた走る。
目指すは、スマートブレイン本社ビル―――!
ごきり、と嫌な音を立てて。
草加雅人の首が、曲がるべきでない方向へと曲がる。
次の瞬間地面に投げ出された彼の身体は、
一拍の間をおいて白い灰へと姿を変えた。
一枚の写真だけを残して。

―――同時刻、某所。
青崎橙子の工房に無造作に置かれた棺の蓋が持ち上がる。
起きあがった男は、草加雅人。
「おはよう、草加君。身体の調子はどうだね?
 問題ないか、それは良かった―――
 ―――それでは契約通りに、その躰の料金を払いたまえ」
人形師・青崎橙子は紫煙を吐き出し、にやりと笑った。
草加雅人もまた、その自信に溢れた独特の笑みを浮かべて
青崎橙子への返答とした。

第三次世界大戦の混乱に乗じて、「進化」した吸血種は
日本という国を乗っ取った。
その種は、オルフェノクと呼ばれる―――



世界中が痛み分けとなった大戦において、
唯一、軍需産業でその業績を伸ばしたエリアがある。
中国・上海。
彼らのサイバネティクス技術は、軍需産業へと転ずることで
多大な利益を得、その利益を投入し新技術を開発する循環を手に入れた。
その結果として、電子の魔都へと姿を変えた上海に。
ひとりの復讐鬼が舞い降りた。
WWIIIから三年。
わずか三年で、完全なる平和国家を目指したリブリアは滅んだ。
だが、後に残る者達がいる限り、彼らの希望は潰えはするまい。
だから、もはやあの国に必要ないグラマトン・クラリックには。
今この場で、「後に残る者達」を守る事こそが使命である。
彼は、そう確信した。
音を立てて、ケースが開く。
明鏡止水の境地に達した今、銃を振るうのにもはやプロジウムは無用。
ただ、銃を手に執る覚悟さえあれば良い。
己の身すら食らいつくす銃を。

その銃の名は、「帝王」―――

「ヘン―――シン」

男はひとり立ち向かう。
眼前には、雲霞のごときライダー部隊。
右手でブレイガンを抜き、コッキングレバーを引く。
左手でカイザフォンを抜き、106のコードを入力する。
完成された二丁拳銃、ガン=カタを振るい、
最強のグラマトン・クラリック、ジョン=プレストンは
ただひとり、戦場に躍り出た。



「Blood on the Edge」
    ―――故に、我が剣に意味は不要ず。
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