interlude 11-0

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「時間を稼ぐのはいいが―――別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」

目の前には脅威の体躯を持つ、狂戦士、そして後ろには自分のマスター。

「―――ええ、遠慮はいらないわ。
  がつんと痛い目にあわせてやって、アーチャー」

マスターである遠坂凛はどこまでもまっすぐだった。

「そうか、ならば、期待に応えるとしよう」

凛達が駆けていく足音、怒ったマスターがサーヴァントにヒステリックな声で命令を下し、
そして、ヘラクレスの突進のごとき一撃を交わして干将、莫耶を狂戦士の体に叩きつけた―――。



まともにぶつかり合えば、バーサーカーとアーチャーでは勝負にならない。
サーヴァントとは、自分に合ったクラスに就くのである。
つまり、自分がアーチャーというクラスにいる限り、相手がどのような
英霊であろうとバーサーカーになれる英霊を倒すことはできないのである。
それが、聖杯戦争におけるサーヴァントシステムの真理である。
この真理を覆せるものはただひとつ、宝具のみである。

しかし相手はヘラクレス、生半可な宝具は通用しない。
バーサーカーと真っ向勝負するなら、自分には万が一にも勝ち目はない。

―――――――そう、真っ向勝負するならば

そもそも、アーチャーとは弓兵であり、狙撃手である。
剣技だの、耐久力を競う方が間違っている。
バーサーカーとアーチャーでは勝負にならない。
しかし、バーサーカーとそのマスター対アーチャーならば、アーチャーの勝である。




アーチャーではバーサーカーは倒せない、しかし聖杯戦争において、
サーヴァントを倒す必要などない。
マスターさえ倒してしまえば、サーヴァントは存在できないのだから。
バーサーカーには遠距離攻撃はない。
バーサーカー自身はアーチャーの攻撃をかわせても、マスターはかわせない。
バーサーカーにできるのは、マスターのそばで飛んでくる矢を叩き落すか、
マスターと敵の間を一直線に進んで矢を落とす。
あるいはアーチャーに攻撃させる暇を与えず間合いを詰める。
この3つだけであり、他はない。

カラドボルグなど、周囲を巻き込む攻撃を行える宝具が使えるから、1番目の方法をとるなら、
相手のマスターを簡単に殺せる。
この身は弓兵になれる英霊、まっすぐではなく曲線を描く撃ち方くらいいくらでもできる。
だから、直線に進んでもこちらの攻撃が先に出せれば相手のマスターは避けられない。
つまり、バーサーカーにとってアーチャーに弓を使った攻撃を出させたら負けなのである。


だから、それがわかっているからこそバーサーカーは最短最速で突っ込んできた。
そして―――最短最速は隙だった。



どんなにヘラクレスがすごかろうと、無謀な突進には隙ができ、攻撃は雑だった。
おおよそ剣の扱い方とは違う、剣の強度を考えずに双剣を叩きつけて、そのまま捨てる。
頭の中には既に次に投影する剣があり―――いつか、遠い日に英雄王が使っていた魔剣、
グラムで最大限の力と魔力を用いて、バーサーカーの心臓を貫いた。
次の瞬間、バーサーカーの斧剣が振りぬかれる、一瞬前に自分のいた場所に。
心臓を貫かれては、いくらバーサーカーとはいえ、速度が落ちるのは必然。
ならば、いくら捨て身で飛び込んだとしても、交わすことは可能。

飛びのいた一瞬、間合いが離れる―――絶対の勝機がそこにはあった。
飛びのきながら投影したのはカラドボルグ。
バーサーカーを一度殺したことにか?それとも、殺したはずのバーサーカーが仕掛けた
攻撃をまるで知っていたかのごとくかわしたことにか?とにかくイリヤスフィール・
フォン・アインツベルンは驚きの表情を浮かべている。
今彼女に向かって矢を放てば、それで終わる。
そして―――



自分がマスターであることを認めさせようとして、令呪を使ってしまうようなマスターがいた。
理想に裏切られ磨耗した自分が失った、まっすぐな瞳をもった少女がいた。
巻き込まれて命を落とした他人を、自らの切り札を使って助けた魔術師がいた。
何も知らない他のマスターに聖杯戦争のルールを教えるお人よしがいた。
確固たる自分の世界をもち、何にも負けない自分の信念を貫く一人の人間がいた。


―――ええ、遠慮はいらないわ。がつんと「痛い目」にあわせてやって、アーチャー



マスターを殺す、という聖杯戦争において全く当たり前の方法で勝ち残ったら、生き延びたら―――

なぜか遠坂凛に顔向けできなくなるような気がした―――


そして、カラドボルグが放たれる、マスターにではなく、サーヴァントに。
直撃を受けてなお、バーサーカーは間合いを詰めた。
バーサーカーは理解している、おそらくもう殺したとしても間合いを取れることはなく、
故にもう矢は放てない、マスターを倒すという唯一無二の勝機が消え去った。

セイバーではない自分は、バーサーカーと打ち合えず、交わすしかない。
アサシンでもランサーでもライダーでもない自分は、交わしきることができずに削れていく。
掠める度に身にまとう外套が裂け、鎧が砕けていく。
力で負け、速度で負け、耐久性で負け、その状況でなお接近戦をする。
つまりはただ、勝利は絶望的というだけの話。



――――――ああ、なんだ、それだけのことか。



勝てそうにないだけで絶望的?
絶望とはそんなものではない。
味方に裏切られ、仲間に裏切られ、助けた者達に裏切られ、最後には
理想にさえ裏切られた自分を、それでも英霊になっても戦い続けた自分を
磨耗させたものを絶望と呼ぶならば、勝てないだけの何が絶望的なのか。
勝てないだけの戦いなど、たった一つの魔術すら満足に使えなかった人間
であった頃からいくらでも経験している。

切り札の固有結界「無限の剣製」は使えない。
バーサーカーを倒すためにあれを使うならば、凛から魔力を供給してもらわなければならない。
それはいけない。
この後、凛とイリヤが遭遇することを考えれば、凛から魔力の供給を受けるわけにはいかない。
ただそれだけのこと。
もとより自分のやってきたことの中に勝ち目などあったためしがない。
だからこそ失望し、磨耗した果てに衛宮士郎という名の過去を後悔し、呪ったのだから。

勝ち目などありえない、0に等しい可能性に賭けたのだから。


それでも―――あの宝石の持ち主が彼女だった以上、借りは返さなければならない。
生きている間、見つけられず最期の時まで身に着けていた宝石の持ち主。
彼女がまっすぐであることを望んだ以上、マスターに顔向けできなくなるようなことは
できない―――それが、計算高く猫かぶりでここ一番でどじを踏む、まっすぐな瞳を
もった遠坂凛から磨耗しきったはずの自分が少しだけ受け取ったもの。
だから、マスターが殺せと言わなかった以上、自分の力だけでバーサーカーを倒さなければならない。

その果てに何があるかわかっていても、それでも戦い続けるわけか?

知らずに苦笑していた。
何のことはない、理想に裏切られ、誓いが磨耗しきって、過去を呪い奇跡に等しい
矛盾に賭けて自分を消そうとしても―――結局理想と信念を裏切ることはできなかったわけだ。


切って切断し、突いて貫き、溶かして溶解させた。
まともな手段では傷ひとつつかないであろうヘラクレスを殺すために、一回一回
最大限に魔力を込めて技と成した。
切るたび突く度溶かす度に、狂戦士の斧剣は自分から何かを削り取っていった。


時間にすれば半刻もたっていないはずだが、もはや魔力はかけらしか残っていない。
体はまともに機能するところを見つけるほうが難しい。
その代償として5度殺した。
バーサーカーも今はまともに動ける状態ではない。
両足が溶解しかけ、首の切断は治っておらず、腕もかろうじて着いている。
内臓も見えるし、肩から股下には槍が突き抜けている。
それでも、バーサーカーは間合いを取らせないよう、イリヤを守るために接近戦を続けていた。
先制攻撃を受け、時間を置かねば動きも鈍ることは避けられないにもかかわらず、
バーサーカーは一度たりとも引かなかった。
それだけの絆がバーサーカーとマスターの間にはあった。

最後に残ったかけらほどの魔力を使って、最後の投影をする。
デュランダル
グラムと同じように、いつか遠い日に英雄王が投擲に使っていた武器であり、
所有者が魔力切れをおこしても、変わらぬ切れ味を維持する剣。

バーサーカーが斧剣を振るう。
その腕はまともにくっついてなく、引きちぎれそうになりながら振るわれる。
本来のバーサーカーの筋力と速度からすれば、おふざけにしか見えない剣速。
それでも、バーサーカーを5度殺すことと引き換えに徹底的にぼろぼろ
になりもはやまともに動かない体では交わすことはできない。
だから、最後の力を振り絞って飛び込み、デュランダルを突き出した―――










そうして両者の戦いは赤い騎士の消滅をもって戦いは幕を閉じた。

イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは呆然としていた。
目の前で起きた出来事は理解できなかった。
何の英霊かもわからないサーヴァントに自分のヘラクレスが6度も殺された。
そして、イリヤは気づいていた。
あの一瞬、アーチャーが自分を狙えたのに狙わなかったことを。
侮辱された、馬鹿にされた。
それは屈辱だった。
勝利するのは自分たちでなければならない。
自分とバーサーカーが最強でなければならない。
相手に追い詰められたなど、少女の自尊心が許さない。

「……許さない。許さないだから。よくもここまで私を侮辱してくれたわね……!」

少女の自尊心を回復するための、そしてアインツベルンの裏切者の養子を殺すための狩が始まる。

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