初pon

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「初島先生、じゃあ行きましょうか?」
「ええ、そろそろ時間ですし、行きましょうか」
 心にもない敬語をお互いに使う俺と西村。
「お先に失礼します」
 同僚の先生達に挨拶をして、俺たちは職員室を出た。

 部活をしている生徒がまばらにみえる校庭を、俺たちは昔話をしながら校庭を横切る。
「久しぶりよねえ、杏と会うのも」
「うん、俺もだよ」
 母親と共に杏が日本に戻ってきた。まあ仕事の都合とかで、帰ってきただけで
一時的なものなんだけど。

 ……あ、校門の前にいるのは、小桃だ。
「!?」
「せんせい〜」
 俺に気づいた小桃がパタパタと走ってくる……門の前に居れば、こちらから近づくって
いうのに。
「ハアハア……ハァ」
 ……全力疾走に必然性はあるのか?
 荒い息をようやく整えた小桃は俺の顔をみてにこっと笑う。
 可愛いぞ、おい。

 いや、まあ……小桃が小桃「先輩」の生まれ変わりってことを杏に言うつもりはない
けど。杏には会わせてあげたいし。そう思って、今日俺は、西村と小桃を実家に誘った
わけだ。
「大丈夫、桜井さん?」
「うん、大丈夫だよ、西村先生」
「そう……。あんまりいたいけだと、変態が喜んじゃうから注意してね」
「はあ?」小桃がきょとんと首を傾げる。
 ……非公式の場だと、俺酷い言われ様だな、相変わらず。
「じゃあ、行こうか。桜井さん」西村が小桃の手を取り言った。
「は〜い!」
「ふんふんふ〜んふふんふ〜ん♪」
 西村と手を繋ぎ、俺の前を歩く小桃。鼻歌まじりで上機嫌。
「何か、いいことあったのかな、桜井さん?」西村が尋ねる。
「うんっ!」そう言って、小桃は俺の方をいたずらぽく見る。
「え、何々? 教えて?」
「うふふ……」
 西村が聞くと、小桃はうれしさをこらえるように俯いた。
「あー……、俺も知りたいなあ……。桜井さん」
「えへへ、やっぱり?」
「うん」「うん」俺と西村は同時に頷いた。

「じゃあ……教えてあげるっ!」にこっと微笑む小桃。
 ……なんだかんだといっても、やっぱり子供なんだよなあ。
 俺と西村は顔を見合わせて、くすりと笑った。

「あのね、先生……」
 小桃が、もじもじと俺に話し掛ける。
「うん。おめでたい話なんだよ」
「おお、そうか。どんな」
「だから、おめでたいことなの」
「ふんふん、それで」
「だ〜か〜ら〜、おめでたなの?」
「何が?」
「おめでた、なの」
 ………………わからない。
「誰に?」
「桃に」
「どんなことが?」
「おめでたなことが」
 うーん、話が進まない。設問と答え形式で聞いてみる。
「どのような、因果関係によって小桃にそのおめでたなことが生じたのか30字以内で答えなさい」
「え、あの……その……」考え込んでから小桃が答えた。
「稔先生がいっぱい愛してくれたので、小桃におめでたが生じました。」
「いち、に、さん、し……三十一。ぶーっ、句点を入れて31文字だから、桜井君、不正解」
「えーっ!! 先生厳しいよぅ〜」そう言って俺の胸をぽかぽかと叩く……痛くないけど。
「だめです、マルはあげられません」偉そうな俺。
 西村だけが一人、こめかみをもんでいた。

 そして、西村が口を開いた
「あー……、桜井さん?」
「はい」
「赤ちゃん、できたんだ?」
「はいっ! ……うふふっ」そう言って小桃が笑う。
「あははっ」小桃の笑顔につられて、俺も笑う。
「あはははははははははは」西村は腹を抱えて笑って、それから。

「ていっ」俺を地べたに蹴り倒した。
「このバカ稔ーっ!! こいつっ、こいつめっ!!」
 倒れてる俺に追い討ちを掛けて蹴りの連続。
「痛っ……あうっ……げふぅ……」
「ぜいッ……ぜい……。あんた何したかわかってるの? ええっ?」
「……今、よーく分かりました」地を這ったまま、俺は呟いた。
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