ちょこれーと大騒動?+

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ある晴れた日の午後、スピリット第一詰め所の庭。
草木の生い茂る庭園の脇の広場にて無骨な剣を振り回す影が一つ。
エトランジェ『求め』の悠人である。
午後といってもまだまだ日は高い位置にある、気温もそれなりに高い。
風を切る音、一刀振り下ろすごとに飛び散る玉の汗。
―――むさくるしいことこの上ない。
しばらく『求め』を振るっていた悠人だったがふと視線を感じ辺りを見回す。
が、キョロキョロと辺りを見回すが何も見つからない。
頭に?マークを浮かべ首を傾げながらも素振りを再開しようとする。
しかし、小さな頭痛と共に聞こえてくる『求め』の声に中断させられる。
『契約者よ・・・・よいのか?』
「何がだ、バカ剣」
『午後から王女と会う約束があったのではないのか?』
もはやスケジュール帳と化している『求め』の言葉にハッと我に返る。
思わず、時計を探すが野外にあろうはずもない。
(遅れたりすれば何を言われるかわからないな・・・・)
先日、約束に遅れたときなど小一時間説教をくらったものだ。
その時の事を思い出し内心冷や汗を流しながら城へと一目散に駆け出していく。

そんな悠人の後ろ姿を見つめる一つの影。
先程悠人の感じた視線の張本人である。
「―――さすがはユート殿、手前の気配に気づかれるとは」
感嘆の吐息と共に頬を流れるのは一筋の汗。
「しかし、これでユート殿が戻られるまでしばしの時間があるはず・・・エスペリア殿にお伝えせねば」
そう呟くと、影は豹を思わせるような軽やかな動きで館の方へと消えていった。
そして、その影の動きを見つめる一つの影。
「・・・・・・」
肩で切り揃えたワインレッドの髪を風に揺られながらただ佇む。
どことなく無機質な表情、そして片手には湯呑み。
先程の影が完全に去ったのを確認するとこれまた軽やかな動きで消えていった。
第二詰め所の方へと――――――今、決戦の火蓋は切って落とされる。


某時刻、第一詰め所、いつもの館の食卓。
テーブルを囲む四つの影。
『存在』のアセリア、『献身』のエスペリア、『理念』のオルファリル、『冥加』のウルカである。
カーテンは開けているのに仄暗い室内、どことなく秘密会議チックな雰囲気。
「ユート様が戻られるまで時間はあります、その間に『チョコレート』を―――」
「パパの為ならオルファ頑張っちゃうよ〜!」
「ん・・・・」
「承知」
やる気満々といった感じのエスペリアが言い終わる前にアセリア、オルファ、ウルカの声が重なる。
しかし、エスペリアは小悪魔的な微笑みを浮かべると続きを言ってのける。
「各自で作りましょう」
無言のアセリア、満面の笑みのまま固まるオルファ、目を見開いているウルカ。
初めに抗議の声をあげたのはオルファ。
「む・・・無理だよ!エスペリアお姉ちゃんとオルファならなんとかなるかもしれないけど
アセリアお姉ちゃんやウルカお姉ちゃんの作ったの食べさせたらパパ死んじゃうよ!」
興奮しているのかかなり失礼なことをいってのけるオルファ。
案の定、ウルカの顔がひきつっている。(アセリアも無表情に見えるが不機嫌そう)
それに対してエスペリアはというと―――
「ユート様に対する想いはそれぞれ違います。ですから、各自自分の想いを込めて作りましょう」
ある意味正論をかますが緩んだ顔を見れば魂胆は見えなくもない。
次に抗議の声をあげたのはウルカ。
「し・・・しかし、手前は何も知りません。情報もなしに作れというのはあまりにも―――」
「ん・・・茶色で甘いもの」
アセリアからヒントが出たので黙殺。
「てことは、お姉ちゃん達みんなライバルってことだね。オルファ負っけないよ〜!」
不適に微笑むエスペリアに宣戦布告をするオルファ。
女の修羅場、間には激しい火花が散っている―――気がしないでもない。
アセリアはすでに考えこんでいるし、ウルカは思い当たるものを必死で探している。
まさしく、バレンタイン聖戦である。


一方、その頃第二詰め所の大して変わらない食卓。
「ナナルゥの報告だと向こうも動き始めたようね・・・」
陣頭指揮を取るのはやはり世話役『赤光』のヒミカ。
「それじゃあ、確認するけど各自で作る、でいいわね」
ヒミカの言葉に不安げながらも賛同する一同。
全員で作るという話だったのにどうしてこうなったかと言うと・・・
ハリオンが思い当たるものがあると言って全員で作っていたのだが、
各々が思い思いのものを入れたらなんというか―――竜が出来た。
幸い、キッチンの半壊程度で収まったがこれで学習したというわけである。
各自で作ればさらに被害がでそうな気がするが被害がでるのはただ一人。
食べるのも自分じゃないし、という思考である。
それにしても、走ってきたとは思えないほど落ち着いている『消沈』のナナルゥ。
いまだによからぬ妄想をしているのかくねくね中の『失望』のヘリオン。
『ちょこれーと』の完成型について議論している『静寂』『孤独』のネリー&シアー姉妹。
面倒くさがっている『曙光』のニムントールをなだめている『月光』のファーレーン。
そして、台所の後片付けをしにいった『大樹』のハリオンと『熱病』のセリア。
そんな代わり映えのしない風景の中で議論していたネリーが、
「そういえば、『ちょこれーと』って食べ過ぎると鼻血が出るみたいだよ〜」
ヘェーボタンがあったら全員が押しているだろう無駄知識を披露する。
しかし、その無駄知識を熱心に聴いている影が窓の外に一つ―――ウルカである。
さすがにあの程度のヒントだけでは何が何やらわからなかったので偵察にきたようだ。
新たに得た知識をどこからか取り出したメモ帳に書き込むと足早に立ち去っていった。
ちょうどその時台所の後片づけが終わったのかハリオンとセリアが顔を出した。
「皆さぁん〜台所の片づけが終わりましたのでもう大丈夫ですよぉ〜」
その言葉とともに全員が思い思い行動をし始める。
やはり誰かと一緒に作り始めるものから、街に材料を見に行くものなど。
その中でセリアは少し考えていた。
想いを込めて作ろうと言うが込めるべき想いが見つからない。
だけど、立ち止まっていては何も見つからない。
小さな悩みを抱えながらセリアは台所へと再び戻っていった。


「はぁ・・・・」
誰にも聞こえないように小さく溜め息をつく。
謁見の間から少し離れた廊下を一人寂しく悠人が歩いている。
高価そうな絨毯により足音がほとんどしないがそのせいでその背中は幽鬼のようである。
何故、このように落ち込んでいるかと言えば―――遅れてしまったのだ。
その結果、ネチネチとレスティーナの愚痴を聞く羽目になってしまった。
(朝から、なんだか嫌な予感してたんだよな・・・・)
今更、後悔したところで後の祭り。一度下がった評価を取り戻すのは難しい。
どうやってレスティーナに機嫌を直してもらうか考えていたせいで悠人は気づかなかった。
彼の背中を見つめる熱のこもった視線に―――。

その頃『チョコレート』作りはというと・・・修羅場と化していた。
まず、第一詰め所の台所。
アセリアとウルカの姿はないがエスペリアとオルファによる壮絶なバトルが繰り広げられている。
さすがは我がテリトリーと言ったところかエスペリア、てきぱきと食材を見つけて鍋に入れていく。
一方、オルファも何度も来ている台所。少々迷いながらも華麗にこなしていく。
同じ戸棚を開けたり同じ食材を取ったりと視線が交わるたびに火花を散らしている。
二人とも人というのはここまで変われるものなのか・・・と考えさせられるほど豹変していた。
しかし、二人とも相手の行動が気になっているせいか鍋をみていない。
時たま鍋から「キシャーッ!!」とか奇声が聞こえるが気にしてはいけない。
さて、アセリアとウルカはと言うと・・・・
アセリアは自分の部屋のベッドに寝転がっていた。
明かりもつけず剣から漏れる淡い光に照らされた顔には小さな決意があった。
またウルカはとある山の中にいた。
目を閉じ、そして『冥加』に手を添え、ただひたすらに待つ。
心を無へ、傍を流れる小川のせせらぎにも耳を傾けず神経を鋭敏にする。
と、その時茂みが揺れ何かが飛び出してくる。
その影は一直線にウルカに向かってくるが全く動じず目を閉じたままだ。
しかし、距離が残りわずかになったときウルカは目を見開く。
「天壌無窮の太刀ッ!!」
澄み渡った空に獣の断末魔が響き渡る。


次に、第二詰め所の台所。
まあ、なんだ・・・一言で言えば―――魔界?
某RPGの某主人公が「ここが魔界か!」とか言って探索を始めそうなぐらいヤバかった。
台所中に飛び散った得体の知れない黒い物体、なにげに脈打っている。
そして、その物体の大元と思われる鍋をかき混ぜているのはハリオン。
さすが存在自体が規格外のスピリット、造るものまで規格外だ・・・。
もはや魔女になりつつあるハリオンは置いといて他の一同は、と言えば
見かけは比較的まともなものを作り出している共同作業中のニムとファーレーン。
自分の作り出してしまったウネウネの触手を見て呆然としているヒミカ。
ヒミカの作った触手に手足を拘束され触手プレイされそうになっているヘリオン。
作り終わったのか綺麗にラッピングされた箱の横で呑気にお茶を啜っているナナルゥ。
そんな一同の姿を呆れながら見つつ作ったものを綺麗にラッピングしていくセリア。
そして、いまだに買い物から戻ってきていないネリー&シアー姉妹。
「んっ・・・いやぁ・・そこは駄目で・・・ぁん・・・す・・・ふぁぁ・・・」とヘリオンの喘ぎ声と共に時間は過ぎてゆく。

あれから大分時間が経過したとはいえ、夕暮れにはまだまだ程遠い時間。
館への道、照り付ける太陽のなか暑さから来る汗とは別の汗を流している悠人の姿があった。
(猛烈に嫌な予感がする・・・・)
先程から流れている冷や汗は止まることを知らない。
そして、体はなぜか館に向かうことを拒絶している。
と、また小さな頭痛と共に『求め』の声が響く。
『契約者よ・・・妙な気配がする』
「気配・・・まさか敵か?」
『いや、敵意は感じられない。しかし、この気配は・・・妖精とも人間とも違う。
いずれにせよ、気をつけることだ』
若干、困惑したような気配を残し『求め』の声は聞こえなくなる。
「何だってんだ・・・一体」
こちらも困惑を顔に浮かべるとまた歩みを再開した。
ふと館のほうをみるとどす黒いオーラのようなものが見えた気がした。
しかし、一瞬の後にはすでに見えなくなっていた。
こうして悠人は気づかずに地獄への階段を一歩一歩上っていくのであった。


(どうしてこうなったのか・・・)
悠人は自問自答を繰り返す。
(あの時館に戻らず引き返していれば!)
精一杯の現実逃避を試みる。
目の前に並べられている綺麗なラッピングを施した箱を目に入れないように―――
悠人が第一詰め所、いつものスピリットの館に戻ってきた時そこは修羅場。
両陣営(第一詰め所VS第二詰め所)の間には激しい火花か散っていた。
何が何やらわからず呆然としている悠人をエスペリアは強引に食卓につかせた。
エスペリアの説明によると悠人の世界の行事をすることによって
「ユート様の心を少しでも癒して差し上げられたらと・・・」
と言う事らしい、エスペリアらしい心遣いに感謝はしたが・・・・。
何故よりにもよってバレンタインなのか・・・。
他にも色々とあったはずだ、クリスマスだとか節分だとか。
何せ、この世界にはチョコレートは存在しない。(いや、あるかもしれないが名前は知らない)
ということは何が出てくるか分からないということだ。
(すでにラッピングされた箱のいくつかはガサゴソ動いている。)
しかも、それを食べ比べして勝敗を決めろなどと((((;゚Д゚)))ガクガクブルブルものだった。
内心冷や汗を流しまくっている悠人をよそに包みの封印が解かれる。
第一詰め所よりオルファ、中身をグラスに注ぎ悠人の目の前に差し出してくる。
「・・・・オルファ、何をいれたんだ?」
目の前の紫色の煙を出しつつ溶解し始めているグラスを指差して言う。
しかし、「あははは・・・」という乾いた笑いが返ってくるのみ。
(というかそもそもチョコレートは固形のはずではないのか・・・判定不能)
対する第二詰め所よりナナルゥ、これまた茶色の液状のもの。
ただ見た目的にはオルファのよりもマシだと言えるが安心は出来ない。
恐る恐るだが一口、口に含んでみる。
ココアに似たような味がしてなかなか。
「比べるまでもないよな・・・」
その言葉と共に肩を落として落ち込むオルファ、そしてちょっと嬉しそうなナナルゥ。
そして、次なる戦いが始まる。


第一詰め所よりウルカ、何やら皿を差し出してくる。
皿の上にデデーンと乗った茶色い物体、そして微かに香るハチミツの匂い。
「ウ・・・ウルカ、これ何なんだ?」
「猪の肝を甘辛く煮てみました・・・さ、ユート殿どうぞ」
ウルカの答えにひとまず変なものじゃなくてよかったと安心するが・・・。
ウルカの料理の実績を考えると不安になる、というかこれチョコから離れすぎ。
一口食べて思った、くそまずいと。まず、肝がほとんど生のままだ。そしてそこにハチミツ。
血生臭いやら甘いやらで食えたものではない。
早々に切り上げて、対するネリー&シアー姉妹に移る。
ちょこんと皿に乗った物体どこからどうみても―――黒く変色したバナナと黒砂糖。
彼女ら曰く「茶色くて甘くて口の中で溶けるものだよ〜」だそうだ。
食べるまでもない・・・が折角だから食べておく。
期待に胸膨らませているウルカには悪いが
「ネリーとシアーの方かな・・・」
ガックリと肩を落とすウルカにはしゃぎまわるネリー&シアーが対照的だ。

続いて第一詰め所よりエスペリア、対する第二詰め所は魔女ハリオン。同時出し。
そして、箱から出てきた物体を見て思う。
(誓ってもいい、食ったら間違いなく死ぬ。)
エスペリアの箱から出てきたのは「キシャーッ!」とか産声らしき奇声をあげながらのたくる物体。
(映画「エイリアン4」にてリプリーの腹から摘出されたアレを茶色くしたものだと想像してくれれば)
そしてハリオンサイド、皿に乗っているのは茶色ではなく真っ黒で脈打つ物体。
時たま触手を伸ばしては近くにあるものを手当たり次第に掴み自分の体に取り込んでいる。
『契約者よ・・・・』
いきなり『求め』の声が頭の中に響く。
『契約は魂の輪廻の果てまで有効であり、果たされ―――』
「不吉な事を言うな!バカ剣!!」
気合いで『求め』の声を断ち切る。
しかし、絶体絶命なことには変わらない。
目の前には微笑を浮かべたエスペリアとハリオンの姿。
手元にはのたくるチョコと触手を出して脈打つチョコ。


何とか時間を稼ごうと試みる悠人。
「ほ・・ほら、これ食べると他の皆の食べれなくなりそうだから、あ、後で食べるよ」
「あらぁ〜、でも私たちの後は誰もいませんよぉ〜」
苦し紛れの悠人の一言はハリオンにて粉砕される。
「アセリアは作ってなかったみたいですし・・・・」
「ニムさんとファーレーンさんはぁ〜自分たちで食べちゃったみたいですしぃ〜
ヘリオンさんとヒミカさんはぁ〜色々と忙しかったみたいですからぁ〜」
ニムとファーレーンに目を向けるとファーレーンは赤面して縮こまっている。
ヒミカは隅のほうで泣いているヘリオンを慰めたり謝ったり忙しそうだ。
「さ、ユート様、食べてください」「そうですよぉ〜」
万事休す、仕方なく悠人はナイフでのたくる物体を切ろうとする。
が、ぬめぬめしているせいか刃が滑る。
なので、フォークでまずは突き刺す、そしてナイフで切るが・・・。
グジュッと言う音ともに出てくる緑色の液体。
しかも、その液体がナイフにかかった瞬間金属製のナイフが溶けた。
なんだか無性に泣きたくなった。
もはや逃げ道はない、フォークでその切れ端を刺し口へと運ぶ。
悠人がもはや死を覚悟した瞬間、ドアの開く音が聞こえた。
天の助け!と思いドアの方へ振り向いた、がそこで動きが止まる。
ドアを開けて食卓に入ってきたのはアセリア。
しかし、その場にいた全員が動きを止め呆然としている。
なぜなら彼女は―――全裸、いや正確には自分をリボンで包んでいるといった感じだが
何せ、隠している部分が少なすぎて全裸と言っても変わりない。
いわゆる、私をプレゼントパターンだ。
例のごとくエスペリアが口を開く。
「ア・・・アセリア、貴女その格好―――」
「ん、ユート、前に言ってた。バレンタインに自分をプレゼントする女の人もいるって」
その言葉に全員の視線が悠人へと向けられる。
しかし、当の本人はいまだに固まったまま。
「ユ・・・ユート様?」
エスペリアが声をかけるがまったく動かない。


と、突如悠人の鼻から赤いものが流れ出る。
それは徐々に量を増し、決壊したダムのように流れ出す。
エスペリアの焦った声も悠人には届かない。
出血多量で貧血→死に向かう中悠人は考えていた。
(確かに寝堀り葉堀り聞かれたときに言ったけど冗談だったのにな・・・)
思い出が走馬灯のように甦る。
(俺、このまま死ぬのかな・・・でもアレ食べて死ぬよりマシか・・・)
そうしてブラックアウトしていく意識に身を任せる悠人であった。

(どうしてこうなったのだろう・・・)
下ろした髪を風に揺らめかせながらセリアは自問自答を繰り返す。
木陰にあるベンチ、照りつける太陽の日差しも幾分和らぐ。
彼女の膝の上には悠人の頭がある。ようするに膝枕だ。
顔にかかる髪を手でどけてあげる。針金のような髪質が少しくすぐったい。
悠人の鼻に詰められたティッシュは鼻血の終焉を示している。
あの後、悠人を少し外気に当たらせた方がいいと言ったのはセリアだ。
ちぎったティッシュを鼻に詰め込み、外へと運び出した。
エスペリア達も同行しようとしたが、あののたうつチョコと触手チョコが互いに戦闘を始めた。
自分の作ったものには責任を持たなければならないということで処分に負われていた。
その他の皆も自分の作ったものを片付けなければならない。
ということで何もなかったセリアだけがここにいるというわけだ。
ただ連れてきた当初はベンチにそのまま寝かせていたのだが、
枕がないと痛そうだったので自分の膝を急遽代用した。そして今この状態にある。
鼻にティッシュの詰まった顔を見ているとどうしても笑いがこぼれる。
今までほとんど笑ったことはなかった。だけどこの人が来てからどんどん自分の中の壁が壊されていく。
それは決して不快なものではなく、どちらかといえば心地よいもの。
この人のことを考えると胸が締め付けられるような想いになる・・・そして暖かい。
不可解な感情、でも答えを見つける気はない、今はこのままでいい。
セリアの顔が徐々に悠人へと近づいてゆく。
太陽と大樹の下で二つの影は一瞬だけ重なった。
この後、目が覚めた悠人に胃腸薬だと言って小さな箱を渡したのは二人だけの秘密。


おまけ

その夜、悠人の部屋にて、セリアから貰った胃腸薬のおかげか体調に変化はない。
(今日は散々な日だったな・・・)
ベッドに寝転びながら一日を振り返る。
レスティーナに説教をくらったり、得体の知れないモノを食わされそうになったり、
鼻血による出血多量で倒れたりと・・・・ついてないことだらけだ。
(こういう日はさっさと寝るに限る)
目を閉じて眠りの体制へと移行する。
が、ふと耳を澄ませば誰かが廊下を歩く足音が聞こえる。
徐々にその足音は大きくなり、ちょうど悠人の部屋の前で止まる。
一拍も待たずに控えめなノックの音が響く。
深夜といってもいい時間帯だ、悠人が訝しんでいると
「ユート様、いらっしゃいますか」
珍しい人物の声が響く、女性にしてはやや低く、しかし透き通るような声、イオだ。
「あ、ああ、開いてるよ」
「失礼します」
そう言って入ってきたイオに目を奪われる。
どういうわけかいつもの服ではなくシーツに身を包んだ状態。
そして、入ってくると同時にパサッという音共にシーツは床に白い波をつくる。
下につけていたのは布の下着のみ。
「な・・・ななななななな・・・!」
悠人が壊れたオモチャのように口をパクパク開閉していると、
「ヨーティア様がこの時間にユート様の所へ行くならこういう格好をしていけと・・・」
イオは魅惑的な微笑を浮かべ徐々に近づいてくる。
対する悠人は後ずさりしようとするが後ろは壁、逃げ場なし。
そういっている間にもイオは近づいてくる。
最終的に悠人が取った行動は気絶という実にヘタレな選択だった。
しかし、イオは気絶した悠人をベッドに寝かせると悠人の腕で腕枕をし、添い寝した。
翌日の朝、悠人がどうなったのかは想像に難くない。

           この勝負、イオの一人勝ち?
                              続く?
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