ちょこれーと大騒動?

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「はぁ・・・・・」
小さい、けれどはっきりとした溜め息。
灯かりもない真っ暗な部屋の窓枠に腰掛ける一つの影。
漆黒の空に輝くは満天の星々、そして青白い満月。
月光に浮かび上がるのは少し憂鬱な面持ちの『熱病』のセリア。
風呂上がりなのか髪留めもせず腰まである深い青色の髪は風が吹くたびに揺れている。
月の光と相まって幻想的な雰囲気をかもし出しているが本人はそれどころではない。
「はぁ・・・・・」
もういちど深い溜め息をつく。
彼女が悩んでいるのには理由がある。
「皆と仲良くして欲しいという悠人の求め」だ。
もともと言われたことに素直に従うスピリットではないが、
この件では自分は既に了承してしまっている。
自分だけを信じて闘ってきた、だから自分の言ったことには従う。
が、いかんせん「自分だけを信じて」というのがいけない。
いざ実践しようとしても口から出てくるのは冷たい言葉。
皆は「悠人の求め」をなんとか成功させようと、
何かとセリアを誘ってくれるのだが口から出てくるのはやはり拒絶の言葉。
周りを拒絶して生きてきた時間が長すぎたせいで他人との接し方を忘れてしまっていた。
(どうして・・・私はあのことでこんなに悩むの?)
自分で了承したことだからというのは分かる、が何故了承してしまったのか。
今まで拒絶してきたのに何故受け入れてしまったのか。
どれだけ考えたとしてももやはり答えなど出ない。
仲間からはぐれた渡り鳥のように一人では何も分からない。
また小さく溜め息をついて空を見上げると先程まで真上にあった月が大分傾いている。
目を閉じて混乱した考えを振り払うと、真っ暗な部屋の中へ戻っていった。
翌日、第二詰め所の食卓はちょっとした騒ぎとなった。

事の発端は『静寂』のネリーの「ばれんたいんでーしようよ!!」だ。
当然一同、ポカーン(゚д゚)なわけで・・・・・
その後ネリーの説明が入るがこれまた難解なパズルのように言葉がとびまくっている。
ネリーが話し終わった後世話役『赤光』のヒミカが要点をまとめた説明をしてくれた。
「つまり、その日は女が好きな男に『ちょこれーと』を渡して告白する日なのね?」
ヒミカが言うとネリーはうんうんと激しく頷いていた。
皆がネリーの首の心配をしている中食堂の片隅で小さく手があがる。
「ヘリオン?どうしたの?」
ヒミカが声をかけたのは『失望』のヘリオン。
「あ・・・あの、素朴な疑問なんですけど・・・」
皆の視線が集まっているせいか少し緊張しながら言葉を続ける。

「『ちょこれーと』って何ですか?」

一瞬、場が凍る。
「そ・・・それに私達が知っている男の人って一人しかいませんよ〜・・・」
ヘリオンが頬を赤く染めながらいってのけるが誰も聞いてない。
五分後、復帰したメンバーはネリーに説明を求めるが、
「え〜とね、茶色くて甘くて口の中で溶けるモノみたい」
と、なんとも曖昧な答えが返ってくるばかり。
一同が悩んでいる中、席を立つ二つの影。
『曙光』のニムントール、『月光』のファーレーンの二人だ。
「あ・・・あの私は別に好きな男性はいませんので失礼しますね。ほら、ニム」
頬に一筋の汗を流しながら「はぁ、面倒」と
ぬかしているニムントールの背中を押して出て行こうとする。
が、ドアの前まで来たときにネリーの声に止められる。

「駄目だよ!『ちょこれーと』は好きな人だけにあげるものじゃなくて
 お世話になっている人にもあげるものなんだから!」

いきなりの新情報に全員が驚いた顔をしている。
皆が驚いているのを見て横の『孤独』のシアーに「おかしなこといったかなぁ」と聞く。
どうやらネリー自身は既に言ったつもりになっていたらしい。
が、肝心のシアーは目の前のワッフ・・・・失礼、ヨワフルを食べるのに夢中になっている。
答えを得られずちょっと泣きそうになっているネリー。
そんな姿に笑いを堪えつつ、ニムントールの背中を押して席に戻ってくるファーレーン。
もともと義理人情にはあつい彼女、そういう話ならば出て行くわけにはいかない。
しかし、頭の中では『ちょこれーと』(謎の物体)を渡して
悠人に喜んでもらっている図が浮かんでいるのか顔が緩んでいる
「そういえばぁ〜、その『ばれんたいんでー』の話〜どこから聞いて来たんですかぁ〜?」
のんびりと口調で話すのはメイド兼コック長『大樹』のハリオン。
「え〜とね、オルファからだよ」
ネリーがそういうと皆は納得顔。
オルファがそんな話しを聞くとすればユート様かユート様の妹。
→デリカシーのないユート様がそんな話しをするはずがない。
→ということはユート様の妹。
一瞬にして全員の頭に浮かんだこの考え、哀れなり悠人。

ところ変わっていつもの館の食卓

「ヘックション!!」

大きなくしゃみをしている悠人。
ちょうどあの考えが全員の頭に浮かんだ瞬間ということはいうまでもない。
「ユート様、お風邪ですか?」
エスペリアが心配顔で覗き込んでくる。
「だ・・・大丈夫、大丈夫」
「そうですか、それならいいのですが・・・」
少し苦笑しながら言うと『献身』のエスペリアもあっさり引き下がる。
「ねぇ、パパー。『ちょこれーと』ってどんなのなのー?」
会話が途切れた瞬間を狙って『理念』のオルファリルが聞いてくる。
「オルファ・・・!」とエスペリアの叱責が聞こえる。
テーブルに身を乗り出しているせいだろが、それにしては頬を染めているのが気になる。
が、このままオルファをほっておくわけにはいかない。
「そうだなぁ〜・・・・」

この後、根掘り葉掘りチョコレートに関してのことを聞かれたのはいうまでもない。

場所は戻って第二詰め所の食卓。
(何故、こんなにも熱心になれるのだろう・・・)セリアは思う。
絶対『ちょこれーと』目当てのネリー&シアー姉妹。
意外と熱心に考えているヒミカとファーレーン。(ニムは逃走)
何かよからぬ妄想をしているのか頬を上気させながら体をくねらせているヘリオン。
呑気にお茶を啜ってはいるが聞き耳だけはしっかりとたてている『消沈』のナナルゥ。
何か思うところがあるのか少し難しい顔で考え込んでいるハリオン・
現代世界の人がみたら間違いなくこういうだろう・・・。
「バレンタイン間近の女の子みたい」と・・・。
そんな中、一人セリアは窓辺に腰掛けていた。
どうにもこういう雰囲気はあわない。入っていけない。
人を好きになるとか誰かのために何かをするなど経験したことがない。
人によっては寂しい人生だなといわれるかもしれないがこれでいいと思う。
私は誰も認めない、誰も頼らない、自分だけで・・・
(だけど・・・)
一瞬だけだけどあの人のことを認めてしまった。
後悔というよりも驚きだった。自分の壁を乗り越えてきた人は初めてだったから。
冷たい態度をとれば相手も冷たくなる。拒絶すれば大抵の人は離れていく。
だけどあの人は違った、冷たくしても優しい、拒絶しても離れない。
ふと気付けば鼓動が随分と早くなっている。
(何故・・・?)
わからない、こんな感情は初めてだった。
「ふぅ」と小さく溜め息をつく。
部屋に戻るべく振り返ると皆がこちらを見ていた。
考え事をしていたせいで気付かなかったがどうやら呼ばれていたらしい。
そんな中ネリーが恐る恐ると言った感じで口を開く。

「あ・・・あのセリア?」
「何・・・」
冷たい言葉がでてしまう。
ネリーは少しだけ言葉につまるが思い切って口を開く。
「ハ・・・ハリオンが『ちょこれーと』に思い当たるものがあるから一緒に作らないかって
あのセリアもよかったら一緒にどう?」
少しだけ驚く、これだけ冷たくしてもまだ皆はちゃんと接してくれる。
迷ったが、今はそんな気分ではない。断わろうと口を開くが・・・
「・・・・いいわよ」
口から出たのは了承の言葉。そんな自分自身に驚く、(何故・・・)と。
見ればネリーも断わられると思っていたのか口を半開きにして固まっている。
他の皆も同じような顔をしている。
少しだけ居心地が悪くなるがここで逃げてしまえばまた逆戻り。
しばらく待っていると、ネリーの顔に明らかな喜びが浮かんでくる。
「よ〜し!じゃあ、皆で一緒に『ちょこれーと』つくろぉ〜!
でも、こんなイベントやっぱりネリーやセリアみたいなクールな女にピッタリよね!」
セリアは認めるがお前のどこがクールなんだという空気が流れる。
あははは、とネリーの乾いた笑いが響くがヒミカがついに堪えきれなくなったのか笑い始める。
それにつられてみんなも笑い始める。
知らず知らずのうちに自分の口元にも笑みが浮かんでいる。


        はぐれた鳥もいつか仲間を見つける


                                     続く?
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