「雨音」

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夜明けの雨音に、僕は目を覚ます。
昨日からそのまま降り続いているのだろう。
夏だというのに少し肌寒いくらいだ。
僕に抱きつくようにして、アリスはまだ眠っている。
その愛らしい寝顔を見ながら僕は、
彼女を起こさないように気をつけて、そっと髪を撫でてみた。
「ん……」
眠っていてもわかるのだろうか、アリスは擦り寄るように動くと、
僕の首筋に顔を埋めてくる。少し寝息がくすぐったいけど、やはり可愛いと思う。
思わず抱き締めたくなる衝動を堪えて、僕はそっと彼女の髪を撫で続けた。
雨音に包まれて、まるで二人きりの世界のように思える。
この雨がきっかけで、昨日は……

…………

突然の激しい雨音に、僕は顔を上げる。
「夕立かな? すごい降り方だな」
僕は読みかけていた本を閉じると、窓が開いていないかを確かめようと部屋を出た。
アリスも気がつけば閉めてくれるだろうけど。
「アリス?」
窓を確認しながら、僕はアリスを呼んでみた。
……いないみたいだな。
そう言えば、少し前に買い物に出かけるって言ってたっけ。
あ、アリス、傘持って行ったのかな?
玄関の傘立てを確かめてみると、案の定アリスのお気に入りの傘が立っていた。
迎えに行ってあげたほうが良さそうだな。多分どこかで雨宿りしてるとは思うけど。
傘を手に表に出ると、思った以上に肌寒かった。
これは、早くみつけてあげないと、風邪をひくかもしれないな。
でも、焦ってすれ違いになったんじゃ意味が無い。
僕は焦る心を押さえて、アリスを探しながら、少し早足で商店街を目指すことにした。
道のりの半ばを過ぎたあたりに、小さな児童公園がある。
ここには木立や、トンネル状の遊具なんかもあるから、もしかするとここに。
そう思って覗いてみると、やっぱり!
一番大きな木の下、足元に買い物袋を置き、寒そうに身体を抱き締めるようにして、
不安そうな顔で空を見上げているアリスをみつけた。
「アリスー!」
僕は急いで呼びかけながら駆け寄る。
「あ、透矢」
アリスは明らかにほっとした顔で僕を見た。
「もしかして、迎えに来てくれたの?」
「うん、みつかって良かったよ。ああ、こんなに濡れちゃって」
いきなりの大雨で、服も自慢の髪もぺったりとからだに張り付いている。
僕は着ていた上着を脱いで、アリスに着せ掛けた。
「ありがとう、助かったわ」
「さ、風邪ひかないうちに帰ろう」
アリスに傘を渡して、足元の荷物を持つ。
「ふふ」
「? どうかした?」
「ううん、やっぱり透矢だなって」
「僕が、何?」
「迎えに来てくれないかなって思ってたら、ちゃんと来てくれるんだもの」
「はは、まあいきなり降ってきたし、アリスが傘を持ってないのはすぐにわかったからね」
「うん、しつけた甲斐があったわ」
「あ、ひどいなぁ」
「あはっ」
「ははは」
じゃれ合いながら帰る道のり。アリスは僕に寄り添うと、
「荷物、半分持つわ」
「えっ? ひとつしかないけど」
「だから、こうして一緒に持つのよ」
そう言って、僕の手を握ってきた。
「……実は、手繋ぎたかったとか?」
「もう、そういうことは気が付いても言わないの」
アリスは照れたように下を向く。
「はは、ごめんね。でも、これなら傘はひとつでよかったかな」
「馬鹿……」
言葉とは裏腹に、まんざらでもなさそうに見える。
「ずいぶん濡れちゃったね。帰ったらすぐにお風呂に入ったほうが良さそうだね」
「ええ、そうさせてもらうわ」
こんなふうに話していれば、道のりも短く感じるものだ。
あっという間に帰り着く。
「アリス、タオル持ってくるからちょっと待ってて」
「うん、お願い」
僕は、急いでバスタオルを取りに脱衣所に行き、
そのついでに風呂の準備もしておく。
玄関に戻ると、アリスは濡れた靴下と格闘していた。
「はい、お待たせ」
「ありがとう」
タオルを渡すと、アリスは長い髪を丁寧に拭い始めた。
「こんなとき、髪長いと大変だね」
「ううん、それほどでもないわ」
髪を拭き終わるのを待って、一緒に居間に向かう。
「あ、これ、ありがとう」
そう言ってアリスは、着ていた僕の上着を脱ごうとする。
「まだ着てたほうがいいよ。本当は、着替えたほうがいいんだろうけど」
「いいわ、どうせすぐお風呂入るから」
「そう、でもそのままじゃ寒そうだね。そうだ」
居間に着くと、僕はアリスを抱き寄せて、そのまま膝の間に座らせた。
「ちょっと、いきなりどうしたのよ」
「こうしていれば、少しは暖かいでしょ?」
僕は、包み込むようにして彼女のからだを抱き締めた。
「もう、あなたまで濡れちゃうじゃない」
そう言いながらも、ちょっと嬉しそうだ。
そんなアリスが可愛くて、僕は抱き締めながら、首筋に顔を摺り寄せる。
アリスのからだの柔らかさと、濡れた髪の良い香りに、いたずら心が刺激される。
「大丈夫。せっかくだから、僕も風呂に入るつもりだし」
「そう、まあそれならいいけど……。って、まさか一緒に入る気じゃないでしょうね?」
「背中流してあげるね」
「ば、馬鹿ぁ! 絶対に嫌!」
「どうして? 寝るときはいつも裸で抱き合ってるじゃない」
「それとこれとは別なの!」
「そうかな? 多分同じだと思うけどなぁ」
「違うー」
アリスは逃げようとして、じたばたと暴れ始める。
「はは、やっぱり恥ずかしい?」
「当たり前でしょう?」
「アリスは恥ずかしがり屋だからね」
「わかってるなら言わないでよお」
初めは冗談のつもりだった。
でも、恥ずかしがるアリスを見ているうちに、
本当にお風呂でアリスとじゃれ合いたい気分になってきた。
「そうだ、じゃあ寝るときと同じにすれば問題無いんじゃない?」
「えっ?」
「寝るときみたいに、お風呂でじゃれ合うのって、恋人同士らしくていいと思うな」
「馬鹿ぁ……、変態……」
「ひどいなぁ、ベッドが風呂場に変わるだけじゃない」
「違うわよ! ……だって、お風呂場は明るいし」
「たいして違わないよ。それに……」
「それに?」
「アリスのきれいなからだをよく見せて欲しいからね」
「ちょ、ちょっと、やだぁぁ」
僕は、暴れるアリスを抱き上げると、風呂場に向かった。
「もう、わかったから降ろしてよ」
「はは、そう言ってる間に、もう着いちゃったよ」
僕は、脱衣所でアリスを降ろす。
「そんなに一緒に入りたいの」
「うん」
「はあ、しょうがないわね」
手早くタオルで髪をまとめると、
アリスはしぶしぶといった感じで、服を脱ぎ始める。
と、視線を感じたのか、こっちを向くと、
「あっち向いててよ」
「なんで?」
「脱ぐところ見られるのは恥ずかしいの!」
「はは、ごめんね」
今更な気もしたけど、機嫌を損ねてもしょうがない。
僕は、後ろを向くと服を脱ぎ始めた。
「私、先に入ってるから」
そう言って、さっさとアリスは浴室に入って行った。
すぐに掛かり湯を浴びる音が響く。
服を脱ぎ終わり、浴室の戸を開けると、アリスは既に湯船に浸かっていた。
僕も掛かり湯を浴びて、湯船に浸かろうとする。
「アリス、少しそっちに寄ってくれる?」
「あ、うん」
声を掛けると、アリスは場所を空けてくれた。
ゆっくりと湯船に浸かると、大量にお湯が溢れ出た。
「さすがに二人だとちょっと狭いね」
「あなたが大きいんだから仕方ないわ」
「アリスは小柄なんだけどなぁ」
「家庭の湯船じゃこんなものよ」
「はは、でもお風呂に凝る人の中には、広いお風呂を作る人もいるみたいだけどね」
僕は、先日テレビで見かけた家のことを思い出していた。
「それって、効率悪そうね」
「どうだろうね。……そう言えば、アリス」
「何?」
「もう恥ずかしいのは治まった?」
「ええ、変態の誰かさんがあんまり熱心に口説くから、混浴の温泉だと思うことにしたわ」
「はは、でも、温泉ならもっとゆったりできるだろうね。あ、そうだ」
「きゃっ」
僕は、試しにアリスを抱え上げて、膝に座らせた。
「ほら、これなら狭くない」
「なんだか子供みたい」
「アリスが子供じゃないことはよくわかってるからね。ほら」
僕は、軽く胸を撫でてみる。
「ひゃう」
「こんなに感じやすい子供は、多分いないと思う」
「くすぐったかっただけよ。大人も子供も関係無いわ」
「じゃあ、さっき言ったとおり、大人らしく恋人同士としてじゃれ合う?」
「初めからそのつもりだったくせに」
「はは、面目ない」
「でも、そういうのは、ちゃんとからだ洗ってからにしてよね」
「じゃ、さっそく背中を流してあげるよ」
「? 別にいいわよ」
「いや、是非してあげたいんだ」
「……また何か企んでるわね」
「それは、やってみてのお楽しみ」
「ぅぅ、こうしてだんだん変態に染められて行くんだわ」
僕は、先に湯船から上がると、アリスを呼んだ。
「アリス、おいで」
「あ、あんまり変なことしないでよ?」
「大丈夫だよ」
ちょっと恥ずかしそうに湯船を出たアリスを、背中を向けて座らせる。
目の前に、アリスの背中。本当に綺麗な肌をしていると思う。
僕は、ボディソープを手にとると、その背中に塗り付けた。
「きゃっ」
手の感触か、ボディソープの冷たさに、思わず背中を反らせるアリス。
「な、なんなの?」
「うん、こうしてね」
僕は、肩から背中、そしてまた肩へと掌を滑らせる。
「こうすると、マッサージみたいで気持ち良いでしょ?」
「確かに気持ち良いけど、ちょっとくすぐったいわ」
「はは、でもこれからだよ」
「えっ?」
今度は背中から脇へと手を進める。
「ひゃっ」
肩をすくめ、脇を締めるアリス。でも、ソープの滑りで僕は手を動かし続ける。
「く、くすぐったぁ。もう駄目ぇ」
よっぽどくすぐったかったのか、アリスはからだを揺すって逃げようとする。
「まだまだ」
脇から、更に前へと手を伸ばす。ちょうど、背中から抱き締めるような形になる。
「前は自分でするぅ」
「いいからいいから」
「やぁっ」
柔らかなお腹、可愛い胸を何度も撫でまわす。
からだを洗うと言うより、ほとんど愛撫に近い行為。
そうしているうちに、アリスの敏感な胸の先っぽが、硬くなってくるのを感じた。
「ん……、くっ」
気が付けば、アリスの口からは、何かを堪えるような声が漏れ始めていた。
僕は、小さいながらもつんと尖った乳首を摘まむと、転がすようにしてみる。
アリスは、僕にもたれかかるようにして、快楽を受け入れ始めているようだ。
「ぁっ……、ぁん……、乳首気持ちいいよぉ……」
とうとうアリスの口から、切なそうな快感を訴える声が漏れてきた。
僕は、アリスを膝に乗せ、横抱きのような体勢にした。
「透矢ぁ……」
潤んだ瞳、切なげな声。僕は、そのままキスをした。
「ん……」
アリスも、僕の首に腕をまわして、抱きついてくる。
「んっ、ん……」
舌を絡め合わせる。
空いている手を、下腹部に滑らせ、更に内腿をを愛撫する。
「んっ!」
一瞬、脚を閉じようとするアリス。抱きついている腕にも力が入る。
僕は、そのまま内腿からひかがみへと滑らせた手を、今度は逆に上へと滑らせて行き、
アリスの最も敏感な部分へと到達する。
「ん〜」
今度こそ、僕の手はアリスの太腿に挟まれてしまった。
しかし、ボディソープのぬめりは、そのいましめを無効にする。
僕は、アリスの敏感な縦筋に沿ってすっすっと指を滑らせてみた。
「んあぅっ」
キスを解き、僕の首筋に顔を埋めるようにしがみついてくる。
いつしか力が抜けたように、脚が開いてきた。
自由になった指を、縦筋に埋め込むと、ゆっくりと中を掻き回す。
「ふ……、あ、あん」
途切れることの無い、愛らしい快楽の声。
僕は、指先にボディソープとは違うぬめりを感じていた。
縦筋の中を、飽きることなく捏ね回す。
そして、流れ落ちる愛液を追いかけるように、
後ろの窄まりへと中指を進める。
「っく」
きゅっと締まるのを感じると、そこをゆっくりと円を書くように撫でまわす。
「あぅぅ……、変になっちゃうよお」
アリスは快感に耐え切れないように、ふるふると体を震わせた。
僕は仕上げに、一番敏感な部分を親指でノックし、捏ねる。
人差し指を膣口へ、中指をお尻の穴にぬるっと挿入する。
「ふ、ぁ……、あぁぁぁぁぁ!」
アリスのからだが仰け反り、やがて力が抜ける。
そして、ちょろちょろという音とともに、僕の膝に暖かい流れが感じられた。
アリスは荒い息をしている。
僕は、ソープの泡と、おもらしの跡をシャワーで流してあげると、
アリスが落ち着くまでぎゅっと抱き締めつづけた。

お風呂から上がり、アリスは居間でぐったりしている。
結局夕食は、僕が作ることになってしまった。
僕は、料理なんかしたことがない――かもしれない――のだけれど、
アリスと暮らし始めて、しっかりと仕込まれたおかげで、
多少はできるようになっていた。さて、今日のできは……。
「この野菜炒め、ちょっと焦げてる」
「精進します」
「まあ、味は悪くないわ」
「アリスにはまだまだ及ばないけどね」
「当然よ。年期が違うわよ」
「アリスはずっとマリアちゃんと交代で食事当番してたからね」
食後も、居間でお茶を飲みながら、そんな話を続ける。
「このまま冷夏にでもなったら大変ね」
「どうして?」
「だってお野菜やお米が不作になったりしたら、一気に家計に響くわよ」
「はは、なんだかずいぶんと所帯じみた話だね」
「はぁ、本当にお気楽なんだから」
呆れ顔のアリス。
「まあ僕としては、大好物が食べられれば粗食でも不満は無いけどね」
「大好物って?」
「アリス」
「ば、馬鹿ぁ」
「さっそくいただこうかな」
「い、今食事したばかりじゃない。食べ過ぎは良くないわよ」
「大丈夫、アリスは別腹だから」
「それは甘い物でしょう?」
「だってアリスは甘いからね」
「も、もう、甘いわけないでしょう!」
「どうかな」
僕は抱き締めると、キスをして背中を撫でてみる。
「んむぅ」
舌を絡ませて、唾液の交換。
ぴちゃぴちゃと音がする。
「ほら、やっぱり甘かった」
「あん……、馬鹿……」
「もっと甘いところがあるんだけど」
「ちょっと、まさか、さっきお風呂であれだけしておいて、まだするの?」
「あれは前菜ということで」
「……その調子でデザートまで食べる気じゃないでしょうね?」
「いや、せっかくだし食後のコーヒーまでいただこうかな」
「あきれた」
「はは、まずはメインディッシュのテイクアウトということで」
僕はアリスを抱き上げ、寝室に連れて行くと、ベッドに横たえた。
「ねぇ透矢」
「なに?」
「お風呂場じゃないんだから、お尻に変なことしないでよね」
「はは、じゃあお風呂でならしてもいいんだね」
「馬鹿ぁ! もう絶対一緒に入らないから!」
「じゃ、やっぱり今するしかないね」
僕は、ころんとアリスのからだをひっくり返す。
「駄目ぇ、変態!」
アリスはお尻を手で隠そうとする。
「アリスが気持ちいいなら、僕はいくらでも変態になるよ」
僕は、そっと手をどかせると、柔らかいお尻に頬を摺り寄せた。
「嫌ぁ!」
可愛いお尻がぴょこんと跳ね上がる。
ちょっといじめ過ぎかな?
「ごめんね、ちょっとやり過ぎだったね」
アリスのからだを解放して、こっちを向かせる。
「馬鹿、もうしない?」
「うん」
「……本当に、しないの?」
「う、うん」
「……」
「なんか、残念そうだね」
「ち、違うの! どうしても透矢がしたいなら、ちょっとだけならしてもいいかなって……」
「はは、じゃあそういうことにして、させていただこうかな」
「もう」
そう言うと今度はアリスが、自分からうつ伏せになってくれた。

激しく、甘いひと時の余韻に浸り、僕はアリスの髪を撫でながら、
ふとさっきの会話を思い出していた。
「透矢、何考えてるの」
「さっきのことなんだけど」
「さっきのこと?」
「確かにアリスの言うとおり、いつまでもお気楽ではいられないのかもしれないな」
「あ、そのこと……」
「うん、庄一でも見習って、バイトぐらいしてみるのもいいかな」
「あなたにできるかしら」
「できなくても、できるようになるさ。アリスのためにもね」
「私のため? そういう考え方って感心できないわね」
「いや、そうじゃなくてね」
僕はアリスのお腹を優しく撫でてみる。
「きゃっ、な、何?」
突然お腹を撫でられて驚いたアリス。
「まさかデザートを御所望?」
「はは、それもいいけど、そうじゃなくて」
「?」
「いつかはアリスに僕の子供を産んで欲しいなって」
「えっ」
「それで、その子にとって自慢の父親になれたらなって」
「それって、もしかして……」
「うん、今すぐは無理だけど、近い将来『瀬能アリス』になって欲しいな」
「もう、鈍感! 私はとっくにそのつもりだったのに」
「! 本当に?」
「でも、はっきりと言ってくれたことはうれしいわ」
「ははは……、はぁ」
「? どうしたの?」
「何気なく言ったつもりだったんだけど、結構ドキドキしてたんだ」
「透矢らしいわね」
「はは」
僕は相変わらずアリスのお腹を撫でている。
ちょっとくすぐったそうなアリス。
でも、その柔らかな感触が心地よくて止められない。
「ふふ、くすぐったい」
どことなく嬉しそうな響き。
「ねえ透矢」
「なに?」
「あなたの気持ちはうれしいわ」
「うん」
「でもね」
アリスは微笑を浮かべると、僕の手を見つめた。
「変態の父親は自慢できないと思うわ」
「う、それは確かに」
「あはっ、じゃあデザートはおあずけね」
「はは、さすがにあれは冗談だよ」
「本当に?」
僕は改めてアリスを抱き締めて、背中を撫でてみる。
「本当は、こうして抱いているだけでも僕は充分気持ちいいんだよ」
「そう、ならいいけど……」
「……」
「……」
「ね、ねえ」
「?」
「本当にデザートいらないの?」
……なるほど、そういうことか。
「くすっ」
いかにもアリスらしいおねだりに、思わず笑ってしまった。
「勘違いしないでよね! プロポーズのご褒美なんだから!」
「大丈夫、わかってるから」
「わかってないー」
……デザートどころか、結局食後のコーヒーまで味わってしまった。

夜が更けて、静かな闇に雨音が響いている。
僕は、アリスの肩に夏がけをかけてあげる。
そして、頬を寄せ合い眠りにつく。
「さっきの約束……、一緒に幸せになれるように、がんばるから」
「私は……、今でも充分に幸せ……」
さすがに疲れたのか、眠そうな声。
「じゃあ、その幸せがずっと続くように、ね」
「うん……」

…………

夜明けの薄明かりの中、アリスはまだ眠っている。
触れ合う肌の温もりと、柔らかな感触。
誰にも邪魔されることの無いこのひと時を、
もうしばらく味わっていたいと思う。
雨音に包まれた、二人きりの世界を。

おしまい
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