ヴェド話

戻る
無事、ヴェドゴニアもクランクアップした後の温泉街のとある民宿。
打ち上げも兼ねて、ヴェドゴニア登場キャラ全員での宴が行われていた。
未成年かどうかはともかく酒もどんどん進んでの宴も酣(たけなわ)。
今回の目玉、登場キャラ達による一発芸も佳境へと入っていた。
「じゃあ、次は弥沙子(みさこ)の番ね」
司会役を勤めていた香織が、白柳弥沙子に声をかける。
数名からのおこる拍手。
「あっ!は、はいっ……」
一人ずつ芸をやる度に、あと何人で自分の番になるかと数えてた弥沙子。
ついにこの時が来たと、背筋をぴんと伸ばし小走りに前へと出てくる。
改めて宴会場にいる参加者の面々を見る。
リァノーンはともかく、ギーラッハ、ウピエル、ナハツェーラー。
そして、スタントマン兼やられ役だった多数のキメラヴァンプたち。
……明らかに人間の方が少ない宴会場はかなり異様な光景だった。
吸血鬼の芸の多くはやれ内臓を出しますとか、ナイフ投げで頭に命中とか。
はっきりいって人間の域を越えた芸で大いに沸いていた。
そんな中、普通の人間である弥沙子が芸をやっても満足してもらえるのか。
「あ、あのっ……実は……」
結局いい芸が思いつかずに、今もみんなの前でおどおどするだけだった。
「ほら、適当でいいからに何かやっちゃいな」
香織も横から、手助けというよりも司会の立場として急かしてくる。
弥沙子は追い詰められつつあった。

そんな中、遂に弥沙子は顔を真っ赤にしながら意を決し大きな声で言った。
「あ、あのっ……じゃあ、メ、メガネを取りますっ!」
その台詞にピクッと反応を示す野郎共キャラが数名。
弥沙子にそう言われてみて、はたと気付く。
ファントム、鬼哭街、"Hello,World."と他もニトロ作品もかなり出たが、
攻略可能なキャラでメガネをしているキャラって弥沙子一人なのでは?
メガネっ子……
それは、近頃の野郎を騒がすキーワードの一つとして市民権を得た。
ある意味で、弥沙子は今のところ唯一の存在でもあった。
しかもエロゲーのお約束として普段は美人じゃないメガネキャラは、
メガネを取ると美人ってのは暗黙の了解となっている。
……ざわざわ……ざわざわ……
ちなみに某キャラの存在は恥ずかしがりな弥沙子からの要請もあり、
絡んだ関係者以外、つまり多くの人には同じ人物と知らされていない。
場内の野郎共の多くはメガネを取った弥沙子の顔に想いを馳せる。
顔を真っ赤にした弥沙子はおろおろとメガネと外す。
「おおっ!」
その歓声の直後、期待はすぐに落胆に変わる。
メガネを外したとしても弥沙子は髪型とかの影響で泥臭さは抜けていない。
それに怒った野郎どもは、こんなの芸じゃないとブーイングしかけた瞬間。
ていっ!
弥沙子は外したメガネを投げ放ち、騒然とする場内の中おろおろと床を探す。
「メガネ……メガネっ……」
「横山■すし(故)ネタかぃっ!!」


作品の完成後に行われてたヴェドゴニア出演者の騒々しい打ち上げから抜け出し、
惣太は呼び出したギーラッハ本人と共に民宿の宴会場から外へと出ていた。
民宿にある中庭まで出ると、宴の馬鹿騒ぎも虫の鈴鳴りのようにしか聞こえない。
2メートル近くの巨躯、しかも今夜も紅い甲冑をつけたままのギーラッハ。
その横に立つと日本人である惣太の姿は実年齢よりもなお幼く見えてしまう。
「一つ、お前に尋ねたいことがある」
「な、なんだよ、急に改まって」
ギーラッハの顔を少し見上げながら、惣太が尋ね返した。
「お主……姫様、リァノーンに本気で惚れたな」
「なっ!」
予想外の一言に、思わぬ驚きの声をあげる惣太。
「な、何いってるんだ、あれは只に作品内の役どころであって、俺は別にぃ……」
「うむ、ならばいいのだが」
顔を赤くしながら、しどろもどろに否定を試みてる惣太の姿も見ず、
闇夜に浮かぶ月を見上げながら、神妙そうにギーラッハはつぶやいた。
「……ギーラッハ」
その物深げなギーラッハの表情を見て、惣太は察した。
ギーラッハもまた、役どころ以上に現実のリァノーンに恋焦がれているのだと。
一緒にいる(撮影シーン)時間が少なかった惣太に比べれば、
過去(シーン)も含めギーラッハはリァノーンを良く知っているはずなのだから。
少し未練を残しながらも、意を決してギーラッハに声をかけた。
「すまない……俺、どうかしてたよ」
そういうことならと、惣太はあたたかく祝福するように言った。
「じゃあリァノーンの彼氏はギーラッハ、お前に任せるよ」
「なぬっ!!」
次に驚きの声を上げたのは、ギーラッハの番であった。

「いや、今さら隠さなくたっていいって。俺はリァノーンのことを諦めるから」
「ち、違うッ!!断じて違うッ!!」
視線を慌てて月から惣太に向け、目の前の両肩をガシッと掴むギーラッハ。
「己(おれ)はだなぁ!ただリァノーンだけには手を出すなと言いたかった訳で」
「だから、リァノーンとあんたの恋路を邪魔しないようにだろ?」
自分の肩に加えられる痛みに顔をしかめながら、惣太は答えた。
「そうではないっ!」
「じゃあ、だったらさっきの言葉の意味はなんだったんだよ」
「忠告だ」
「忠告ゥ?」
思わぬ単語に、惣太はギーラッハから出る次の言葉を待った。
「お主は知らぬのだ、リァノーンの真の恐ろしさを!」
惣太の肩からやっと離された両手は、次の瞬間には自分の頭を抱えていた。
「お、恐ろしい……って」
目を見開いて小刻みに震えるギーラッハの姿がすでに惣太にとって怖かった。
「それはだな……」
真剣なギーラッハの口から出るであろう言葉に、ゴクリと生唾を飲み込む惣太。
だが、その時だった。

「ギ、ィ、ラッ、ハァァ〜〜!!」
「は、はいっ!!」
その声に脊髄反射のようにピンッと背筋を伸ばして直立する紅い巨躯。
ギーラッハの背後から声をかけてきたのは、話の張本人・リァノーンだった。
足音というよりも気配すら感じさせずに近寄ってたのは、正に吸血鬼ならではか。
「ギーラッハぁ〜〜今、惣太さんに何を言おうとしてたのかしら?」
「い、否っ、己(おれ)は別にやましいことなどではなく、ただ惣太に……」
「ただ、何・か・し・らぁ〜」
そう明るく尋ねるリァノーンの言葉には明らかにドスが効いていた。
ギーラッハの額からは、暑くもないのに玉の様な汗が何滴も浮かび上がっている。
「じゃあ惣太さん、しばらくとギーラッハをお預かりますね」
これ以上ないというぐらいの作り笑顔を惣太に向けながら言った。
「いや、だから、己(おれ)は別に何も……」
必死に抵抗するギーラッハを、襟元だけつかんで引きずりだすリァノーン。
「惣太、お前からも何とか言ってやってくれっ、惣太ぁ〜〜〜っ!!」
断末魔のような叫びが此処から消えるまで、惣太は一人立ち尽くしていた。
演技の最中で生まれた熱病のような恋に冷め、現実を知った惣太がぽつりと呟く。
「付き従ってたのも、作品の役どころだけじゃなかったのか……」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜その二〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

作品完成後に行われているヴェドゴニア出演者による打ち上げの宴。
みんなワイワイと、作品を回想しながら楽しく盛り上がっていた。
「…………」
そんな中、何も言わずにヴェドゴニアは独りですっくと立ち上がった。
そのままゆっくりと歩き出し、ある者の真後ろで立ち止まった。
「?」
その視線の先に座るモーラが、ヴェドゴニアの気配を感じて振り向いた。
「……ダメよ」
ヴェドゴニアが何を言いたいのかを察したのか、ぷいっと横を向くモーラ。
「そうでなくても、血の気の多いアナタなんだから落ち着きなさぃ」
そう言いながら、アルコール抜きの特製ジュースをちゅぅとストローで吸う。
「…………」
ヴェドゴニアはモーラの言に抗議もしないまま、
やや少しだけ肩を落としながら、自分の場所へとぼとぼと戻った。
その時には、ヴェドゴニアの両隣に座るキメラヴァンプが意気投合していた。
「それにしても、ここの血は最高だよなァ」
「ああ!濃縮100%でしかも人肉入りだぜぇ、たまらんよぉなぁ〜」
その二人の間を割り込むようにどかっと座るヴェドゴニア。
「ん、どうした?具合でも悪いのか」

372 名前:ヴェド話(2/2)[sage] 投稿日:03/03/24 00:10 ID:yzAnz+Y8
視界に入ったヴェドゴニアのことが心配になり、声をかけるキメラヴァンプ。
無理もない。
ヴェドゴニアの肩がぶるぶると小刻みに震えていたのだから。
その震えが最高潮に達したと思った瞬間!
「ッ!!」
目の前にある豪勢な料理と血が並々と注がれたグラスをのせた小台を掴むと、
うぉらぁと言わんばかりに一気にひっくり返した。
「おいっ?何をッ……うぎゃぁッッ!!」
折角のご馳走を無駄にするのを止めようと手を出したキメラヴァンプたち。
そんな相手に対し次々と鋭い鉤爪を容赦なく身体に突き刺したヴェドゴニア。
宴の一部で阿鼻叫喚の惨劇が始まった。
その様子を傍目から酔っ払いつつ見ていた別の奴等が会話を交わす。
「どうしたんだ?ヴェドゴニアの奴、今夜はやけに荒れてるじゃないか」
「ああ、まるで猿轡を外したかのような暴れっぷりだなぁ〜」
自らの顔を戒める猿轡を両手で掻き毟りながら言葉にならない声で叫ぶ。
(オ・レ・ニ・モ・血・ヲ・ヨ・コ・セェェェ!!)

383 名前:ヴェド話(1/2)[sage] 投稿日:03/03/25 00:35 ID:ZdYappX8
作品完成後に行われているヴェドゴニア出演者による打ち上げの宴。
ヴェドゴニアが暴れてる様を遠目から眺めながら、人間の娘が隣に声をかける。
「ねぇ、栗城」
「なんすか、網野サン」
隣に座っていた長髪の男、栗城が返事をする。
ちなみに網野鏡子の方が栗城よりも年上である。
「なんかさぁ〜あたしって貧乏くじ引いてなるなァって」
「そうっすかねぇ〜」
生返事を返してきた栗城に、鏡子をキッと睨み返す。
「あんたねぇ!最後でちょっとだけ参加したから知らないでしょうけどね。
 どんなにあたしが嫌な役をやらされてたか知ってる?」
「はぁ、まぁ……一応は」
「最初こそヒロインに負けないくらいの可愛い印象で出たにも関わらず、
 その直後にあんなコトされて、次は操られて性格悪い役をやらされて……」
ぶつぶつと愚痴を続ける鏡子。
「まぁ、そりゃたしかに出番が多かったのは、嬉しいといえば嬉しいけど、
 せっかくの初デビューがあんな性格悪い演技ばっかじゃお先が真っ暗よ……」
「そ、そんなことないですって、俺も後で見たけどあれ結構うまかったですよ!
 その、なんていうか、もう演技とは思えないような完璧な立ち振る舞い」
「……あんた、喧嘩売ってる?」
ギロリと睨み返す鏡子。
「い、いえっ……」
慌てて否定する栗城。

「さんざん主人公の惣太に対して悪態ついて、ついに惣太に殴られるは(香織編)
 ハマーで一緒に轢かれそうになって、銃で腹を撃たれるは(リァノーン編)
 それに拘束されてた時は、ナゼか脈絡もなくパンツ丸出しよォ!!
 最初のナニといいあたし一人でサービスシーンが、●んこ盛りじゃない!」
「いや、この作品はエロさについては評価されてないみたいだし」
「……栗城」
「いやっ、本当に災難でしたよねぇ〜。網野サンは」
「そうよねぇ〜、それに聞いてよ……」
なおも鏡子の愚痴話は続く。
どうやらいつの間にか、未成年のはずの鏡子が酒に手を出していたようだった。
(なんで俺がこんな子のお守りしなくちゃならないんだか……)
投票キャラとしても忘れられた存在であった栗城の苦難は続いていた。
戻る